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実践するドラッカー 実践編 第24話:スタッフからアイデアが泉のように湧き出るお店②(全10話)

事例6-2 生産的な仕事:仕事が生み出す価値は何か~働きがいの条件❶

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

前回の記事では、
仕事にやりがいを持つための3つの条件
を整理しました。

①生産的な仕事
②フィードバック情報
③継続学習

今回は、その中の一つ目
①生産的な仕事
について考えていきます。

何をもって「生産的な仕事」と言えるのでしょうか。

それを考えるには、
その仕事が生み出している価値は何か
を知らなければなりません。

つまり——

お客様が何に価値を感じているのか

それを知らずに行う努力や工夫は、
どれほど一生懸命でも、独りよがりになってしまうのです。

■「ドリルではなく、穴を買っている」

Fさんが『事業編』の講座の中で衝撃を受けたフレーズがありました。

顧客はドリルではなく、穴を欲している

『実践するドラッカー事業編』第2章 顧客が事業である  p.39
(セオドア・レビット「マーケティング発想法」より)

ドラッカーはこう言います。

企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることは稀である。(中略)顧客は満足を買っている。しかし誰も、顧客満足そのものを生産したり供給したりはできない。満足を得るための手段をつくって引き渡せるに過ぎない。

『実践するドラッカー事業編』第2章 顧客が事業である
/顧客は満足を買っている  p.53
(創造する経営者 p.118)

つまり、美容室にくるお客様にとって、
「髪を切ること」そのものが目的ではない
ということです。
Fさんにとって、それはショックであると同時に、大きな気づきでした。

お客様にとってヘアカットはあくまで手段であり、
その先にある何かのために来店している。

では、美容室FFのお客様が本当に求めているものは何なのか

Fさんは、
残ってくれたスタッフ、そして
新たに加わったスタッフたちと
その問いに真剣に向き合い始めました。

■顧客を知るためにやったこと

では、お客様は本当は何を求めているのだろう。

ドラッカーは、「お客様にとっての価値」を考える前に、
「われわれの顧客は誰か」を問います。
(『経営者に贈る5つの質問』参照)

でもそれは、
例えば「私たちのお客様は、〇~〇歳の女性」というだけでは
思考停止してしまう定義です。

データしか見ておらず、お客様の顔を見ることができません。

「事業編」の講座では、
ライフスタイルや価値観をうかがい知れるくらいに
特定できた方が良いという話も聞きました。

この問いに向き合うためにFさんたちが始めたのが、

女性ファッション誌の徹底研究

でした。

約10冊の女性誌をスタッフ全員で手分けして読み込み、その読者層についてレポートを作成してもらいました。
女性誌は、対象とされるの年代やライフスタイルが明確に設計されています。
読者の年代や、独身か既婚かといったライフスタイルの違いに合わせて、
記事の内容はもちろん、そこで紹介する洋服や生活雑貨なども取り上げる方向が決まっています。

複数の女性誌を読み比べることで、
ライフスタイルによって異なる顧客の現実が見えてくるはずだ

と考えたのでした。

つまりそこには、

顧客の現実・価値観・生活そのもの

が表現されているのです。

■見えてきた顧客像

レポートの書式はスタッフそれぞれの個性が現れたもので、
ワープロか手書きかの違い、
まとめる項目の違いなどはありました。

しかしスタッフがそれを調べる意味をわかって作成されたこのレポートは、
後に大きな武器になっていきます。

そうして絞り込まれた理想の顧客像は、

バリバリ働き、家事もしっかりこなす女性

という言葉に集約されました。

カット技術に定評があった美容室FFには、
忙しいワーキングマザーの女性客が多く集まっていました。

その雑誌に特徴的だったのは、
家事の時短やバスタイムを楽しくする記事が目立ったことです。

仕事と家事、育児に追われて忙しい中で、
わずかに残された自分の時間を大事にしている様子がそこから浮かび上がったのでした。

■お客様が本当に求めているもの

では、そんな女性たちは、
何を求めて美容室に来るのか。

ただ髪を切るために来ているわけではないはずです。
髪を切るのはあくまで手段にすぎません。

その背後に、
「癒しを得る」とか、
「きれいになった自分の姿を見て自信を取り戻す」
といった本来の目的があるはずだと、Fさんは考えました。

こうして生まれたのが、FF美容室の名をとった「FF体験」というコンセプトでした。

仕事も家事も懸命にこなす女性へのご褒美として、
「非日常の、癒しとなる、プチセレブ体験」
を提供すること。

それが美容室FFの存在意義だと考えたのです。

マーケティングとは、顧客のニーズ、欲求、価値と、サービスの提供者である組織の製品、価値、姿勢とを合致させるための仕事である。

『実践するドラッカー事業編』第3章 マーケティングを問い直す
/顧客は賢い、そしてニーズを知らない p.70
(非営利組織の経営 p.94)

お客様のニーズと自分たちのサービスを「合致させる」。
その意識を持ったとき、スタッフたちの目線が変わり始めたのです。

■「仕事の成果」が見えると、アイデアが生まれる

ここで起きた変化で、特筆すべきことがあります。

それまでのFさんのお店では、
アイデアを出すのは経験を積んだスタイリストだけでした。

新人はまず技術を覚えることが先で、
お客様のことを考える余裕など持てないと思われていました。

しかし女性誌の研究を通じて、
「お客様が求めているものは何か」
という問いをチーム全体で共有したとき、
状況が変わりました。

■ シャンプーでの癒しを効果的に

ある日、アルバイトのスタッフが、こんな提案を持ってきました。

「忙しいお客様に癒しを届けたいなら、シャンプーの香りを選べた方がいいと思うんです。人によって、落ち着く香りって違うと思うので」

Fさんは、その提案を受け入れて、その対応を任せます。
その結果、美容室FFでは、香りはフローラル系やシトラス系など4種類の中から選べるようにしてみたのです。

そうすると、お客様からは、
「え!選ばせてくれるの?そんなの初めて♪」
と驚いて喜んでいただけました。

■ 店内備品も価値観に合わせて

また、こんなこともありました。

この雑誌の"広告"に出ているこのクッション、"ふかふかソファ”なんか に座っているときに、前に抱えて座ると姿勢が安定して疲れないみたいなんです。これをうちの待合席におきませんか?

彼女たちが見ていたのは、記事だけではありませんでした。

雑誌に掲載されている広告の一つひとつまでもが、
お客様に喜んでもらうためのヒントで満ちあふれていました。

価値観が同じ雑誌を読み込むうちに、
新人でも自然と「お客様の目線」で
物事を見られるようになっていたのです。

なぜそうなったのか。
「お客様に喜んでいただけた」という仕事の成果が、
スタッフ全員にとって共通の目標になったからでした。

技術の習得度や経験年数に関係なく、
「お客様に笑顔と元気をもたらす」
という成果に向かって、
誰もが考えられるようになりました。

働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。

『実践するドラッカー チーム編』第2章 メンバーを育成する
/誰もが働きがいを必要とする p.44
(マネジメント エッセンシャル版 p.74))

「仕事の成果」が見えることで、
新人も含めたスタッフ全員が、
仕事の在り方を自分ごととして考え始めたのでした。

アイデアが泉のように湧き出るお店の原点は、
実はこの女性誌研究にあったのかもしれません。

■顧客研究が生んだ予期せぬ能力

さらに言えば、
この研究がもたらした予期しなかった大きな変化は、
お客様との「カウンセリング力」でした。

初来店のお客様でも、
その方の服装やファッションを見るだけで

「あ、JJ系だな」とか
「少しLEEっぽい」

という診断ができるようになりました。

その雑誌のモデルさんのイメージと共に、
その方が求めているヘアスタイルのイメージが予測でき、
的確に提案・施術・アドバイスができるようになったのです。

これは、リピーターのお客様だけの話ではありません。
初めて来店されたお客様とも、
共通の「価値観の地図」を持って話せるようになったことが大きかったのです。

雑誌という共通言語を持つことで、初対面でも
「この方はどんな生活を大切にしているのか」
「どんな自分になりたいと思っているのか」

が自然と見えてきます。

また、雑誌の研究は
「お客様が求めている情報は何か」を知るためにも役立ち、
会話も弾むようになりました。

みんな不思議がっているんですよ。 来店時アンケートで『静かに過ごしたい』と記入されたのに、なぜかずっと楽しくおしゃべりしてくださるんです!

とスタッフは笑う。

その結果、美容室の口コミサイトには
「がつがつ話しかけてこない」
「話しやすいのでつい色々な話をしてしまった」
「私の希望に沿って提案してくれる」
「髪の悩みを話すと丁寧にアドバイスしてもらえた」

という書き込みが増えていった。

■鏡文字の名札

お客様の目線で自分たちのサービスを見るという習慣が、
スタッフ同士の間でじっくりと熟成されていった頃、
一人のスタッフからこんなアイデアが生まれました。

名札を「鏡文字」にする

というものでした。

施術中、お客様は鏡越しにスタッフの名札を見ます。
そのとき自然に読めるよう、名札を鏡文字にしたのです。

誰かに指示されたわけでも、
マニュアルに書いてあるわけでもありません。

「お客様の立場や目線で真剣に考えているお店」であることが、
こんな小さな工夫の一つひとつに自然と滲み出るようになっていきました。

「顧客の現実を知る」とは、データや分析だけの話ではありません。
お客様が見ている景色を、同じ目線でみることです。

その姿勢そのものが、美容室FFという組織の文化になっていきました。

■次回予告

次回は、「仕事をゲームのように楽しむ」について。

働きがいを与えるための第二の条件は「②フィードバック情報」。
自分たちの工夫や活動が、
本当に成果に結びついているのかを知るための仕組みとは何か。

きまあ指標・バランス体験表
——アイデアが止まらないチームを生んだ具体的な仕組みを見ていきます。

■今日の質問

Q:あなたは、お客様が見ている景色を、どれくらい具体的に想像できていますか?

ドラッカーは、「顧客にとっての価値」からスタートせよと言いました。

しかし実際には、私たちはつい、「自分たちは何を提供しているか」という視点で物事を考えてしまいます。

美容室FFでも最初は、「髪を切る」という行為そのものに意識が向いていました。

けれども、お客様が求めていたのは、その先にある「癒し」や「自信」、あるいは「忙しい毎日の中で、自分を取り戻す時間」だったのです。

そのことに気づいた瞬間から、スタッフたちの工夫やアイデアは大きく変わり始めました。

お客様が読んでいる雑誌を読む。
お客様がどんな毎日を送り、何に疲れ、何に喜ぶのかを想像する。

「顧客を知る」とは、単にデータを集めることではありません。

お客様が見ている景色を、自分たちも同じ目線で見ようとすることなのかもしれません。

■この続きの物語はこちらから


この前話にはこちらから。

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