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実践するドラッカー 実践編 第25話:スタッフからアイデアが泉のように湧き出るお店③(全10話)

事例6-3 FB情報:仕事をゲームのように楽しむ~働きがいの条件❷

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

前回の記事では、働きがいを持つための3つの条件の中の一つ目、
①生産的な仕事
について考えました。

お客様が本当に求めているものを知ること。
それが「生産的な仕事」の出発点でした。

女性誌の研究を通じて
「お客様が求めているもの」をチーム全体で共有したとき、
FF体験というコンセプトが生まれ、
新人からもお客様目線のアイデアが生まれるようになったのでした。

今回は、2つ目の条件
②フィードバック情報
について考えていきます。

■測定されないものは、改善されない

働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。

『実践するドラッカー チーム編』第2章 メンバーを育成する
/誰もが働きがいを必要とする p.44
(マネジメント エッセンシャル版 p.74)

「生産的な仕事」の次に必要なのは、「フィードバック情報」です。

自分の仕事が、本当にお客様に届いているのか。
工夫したことが、本当に成果に結びついているのか。

それがわからなければ、
どれだけ努力しても「手応え」が感じられず
手応えが感じられなければ、仕事はやがてやりがいを失っていきます。

ドラッカーはこう言います。

管理のための測定を行うとき、測定される対象も測定する者も変化する。測定の対象は新たな意味と新たな価値を賦与される。したがって管理に関わる根本の問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。

『実践するドラッカー チーム編』第4章 自ら評価測定する~測る尺度を工夫する
/測定することで意識が変わる p.112
(マネジメント[エッセンシャル版]p.166)

つまり、「何を測定するか」を決めること自体が、
スタッフの意識と行動を変えていくのです。

例えば、家計簿をつけ始めただけで節約意識が高まるように、
何かを測定しようと決めた瞬間から、人は自然と、その対象に意識を向け始めます。

では、美容室FFは何を測定することにしたのでしょうか。

■「きまあ指数」の誕生

Fさんが参考にしたのは、
北海道のある飲食店が実践していた「おまあ指数」という仕組みでした。

いしい」
た来るね」
りがとう」
——顧客満足度を測定するために、
この3つの言葉をお客様から何回かけてもらえたかを、
バックヤードで「正の字」でカウントしたというものです。

その結果、ホールスタッフも調理スタッフも、
カウントを増やしたいと思って様々な工夫をするようになったのです。
(出典:実践するドラッカー 利益とは何か p.97)

これをヒントに、美容室FF流にアレンジして生まれたのが
「きまあ指数」です。

——「きれい」「気持ちいい」
——「また来るね」
——「ありがとう」

この3つの言葉をお客様から何回かけてもらえたかを、
毎日スタッフがカウントして報告し合うようにしました。

シンプルな仕組みでした。
しかしこれが、お店を大きく変えていきました。

■新人でも「きまあ」を増やせる

この指数の優れているところは、
技術の習熟度に関係なく、全員が参加できることです。

まだカットを任されていないアシスタントでも、
シャンプーやマッサージの工夫次第で、
お客様から「気持ちいい」や「ありがとう」を引き出せます。

ネイルやエクステなどの資格を持つスタッフであれば、
独自のアプローチでお客様に提案することもできます。

「きまあ」という共通の目標ができたことで、
スタイリストもアシスタントも、
経験年数に関係なく、
「今日は自分にどんな工夫ができるか」
を考えるようになりました。

カウントは、ポケットに入れた小さなノートで行います。

シャンプー中にお客様から
「気持ちいい〜」
と言われたら、
そっとノートに印をつけるのです。

一日が終わったら、
チームごとに集計してグループのSNSに報告します。

「今日の『気持ちよかった』は23人でした」
「『また来るね』って言ってくれた人は5人でした」
「『ありがとう』を言ってくれた人が53人いました」

——そんな報告が、毎日積み重なっていきました。

■数字が「ゲーム」になっていった

測定を始めると、不思議なことが起き始めます。

スタッフたちが、自分から工夫をするようになったのです。

・シャンプーのとき、少しだけ圧を変えてみたら『気持ちいい』って言ってもらえた

・お客様の名前を呼んで声をかけたら、帰り際に『ありがとう』って言ってもらえた回数が増えた気がする

——そんな気づきが、日常の中で生まれ始めました。

数字が改善すれば嬉しい。
工夫したことが結果に出る。
それがまた次の工夫につながる。

気づけば、「きまあ」を増やすことが、
毎日の仕事の中の「小さなゲーム」になっていきました。

ドラッカーが言う「フィードバック情報」とは、
単に「結果を知らせること」ではありません。

自分の工夫が成果に結びついているかどうかを、
自分自身で確認できる仕組みのことです。
その仕組みがあってこそ、
誰もが 自ら考え、試し、楽しめるようになります。

■「FF体験表」——行動を習慣にする仕組み

次に取り組んだのは、「インプット」の指標です。

「きまあ指数」はいうなればアウトプット
いいかえれば
「お客様からどれだけ喜びの言葉をいただけたかを測るもの」
だとすれば、
「その成果を生み出す行動そのもの」
つまりインプット側を測定する仕組みも必要です。

そこで生まれたのが『FF体験表』でした。

前回ご紹介した『FF体験』
つまり、仕事も家事も懸命にこなす女性への
ご褒美として提供する『非日常のプチセレブ体験』を実現するための、
具体的な行動を習慣化するための仕組み。

その仕組みはこうです。

お客様に『FF体験』を感じてもらうための
具体的な行動項目、例えば・・

「お客様を名前で呼ぶ」
「必ずお客様の方向を向いて笑顔で挨拶する」

といった項目を、全員で話し合って30項目挙げ、
その中から、「いま優先して習慣化したいもの」を 3つに絞り込みます。

そして毎日、それができたかどうかをチェックします。

21日連続で全員が実行できたら、
その行動は「習慣になった」と考えて重点項目から外します。
そして、その代わりに加える次の「重点項目」を考えます。

これは
「3週間連続でできたことは、意識しなくてもできるようになる」
という考え方に基づいた仕組みでした。

■「何をすべきか」をスタッフが決める

この仕組みで重要なのは、
行動項目をスタッフ自身が決めるという点です。

評価とは上からの管理ではなく、自己管理を可能にするためのものである。この大原則を破っていることが、マネジメントの仕事のうち、評価測定が最も貧弱な分野になっている原因である。

『実践するドラッカー チーム編』第4章 自ら評価測定する~測る尺度を工夫する
/評価の大原則 p.106
(マネジメント(中) p.28)

Fさんはこの言葉通りに、具体的な行動の決定を現場に任せました。

「きまあ」の数を伸ばすためにどんな行動が必要か?
どの行動の習慣化を優先するか?

は、スタッフたちが自分たちで結果を分析して決めるのです。

自分たちで決めた行動だから、やらされている感はありません。
自分たちで測定するから、結果が自分ごとになります。

「きまあ指数」が上がれば、
自分たちの判断や努力や工夫が正しかったと確認できます。

下がれば、何かを変える必要があると自分たちで気づきます。

このサイクルが回り始めると、
スタッフたちは
「どうすればお客様に喜んでもらえるか」を、
日常の中で自然と考えるようになっていきました。

■報告を「忘れない」こともフィードバックになる

もう一つ、この仕組みには面白い工夫があります。

毎月の表彰で称えられるのは、
「きまあ」の数が最も多かったチームではありません。

「報告忘れがなかったチーム」です。

なぜか。

「小さな約束を地味に続けて守る」こと自体が、
お客様への信頼につながるからです。

「今度調べておきますね」と言いながら、
次の来店時に忘れていたら、お客様はがっかりします。

毎日の報告を忘れずに続けるという習慣が、
そのままお客様との約束を守る習慣になっていくのです。

入社1年目のうちにこの習慣を徹底して身につけることで、
2年目以降も、頼まれたことを忘れず、最後までやり切るスタッフへと育っていきました。

■測定が文化を変えた

「きまあ指数」と「FF体験表」。
どちらも地味な仕組みかもしれません。
華やかな研修でも、特別なシステムでもありません。

しかし、何を測定するかを決めることで、
スタッフの意識は変わりました。

測定を続けることで、工夫が生まれました。
工夫が成果に結びつくことで、
仕事がまるで知的なパズルやゲームのように楽しくなっていきました。

測定される対象は、新たな意味と新たな価値を賦与される
——ドラッカーの言葉通りのことが、このお店で起きていたのです。

アイデアが泉のように湧き出るお店は、
「何かを測定するか」という小さな決定から始まっていきました。

■次回予告

次回は、「自分自身の成長を確認し、選択肢を増やす」について。

成長の意味を定義しなおすと、
働きがいの三つの条件は、
相互に影響し合いながらつながっていきます。

【今日の問い】

Q:あなたの仕事で、「良い仕事ができた」と判断するための指標は何でしょうか?

売上や件数のような数字かもしれません。
お客様からの「ありがとう」や「またお願いしたいです」という言葉かもしれません。

大切なのは、「何を測定しているか」です。

ドラッカーは、測定されるものには、新しい意味と価値が与えられると言いました。

美容室FFでも、「きまあ指数」を測定し始めたことで、スタッフたちは自然と、「どうすればもっと喜んでもらえるか」を考えるようになっていきました。

もし測定するものが「売上」だけなら、人は売上だけを追い始めます。

しかし、「ありがとう」や「また来るね」を測定すれば、人はその言葉を増やそうと工夫を始めます。

あなたの組織では、どんな指標が、「良い仕事」の方向を決めているでしょうか。

■この続きの物語はこちらから


このFさんとFF美容室の物語の第①話は


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