王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第21話 鳥の巣城
第21話 鳥の巣城
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

"パチン!!"
その指先一つで、世界が塗り替えられた。
「!!」
「?」
突然、辺りが暗くなる。
いや、暗くなると言っても、空から光は溢れてきている。
ココロが空に瞳を移すと——
「なっ!!つ、月?!?」
「まさか、ここ・・・」
空を見上げると、そこには異様なほど大きく、輝く月。そして、新緑の香りが鼻を刺激する。
と同時に、目の前に突如現れた三つの塔。
植物で作られた、まるで鳥の巣・・・のような特徴的な形。
二つの塔に囲まれた、中央に聳え立つ大きな塔には、孤独に咲く雛菊の花。
太陽城で、幸十から聞いた構図と全く同じ場所。ココロは、乾ききった喉を鳴らし、震える声で呟いた。
「——”鳥の巣城” か。」
「なんやて?!ここ、月族領地か?」
隣にいた洋一が、コウモリの翼を広げ飛んだまま、辺りを見渡し呆然とする。
「玲王!」
腕の中で怯える由空の声に、玲王は空の月を睨みつけ、忌々しげに舌打ちをした。
「・・・っ、由空、絶対俺から離れるな!!おい!セカンドは武器を持て!!プライマルは、後方で援護しろ!計算外だが、ここは月族領地!!攻撃が来るぞ!」
その言葉が終わるより早く、紫戯が動いた。 ”コウモリの翼”から放たれた無数の麻痺針が、空中を浮遊する月族 天神・オルカを捉える。
"シュン!ブス!"
命中を確認した幸十が、即座に追撃の鎖を解き放つ。
「第一血響 黄金の鎖」
黄金の鎖がオルカを絡め取ろうとした、その瞬間。
"ドカァァァアン!!"
「?!」
轟音と共に爆発が起き、幸十の体が弾き飛ばされる。咄嗟に感じとった紫戯は、間一髪で翼を急旋回し避けた。
"ガシッ!!"
「?!」
「さっちゃん!!!」
"ギュイン!"
「・・・っ!」
宙に放り出された幸十を、地面から突き出た ”何か” が鷲掴みにした。
それは、数メートルはあろうかという巨大なクマのぬいぐるみ。 継ぎ接ぎだらけの体から綿が溢れ、片目は取れかかっている。その愛らしいはずの造形が、ここでは悍ましい怪物として君臨していた。
「なんだ・・・あの不気味なクマは・・・」
ココロたちがその異容に息を呑む中、オルカがふわりと、捕らわれた幸十の元へ舞い降りる。紫戯の放った麻痺針など、効かないと言わんばかりに。
「ゃぁゃぁやぁやあ!!!君は消えた3番じゃないかぁあ!!」
オルカは子供のように飛び跳ね、恍惚とした表情で幸十を覗き込む。
「小綺麗になってたから、分かんなかったぁ~。でもでもお、や~ぱり生きてたんだねぇ?また会えて嬉しいよ~!会いたくて、会いたくて・・・おかしくなりそうだったよ~!」
「みんなは?」
幸十が静かに問いかけると、オルカは一瞬だけ、心底不思議そうに首を傾げた。
「みんな?・・・ぁあ。太陽の子供たちのこと?相変わらずだよお?まぁ一応、僕の大事な大事な実験道具だからねえ~。」
"ガシッ"
「・・・っ!」
オルカの手が、幸十の頭を優しく、しかし逃れられない力で掴む。
「それはね・・・君も同じなんだよ?」
オルカの不気味な笑みと同時に、ゾッとするような殺気が辺りを支配した、その時。
「第三血響 絶対演算・連鎖渦漸車!!」
”ブォォォォオン!”
「っ!」
玲王の放った歯車が、空気を切り裂きながらオルカと幸十の間に割り込む。緻密な回転計算に基づいた衝撃が、オルカの腕を強制的に弾き飛ばした。
「——ぁあ。そのマント・・・軍隊長?ってことは、太陽族の天神~?」
「おい鳥仮面野郎、会いたかったぜ。俺の狂いのない完璧な攻撃で、てめえを死の淵まで追い込んでやるよ。」
玲王が再び攻勢に出ようとした刹那。
"キィィィィィイン!"
「なっ!?」
「マダム!?!」
「ぎぃやぁぁぁぁあ!!なんでこんな頻繁に会わなきゃいけないの!!!」
周囲の影から、響きの悪い鳴き声を上げるマダムたちが、次々と這い出してくる。その数は十や二十ではない。ココロたちを押し潰さんとする、絶望的な軍勢。
その様子を満足げに見下ろしながら、オルカはさらに口角を吊り上げた。 そして、その声は魔法のように周囲へと響き渡る。
「「「月族たちに告ぐ!太陽族たちが、羅皇の墓守、ヒナギクを殺した!!狙いは ”ヒナギクの心臓” !さぁ、誇り高き銀の狼たちよ!!これは愛する仲間の弔い合戦だぁ!!太陽族を、一匹残らず食い殺せぇ!!!」」」
「ぐっ・・・頭が・・・!」
「な、何を言って・・・?!」
脳を直接かき乱されるような不快な振動に、全員が頭を抱えて蹲る。 その叫びに応えるように、周囲の闇から無数の ”瞳” が光り出した。
"アオーーーン!!!"
「っ!!」
「な、あれは・・・」
「銀の狼?どうしてここに・・・」
現れたのは、血走った瞳の銀の狼たち。 その毛並みはどす黒く変色し、口からは飢えた獣の涎が滴っている。
先程まで ”羅皇の地” にいた狼たちとは、全く別もの。タイヤン地方庁を襲った狼たちなど、比にもならない。今にも襲いかかりそうな凶暴さを兼ね備えていた。
「この銀の狼、なんかおかしないか?!ヒナギクはんが、まだ何かあるゆうとったのは、こいつらのことか?!」
「わ、わからない。でも、マダムに銀の狼まで・・・まずすぎる!」
ココロは焦燥に駆られながら、打開策を見出すべく思考をフル回転させる。
「おい! 体勢を立て直せ!! マダムと銀の狼たちの壁を突破していくぞ!!」
玲王の号令が飛ぶ。紫戯が翼を広げ、麻痺針でマダムや狼を無力化し、間髪入れぬ蹴りで肉壁をこじ開けていく。拝理もまた、失った片腕の代わりに矢を口に咥え、セカンドの力を乗せた一撃で群がる敵を射抜いていった。 ココロたちも翼を広げ、反撃に転じようとした、その時。
"ドォォォォォォン!!"
「きゃぁぁあ!」
「うわっ!」
「次はなんだ?!」
地響きと共に、城を覆う植物たちが一斉に脈打ち、意思を持つ蛇のように襲いかかってきた。蔓や木の根が地を這い、空を塞がんとする。
「な、なんなのここ!!なんか、城が生きてるみたいで怖いんだけど!!」
「キャン!キャンキャン!!!」
無意識にワンコを抱きかかえ、泣きながら逃げ惑う琥樹。
”シュンッ!”
「?」
「なんやあれ?」
「狼男?」
その時、月を背負い、狼を人と化したような異形の男が宙を舞い降りた。
「ヒナギクーーー!!!!」
心臓を刺し抜かれたヒナギクを前に、現れたのは月族の爛。意識のないヒナギクを見て、爛の瞳が絶望に大きく見開かれる。震える手でその頬を優しく撫でた。
「どうして・・・嘘だろ、ヒナギク・・・っ!」
涙を流しながら、爛は地面から伸ばした蔓で、壊れ物を扱うように、ヒナギクの体を優しく包み込んだ。そして——
"ガッ!!ドカァァァアン!!"
「幸十!」
背後で捕まっていた幸十の頭を鷲掴みにすると、そのまま勢いよく叩きつけた。
「逃げたクソ野郎が!!やっぱり、てめえらは生かしちゃいけねぇ!!クソは地面に這いつくばって、死ぬしかねえんだよ!俺が地獄の果てまで、てめぇらを苦しみに満ちた世界に引き込んでやるよ!!!」
憎悪に煮え繰り返る爛の咆哮。
憎しみを込めた涙流れる瞳と迫力に、たじろぐココロたち。
逆上した爛が、幸十にトドメを刺そうとした瞬間、場違いなほど明るい声が響いた。
「きゃはっ!いい事思いついちゃった。ねぇ、爛。」
オルカは、爛に呼びかける。爛はハッと我に帰ると、オルカの方を振り返った。
「あ、お、オルカ様、その・・・」
さっきまでの猛獣のような殺気はどこへやら、爛は主人に叱られた犬のように萎縮し、勢いよく頭を下げた。その頭を、オルカは慈しむように撫でた。
「んーん。いいよ、いいよ。君はそのままで。理性なんて、必要のないものを捨ててさ。本能の赴くままに生きるんだ。でも、今回はちょっと待って。実はさ、楽しいこと思いついちゃったんだ〜。」
オルカは玲王たちを指差し、爛の耳元で囁く。
「君が大事に大事にしていたヒナギクがやられて、さぞ悲しくて、あいつらが憎くて憎くて仕方ないだろう?」
オルカは、玲王たちの方に爛の顔を向けると、爛は憎悪にみちた表情に変わる。
その様子に、オルカは嬉しそうに爛に顔を近づけた。
「同じ思いをさせれば良いんだ。」
"パチン!"
高らかに指が鳴らされた。
「きゃぁぁぁあ!」
「うわぁぁあ!」
「こ、怖いよお・・・」
「ま、ママ!!た、助け・・・」
「なっ、あ、あれは!?」
「子供たち!?!」
ココロたちは目を見張った。
東側にある塔から、十数人の子供たちが宙に舞い現れたのだ。薄汚い茶色の服を着せられ、全員の肩には何やら番号のようなものが刻まれている。そして、右腕には紛れもない ”太陽の刻印” 。
(っ、ロストチャイルドにあった子たちか!!?)
ココロの脳内が、予想外の連鎖に混乱を極める。
「乖理!!!」
拝理は宙に舞う子供たちから、必死に自身の子供探す。しかし、乖理の姿が見当たらない。
焦っていると、オルカは歓喜に震えながら告げた。
「ここにいるマダムと銀の狼たちに、あいつらの目の前で子供たちを襲わせよう!大切なものを奪われる絶望、たっぷり味わってもらわなきゃ!」
「!」
「このペテン師が!墓守の心臓を突き刺したのは、お前だろう!!」
玲王が怒りに燃え、叫んだ。その瞬間——。
"クスッ"
"シュルン"
「っ!」
「由空!!!」
「っ、きゃあ!!!」
玲王が抱きかかえていた由空の足元を、巨大な蔓が絡め取った。
凄まじい力で引きずり落とされる由空。彼女は恐怖に顔を歪めながらも、お腹の中の命を守るように丸まった。玲王は迷わず彼女を追って飛び降りる。
「軍隊長!!」
「ま、待て!な、なんだあれは・・・」
ココロたちも翼を広げ、急降下する。しかし、その先で待ち構えていたのは、植物の根が歪に絡まり合い、巨大な口を開けた ”捕食植物” だった。
(くそ!! この角度じゃ、由空を巻き込んで・・・攻撃できねぇ!)
玲王は苦渋の表情で、足先から暴風を巻き起こして加速する。
"グググググッ・・・"
着地寸前、なんとか由空を抱き寄せた、その刹那。
"パクッ!!!"
「軍隊長!!!由空さん!!!」
「なっ?!」
二人の姿が、巨大な植物の塊の中に消えた。
「はーいっ!軍隊長いっちょあがり~!まさか、最初の脱落者が軍隊長なんてね~。太陽族も落ちぶれたもんだ~!」
「コ、ココロ、これどないする?!これびくともせぇへん!」
「くっ・・・なんだこれ、岩より硬いぞ!」
拝理が放つ矢も、植物の殻に弾き返される。
「無駄無駄~。それ、この城の一部だからぁ!爛の力は凄いんだよ~。その中でね、どんどん力を吸収してね、爛の力になるんだあ。中でちょっとずつ、体を蝕んでね。まぁ、でも良かったんじゃない?仲良さそうな2人が、一緒に死ねるんだからさぁ〜。」
「貴様ーーー!」
拝理の怒声も、オルカは退屈そうに聞き流す。そんな中でも、状況は刻一刻と悪化していく。
「おい!!避けろーーー!」
紫戯の叫びが響くと同時に、城全体が意志を持ったように震動し、巨大な植物の鞭が荒れ狂った。
"パァァァアン!!"
「なっ!」
"パァァァアン!!"
「っ!」
"パァァァアン!!"
「洋一!!」
逃げ場のない全方位攻撃。全員がバラバラに弾き飛ばされ、宙に浮いていた子供たちも伸びて来た蔓によりさらわれていく。 散り散りになった太陽族たちの惨状を見下ろし、オルカは満足げに爛の頭を撫でた。
「ふふっ。楽しい楽しいゲームのスタートだぁ。弱い弱い太陽たちは、どこまで大事なものを、守れるかなあ?」
