王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第6話 星の王子さま
第6話 星の王子さま
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】
「幸十。星族とは、どこで知り合ったんだ?太陽王さまから呼ばれて、あの坂上さんも驚いていたよ。」
「ほし・・・んー、なんだっけ。」
太陽城、光の宮殿。
その一室で待つ客の元へ、ココロと幸十は向かっていた。その客とは、星族の者たちだとのこと。
ー星族ー
それは、千年の憎しみが融解した瞬間に生まれた ”希望” の種族である。
太古より、世界は太陽族と月族に二分され、その相容れぬ理の中で血を流し続けてきた。しかし数十年前、セカンドの四大家門として躍動した ”獅司” たちの反乱という未曾有の危機が、両族を皮肉にも一つに結びつけたのである。
訪れた和平の時代。壁は取り払われ、かつての宿敵たちは手を取り合うようになった。その融和の証として産み落とされた混血の子供たち——彼らの右腕には、両族の血が混ざり合った証である ”星の刻印” が刻まれていた。
そして、この平和を永遠のものとするため、太陽王と月王は結ばれ、二人の間に産声を上げたのが ”星王子” である。彼の存在は、分かたれていた世界の境界線そのものであり、民にとっての”絶対的な平和の象徴”となったのだ。
「星族は、太陽族にも月族にも属さない絶対中立国だ。滅多なことがない限り、自領土から出ることも、干渉してくることもない。そんな人たちが、幸十を尋ねてきたって・・・。どうなっているんだ?」
ココロは部屋に向かいながら呟いていると、星族が待つ部屋の前についた。
「とりあえず、他族の人たちだから、変なこと言わないようにな。ほら、口に米粒がついてるじゃないか。」
「うん。わかっ・・・」
幸十の頬についた米粒をとろうとした時——
"バァアンッ!!!!"
開けようとしていた扉が、勢いよく開いた。
そこには、幸十たちより少し歳上くらいに見える男性が、瞳をキラキラ輝かせ現れた。
淡いクリーム色の柔らかい髪を後ろで低く束ね、肌は艶やか。
大きな瞳は、見る角度や光の加減によって、色が移ろい変わる神秘的なもので、人懐っこくも、どこか人地を超えた容姿である。
ココロと幸十は、状況が飲み込めず固まっていると、その背後から別の人物が出てきた。
”ぬっ”
「うわっ!」
「遥さま!!!ここは太陽族領地!”何か起こる” に何千万と賭けた私としては、無闇に動いてほしくは——」
唐突に顔を突き出し、出てきたのは背の高い人物。夜空のように深い青色に、所々星が散っていくように黄色のメッシュが入った長い髪が特徴だ。瞳は、どこかコインの溝のような複雑な模様が刻まれており、その左目には片眼鏡がかけられていた。遥と呼ぶ男性に必死に詰め寄る姿は、どこか焦りをかもしている。
しかし、ココロはその人物よりも、遥と呼ばれる男性の額に輝く ”星の刻印” に、顔を真っ青にし言った。
「ほ、星王子?!?」
思わず出た言葉に、ココロは咄嗟に口を閉じる。しかし、星王子と思われる男性は特に気にせず、目の前の幸十に両腕を大きく開いて向かう。
そして——
"ぎゅゅゅゅゆゅゅゅゅう!!!"
「うぐっ。」
思いっきり幸十を抱きしめると、満面の笑みで口を開いた。
「さっちゃん!!元気そうだね、良かった良かった!あ、米粒ついてる~。相変わらず、いっぱい食べてるようだね!!」
「あ!こんの、オレンジの坊主!!ここまで連れてきてやったのに、私たちを放置するとはどういうつもりだ!!!こっちはあんたのせいで、どんだけ ”賭け金” 膨れ上がったと思っとんじゃ!!こらっ!」
その言葉に幸十は、暫く小さな脳みそを一生懸命回していると——
”チン!”
「あ、そうだ。」
「さ、幸十?」
状況が飲み込めないココロが問いかけると、部屋から坂上が現れた。
「あはは・・・。どうも、行方不明になっていた幸十くんと狗鷲さんを、ここまで無事に送り届けてくれたのは、星王子さまだったようです。」
流石の坂上も戸惑いながら言うと・・・
「は・・・え、ぇえ?」
ココロは依然、状況を飲み込めず、驚くしかなかった。
♢♢♢☆♢♢♢★♢♢♢☆♢♢♢
「えっと・・・・。つまり、鳥界境での月族との戦闘で、大きな攻撃を防ごうとセカンドの力を使い切ったら、いつのまにか星族領地まで飛ばされて、それに気づいた星王子さまに見つかり、看病やらなんやらしてもらって、ここに送り届けてもらった・・・ってこと?」
「・・・うん。そうみたい。」
"ムギュ"
「そうみたい、じゃなくてそうなんだよ!!私たちの恩を忘れるんじゃない!金返せ!!とにかく金返せ、このオレンジ!!」
部屋に入り、事の顛末を聞いた坂上とココロ。
あまりに理解が進まない展開に、2人とも啞然としていた。
「あははっ!ダリィ、目が点になってるー!」
茶目っけたっぷりに言う星王子は、依然ぬいぐるみを抱くかのように幸十にベッタリである。そんな星王子に坂上が咳払いした。
「ごほんっ。星王子さま、坂上です。」
「——?ぁあ、そうだっけ。まぁいいや!」
「・・・坂上さん、星王子さまと知り合いですか?」
ココロが2人の慣れ親しい様子に驚いていると、坂上が咄嗟に答えた。
「昔、ちょろっと、ね。」
曖昧に濁す坂上に、ココロが疑問に思っていると——
"ムギュ!"
「おい、オレンジ!!金返せ!!あんた、とことん予想外の行動ばかりして、私が賭けた金、全部無くなっちゃったんだぞ!!返せ!!!」
先程から幸十に金を要求するこの人物は、星王子に抱きしめられている幸十の頬を掴み、勢いよく詰め寄る。
「右京。」
その人物の隣で、静かに座る男性が声を発する。星王子とそこまで年は変わらないだろうか。丸く整えられた短髪に、眼帯を付け静かに佇む姿は、武人を感じさせる容姿だ。
「維澄、今度ばかりは止めたって意味は・・・」
”バコンッ”
「うぐっ!」
「はぁ。」
右京と呼ばれる者の様子に、維澄と呼ばれる男性が拳で気絶させた。
騒がしさがひと段落した時、坂上は戸惑いつつも、口を開いた。
「——星王子さま。やけに幸十くんを気に入ってますね。他族の人間を、こんなに気にかけるなんて、如何されたんですか?」
その坂上の言葉に、星王子はニコッと眩い笑みを見せた。
「だって、さっちゃん、可愛いんだよー!領地に落ちてきた時もさぁ~・・・」
「落ちてきた?!」
「咲夜には止められたんだけど、あんまりにも”太陽の申し子”みたいな見た目だから、頬をつついたら・・・目を開けて、なんて言ったと思う?」
どこかワクワクしながら話す星王子に、坂上もココロも戸惑っていると、そのまま続けた。
「"お腹空いた"・・・だって!!あははっ!今にも死にそうな身体なのに、お腹空いたって・・・あはははは!!!可愛い~!」
「・・・は・・・はぁ・・・」
「そこから、うちの医者に頑張ってもらって、意識を取り戻したと思ったら、毛布やら布団やらカーテンやら何でも口に入れて食べようとするもんだから・・・。あの堅物な医者も呆然としてて、もー最高だったよー!あははっ!僕のヘンテコ予想も当ててくれるから、楽しくてしょうがない!ペットにしたいくらい!」
(幸十/幸十くんなら、やりかねない・・・)
坂上もココロも苦笑いで話を聞いていると、いつの間にか目を覚ました右京が前に出た。
「たまったもんじゃない!!星族の食料、無くなるところだったんですからね!!?太陽族からの新手な刺客かと思ったわ!!!」
「あ、えっと・・・」
謝ろうとするココロに、星王子は何か気付いたように言った。
「あ、このうるさいのはね、右京。こう見えて、うちの参謀。」
「破滅的な賭け狂いだけどな。」
何処からともなく声が聞こえ、ココロと坂上が辺りをキョロキョロしていると、星王子が嬉しそうな表情で言った。
「ここ、ここだよ、ここ。」
その呼びかけに、星王子の隣、どこか黒い影がある場所に目をやると・・・
「っ!え、こ、子供?」
先程まで、右京と維澄と星王子の三人だったはずが、そこにもう一人、小さな子供がいた。黒い服に身を包み、星王子の影に身を挺する子供。目の下にはクマがあり、どこか鋭い瞳を投げてくる。まだ10代にも満たない子供にも見える。そんな少年の登場に驚く二人をよそに、星王子が続けた。
「この子は、咲夜。うちの隠密部隊で活躍するエリートさ。」
「ただの、影薄いガキだろ。」
右京がボソッと呟いた途端、咲夜と右京の取っ組み合いが、星王子の背後で繰り広げられ始めた。しかし、いつものことのように、止めに入ることもなく、星王子は、静かに佇む維澄に瞳を向けた。
「んで、奥に座ってるのが、維澄。うちで1番の腕を持つ武人だよ。」
先程から特に喋るわけでもなく、じっと目を閉じ静かにしている維澄の様子に、ココロは驚きながら聞いた。
「あの・・・セカンド、では無いんですよね?」
「ん?そうさ。星族は、セカンドいないからね。」
——そう。星族として生まれた人間は、全員プライマルなのである。セカンドは1人もいない。セカンドが誕生したことがない、そんな族でもあるのだ。その星族に武人・・・ということは、プライマルが身体を張っているということに驚くココロ。
「でもね・・・たぶん維澄は、そこら辺のセカンドより全然強いよ~。」
驚く彼の表情に、星王子は小声で自慢げに話した。
「遥さま!私も、私のことも自慢してください!!」
「あんたは、賭け事に身を滅ぼしてばっかだろ。」
「咲夜に言われたくないわ!!いつも影薄すぎて、みんなに気づいてもらえないくせに!!」
「うっさいな!!あんた、あのオレンジの行動を賭け事として、何千万使い果たして、全部外れてパーだろ!!そんなんが、参謀で大丈夫なのかよ!!」
「なんだと!この口悪影うす坊主が!!!あー、分からない!どこに居るのか分からないなぁ~!」
「故意的に薄くしてるだけだ!!この賭け狂い参謀が!!」
「あ、そうそう。僕、”さっちゃんが、僕たちのこと忘れる” に賭けたから、また僕の勝ちだね、右京。」
右京と咲夜の言い争いで、騒がしい部屋の中だが、思い出したように星王子が右京に言い放つ。その言葉に、右京は瞬く間に顔を真っ青にし・・・
「うっっっっきーーーー!!!あーーーー!!また賭け金増えたーーー
ーーー!!!」
「はぁ・・・。」
(この人・・・本当に参謀なのか・・・?)
維澄のため息と、ココロの疑問が湧き上がるのと同時に、右京の鋭い瞳が再び幸十に向けられる。
「遥さまが太陽族領地まで送っていくなんて言うから・・・万全の体制で来たのに、着いたら太陽族がなんか集会してて。こっちは遠慮して待っててあげたんだからな!!?あんの大男の棺桶も、用意して運ぶの大変だったんだから!!!」
「うん。ありがと。」
幸十の頬をつねる右京に、幸十はお礼を言うも、依然、右京の鋭い瞳が向かう。その様子をじっと見つめ、何やら考えていた坂上は、ふいに何か話そうとした。その時——
"ドンドンドン!!"
「坂上さん!こ、こちらに居ますか?」
部屋のドアが叩かれたかと思うと、伊久磨の声が廊下から響いた。どこか切迫した様子に、坂上は星王子にお辞儀して席を立った。
"ガチャ"
「伊久磨くん。どうしました?」
扉を開けると、息を切らした伊久磨の姿が。どうも走って来たようだ。
「そ、それが・・・。タイヤンで暴れる”銀の狼”が、タイヤン地方庁を襲撃したとの一報が・・・」
「地方庁を?紫戯くんたちからの連絡ですか?」
「・・・それが・・・」
言いづらそうにする伊久磨だったが、拳を固く握り締めると、言葉を絞り出した。
「その・・・タイヤン地方にいた4人も巻き込まれて・・・遺体で見つかったと、タイヤン地方庁から連絡が・・・。」
「?!」
「それは・・・本当ですか?」
衝撃的な言葉に、呆然と立ち尽くす坂上だった。
