王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第39話
第39話 狗鷲の主人<後>
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「狗ーーーーーーー!!!!!」
雀の悲痛の叫び声が、鳥界境全体に響き渡る。
「右羽!!!」
千鶴も、膝から倒れる狗鷲に駆け寄った。
2人とも駆け寄るも、内臓を引きちぎられた狗鷲のお腹からは、大量の血が流れ始めていた。
千鶴も雀も、必死にお腹に手を当て止血しようとするも、そんなの何の効果もないと血が溢れていく。
それでも必死に止めようとする2人に、狗鷲は遠くなっていく意識の中、見つめた。
(雀様・・・千鶴・・・。すま・・・ない・・・。わっちが・・・悪いんっちゃ・・・。鷲鷹様を守れなかった・・・わっちが・・・。)
狗鷲の脳裏には、昔の記憶が蘇ってきていた。
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"ワーーーーー!!!"
『鷲鷹さまーーー!!ご結婚おめでとうございます!!』
『おめでとうございます!!』
『なんちゃー・・・、恥ずかしいなあ・・・って狗、泣きすぎっちゃお前。』
『お二人とも・・・ご立派です!グスッ・・・』
『本当よ、狗!次期右羽のあんたが、そんなんでどうするの!!!』
”バシン!!”
『・・・っう!』
鷲鷹様は十八になる歳、伴侶となる楊鵡様とご結婚された。
楊鵡様は、朱鳥家随一の武器職人。わっちの”朱鳥の鎧”の、担当職人でもあった。
わっちは、そのー・・・まぁ引っ込み思案な所があって、楊鵡様の気の強さに、恥ずかしながらいつも泣いとった。
そこを、鷲鷹様がいつも間に入ってくれてたっちゃ。楊鵡様が担当になった当初は、怖いイメージで近づく事すら難しかったが・・・。わっちの”朱鳥の鎧”を誰よりも考え、精密な技術でメンテナンスしてくれる楊鵡様に、何度も何度も助けられ、鷲鷹様同様、とても尊敬できる方になっとった。
だから、お二人がご結婚されて、とってもとっても嬉しかったっちゃ。
ご結婚され、次期家鳥として体制も整えられ、将来を有望視されていた鷲鷹様。わっちも、その一員としていられて、本当に本当に自分が誇らしく、幸せなことばかりだった・・・・・そんな時だったっちゃ。
——あのおぞましい出来事は起こった。
"ワーーーーーー!!"
『獅司たちが王族殺しを計画した!!今起きている戦争も、力を持った獅司たちが仕組んだことであった!!我々を裏切った獅司たちに、正義の裁きを下せーー!!!』
突然始まった"獅司下ろし"。
本当に突然だった。当時の家鳥であった鷲鷹さまのお父さまが王族に呼び出された後、王令により獅司の家門たちが一斉に襲撃された。
鳥界境から出ることが増えていたわっちら朱鳥家も、不意の襲撃にあい、瞬く間に仲間が死んでいった。
こっちも反撃すればする程、周りがわっちらの命を許さない状況へと陥っていく。
『何がどうなって・・・そんな大それた事、わっちらはせん!!!!!』
『わ、鷲鷹様!!!とりあえず鳥界境に!!!楊鵡様!!こちらです!!!!』
どうにか、鳥界境にたどり着いた鷲鷹さまと楊鵡さま、わっちは、地形が入り組むこの鳥界境のお陰で生きながらえた。
でも・・・皆が死んだ。もう生死を確認するのも難しい。
鷲鷹さまと楊鵡さまは暫く、ご自身を恨んでいたっちゃ。特に鷲鷹さま。仲間を見殺しにしたと、ご自分を責め立てておられた。
そのお姿に——、わっちはなんと言葉をかけていいか・・・分からんかった。
そこから三十年近く経った頃。鷲鷹さまと楊鵡さまに、お子さんが出来た。お年を召された楊鵡さまが頑張って出産なされた、そのお子は雀さま。
とっても愛らしいお姿っちゃ。雀のようにクリクリした赤い瞳は可愛らしく、でも朱鳥家の血筋として力強さも兼ね備えてらっしゃって、何度もわっちの髪を根こそぎ引っこ抜かれたっちゃ。でも、それもひっくるめて愛らしかったっちゃ。
『こら、雀!!そんなに右羽の髪を引っこ抜いてはなりません!!』
『ちゃーー?』
『あはは・・・楊鵡さま、わっちは大丈夫っちゃ~。この頑丈な身体だけが取り柄です。髪もすぐ生えてくるっちゃ~。』
『きゃははは!!!じゃあわっちもーーー!』
『あ、こら、千鶴!!!』
雀さまがお生まれになった時、朱鳥家の生き残りがいたのか、鳥界境に捨てられていた千鶴を拾い、五人で暮らしていた。
千鶴は本当に好奇心旺盛で・・・。目を離した隙に、必ず何かをしでかす子だったっちゃ。一度、おしめを替えるために数秒目を離しただけで、いつの間にかアスカ鳥の背中に乗って飛び立っていた姿を目にしたときは・・・肝が冷えたっちゃ・・・。
子供を育てるんは、本当に大変なことだと思い知ったっちゃ・・・。でも、沈んでいた鷲鷹さまを、二人の愛らしさと賑やかさが包み込み、徐々に鷲鷹も元気を取り戻されていた。
鷲鷹さまは二人が五歳になると、朱鳥家に起きた出来事を包み隠さず全て話された。
わっちら朱鳥家は、”太陽の守護神”としてこの地を守ってきたこと。
もっと沢山仲間がいたこと。
セカンドの中でも獅司の一員として、讃えられていたこと。
鷲鷹さまとわっちが、”ソールの英雄”と称されていたこと。
——そして・・・誤解を生み攻撃されたこと。
最後の出来事に、二人は子供ながら怒りを感じとったが、鷲鷹さまはしきりにお伝えしていた。
『皆んなに誤解されてしまったが、やり返すのは違うっちゃ。わっちら朱鳥家の掟は?』
『きょうぞんきょうえい!』
『そうだ!わっちらは助け助けられて、朱鳥家の地位を築けてきた。そんなわっちらが、やり返すような地に堕ちたことをしちゃ、ご先祖さまに頭があがらないっちゃ。わっちらは、英雄も輩出した”太陽の守護神”。それを忘れずに真っ直ぐに生きていれば、必ず・・・必ず誰かが、そんなわっちらを見てくれて、誤解だったと分かってくれる。そんな人たちをがっかりさせないよう、生きるっちゃ。』
『んちゃ!!』
しかし、そんな鷲鷹さまの考えとは相反して数日後、ついに鳥界境にソール軍が入ってくるようになった。
最初は何とか逃げおおせていたが、暫くして遂に見つかってしまった。
『鷲鷹さま!!楊鵡さまたちを連れて、行ってください!!ここは、わっちだけで大丈夫です!!』
『でも・・・!!』
『大丈夫です!すぐに後を追います!!わっちを信じてくだせえ!!わっちは、朱鳥の・・・鷲鷹様の右羽です!!!!』
『・・・・っ。頼む、狗!!!』
この判断が良かったのか分からない。けど、十数のソール軍に囲まれ、幼い雀さまと千鶴がいる中、鷲鷹さまも一緒に戦うなんて、到底無理っちゃ。
ましてや、鷲鷹さまがわっちと残って戦って、楊鵡さまたちだけで逃げても、別のソール軍と鉢合わせた時、勝ち目がない。
『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』
かなりの激戦だった。太陽族精鋭が集まるソール軍なだけあって、久々に死を近くに感じる戦いだったっちゃ。
体はボロボロ、血は大量に流れ今にも倒れそうだったが、先に行った鷲鷹さまたちが、気がかりで仕方なかった。
ちゃんと逃げ切れただろうか。雀さまと千鶴は、さぞ怖かっただろう。鷲鷹さまも楊鵡さまも、力のある方々だ。わっちが心配するのは、おこがましいだろうが。
——しかし、どこを探しても、鷲鷹さまたちは見つからなかったっちゃ。身体はもうすり減り、どうにか精神だけで立ってる状態だったが、それでも鳥界境を探しに探し回った。
そしてふと、鳥界境の入り口に差し掛かった。
鳥界境の外は、いつぶりだろうか。
襲撃を受けて以来だから、もう数十年ぶりくらいだ。
一歩出れば、全て敵だらけなのは分かっていた。
でも、何故か・・・何故か心がざわつき、足が入り口に向いたっちゃ。
”ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・”
そして、身体に残った力を振り絞り、入り口の大きな岩の扉を開いた。
すると——
「・・・・っ!!!?!!!!」
衝撃の光景が広がっていた。
——目の前に、鷲鷹さまと楊鵡さまの首が置かれていた。
”『罪人ここに反省しす』”と、嘲るように木板をはめられて。
惨いその光景に、わっちは何が起きているのか理解が追いつかなかった。
心臓が波打ち早くなっていく。
『わ・・・鷲鷹・・・さ・・・ま・・・・楊鵡・・さま・・・・・』
血だらけの身体を引きづり、鷲鷹さまと楊鵡さまの、瞳が閉じられたお顔に触れる。
冷たい。
とても・・・とても冷たい。
いつも、空に浮かぶ太陽のように輝いていた鷲鷹さまのお顔は、身体を無くし、青白く、血で汚れ、そして冷たくなっていた。
この状況に、身体は理解したのか、どんどん涙が瞳からこぼれ落ちていく。
震えが止まらない手で、お二人の冷たい首を抱きしめ、頭が狂ったように叫んだっちゃ。
頭の悪いわっちには、それしかできんかった。
『あ・・・ぁあ・・・ぁぁぁぁあああぁああああ!!!鷲鷹さまぁぁぁぁぁぁぁあ!!!楊鵡さまぁぁぁぁあああ!!!ぁぁぁぁああ!・・・・嘘っちゃ!!嘘と言ってくだせえ!!!いつもの酷い冗談だと、笑って言ってくだせぇぇぇぇぇええ!!ぁぁぁああぁぁぁあああ!!!!』
ひたすら叫ぶわっちの周りに、人が集まってきてたっちゃ。
鷲鷹さまと楊鵡さまの首を抱きしめ、狂ったように泣き叫ぶわっちの容姿に、怯えとったがそんなの関係ない。わっちは、見上げた空に輝く太陽に、憎しみを込めて叫んだ。
『・・・わ・・・わっちらが・・・わっちらが何をしたっちゃ!!わっちらは王さまを殺そうとしたこともない!!戦争を誘発したこともない!!ただ・・・太陽族・・・いや、平和を願って・・・戦ってきた・・・みんなで一緒に生きていこうと・・・戦ってきただけっちゃ・・・なして・・・なしてお二人が死ななきゃならんっちゃ!!!!』
今は空に浮かぶ太陽でさえ憎ましい。どうしてわっちらが、こんな目に遭わなければいけないのか。そんな罪をいつ犯したのか。
周りに集まってくる人々をみて、今まで感じたことのない激しい憎悪に襲われ、わっちは咄嗟に思ってしまった。
(・・・ここにいる全員・・・殺してしまおうか?鷲鷹さまと楊鵡さまを殺したのは・・・ここにいる全員も同様っちゃ。いや、ここだけじゃない。まずは太陽族全員を殺して・・・)
そう思っていた時、わっちの瞳に鷲鷹さまのお顔が映った。
" 狗。"
『・・・!!!・・・・っ。』
"グッ!!!"
わっちは、静かに眠る鷲鷹さまを見て、血が出るほど唇を噛み締めて、今にも動きそうな拳を強く強く握りした。ただ・・・ただ大粒の涙を浮かべるしかなかったっちゃ。
暫くして、辺りが騒がしくなり、ソール軍たちが向かってきた。
今のわっちでは到底叶いっこない。それに、周りに雀さまと千鶴の姿が見当たらなかった。
わっちは拳をギュッと握り締め、お二人の首を抱きしめながら、血だらけの身体を引きづり鳥界境に戻った。
『・・・鷲鷹さま、楊鵡さま。雀さまと千鶴は・・・必ずわっちが探し出します。だから・・・だから、安心して・・・どうか安らかに・・・お眠りください・・・。』
"ギィィィィイ・・・バタン"
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