【連載小説】 何を知る #105 頼架の内緒話② ①
第2章 第2節 頼架の内緒話②
「じゃあ美衣羽、あとでね」
「あ、うん。今日はよろしくね」
土曜日のお昼。そう言って頼架と別れた。急いで寮に帰ったわたしは食堂で昼ご飯を食べ、寮からいちばん近いスーパーに走り、手土産コーナーでお菓子を買って、また学校に行った。
「眠そうだね、美衣羽」
一昨日、あくびをしていると、隣の席の頼架から笑われながら言われた。
「……歌穂ちゃんがいなくなってから、寂しくて眠れなくて」
そしてわたしは教室の端の席の天音に聞こえるように大きな声で、
「だって天音が、一緒に寝てくれないから……」
と言った。
「物理的に寝れないんだって。見たでしょ、私のベッド」
「うん……」
天音のベッドはアニメキャラクターの抱き枕やぬいぐるみが敷き詰められていて、確かにわたしが入るスペースはこれっぽっちもなかった。
「じゃあ、美衣羽」
頼架が大人びた笑顔で、わたしに言った。
「土曜日、うちに泊まりくる?」
「え、いいの?」
「たぶんいいって言うと思う。ちょっとお母さんに訊いてみる」
「え、ほんとに……?」
呆気にとられるわたしをよそに、頼架はスマホを出して文字を打ち始めた。
その日の帰り、
「お母さん、ぜひおいでって言ってる~」
と頼架から言われ、わたしは「ありがとう」と頭を下げた。
今日の午前中は来週に迫るクリスマスコンサートの全体練習が行われ、午後は各専攻での練習になっている。
頼架は午前中の全体練習で帰っていった。トロンボーンを専攻しているのは音楽科3学年合わせても頼架一人だけ。各専攻での練習時間は休憩もあまりとらず、一人でひたすら練習しているそうだ。「もう十分すぎるくらい練習した」と言っていた。頼架は金管アンサンブルのメンバーにも入っているが、今日は指導の先生の都合で練習は休みらしい。
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午後の練習が終わり、菜乃と一緒に、音楽室を出て校内を走った。受験前の課外授業を受けている3年生の波が来る前にバス乗り場に着き、S駅に向かうスクールバスに乗ることができた。
『今、学校出た』と頼架にメッセージを送る。
「よかったね、頼架の家に泊めてもらえて。今日は寂しくないね」
と、わたしのスマホの画面を覗きながら菜乃が言った。
「うん」
菜乃はS駅に着く少し前で降りていった。一人になってから、頼架と待ち合わせの駅の名前を入れ、電車の時間を調べる。
……この時間、電車少ないんだ……。
S駅から一駅先に行きたいだけなのに、S駅で20分も待たなければいけないらしい。
『ごめんね、電車がなくて』と送ると、
『いつものこと!』
と返事が来て、そうか、頼架はいつもそうやって学校に来ているんだ、と思う。
スクールバスを降りて駅のホームに立ち、左肩にかけた鞄を確認する。手土産は持った。歯ブラシも持ってきた。コンタクトも入っている。着替え一式も入っている。夜に着るパジャマも持ってきた。……忘れ物は、ないはず。
案内が流れたので顔を上げると、隣のホームに特急がやってきた。時計を見ると、わたしが乗る電車が来るまで、まだ10分以上あった。
……少し緊張しながら、電車を待つ。
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