中小企業の採用、応募が10人から200人になった町工場がやめたこと
「経験者が来ないんですよ」
工場の応接室で、この一言を聞かない月はほとんどありません。板金の経験がある人が応募してこない。たまに来ても、条件の良いところに流れていく。だから今年も、去年の求人票の日付だけ直して出しておく。
その求人票、たぶん「経験者優遇」と書いてありますよね。
そこが分かれ道だと思っています。
中小企業は、求人の数そのものを減らし始めている
リクルートワークス研究所の調査で、少し引っかかる数字が出ていました。2027年3月卒の大卒求人倍率は1.62倍。ここまではよく見る話です。中身を見ると、従業員5,000人以上の企業が求人数を前年より4%増やしている一方で、300人未満の企業は38.5万人と、1万4千人ぶん減らしている。減少幅がいちばん大きいのが中小企業でした。
理由も添えられています。前年の採用計画に対して実際に採れた人数が足りなかった企業が、翌年の予定数を下げた。採用意欲が落ちたのではなく、採れなかったから枠を縮めた、ということです。
初任給の差も開いています。2026年4月入社で、300人未満は22.8万円、5,000人以上は25.6万円。月2.8万円、年間で30万円以上。求人サイトの検索結果でこの二つが並んだとき、経験者は当然もう一方を押します。
同じ人を取り合っている限り、この勝負は終わりません。
「優秀な人」の中身を、他社に決めさせている
神奈川県平塚市に、ある精密板金の町工場があります。社員の9割が20代から30代前半、平均年齢は28歳。応募者は、数年前の年10名程度から、いまや年200名を超える規模になりました。
この会社が採用手法を考える前にやったのが、来てほしい人の定義でした。現場から出てきた答えは、ものづくりに興味があってスキルを伸ばしたい人、未経験でも20代がいい、というもの。要するに、経験者を追いかけるのをやめています。
代わりに、入ったあとの設計をつくり込みました。業務マニュアルを整備して、メンター制を入れて、週に一度の勉強会を回す。評価基準は文章にしてあります。入社1年目は担当業務を一人でできるようになる。2〜3年目は複数の業務を一人で回せるようになる。部門リーダーは、改善ができて人に教えられる。製造課長なら、レーザー加工と曲げと溶接と切削ができて、見積りと材料手配までできる。これをクラウドに置いて、誰でも見られるようにした。
ここまで書けている会社、正直そんなに多くありません。
でも書いてある会社は、面接で「3年後のあなたはこうなっています」と言える。書いていない会社は、「頑張り次第だよ」としか言えない。求職者が見比べているのは、今の給料だけではないんです。自分がどう変わるかの見取り図があるかどうか。
「即戦力募集」という言葉は、強く見えて、実は教育コストを相手に払わせますという宣言に近い。それを払ってくれる人は、たいてい払わなくていい会社を選びます。
そういえば、経営計画の勉強会でこんな整理を見ました。会社は「今」と「未来」で四つに分かれる。今も未来も明るい会社、今は良いが未来が見えない会社、今は苦しいが未来は明るい会社、今も未来も暗い会社。求職者にどこへ入りたいか聞くと、一番上が無理なら三番目を選ぶ人が少なくないそうです。社員9人の会社に年間271名の応募が集まった例も紹介されていました。人は、未来さえ見えていれば今の苦労を引き受けられる。
今週できるのは、たぶんこの三つ 🌱
ステップ1:入社1年目の到達点を、一文だけ書いてみてください。「1年目は、この工程を一人で回せるようになる」。それだけで、面接で話せることが変わります。3年目、5年目は後からで構いません。
ステップ2:求人サイトを、求職者の側から開いてみてください。年間休日120日以上、土日祝休み、残業月20時間以内。あのチェックボックスで絞り込まれた瞬間に自社が消えるなら、求人票の文章は誰にも読まれていない。給料と休みは魅力ではなく土台です。全部を明日直せとは言いません。ただ、いつまでに揃えるかの期限だけは決めたほうがいい。
ステップ3:来期の計画を一枚にして、面接で見せてみてください。売上をここまで持っていく、この事業を始める、そのとき人は何人になっている。数字をどこまで開示するかは、僕もまだ答えが出ていません。粗利まで見せる社長もいれば、売上と人員計画だけの社長もいる。ただ、何も見せない会社より伝わるのは確かです。
経験者を探すのをやめた会社から、埋まっていく
優秀な人材を採る、という言い方をしている限り、優秀の定義は他社が決めたままです。同業がほしがる人を、同業より高い金額で取りにいくことになる。
うちで3年働いたらこうなる。それを自分の言葉で書けたとき、20代の未経験者が視界に入ってきます。母集団は、そちらのほうがはるかに大きい。
「うちみたいな会社に来る人はいませんよ」と言われることがあります。応募が来ないのは魅力がないからではなく、まだ何も書き出していないから。書き出す作業なら、今週から始められます 🙌
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