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実践するドラッカー 実践編 第7話:保健室から始まったドラッカー①(全3話)

事例2-1 [思考編]~仕事の意味の再発見

本記事は、実際の実践事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

「私は、いったい何をしているのだろう。」

忙しさの中で、ふと立ち止まる瞬間があります。

目の前の仕事は、確かにこなしている。
周囲からの信頼も、少しずつ積み重なっている。

それでもどこかで、
仕事の意味が見えにくくなる瞬間があります。

■保健室から始まったドラッカー


今回ご紹介するのは、
そのような問いを抱えた一人の養護教諭、B先生の事例です。

保健室は、学校の中でも少し特別な場所です。

ケガや体調不良への対応はもちろんのこと、
生徒がふと立ち寄り、誰にも言えない話をすることもあります。

ときには、教室よりも本音が出やすい場所でもあります。

B先生は、長年その保健室で働いてこられました。

日々の仕事は決して軽くはありません。

生徒の体調管理、
学校行事への対応、
保護者や教職員との連携。

やるべきことは次々に押し寄せてきます。

そのような中で、40代に入られた頃、
ふと立ち止まる瞬間があったといいます。

「私は、いったい何をしているのだろう。」

忙しさは変わりません。
むしろ経験を積むほどに、任されることは増えていきます。

それでもどこかで、
仕事の意味が見えにくくなっていたのです。

保健室の先生として、生徒に向き合っている。
それは間違いありません。

しかし、その仕事の先に何があるのか。
自分はこの仕事で、何を残そうとしているのか。

その問いに、うまく答えることができませんでした。

■仕事の意味を問い直す

さまざまな学びに触れ、
「自分にも何かできることはないだろうか」と考えていた頃、
出会われたのがナレッジプラザの読書会でした。

初めて読むドラッカーの本。

その中の一節が、強く心に残ったといいます。。

知識労働者は自らをマネジメントしなければならない。
自らの仕事を業績や貢献に結びつけるべく、すなわち成果をあげるべく自らをマネジメントしなければならない。

『実践するドラッカー 思考編』第1章 知識労働者として働く
/自らをマネジメントするp.24
(『経営者の条件』p.21)

学校の先生もまた、知識労働者です。

だとすれば、自分の仕事も、
ただ忙しく働くだけではなく、
成果や貢献につながる形でマネジメントする必要があるのではないか。

そうした問いが、静かに芽生え始めました。

■一つの問いとの出会い

そしてもう一つ、B先生の心に残る言葉がありました。

私が13歳のとき、宗教の先生が「何によって憶えられたいかね」と聞いた。(中略)
今日でも私は、いつもこの問い、「何によって憶えられたいか」を自らに問いかけている。
これは、自己刷新を促す問いである。
自分自身を若干違う人間として、しかしなりうる人間として見るよう仕向けてくれる問いである。

『実践するドラッカー 思考編』第2章 成長するために
/自己刷新を促す問いp.77
(『非営利組織の経営』p.219・220)

その問いは、とてもシンプルでした。

「あなたは何によって憶えられたいか。」

この問いは、「何になりたいか」という問いとは異なります。
それでは、自分を中心とした発想にとどまってしまいます。

この問いは、
自分が誰かの役に立つことで、
相手からどのように認識されるのかを問うものです。

つまり、
自分を外側から見つめ直すための問いなのです。

■自分自身への問い直し

B先生は、この問いを自分自身に向けてみました。

私は、何によって憶えられたいのだろう。
保健室の先生として、どのような存在でありたいのだろう。

すぐに答えが見つかるわけではありません。

それでも、その問いを抱えたまま仕事を見つめ直していくと、
少しずつ見える景色が変わり始めました。

保健室は、単に体調不良の生徒が訪れる場所ではありません。

生徒が安心して話せる場所。
ときには、人生の岐路に立ち会う場所でもあります。

もしそうだとすれば、
この場所でできることは、もっとあるのではないか。

■小さな実践の始まり

そう考えたとき、一つの思いが浮かびました。

この問いを、生徒にも伝えてみたらどうだろう。

特別な授業をするわけではありません。
大きな取り組みでもありません。

保健室で生徒と話をする中で、
ふとしたタイミングで、こう問いかけてみる。

「あなたは、何によって憶えられたいですか?」

答えが出なくても構いません。
むしろ、すぐには答えられない問いかもしれません。

それでも、
人生のどこかで思い出してくれたなら——

その小さな思いつきが、
この後、10年以上にわたって続く実践の出発点となりました。


【今日の問い】


Q:あなたが将来、今の仕事を離れる時、
部下や後輩(あるいは、上司や同僚、さらにはお客様)から、
「あの人のお蔭で何が変わった」といわれたいですか?

人は、他者に何らかの影響を与えることで、初めて「憶えられる」存在になります。

しかしそれは、「あの人のおかげで」と言ってもらうために、
意図的に恩を売るということではありません。

「何によって憶えられたいか」という問いは、
自分をどう見せるかではなく、
自分がどのような貢献をしたいのかを問い直すための問いです。

ドラッカーが述べるように、この問いは自己刷新を促します。

外からどう見られるかという視点で目標を定めながら、
その実現に向けて、自分の行動を内側から方向づけていく。

その積み重ねこそが、
やがて「あの人のおかげで」と言われる仕事につながっていくのではないでしょうか。

■次回以降の予告

B先生が始められた、保健室でのささやかな問いかけは、
長い年月の中で、少しずつ生徒たちの心に残っていきました。

ドラッカーは言います。

「あなたは何によって憶えられたいか。」

この問いは、人生のどの時点においても、
自分自身に向けて問い直すことができます。

そして同時に、
仕事に対しても向けることができる問いでもあります。


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