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実践するドラッカー 実践編 第93話:顧客に聞けば、仕事は変わる――ある地方バス会社の小さな実践②(全9話)

事例18-2 社員が動かない会社で、最初に変えるもの

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

UUバス社を引き受ける決意をしたUさん。

しかし、実際に会社へ戻ってみると、想像していた事業承継とはまったく違うものが待っていました。

入社したその日、父から渡されたのは、会社の実印と金庫の鍵でした。

「約束しただろう?すべての責任を持つのが条件だと。
 今日からお前が全部やれ」

Uさんとしては、まず現場に入り、路線バス会社の仕事を一つずつ覚えていくつもりでした。
ところが、父は仕事を教えてくれません。
ほとんど何も分からないまま、UUバス社の経営を担うことになりました。

縮小する組織

当時のUUバス社では、利用客の減少が長く続いていました。
ピーク時と比べれば、利用客は5分の1未満です。

会社はそのたびに合理化を重ねてきました。いわゆるリストラです。

資産を売る。
車両の更新を先送りする。
給与や賞与を削る。
路線を統廃合する。

そうやって事業を維持してきましたが、地域人口そのものが減少する地域の中で、利用客が増えるわけではありません。

収入が減る。
コストを削る。
それでも、また収入が減る。

長く続いた縮小は、働く人たちの気持ちにも影響していました。

「何をしても、どうせまた悪くなる」
そんな空気が、社内に広がっていました。

通じない正論

Uさんは、それまで全国大手の企業で宣伝や企画の仕事をしていました。
新しい企画を考え、外へ働きかけ、その反応によって結果を変える仕事です。

UUバス社でも、同じように何かできるはずだ。
そう考え、資料を読み、社員から話を聞き、次々と提案しました。

なかでも一貫して訴えたのが、
「利用客を増やすために営業活動をしよう」
ということでした。

しかし、社員から返ってくるのは、
「無理です」
「意味がありません」
「できるわけがありません」
という言葉ばかりでした。

Uさんには、それが理解できませんでした。
利用客が減っているのだから、増やすための行動をしなければならない。

方向としては、間違っていないはずです。
それでも、人は動きませんでした。

人への対し方

次第にUさんは、社員と激しく衝突するようになります。
「なぜ分からないんだ」
「なぜやらないんだ」
ときには、お互いに強い言葉で罵り合い、机を叩くなど激しく対立することもありました。

しかし、強く言えば言うほど、社員との距離は広がっていきます。
ドラッカーは、こんなことを書いています。

もし素晴らしい仕事が、人の協力を必要とした段階で常に失敗するようであれば、一つの原因として、人への対し方、すなわち礼儀に欠けるところがあるのかもしれない。

『明日を支配するもの』第6章 自らをマネジメントする p.198

営業を強化するという考えそのものが間違っていたわけではありません。

のちにUUバス社は、まさに営業活動によって利用客を増やしていきます。
しかし、どれほど良い考えでも、実行には人の協力が必要です。
Uさんには、その協力を生み出す関係ができていませんでした。

反対する社員

もう一つ、Uさんに見えていなかったことがありました。
社員たちは、なぜそこまで営業に反対したのでしょうか。

何十年も利用客が減り続けています。
業界全体も縮小しています。
給与や賞与まで削られてきました。
感情的に協力的にはなりにくかったかもしれません。

しかし、それ以上に、社員たちにはもう一つの感覚がありました。

「貸切バスの営業ならともかく、路線バスの営業なんて聞いたことがない」

貸切バスであれば、旅行会社や団体に営業することはあります。

しかし、路線バスが走る、「周辺人口も含めて20万人以上が住む地域」を営業活動をするなど想像できません。

当時の社員たちにとっては、それ自体が業界の常識から外れた取り組みに見えていました。

そんな中で、
「これから利用客を増やそう」
と言われても、簡単には現実味を持てなかったのでしょう。

Uさんの目から見ると、なんらかの営業活動をしなければならないことはわかっているはずなのに
「なぜ、やる前から諦めるのか。」
が理解できませんでした。

しかし社員から見れば、
「何十年も減っているものを、どうやって増やすのか」
「そもそも、路線バスで営業をするとはどういうことなのか」
という問題でもありました。

ドラッカーは、意見の対立についてこう述べています。

ばかな人もいれば無用の対立をあおるだけの人もいることは確かである。だが明白でわかりきったことに反対する人は、ばかか悪者に違いないと思ってはならない。反証がないかぎり、反対する人も知的で公正であると仮定しなければならない。(中略)
成果をあげる人は、何よりもまず問題の理解に関心をもつ。誰が正しく誰が間違っているなどは問題ではない。

『経営者の条件』第7章 成果をあげる意思決定とは p.204

大切なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。

社員の反対には、長年の経験と業界の常識から見えている現実がありました。
Uさんに必要だったのは、それを否定することではなく、まず理解することでした。

大切なのは、相手を説得することより先に、
「なぜ、この人たちはそう考えるのか」
を理解することでした。

この後にUUバス社が大きな成果を生み出す際にも、「この姿勢」が重要な意味を持つことになります。

「社員を愛せ」

追い詰められていたUさんに、ある同級生が言いました。
「人のせいにしているようでは、経営者として駄目だ」
そして、
「経営は勉強できる」
と教えてくれました。

そこからUさんは、経営者が集まる学びの場へ足を運ぶようになります。
その中で、一人の先輩経営者から繰り返し言われたのが、
「社員を大切にしろ」
「社員を愛せ」
という言葉でした。

Uさんには、なかなか受け入れられませんでした。
何を言っても反対し、陰口はもちろんのこと、
Uさんが若いからといって、
直接食って掛かって暴言を吐いてくるような社員たちを、
どうやって大切にすればよいのか。

ある日、その先輩経営者と一緒にお酒を飲んでいたときのことです。
先輩は、またUさんに尋ねました。
「どうしたら、言うとおりに社員を愛する行動をしてくれる?」
何度も同じことを言われ続けていたUさんは、少し苛立って、
「そこまで言うなら、先輩が土下座でもしたら聞きますよ」
と返しました。

すると、その先輩は、本当にその場で頭を下げようとしました。
驚いたUさんが慌てて止め、
「なぜ、そこまでしてくれるのですか」
と尋ねると、先輩はこう答えました。

「このままだと、お前が駄目になってしまうと思う。心配なんだ」
取引関係があるわけではありません。
何か得をするわけでもありません。
それでも、自分のことを本気で心配してくれている。

Uさんは、自分自身が大切にされる側になって初めて、
「人を大切にする」とはどういうことなのか
を少し理解したといいます。

自分から変える

翌日、Uさんは先輩との約束通り、管理職の社員たちの前で、
「今日から、みんなを大切にするようにする」
と宣言しました。

そして、言葉だけで終わらせないように、自分の行動を変え始めます。

書類を持ってきてくれた社員には、きちんと相手の目を見て、
「ありがとう」と伝える。

年末年始も含めて、朝6時半に出社し、朝の便を担当する運転手に
自分から「おはようございます」と声をかける。

特別な技術などありません。

日々の接し方を、一つずつ変えていきました。
すぐに会社全体が変わったわけではありません。
それでも、少しずつ反応が返ってきます。

半年ほど経ったとき、
対立していたベテラン社員にも、
いつものように朝の挨拶をしたとき
ぼそりと彼がこんなことを言いました。

「ずっとU社長の様子を見てきたよ。
 正直、最初は面倒な奴が来たと思っていた。
 前社長の息子だからって、
 大手有名企業で働いていたからって、
 上から目線でものを言いだすから・・。
 でも、U社長は、ただ本気だったんだよね。
 俺にはもう伝わったよ。

提案が出る空気

会議の中でも、社員から小さな提案が出るようになりました。
会議が終わった後、Uさんは、
それが嬉しかったことを本人に伝えました。

すると、
「これまでは、提案なんかしたら、かえって怒鳴られると思っていました」
と言われました。

そこでUさんは、また考えました。

社員が何も考えていなかったわけではない。
意見がなかったわけでもない。
意見を出せない空気を、自分がつくっていたのではないか。

「やはり、悪かったのは自分だったのかもしれない」
そう振り返ったといいます。

社員そのものが突然変わったわけではありません。
経営者の人への対し方が変わることで、これまで表に出てこなかったものが少しずつ見え始めました。

それでも動かないもの

社員との関係には、小さな変化が生まれ始めていました。
しかし、それでも一つだけ、なかなか動かないものがありました。

Uさんがずっと必要だと考えていた、
利用客を増やすための営業強化です。

社員との関係が変わり始めても、「営業に出よう」
という提案については、いまだ誰も行動しようとはしませんでした。

人との関係をつくり直すことと、新しい仕事に踏み出すことは、また別の課題でした。
UUバス社は、次にその壁と向き合うことになります。

【今日の質問】

Q:あなたと違う視点や問題意識で話してくれる人は誰ですか?
その人は、何を見てそう考えているのでしょうか?

自分と違う意見を聞くと、つい「どちらが正しいか」を考えてしまいます。
けれども、その人は自分とは違う経験や立場から、別の現実を見ているのかもしれません。

なぜそう考えるのか。
何を心配しているのか。
何が見えているのか。

相手を説得する前に、その違いの背景を考えてみることで、問題そのものへの理解が深まるかもしれません。

~次回予告~

約10年間拒まれ続けた「営業」が、ついに動き始めます。
その第一歩として社員が選んだのは、たった一つの小さな停留所でした。


UUバス物語の第①話はこちらから


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