王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第22話 蜘蛛の糸に舞う火花、西塔に響く鎖の音
第22話 蜘蛛の糸に舞う火花、西塔に響く鎖の音
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「ふふっ。楽しい楽しいゲームのスタートだぁ!弱い弱い太陽たちは、どこまで大事なものを、守れるかなあ?」
オルカの甲高い声が、地獄の幕開けを告げる。
そこにいた全員が、爛の鞭により散り散りに飛ばされた。1人、不気味なクマの巨大ぬいぐるみに掴まれていた幸十は、そこから出ようと全神経を血に集中させる。
「第一血響 黄金の鎖」
「っ!?」
"シュルシュル・・・"
幸十の合図とともに、腰の鎖が生き物のように躍動し、ぬいぐるみの巨体を何重にも締め上げる。
"パァァァアン!"
すると、内側から弾けるように、ぬいぐるみが綿を撒き散らして霧散した。その光景に、爛の眉間が深く険しく刻まれる。
「お前・・・セカンドだったのか?上等じゃねえか!!!」
”シュンッ!”
刹那、爛が肉眼で追えない速度で幸十に迫り来る。その手には、幸十が奴隷時代、毎日のように振るわれていた ”棘付きの鞭” が握られ下ろされる。
”パァアアン!!!”
空を裂く一撃。
「っ!」
"パサッ!グルン!"
幸十は、咄嗟に ”コウモリの翼” を広げると、そのまま急旋回した。避ける幸十に、爛は怒りに満ちた瞳を向けると、着地と同時に地面を叩いた。
「逃がさねえと言っただろうが!」
地中から、無数の植物の鞭が幸十を目掛けて突き出した。その避けることは到底不可能な鞭の数に、危機感を抱くと同時に、幸十はナゼナゼ山で澄徳に言われた言葉を思い出した。
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『血響はな、セカンドの力をどのような形にしたいかを強く思い浮かべて、”攻撃の型” を作るものじゃ。じゃから、血錬だけでは身に付かんのじゃよ。実戦で、どうしたら攻撃を受け止められるか、どうしたらうまく攻撃ができるか。こればかりは経験を積み重ねるしかないんじゃ。』
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(・・・型。この圧倒的な数を、すべて叩き落とすための型を——)
そして同時に、朱鳥家の旧・右羽、狗鷲と鳥界境を彷徨っていた時に交わした会話が脳裏をよぎった。
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『・・・・この白いもじゃもじゃなに。』
『ん?それは蜘蛛の巣っちゃね。・・・・・・食べ物じゃないっちゃ。』
『蜘蛛の巣?』
『そうっちゃ~。蜘蛛さんの住処っちゃ。それと、獲物を捕らえるためのものでもある、優れた住処っちゃ。』
『どうやって?』
『その無数の白い糸が、四方八方からくる獲物を捕らえるっちゃ~。糸は粘着質で、その糸に掴まったら最後。逃れられないっちゃ。』
『ふーーん。』
『・・・そういえば、お前さん。その腰の鎖は、武器っちゃ?』
『うん、まだ使ったことないけど。セカンド(仮)だから。』
『・・・・ふむ。その鎖、セカンドの力で分裂させて、蜘蛛の巣のように敵の攻撃に纏わりついたら・・・・面白そうなこと、できそうっちゃね!』
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(・・・・蜘蛛の巣・・・分裂・・・。)
閉ざされていた感覚の扉が、怒濤の集中力と危機感によって抉じ開けられ始めた。すると、まるで待ってましたと言わんばかりに、鎖型の武器が幸十に答えるかのように絡まり始める。
「・・・っ、第二血響 黄金の巣!」
その瞬間、一本しかない鎖型の武器が、避けるように複数本に分裂していく。それは縦横無尽に空中を舞い、幸十の目の前で蜘蛛の巣のように堂々と立ちふさがる。そして、襲いかかる無数の鞭を一本残らず絡め取り——
"パァァァアアンッ!!"
「!?」
「・・・っ、は・・・はぁ・・・はぁ・・・できた。」
まるで、鞭の養分を吸い取るかのように絡まると、最後には粉々に砕いた。かなり集中力を要したせいか、幸十の額には大量の汗がしたたる。その様子に、爛は一瞬、瞳を大きく揺らしたが、鼻で笑うと口を開いた。
「はっ、くそが!!!たかが、数本防いだだけで、図に乗るんじゃねえぞ!!!」
"パァァァアン!"
「・・・っぐ!」
死角——地面から生えた鞭が、幸十の背中を直撃する。あまりの痛さに、幸十はここで奴隷として過ごした日々が鮮明に思い出された。ただの鞭ではない。打たれたら最後。数日は動けなくなるこの尋常じゃない独特な痛さ。
今は ”コウモリの翼” に守られ、かつての痛さほどではないが、生々しい記憶と共に、背中に手を当てる。
"ザッ——!"
しかし、攻撃は待ってくれない。
「おい、遅えんだよ、クソがぁぁぁぁぁあ!」
「っ、!」
"パァァァアン!"
頭上から振り下ろされる爛の鞭を、幸十は必死に鎖を交差させて受け止める。だが、爛の力はもはや怪物の域だった。
翼を広げ、立て直そうとする。
しかし——
「逃げんじゃねーーぞ!!!」
"ドドドド・・・パァァァアン!"
四方八方から爛の鞭に攻撃されるも、幸十はとっさに鎖型の武器を構え、鞭を押し返そうとする。
"ドカァァァアン!!!"
「・・・がぁっ!」
しかし、凄まじい衝撃と共に、幸十は地面へと叩きつけられる。砂埃の中、押し潰されそうになりながらも、彼は必死に武器を構え、爛の瞳を見据えた。
"グググググ・・・!!"
「おいおい、下等種族のクソ野郎が!!ヒナギクに手を出しやがって!!絶対許さねえ!だから、てめえらみたいな奴らを皆殺しにしねえといけねえんだ!!嘘つきな太陽族などというクソ共を!!!」
怒りに満ち、自我を失っている様子の爛。そんな爛をじっと見つめる幸十。
「そうだよ・・・その目!その薄汚ねえ目が嫌いなんだよ!!」
爛がもう一つの手で、幸十の瞳に拳を向ける。
"ガシッ!"
「!」
しかし、幸十は爛の拳を咄嗟に掴んだ。
"シュュュュウ・・・"
「・・・!!」
その瞬間、爛の全身を ”悍ましい感覚” が駆け抜ける。掴まれた腕から、自分の根源的な力が吸い取られ、霧散していくような奇妙な感覚。
(な、なんだ・・・今の感覚・・・)
爛が思わず飛び退くと、幸十はふらつきながらも、泥を吐き捨てて立ち上がった。
「・・・俺たち・・・じゃない。」
「は?」
「はぁ・・・はぁ・・・俺たちじゃない。ヒナギクの心臓を突き刺したのは、俺たちじゃない。」
爛の背後で無数の植物に保護され、心臓が飛び出すヒナギクに瞳を向ける幸十。しかし、その言葉は爛を逆上させるものにしかならなかった。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇえ!!!」
「・・・っ!」
"パァァァアン!!"
叫びを遮るように、爛の鞭が荒れ狂う。幸十の鎖と爛の鞭が火花を散らした。それはまるで、青々と植物が生い茂るこの地で咲く花々の様だ。
「第二血響 黄金の巣!」
再び展開された黄金の網の目が、荒れ狂う鞭の軌道を次々と絡め取る。
"パァァァアン!ガン!ガン!ドシィィィィィイン!!"
「責任転嫁しやがって!!てめえらはいつもそうだ!!勝手に罪家にして、俺たちには生きる権利もないと、卑怯な手を使って、全てを奪っていきやがって!!!全てだ!!!ヒナギクの大事な記憶でさえ・・・・」
「記憶?」
その爛の言葉に幸十が反応した途端——
「ガラ空きなんだよ、下等種族がぁぁぁあ!!!」
"パァァァアン!!"
「・・・っぐぁ!!!」
思いっきりお腹に鞭があたる幸十。久々の痛みに、幸十はうずくまった。その様子に、爛は鞭を地面に叩きつけながら近づいていく。
「知ってるか?クソ共。てめぇら、子供を攫われたと被害者ヅラしてるがな、お前らも俺たち銀の狼にした仕打ちは変わらねえんだよ。ゲーム感覚で狩り、その後は変態どものコレクションのため、生きたまま皮を剥がれ、はたまた重労働という名の拷問の後は、すり潰して苦しみながら殺していくんだ。なぁ・・・なぁ?!!!てめぇらは、俺たちを何匹殺した?!100か?いや1000か?!なあ!なぁ!!あと何匹殺せば気が澄むんだぁぁあ?!!」
"グィッ!!"
幸十の髪に掴み掛かり、憎しみを込めた瞳を向ける爛。
その瞳に、幸十は意識が遠のく中で、必死に爛の瞳を見つめ返した。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ヒナギクは・・・”亡くした記憶” を探してる。大切な・・・かけがえのない・・・記憶。・・・君に・・・関係してるんじゃないの?」
「っ、!」
爛の瞳が激しく揺れた。憎悪一色だった顔に、悲痛な色が混ざる。
だが、彼はそれを振り払うように、さらに力を込めた。
「・・・っ、うるせぇぇぇえ!!」
「・・・っく!!!」
"ガシッ!"
「!」
"バァァァァァァァアアン!!!!"
凄まじい力で投げ飛ばされた幸十。 ガシャン、と崩れる瓦礫の音と共に、どこかに着地する。
"カラ・・・カラカラ・・・"
かなり飛ばされた感覚と同時に、衝撃によりまともに息が吸えない状態で、咳をしながらなんとか酸素を体に送ろうとする。
「は・・・はぁ・・・は、はぁ・・・は・・・」
(どこまで・・・飛ばされた・・・)
何とか立ちあがろうとするも、腕が上手く動かない。見ると手があり得ない方向へ向いている。完全に骨を折ったようだ。いや、骨だけじゃない。筋肉の損傷も同じくである。
しかし幸十は、慌てるわけでもなく、そんな手をどこか他人事のように見つめた。
「・・・ひっく。」
「・・・?」
その最中、どこからか、しゃっくりの音が聞こえてきた。
幸十はその聞こえる方へ、瞳を向けようとするも、頭から血が流れているのか、目が沁みて上手く開かない。
(早く・・・立たないと・・・)
すぐに爛が来る。幸十は動かない体を、何とか起き上がらせようとした時——
"ジャラ・・・"
「まさか・・・・・さ、幸十!!!」
聞き慣れた、震える声。
幸十が顔を上げると、飛ばされてきた衝撃で周りは破壊されているものの、どこか見覚えのある淡いピンク色のカーテンがかかった窓と、その隣にあるクローゼットが視界に入る。——そして、 その前には、黄金に輝く髪を靡かせ、深い海のように青い瞳を涙で揺らめかせた志都が立っていた。
幸十が吹き飛ばされた先——そこは、かつて幸十と志都が出会った ”西塔” だった。
