見出し画像

実践するドラッカー 実践編 第1話:理系後継者が試したマネジメントの体系的実践①(全6話)

事例1-1 マネジメントを習得するにも、体系的な実証実験が必要だった

昔は炭鉱で栄えたものの、いまは静かな住宅街と田畑が共存する風景。
周辺の市町村と合併したけれども、総人口は10万未満。
そんな街に、Aさんの会社、AA建設グループがあります。

グループ全体で約200名、年商約100億円。
公共事業を主力とする土木建設業で、この地域の中では、決して小さな会社ではありません。

そのAA建設グループに、東京の大手企業で市場分析・経済分析等の仕事をしていたAさんが戻ってきました。

創業者である祖父、その後を継いだ父親。
Aさんはその三代目として、いずれ会社を背負うことを期待されていました。

有名大学の理系学部出身。
論理的に物事を整理し、構造を考えることには自信がありました。

ところが、経営に関わり始めると、思うようにいきません。

現場を知り尽くしたベテラン技術者たちと、中長期の方針をめぐって静かに衝突します。

「理屈は分かる。でも、現場は違う」
会議は重くなり、説明すればするほど伝わらない。
この場では、自分の言葉だけがカラ回りしているように感じていました。

Aさんにとって、経営はそれまで経験してきた仕事とは、まったく別のものだったのです。


■転機となったドラッカー読書会

そんなとき、知人の紹介で参加したのが、佐藤等さんのドラッカー読書会でした。

中小企業経営者やマネジャー、フリーランスなど、立場も年代も異なる人たちが集まり、ドラッカーの著作を“鏡”として、自分自身の仕事や組織を考えていく場です。

マネジメントの世界は、誰かから「正解」を教わることはできません。
この読書会でも、同じ文章を読んだとしても、経験によって、あるいは、経営者と現場のマネジャーなど立場が違うと見えるものが違います。
異なる経験や立場から気づいたことを言葉にし、互いに聞き合うことで、自分自身の課題が少しずつ見えてくるのです。

そこでAさんが最初に出会ったのが、
「マネジメントには、基本とすべき原理・原則がある」という考え方でした。

マネジメントとは、
成功者の経験談や成功事例を集めたものでも、
人を思い通りに動かす技術でもありません。

原理・原則を学び、それを自分たちの置かれた状況に当てはめ、実践し、検証していく。
つまり、誰でも学習し、実践によって習得できるものだというのです。

「マネジメントの世界はカオス(混沌)だ」と思っていたAさんは、
そんな中にも一種の法則性があることを知り、深く興味を持ちました。

さらにAさんの目を引いたのが、「体系」という言葉でした。

これからのマネジャーにとって、肉体労働に関わる闘いは搦め手の問題である。基礎的な資源、投資、コストセンターとなるものは知識労働者である。彼らは、肉体的な筋肉や技能ではなく、体系的な教育から学びとるもの、すなわちコンセプトと理論によって働く。

『エッセンシャル版 マネジメメント~基本と原則』序--新たな挑戦  p.5

理系出身のAさんにとって、
体系とは
心動かす名言を集めて羅列したものとは違って、
言葉の意味内容を明らかにし、
相互に関係性が近いもの同士をグルーピングし、
対立構造があるものは対比し、
深さや高さで階層化して整理されているということ。

課題を明らかにすれば、
その周辺も含めた関連する知見も検討して、
解決策はもちろんのこと、
課題そのものの設定が正しかったのかを検証できる。

それがドラッカーのマネジメントだったのです。

ここで、Aさんに一つの仮説が生まれます。

経営も、思いつきのアイデアで手を打っていくのではなく、
体系に沿って一つずつ仮説を実践し、検証していけばよいのではないか。

だったら、やってみよう。

それは、
ドラッカー教授のいうことを
あたかも宗教のように「盲目的に信じる」のではなく、
実証実験のように、
正しく疑って、一つひとつ忠実に検証していくということ。

これは、自分のこれまでやってきたスタイルにとても合っている。

このとき、自分の頭脳がやっと働き始めた、という感覚が湧き上がってきました。


■「1年に1冊」という実験

Aさんが実践の手引きとして選んだのが、佐藤等さんの『実践するドラッカー』シリーズでした。

編著者である佐藤さんに学んでいるということもありましたが、
この著作シリーズは、ドラッカー教授の様々な著作から横断的に、しかし網羅的、体系的に、原理原則を抽出して解説が加えられているからでした。

ドラッカーマネジメントの実証実験のツールとレシピが整いました。
素材は、いまの目の前の現実です。

そして、自分なりのルールを決めました。

①1年に1冊(1領域)だけに取り組む。
②その間は他の領域には手を出さない。
つまり、
③複数の改革プロジェクトを同時に走らせない。

少し極端にも見えます。

Aさんの目から見ると、会社にはすぐに直したいことが山ほどありました。

人の問題もある。
組織の問題もある。
事業にも手を入れたい。
利益ももっと出したい。

それでも、同時には手をつけないと決めました。

理由は、やはりAさんらしいものでした。

科学の実験では、複数の変数を同時に動かしてしまえば、結果が出たときに、「何が効いたのか」が分からなくなるからです。

続けるべきなのか。
修正してもう一度試すべきなのか。
それとも、仮説そのものを最初から再検討すべきなのか。

原因と結果が分からなければ、検証できません。

検証できなければ、結局は「なんとなく良さそうだから続ける」というこれまでの延長の惰性に戻ってしまいます。

Aさんは、マネジメントを
仮説 → 実行 → 検証
の繰り返しとして扱うことにしました。
そのために、あえて変数を絞ったのです。


■最初の対象は「自分自身」

1年目に選んだのは[思考編]でした。

対象は、会社ではありません。
部下でもありません。

あまり触れてこなかった、というよりも触れたくなかった一番の現実。。
自分自身です。

いきなり組織を変えない。
事業を変えない。
組織の軸にも手をつけない。

まず、自分自身の役割や強み、ものの見方を検証することから始めました。

後継経営者としてに入社し、現場との衝突を経験していたAさんにとっては、もどかしさもありました。

もっと早く会社を変えたい。
しかし、そこで急がない。

「1年に1領域。混ぜない。順番を守る」
最初に決めたルールを守りました。

このときAさん自身もまだ知りません。

1年目には、自分の強みを生かせていない仕事を考えることになります。
2年目には、自分の「意思決定スタイル」を確立します。
3年目には、自分と個性を補完し合い、信頼し合えるマネジメントチームをつくります。
4年目には、会社の強みが何かを歴史を遡って探っていくことになります。
そして5年目には、「利益」の真の意味を問い直すことになります。

その5年間の先に、
AA建設グループには、営業利益約3倍という結果が待っていました。

しかし、この連載で見ていきたいのは「3倍になった方法」ではありません。

その数字に至るまでに、
何を問い、何を試し、何をやめ、何を学び直したのか。
そのプロセスです。

この約5年間の実践を、次回から一つずつ追っていきます。


【今日の問い】

Q:半年前、あるいは9ヶ月前に始めた改善策について、あなたは今、どのような検証をしていますか?

「やったか、やらなかったか」だけではなく、

  • 当初、何を期待していたのか

  • 実際には何が起きたのか

  • 続けるのか

  • 修正するのか

  • やめるのか

まで振り返ってみてください。

そしてその前に、もう一つ。

半年前に行った重要な意思決定を、あなたは覚えているでしょうか。

実践とは、行動することだけではありません。
結果を振り返り、次の仮説につなげて初めて「実践」になります。

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

~次回は[思考編]~

次回は、1年目[思考編]。

万能型だった父を追いかけていたAさんが、
「自分の強みを生かして、どこで貢献するのか」
という問いに向き合います。

そして最初に手放したのは、苦手な仕事ではありませんでした。

「できなくはない仕事」でした。


いいなと思ったら応援しよう!

清水祥行/ドラッカーを読んだら会社が変わった! よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!