実践するドラッカー 実践編 第15話:プロフェッショナルが育つ組織を作る②(全4話)
事例4-2 [チーム編]全社員が講師になる会社
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
前回、D社長はドラッカーの言葉、
聞け、話すな。
に衝撃を受け、自分の経営を見直し始めたところまでお話ししました。
社員を動かす組織から、社員が自ら考えて動く組織へ。
その第一歩としてD社長が考えたのが、
社員が学び続ける仕組みをつくることでした。
■社員が先生になる勉強会
人に教えることほど自らの勉強になることはないのと同様、人の自己啓発を助けることほど、自らの自己啓発に役立つことはない。事実、人の成長に手を貸すことなく、自らが成長することはあり得ない。
互いに高め合う環境をつくるp.55
(マネジメント(中)p.67~68)
人は、教える立場になったとき、初めて本気で理解しようとします。
知識を整理し、自分の言葉で説明できるようにしなければならないからです。
そこでD社長は、社内である取り組みを始めました。
それは、社員が先生になる勉強会でした。
一番の職人でもあった社長が「教える」のではありません。
各部署のリーダーや社員が、自分の専門分野や研究分野について発表するのです。
■ベテランだけのものではない
さらに、この場はベテランだけのものではありませんでした。
新人であっても、自分が興味を持っている分野や、いま挑戦していることについて話す機会が与えられます。
「まだ経験が浅いから話せない」のではありません。
学びの途中にあることも、共有する。
そうすることで、組織の中に自然と学びの対話が生まれていきました。
設計担当は、店舗デザインの考え方を。
施工管理担当は、現場での工事の進め方を。
家具修理の職人は、素材の見分け方や修理の工夫を。
それぞれが、自分の仕事を言葉にして語ります。
最初は戸惑いもありました。
「自分が人に教えるなんて……」
そう感じる社員も少なくありませんでした。
■教える時に最も学ぶ
しかし発表の準備を進めるうちに、社員たちは気づき始めます。
自分の仕事を説明しようとすると、意外と知識が整理できていないことが多いのです。
「なぜこのやり方なのか」
「本当にこれが一番よい方法なのか」
そんな問いが、自分自身に向かってくるようになります。
こうして社員たちは、教える準備を通じて、
自分の仕事を学び直すようになっていきました。
■年間スケジュールで時間を確保する
この勉強会は、単発の取り組みでは終わりませんでした。
D社長は、これを会社の仕組みとして定着させようと考えます。
そこで会社の「経営計画手帳」に、この勉強会を組み込みました。
年間スケジュールの中に、
・勉強会の開催日
・講師として担当する社員の名前
・予定している仮のテーマ ※変更可
を、あらかじめ書き込んだのです。
つまり、学びの時間を予定として先に確保したのです。
忙しくなると、人は学ぶ時間を後回しにしてしまいます。
だからこそ、最初からスケジュールに組み込んでしまう。
これは、社員が成長する環境をつくるための仕組みでした。
■社員のセンスを磨く
一方で、
店舗プロデュースの仕事では、空間の雰囲気や細部のデザインが大きな差になります。
この仕事では、社員一人ひとりの目利きや感性が、成果を左右します。
しかし以前のD社長は、どこかでこう考えていました。
センスのあるスタッフが考え、センスがまだ未熟なスタッフは、それを実行する。
つまり仕事とは、考える人と、動く人に分かれるものだと考えていたのです。
ところがドラッカーを学ぶうちに、その見方が揺らぎ始めます。
本来、プロフェッショナルとは、自分の仕事を自分で考え、自分で判断する人のことです。
もしそうだとすれば、
「センスのある人」と「センスのない人」
という分け方そのものが、可能性ある社員の成長を止めてしまっているのではないか。
そう思い至ったとき、D社長ははっとします。
■生まれつきの"センス"に頼らない
これまで自分は、誰にセンスがあるか、誰にはセンスがないかを評論することに終始していたのではないか。
しかし本当に問うべきだったのは、
「どうすれば、この無形のセンスを磨くことができるのか」
ということではなかったか。
D社長は、そのことを振り返り、恥ずかしく思うようになりました。
だからこそ、本気で考えるようになります。
センスは、どうすれば磨かれるのか。
その答えを探る中で、D社長はあることに気づきます。
自分のこれまでを振り返ってみると、
センスは、生まれつきの才能だけではない。
どれだけ多くの本物を見てきたか。
どれだけ多くの違いに触れてきたか。
その経験の差なのではないか。
もしそうだとすれば、社員に必要なのは、
圧倒的な量の「本物」に触れる機会
でした。
その背景にあったのは、ドラッカーの次の言葉でした。
知識は、本の中にはない。本の中にあるものは情報である。
知識とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である。
本を読むだけでは、知識にはなりません。
現場で本物を見て、感じて、比較し、仕事の判断に結びつけて初めて知識になります。
■本場で本物に触れる機会
D社長は、こう考えるようになりました。
プロフェッショナルになるには、まず本物を見抜く目が必要である。
そしてそのためには、圧倒的な量の情報に触れる必要がある。
そこでD社長は、思い切った決断をします。
会社の資金を使って、社員を海外に送り出すことにしたのです。
本場の街や店舗を歩き、写真を撮り、空間を観察する。
たとえば私たちも、海外の映画やドラマの中で、日本を表現したセットを見て、
「日本“風”にしたかったんだろうね……」
「でも、明らかに日本にはこんな建物はないよね」
と感じる場面に出会うことがあります。
海外の人から見た「日本風」に違和感を覚えるのと同じように、本場の人が見れば、まがい物はすぐにわかります。
しかし、それをチェックリストで共有しても、本当の意味で「感じる」ことはできません。
プロとしての判断や行動にはつながらないのです。
だからこそ、一週間ほど現地に滞在し、とにかく多くのものを見る。
そして、とにかく写真を撮る。
圧倒的な数の店舗や街並み、素材、照明、家具の使い方に触れるのです。
帰国すると、撮ってきた写真をみんなで見ながらディスカッションをします。
■本物か、まがい物か
D社長は、必ず最初にこう問いかけます。
「これは本物だろうか。それとも、まがい物だろうか」
店舗のつくり、素材の使い方、照明、家具の配置。
写真を手がかりに議論を重ねることで、現地に行った本人だけでなく、周囲の社員の観察力も磨かれていきます。
次に視察に行くときには、以前よりも多くのことに気づけるようになる。
こうした経験を重ねるうちに、社員たちは少しずつ本物を見抜く目を身につけていきました。
そして会社の中には、自分の仕事を自分で考えるプロフェッショナルが育ち始めていったのです。
■少しずつ変わる会社の空気
こうした取り組みを通じて、社内の雰囲気は少しずつ変わっていきます。
それまでの会社では、社員は社長の指示を待つことが多くありました。
しかし次第に、
「こうした方がいいのではないか」
「このやり方を試してみたい」
という意見が出てくるようになります。
社員が、自分の仕事を自分の言葉で語るようになってきたのです。
そしてこの変化は、やがて会社全体の仕組みにも影響を与えることになります。
その象徴が、毎年行われる経営計画発表会でした。
この発表会で語られる言葉が、会社の未来を大きく変えることになります。
その話は、次回ご紹介します。
【今日の問い】
Q:あなたが、自分の仕事の意味や価値について1時間語るとすれば、どんな話をしますか。
専門家だけでなく、経営者やマネジャーもまた、自らの判断に責任を持ち、能力を発揮するプロフェッショナルです。
そうした立場にある私たちは、共に働く人や次世代のメンバーに対して、自分が担ってきた仕事の意味や価値を伝えていく必要があります。
作業内容や手順は、マニュアルとして残すことができるかもしれません。
しかし、そこに込めた思いや熱量までは、マニュアルだけでは伝えきれません。
では、あなたがその「熱」を伝えるとしたら、何を語るでしょうか。
どんな経験や意思決定、葛藤や手応えを、どのような言葉で届けるでしょうか。
そうした機会は、決して多くはありません。
だからこそ、その場になってから考えるのではなく、日頃から語るべきエピソードや問いを蓄え、自分の言葉として磨いておくことが大切です。
続きのお話はこちらからどうぞ。
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