ローズマリーを見たら焼きたくなる。
わたしは兵庫県と愛媛県の混血。イタリアに行ったこともなければ知人もいない。なのに、ローズマリーを見ると説明のつかない情が沸き上がる。
たっぷりのオリーブオイルを吸い込んでジュワッと泡立ち、表面の不規則な穴(自称 墓穴)がチャームポイントの「フォカッチャ」が頭をよぎる。

なぜローズマリーとフォカッチャは、ものぐさを年に数回だけ覚醒させるのか。単に相性がいいからなど生ぬるい言葉では納得がいかない。二者間には、逃れられない必然が存在するのだろう。

フォカッチャとローズマリーは、地中海の太陽を浴びて育った。同じ風土(テロワール)で巡り会った両者が合わないはずがない。
フォカッチャの醍醐味は、好きな量を注ぎ込めるオリーブオイル。そこに輪郭がはっきりしたローズマリーの香気成分が突き刺さって世界が変わる。
滴る脂っぽさが一瞬で爽やかなコクへ化け、オイルにハーブの香気が溶け出してパン全体を包み込む。ローズマリーは、ただの飾りではない。フォカッチャを完成させる絶対的支配者なのだ。

フォカッチャは200℃を超える高温のオーブンで焼き上げる。もしバジルならあっという間に葉が生気と質感を失って変わり果ててしまうだろう。

だがローズマリーは違う。針のように硬く研ぎ澄まされた葉は、オーブンの猛火を纏って覚醒する。焦げるどころか香ばしさを爆発させ、力強い香りを部屋中に解き放つのだ。高温で焼かれる運命を背負った生地にとって、これ以上頼もしい相棒が他にいるだろうか。

それにしても、イタリアに縁もゆかりもないわたしは、一体いつどこで「フォカッチャ」を知ったのだろう。記憶の底をいくら探っても、最初に出会った日のことは思い出せない。

食べ終わったら、もう食べたくなる。
