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実践するドラッカー 実践編 第29話:スタッフからアイデアが泉のように湧き出るお店⑦(全10話)

事例6-7 利益は「目的」ではなく「燃料タンク」

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

前回の記事では、「数字に魂を込める」というテーマで、
売上・単価・紹介数といった数字に「意味」を与えることで、スタッフの行動がどう変わったかを見てきました。

「売上はお客様からの『ありがとう』の数」
「紹介数はお客様の感動度」

——数字が共通言語になったとき、それはチームを分断するものではなく、「われわれは」という感覚を深めるものへと変わっていきました。

今回は、その数字の中でも最も根本的な問い——「利益とは何か」——について考えていきます。

■税理士に任せきりだった頃

Fさんはもともと、根っからの「技術屋」でした。
数字や財務には、どこか苦手意識がありました。

経営のことは税理士に任せきり。財務諸表を自分で読んだこともありませんでした。
売上はなんとなく把握していても、何にいくら使っているのか、どれだけ利益が留保されているかは意識していませんでした。

税理士との打ち合わせのテーマも、ほとんどが「どうやって税金を減らすか」でした。節税こそが、賢い経営者の仕事だと信じていたのです。

しかし「実践するドラッカー講座」での学びが、その認識を根本から覆しました。

■「利益は目的ではない」

ドラッカーはこう言っています。

利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは、企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である。

『実践するドラッカー 利益とは何か』第1章 「利益」とは何か
/利益は目的ではなく条件である p.6
(マネジメント(上) p.71)

利益は、目的ではなく条件。

組織が存続するための条件であり、
次の一手を打つための「燃料」ともいえます。
だから利益は、「あとから残るもの」ではなく、「先に確保すべきもの」だったのです。

利益がなければ、どんなに良いサービスを提供したくても、組織は動き続けることができません。

■利益は「種子」である

さらにFさんの心に刺さったのが、次の言葉でした。

農民にとっての種子が、余剰ではあっても利益でないことは誰もが知っている。しかし、経営管理者を含め、誰も、営業報告書に記載された利益が利益でないことを知らない。それは種子である。まだ支払われていないものの、事業継続のためのコストである。

『実践するドラッカー 利益とは何か』第5章 道具としての「利益」を使いこなす
/なぜ「利益は存在しない」のかp.117
(乱気流時代の経営 p.35)

農民は、どれだけ苦しくても種子は食べません。
それが来年の収穫を生むと知っているからです。

しかし企業の利益は違います。

「余っている」と思った瞬間に、必要以上の支出をしてしまう。

節税のために使う。
投資の名のもとに使う。
あるいは何となく消えていく——。

「来年のための種子」という意識が、抜け落ちてしまうのです。

Fさんはこう振り返ります。
「8年前にドラッカーを学んでいなかったら、
税金を払わないように…と考え続けていたと思うと、ゾッとしますね」

利益を「食べ尽くしていい収穫物」と見るか、
「未来をつくるための種子」と見るか。

その違いが、経営の姿勢を根本から変えたのです。

■売上の次に、利益の定義が変わった

売上を「ありがとうの数」と定義し直した美容室FF。
当然、次の問いが生まれました。

「利益とは、われわれにとって何か?」

答えはシンプルでした。

お客様に価値を届け続けるためには、組織が存続し続けなければなりません。そのためには、燃料を切らしてはいけません。
利益とは、その燃料なのです。

利益を残すことは、お客様への貢献と矛盾しません。
むしろ、お客様に価値を届け続けるためにこそ、不可欠な行為なのです。

■「燃料タンク」を満たす経営へ

この理解が、行動を変えました。

税理士との打ち合わせのテーマが変わりました。
「どうやって税金を減らすか」から「どうやって現金を残すか」へ。

もちろん、節税も行います。
しかし優先順位は明確です。
まず残すことを優先する。

ある年、税理士からこう言われました。
「私の担当している美容室の中で、FFさんが一番納税しています」

その瞬間、税金は「取られるもの」ではなくなりました。
Fさんはスタッフにこう伝えました。
「俺たち、もう少し胸を張ってこの町を歩いていいんじゃないか」

納税額の多さは、それだけ利益が残っている証です。
そしてこの地域に貢献していることでもあります。
それは誇るべきことでした。

■財務の見える化が組織を変える

同時に進めたのが、財務の見える化です。

まずは「勘定科目の整理」。
人件費、家賃、その他の費用を、売上に対する割合で把握するようにしました。

すると、漠然とした不安が消えました。
「全部見えているので、妙な不安がない」

さらに、店舗ごとの試算表を毎月作成し、店長以上にはすべてを開示しました。
売上・経費・本社配分・借入返済・最終残高まで、すべての数字です。
さらには、Fさんが使った経費も、役員報酬も隠しませんでした。

隠せば不信が生まれる。
見せれば信頼が生まれる。

店長たちは「新人を採用するために必要な売上」を、自分ごととして考え始めました。

思わぬ効果もありました。
「全部見えると、独立するより、この会社を伸ばした方が得だと分かる」

優秀な店長と一緒にこれから先も歩んでいけることは、Fさんにとってもスタッフにとっても、そしてその店長にとっても幸せなことになりました。

財務の透明性が、定着と信頼を生んでいったのです。

■燃料タンクは、静かに満ちていく

美容室FFは、毎年着実に利益を積み上げていきました。

派手なことはしていません。
ただ、地味なことを、愚直に積み重ね続けただけでした。
「地味なことをアホほどやる」を合言葉に行ってきた地道な取り組みが、財務にも貫かれていました。

業界では、現預金保有も「月商の3ヶ月分」が優秀とされますが、美容室FFは、それを大きく超える水準へと積み上がっていきました。

利益という「種子」は、静かに、しかし確実に蓄えられていきました。

その「燃料タンク」が、やがて想定外の危機に備える力になるとは、このときはまだ誰も知りませんでした。

■利益はミッションを守る条件

「お客様に笑顔と元気をもたらす」
——このミッションを続けるために必要なのが、利益。

利益は目的ではありません。
でも、これがなければ、良いサービスであっても続けることができません。

それはお客様のため、
スタッフのため、
地域のため、
そしてミッションのために必要な条件なのです。

かつて、過呼吸になるほど追い詰められていたFさん。

そこから、働きがいの仕組みを整え、数字に意味を与え、利益を蓄える習慣をつくってきました。
その積み重ねの先に、経営者としての確信が生まれていました。

Fさんの中で、「技術屋」と「経営者」が、ようやく一つにつながった瞬間だったのかもしれません。

■次回予告

次回は
「危機の『危』ではなく『機』を見る」

コロナ禍という未曾有の危機の中で、この「燃料タンク」が真価を発揮します。なぜ美容室FFは、前年比を割らずに乗り越えられたのか。

その判断の裏には、ある「体験」がありました。

【今日の問い】

Q:あなたの組織では、「利益」は何のために必要なお金として語られていますか?

利益という言葉には、どこか「お金儲け」という響きがあります。

だから、「利益を出すこと」を前面に出すと、現場のスタッフが違和感を持つことがあります。

「会社のために働かされている」
「数字ばかり追いかけさせられている」
——そんな感覚です。

しかし、本来の利益とは、誰かを犠牲にして積み上げるものではありません。

ドラッカーは、利益を「目的ではなく条件」だと言いました。

利益があるからこそ、
設備を更新できる。
人を育てられる。
挑戦できる。
危機に備えられる。
そして、お客様への価値提供を続けることができます。

もし利益が残らなければ、どれほど素晴らしい理念やサービスがあっても、いつか「続けられません」とお客様に頭を下げる日が来てしまいます。

つまり利益とは、「自分たちだけのためのお金」ではなく、

未来のお客様との約束を守るためのお金

なのです。

美容室FFでは、利益を「燃料タンク」や「種子」と捉え直したことで、節税のために使い切る発想から、「未来のために残す」という考え方へ変わっていきました。

では、あなたの組織ではどうでしょうか。

利益は、
「余ったお金」
として扱われているでしょうか。

それとも、
未来に価値を届け続けるための「燃料」
として扱われているでしょうか。

その定義の違いが、組織の未来を大きく変えていくのかもしれません。

■続きの物語はこちらから



このFさんとFF美容室の物語の第①話は


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