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王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 最終話

最終話 鳥界境の英雄へ、魂を込めて

ーー前回ーー

ーーーーーー



「えっと・・・ただいま。」

突然現れた幸十に、騒然とする城内。
そんな様子など気にもしない幸十は、暫くしてキョロキョロと辺りを見渡し始める。すると——

「さっちー!!!」
「!」
「生きちょった!!よかったっちゃ!本当に、よかったっちゃ!!!」
すずめ千鶴ちずるが涙ぐみ、押さえつけられながらも幸十に叫んだ。

「あ。雀、千鶴。2人も元気そうでよかった。」
”ザワッ・・・”
傷だらけの状態で、赤い手錠をはめられた2人に言うものかと、会場の誰しもが思った。しかし、幸十はお構いなしに、背中に担いだひつぎを目の前に出した。

"ギギギギ・・・"
大きな音を立て、安定する場所に置く幸十。
「なんだあれ?」
「箱?」
「いや・・・あれは棺桶じゃ・・・?!?」

会場がざわつく中、真っ白な棺桶が置かれる。中央には太陽の刻印が綺麗に彫られており、所々、小さな星々・・が散りばめられていた。幸十は、まるで神聖な儀式を行うかのように静かに、丁寧に、背負ってきたひつぎの蓋を下ろした。

”スッ・・・・”
「帰ってきたよ。狗鷲いぬわしと一緒に。」
「・・・っ!!いぬ!!!」
右羽うば!!!」

幸十がひつぎを開けると、綺麗に身なりを整えられ、安らかに眠る狗鷲いぬわしの姿があった。
雀と千鶴は、もはや理性を失ったかのように涙を浮かべ、眠る狗鷲の側へ駆け寄ろうと身を捩った。
しかし——

"ガシャン!!"
「動くな!!!」
2人を囲い見張っていた十数人の者たちが、荒々しく二人の動きを封じる。
「狗ーー!!離すっちゃ!!狗の・・・狗の側に行かせてっちゃ!!」
「くっ!離せっちゃ!!」

暴れる二人と、それを抑えつける見張りたちの間に、会場から甲高い悲鳴が上がった。
「きゃーー!!朱鳥あすかの残党が動いたわ!!」
「危ないぞ!!軍隊長は何してるんだ!!」
「は、早く!!もうあいつら殺せよ!!こっちの身がもたねえよ!!!」
"ワーーーー!!!"

眠る狗鷲の側に行きたいと叫ぶ2人に、会場から冷たい罵声が再び飛び交う。しかし、二人はそんな言葉など耳に入らないとばかりに、押さえつけられながらも、声が枯れるほど狗鷲の側に行きたいと泣き叫んだ。

「お前たち!!罪人を離すでは無いぞ!!!」
その様子に、司法庁最高司令官のロウ・グレイスも憤怒を滲ませて叫ぶ。
その時——






「うるさいねっ。」






「・・・っ!」
"シーーーーーン・・・"

沈黙を貫いていた太陽王が、たった一言、口を開いた。
その瞬間、先程までの狂騒が一瞬で氷結した。王の言葉の重みと、そこに宿る力が、会場全体に物理的な圧力となって降り注ぐ。
静寂が、全ての音を飲み込み、会場を包み込んでいると——




"ガタッ"
背後から物音が聞こえ、幸十はふと振り返る。
すると・・・・

「幸・・・十・・・?」
そこに現れたのは、がくだった。その背後には、ミドリと、少し遅れて坂上も姿を現した。

「あ、岳。元気だった?」
話す幸十の横には、真っ白なひつぎで眠る、狗鷲の姿が視界に入る。綺麗に身なりを整えられている様相に、岳は思わず、瞳から一筋の涙を流した。

「・・・っ、狗鷲さんも・・・」
”・・・ッグ”
そして岳は涙を拭くと、幸十と狗鷲の方に視線を戻し、笑顔を見せた。

「お、お帰り!!」
岳の偽りのない、心からの言葉が、会場中に希望の光のように響き渡る。
同時に、背後にいたミドリが顔を出した。

「あら、あらあらあら。ベストタイミンじゃない?」
ミドリは坂上に言うと、坂上は笑顔で頷いた。

「そうですね。——では皆さん・・・、出番です。」
「・・・?」
「ほら~!!みんな~!英雄たちを助けるわよ~!!!」
ミドリの掛け声と一緒に、複数の足音・・・・・が近づいてくる。

"ワーーーー!!!"

「な・・・」
「こ、子供?!」

そこに入ってきたのは、十数人の子供たちだった。
みんな目を輝かせ、会場に入る。そんな子供たちに会場中が視線を向けた。
ミドリは、子供たちが会場の人たちに圧倒されないよう、楽しそうに話し始めた。

「ほらみんな~!!ご挨拶しましょ~!!!」
ミドリの掛け声に、子供たちはこれでもかと大きな声を上げる。

「「「こんにちはーーー!!ぼくたち/わたしたちは、ソール地方に住んでます!!!!!」」」

そんな子供たちに、拝理はいり多聞たもんは目を見張り驚く。
「あの子たちは・・・」

動揺する城内などお構いなしに、ミドリは続けた。
「皆んなは~、最近怖い目にあったんだよね~?」
「うん!!羽が生えた、怖いお兄ちゃんたちに連れ去られそうになったの。」
「こーんなに大きな羽が生えてたの!」
「右の腕にはね、お月さまが書かれてたの。」

その瞬間、再び会場がざわめいた。
「あの子たち、ロストチャイルドにあった子たち?」
「いや、まさか。ならなんで、ここにいるんだ。」
「月って・・・まさか月族?!?」

混乱を極める中、ミドリは壇上にいる伊久磨いくまとバンに、突如ウィンクを投げると続けた。
「それは、こんな感じの人ー?!」

ミドリは大きな画用紙に、精巧に書かれたヌチとモルの姿絵を掲げた。
「そう!!怖いお兄ちゃんたち!」
「絵、上手すぎんだろ・・・実物かよ。」

画用紙に書かれた姿絵に、思わず伊久磨いくまが呟くと、バンが笑った。
「ありゃ、ミドリの絵だ。あいつ、人を描写すんのがえらく上手いんだ。なるほど、ミドリも連れてったのは、このためか。」

すると、ミドリはわざとらしく続けた。
「あれれ~?でも皆んな、連れ去られたのに、なんでここにいるのかな~?」

ミドリの問いに、1人の男の子が手を挙げた。
「はい!!おっきなおっきなおじさんが助けてくれたんだ!!」
「そうなの!!おっきなおっきなおじさんがね、鳥界境ちょうかいきょうに連れ去られた私たちをね、入り口まで案内してくれたの!!」
「時々ね、岩山がゴロゴロゴロゴロ~って降ってきてもね、おじさんが盾になってくれたんだ!!ぎゅって抱きしめて!!」
「ちょっと臭かったよね。」
「そうだね、でも、かっこよかったよ!!」

そこまで話すと、ミドリは岳を肘でつついた。
そして岳は、肩にかけたショルダーバックを握りしめると叫んだ。
「そ、そのおじさんって・・・この人かな?!」

岳が、ミドリがさらに掲げた画用紙を指差す。そこには狗鷲の姿が、見事に再現されていた。
「うん!!そう!!このおじさん!!!」

"ザワザワザワザワ・・・"
「嘘だろ、ロストチャイルドにあった子供を・・・朱鳥家の残党が助けたのか?!」
「う、嘘でしょ・・・」
「でも、子供たちが言って・・・」

城内から、子供たちの証言を疑問視する言葉が発せられると、岳は一人の女の子に声をかけた。
「あ、あのさ。君が持っている、その小さな袋・・・・は何?」

岳に話しかけられた女の子の、首からぶら下がるピンク色の小さな袋に、会場の全ての視線が集中した。
「これはね。私の大切なものを入れる袋なの。ママが作ってくれたんだよ。」
「そっか。君にとって・・・とても大切なものなんだね。その・・・その中には、何が入っているの?」

岳の静かな問いに、女の子は袋を開け、中のものを小さな手のひらに広げた。同時に、会場が再び騒がしくなる。
「・・・っな。」
「あ・・・あれは・・・」
「あのスカイブルーの髪の毛・・・」

女の子の手のひらには、ビー玉や古いお菓子などと共に、明らかに異質な、スカイブルーの髪の束が混ざって入っていた。それを見た岳は、さらに踏み込んだ。
「これは・・・誰の髪の毛?なんで、一緒に入れてるのかな。」

すると女の子は、スカイブルーの毛の束を大切に胸に当て、 嬉しそうに、無邪気に話し始めた。
「これは、あのおじさんの!羽の生えた怖いお兄ちゃんたちに掴まって、泣いてたら、あのおじさんが助けてくれたの。その時に、髪の毛引っこ抜いて、渡してくれたの!おじさんのね、大切な人も、よくおじさんの髪の毛、引っこ抜いて、笑ってたんだって!」


その懐かしくも胸を抉るような言葉に、押さえつけられていた雀の瞳から、堰を切ったように再び涙が溢れた。
=====
『こら、雀!!そんなに右羽うばの髪を引っこ抜いてはなりません!!』
『ちゃーー?』
『あはは・・・楊鵡ようむさま、わっちは大丈夫っちゃ~。この頑丈な身体だけが取り柄です。髪もすぐ生えてくるっちゃ~。』
=====
「・・・っ、いぬ。」


「最初はびっくりしたけどね、わたしにね、笑顔を取り戻してくれたの!だからね、とっても大事にしてるの!」
「そっか・・・。君にとって、その髪の毛は、幸運のお守りなんだね。」
岳の言葉に、満面の笑みで頷く女の子。
無邪気な証言と決定的な物証に、会場のざわめきが確信の動揺へと変わる中、岳はこの機を逃さず畳み掛けるように続けた。

「き、君たちは、僕と鳥界境で事件にあった子たちだよね。あそこにいるスカイブルーの髪色のお兄ちゃんお姉ちゃんは、君たちに酷いことをした人たち?」

岳が、押さえつけられた雀と千鶴を指差す。
すると、子供たちは首を振った。
「ううん、違うよ!!お姉ちゃんたちはね、私たちを守ってくれたよ!!怖かったのは、あの羽生やした”かいぶつ”だよ!」

見事なタイミングでミドリが挙げたヌチたちの絵を、指差す子供たち。
「あ!あのオレンジのお兄ちゃんも!ぱあって光って、僕たちを守ってくれたよ!!ヒーローみたいで、かっこよかったんだ!!!」

もう1人の子供が、幸十を指差し話す。
その言葉に、岳は子供たちの頭を撫でると、壇上に身体を向け叫んだ。
「い、い以上です!!!!!」

身体をこわばらせ、目を閉じ叫ぶ岳の姿に、伊久磨いくまはふと表情を緩ませた。そして、勢いよく拝理に視線を向けた。
「これでもまだ貴女は、朱鳥家が攻撃したと言い張りますか!!」

苦しい表情をする拝理。
その隣にいたソール地方庁長は、大量の汗を流し反論した。
「ふ、ふざけるな!!こんないたいけな子供たちを・・・誘導尋問だろ!!それかあれか、そう言うよう指導したのか!!!」
「きゃ~、こわいこわい。」
「こわいこわい。」

ソール地方庁長の言葉に、ミドリがわざとらしく耳を塞ぎ言うと、子供たちも続いた。
「そこ!!いい加減にっ・・・」

ソール地方庁長が、ミドリに注意しようとした時——
”ザッ・・・”
「いい加減にするのはあ、お前らだあ。」

壇上に上がってきたのは、ソール軍軍隊長の多聞だった。

「軍隊長・・・。」
拝理が眉を顰め、懇願するような表情で多聞を見た。

「子供たちは無邪気だ。たまに嘘もつく。でもなあ、あそこにいる俺たちが守らにゃいかんソールの子供たちを見てみろ。あんな瞳を輝かせて、嘘をつくと思うかあ?おまけに、髪の毛もある。ありゃ、研究部でちゃんと見てもらえれば、誰のものか、すぐ分かるだろうなあ。」
その言葉に、拝理は唇を噛み締め、膝から崩れ落ちる。
しかし、暫くしても拝理は黙ったままでいるだけだった。

(自分の子供の居場所を・・・参謀本部が知ってるかもしれない可能性がある限り、自白は難しそうだな・・・)
バンが、沈黙する拝理を見ていると——



「・・・ねえ、おばさん。」
会場の扉付近にいる幸十が、突然、拝理に話しかけた。
幸十の声に、拝理は力を失くした表情で、呼びかける幸十の方に顔を向けた。







「もしかして・・・乖理かいりのお母さん?」







「え・・・」
沈黙が続く会場で、拝理は幸十の言葉にただ一人、瞳を見開き、驚愕の表情を張り付かせた。
そして、次の瞬間、何かに突き動かされたように突然立ち上がり、壇上を飛び降りて幸十の方へ向かう。

「き・・・君・・・。ま、まさか・・・私の息子を・・・乖理かいりを、知ってるのか?!?」
"ガシッ"
拝理は、幸十の両肩を掴み、その力を込めて震わせながら、 悲痛な表情で懇願した。

――頼む、知っていてくれと。どこを探しても見つからない。あの子は、鳥界境の入り口付近で行方不明になったままだ、と。藁をも掴む母親の、絶望と希望が入り混じった眼差しだった。

そんな拝理に対し、幸十は特に表情を崩さずに静止していたが、暫くして、拝理の頭を覆うバンダナをそっと触った。
「やっぱり。乖理も同じバンダナしてたから。心配してたよ。お弁当、届けようとして攫われたから。お母さんは、お腹空くと怖くなるって。」
「ぁ・・・あ・・・ぁぁぁぁあああ!!!」

幸十の確信的な言葉を聞いた拝理は、その場に崩れ落ち、嗚咽おえつと共に大声で泣き始めた。
やっと、やっと掴んだ息子の手掛かり。 これまで嘘の証言で押し殺してきた感情全てを吐き出し、 涙は止まらない。

「私の子・・・乖理はどこ!?どこに・・・」
涙に濡れ、なりふり構わず幸十に顔を向ける拝理。その姿は、軍の副隊長ではなく、ただの母親だった。

「どこか・・・は探し中。俺も、少し前までそこにいたんだ。なんか分からないけど、気づいたらここにいて、坂上に拾ってもらった。」
幸十の衝撃的な言葉に、会場が激しくざわつく。 その様子に、坂上が口を開いた。

「幸十くん、もう少し聞いてもいいですか?幸十くんがいたその場所は、どんなところでしたか?」
「んー、鳥の巣みたいな塔が2つ。みんなで ”東塔”・”西塔” って呼んでた。真ん中には ”ヒナギクの塔” があってね、とっても大きいんだ。」
「みんなとは・・・幸十くん以外に、どんな人が?」
「俺より小さな子供だよ。十数人。絶えず新しい子が来るけど、皆んな消えちゃうんだよね。みんなは気づかず、忘れちゃうんだけどね。」
「それは・・・右腕に、太陽の刻印がある子供たち?」
「うん。」

その言葉に、会場からは動揺する声が飛び交った。
「う、うそでしょ・・・まさか・・・」
「わ、私の子供も消えたの!!知らない?!」
「俺の!俺の子も!!!」
「私の娘を見なかった?!!」

消えた子供を待つ親たちが、一斉に幸十に叫び始める。
「幸十くん!!!」
しかし、坂上はそれを遮り、声をあげ続けた。
「もう一つ。そこには、太陽の刻印以外の・・・他の刻印が刻まれた人が、いませんでしたか?」
「うん。月の刻印。狼みたいな人と、鳥の仮面を被った人。あ、でも、鳥仮面の人は服着てたから、わからないけど、肩に月のブローチしてた。」

"ガタッ!"
その言葉に、軍隊長たちが立ち上がった。
そして表情を変え、シャムス軍軍隊長の夕貴ゆうきは口を開いた。
「月のブローチ・・・月族の天神!!!」

"ザワザワザワザワ・・・"
衝撃の証言に、会場はもはや収集がつかないほどの混乱に陥っていた。
その喧騒の中、伊久磨いくまはふと坂上と目があった。坂上は、にこっといつものように穏やかに微笑むと、力強く、深く頷いた。
「!」
その合図に、伊久磨いくまは己の役割を思い出したように、全身に力を込め口を開いた。

「もう一度ソール軍に問います!!鳥界境ちょうかいきょうで攻撃をして来たのは、誰でしたか?!!」
城内に響き渡る伊久磨いくまの鋭い声に、拝理は肩をびくつかせ、 溢れる涙を荒々しく拭うと、意を決したように壇上に身体を向けた。

「・・・月族のヌチという男です。朱鳥家は・・・我々ソール軍を、身を盾にして戦ってくれました。嘘をつき・・・申し訳ございません!!」
その告白は、 参謀本部の主張全てを木端微塵に砕き、 会場をどよめきと、新たな事実への衝撃で満たした。
そして——

「これは罠だ!!ソール軍たちが勝手に作った出鱈目に、我々参謀本部は巻き込まれました!!」
「出鱈目は貴方たち参謀本部でしょう!!自分たちの建前のため、優秀なセカンドたちに罪をなすりつけ、罪人にしたてあげようとする、非難されるべきは貴方たちだ!!!」
伊久磨いくまの言葉に、完全に形勢逆転していた。初めとは打って変わって、人々は参謀本部に非難を集中させる。

「ここまで来て認めないとはどういうことだ!!」
「どう見たって嘘じゃない!!詐欺師!!」
「騙されないぞ!!」
「破られるような協定しやがって!!!」

拝理の告白によって会場のざわめきが最高潮に達する中、伊久磨いくまはこの千載一遇の好機を逃すまいと、畳み掛けるように続けた。
「以上の証言、物証により、中立な立場であられる司法庁に提言します!!!当初、単なる太陽族内の問題と断じられたロストチャイルド事件について、 月族の関与という重大な可能性 を含めた、 全面的な再調査の実施許可を願いたい!!!そして・・・」

伊久磨いくまは、乾く喉に必死に唾を飲み込み、呼吸を整える間も惜しく、さらに踏み込んだ要求を突きつける。
「旧獅司ししたちの罪に関しても、再調査する権限を、我々調査部隊に授けていただきたい!!!!”太陽の記録”にもなく、詳細も分からない状態のままにすることを、許していいはずがありません!!!」

伊久磨いくまの大胆すぎる、歴史に切り込む要求に、会場は再び激しく動揺する。その時、血相を変えたソール地方庁長が、怒り狂ったように叫んだ。
「ふざけるな!!!全部お前らのいいように操作された証言に、のせられると思うな!!そもそも、鳥界境にいたお前たち調査部隊が、月族とグルじゃないか!?!」

参謀本部総長ノブレ・ボッサムら、参謀本部から罵声と怒号が飛び交う中、司法庁最高司令官ロウ・グレイスは、厳しい表情のまま沈黙を貫く。

(どう論理的にこの場を収めるか、その崇高で冷酷な頭で考えているのだろう。だが、あんたらの計算通りには、絶対に進ませない!!!俺の魂をかけて!!!

"ガッ!!"
そして伊久磨いくまは、手元の”黄金おうごんさかずき”を掴み取ると、天に向かって突き上げ、 会場全体に向けて咆哮した。



鳥界境ちょうかいきょうを救った、新たなヒーローたちの誕生に乾杯を!!!!そして・・・」




伊久磨いくまは、真っ白なひつぎの中、静かに眠る狗鷲に瞳を向けた。
====
『”英雄クズれ”の狗鷲が・・・』
====

(違う・・・)

====
『朱鳥家はソールにとって、不穏分子でしかないんだ。』
====

(違うんだ・・・!)

====
『わっちの前で・・・誰も傷つけさせはしないっちゃ!!!!』
====

(分かってほしい。)

====
『わっちら太陽族に手を出す極悪人は、朱鳥家右羽の狗鷲が、赦しはしないっちゃ!!!!!!』
====

(あの人が英雄じゃなくして・・・誰を英雄と呼べるんだ!!!!)


”ガッ!!!!”
己の全存在を賭けて、盃をより高く掲げ、 壇上の太陽王に鋭く向き直ると、城内を震わせるほどの声で叫んだ。







「我々太陽族民を今まで見守り、命を懸けて戦ってくれた ”鳥界境の英雄” に、王の献杯を!!!!」









伊久磨いくまの魂の叫び は、城内を、そして 太陽族の領土全域 を、 振動させるほどの衝撃 となった。聴衆は、その 神聖な要求 と 圧倒的な気迫 に、 完全に言葉を失い 硬直するも——

”・・・ッス”
「新たなヒーローに乾杯を!!”鳥界境の英雄”に、王の献杯を!!」
会場の右端に座っていたココロが、伊久磨いくまに続くように盃をかかげ叫ぶ。
すると——


「ヒーローに乾杯を!!」
「”鳥界境の英雄”に、王の献杯を!!」
後に続くように次々と立ち上がり、中継先も皆、盃をかかげ叫ぶ。
伊久磨いくまの言葉に、族民たちが次々と賛同するかのように。
その様子に、参謀本部も司法庁も眉を顰め、困惑していると・・・


"スッ・・・"
「太陽王!!」

太陽王は立ち上がると、面白そうに伊久磨いくまを見て言った。

「なんとも滑稽で、興味深い1日だった!はっはっはっは!!いいだろう!」

そして、手に持った”黄金の盃”を掲げ・・・





「新たなヒーローに乾杯!!鳥界境の英雄に献杯!!!」






王の滑らかな声が会場、領地中に響き——

"ワーーーーーーーー!!!!!!!"

城内の天井を突き破るのではないかと思うくらい、歓声がどっと沸く。
太陽王の合図と同時に解放された雀と千鶴は、お互いに抱きしめ合う。
「ち・・・千鶴・・・」
「雀・・・」

========
『真っ直ぐに・・・真っ直ぐ生きてください・・・そうしたら・・・そうしたら必ず・・・必ずわっちらのことを・・・助け・・・、共に生きてくれる・・・真の仲間ができ・・・ます・・・。その人たちに・・・恥じない・・・生き方を・・・して・・・くださ・・・っ』
========

========
『わっちらは助け助けられて、朱鳥家の地位を築けてきた。そんなわっちらが、やり返すような地に堕ちたことをしちゃ、ご先祖さまに頭があがらないっちゃ。わっちらは、英雄も輩出した”太陽の守護神”。それを忘れずに真っ直ぐに生きていれば、必ず・・・必ず誰かが、そんなわっちらを見てくれて、誤解だったと分かってくれる。そんな人たちをがっかりさせないよう、生きるっちゃ。』
========


雀の父、先代家鳥の鷲鷹わしたかと、右羽うば 狗鷲の言葉を思い出し、涙を流す。

「父ちゃ・・・狗・・・っ。言ってた通りっちゃ・・・。あっちら・・・真の仲間・・・見つけたっちゃ・・・!!」
「心強い・・・最高の仲間っちゃ!!」
2人は抱きしめ合い、これまで絶えてきたもの全てを吐き出すように、涙を流した。







城内が沸く中、太陽王は面白そうに、暫く会場を見ていると——

"・・・ドドドドドドドドド"

「・・・っ!!」
"ダン!!!"
突然太陽王は上げていた盃を、机に大きく音を立て置く。
と同時に——





「フロル!!!!!!」







王が叫んだ瞬間——



"ドガーーーーーーーーーーーン!!!!"
「きゃぁぁあ!!」
「うわぁああ?!!」
「きゃーー!!!」

物凄い地響きと共に、太陽城が揺れ動く。
あまりの激しさに、その場にいた全員が体制を崩しうずくまる。


「「「セカンド 雷/水/火の解放!!!」」」


軍隊長たちも、咄嗟にセカンドを解放させるも・・・


"シュュュュウ・・・"

暫くして揺れが収まった。敵襲かと暫く構えているも、特に何も起きない。そして、誰もいない天井から声が響いた。



"イル。やられた。"




「・・・何があったんだい?」
その声に、太陽王が問いかける。
すると——




"監獄にいた月族、爆死した。"



「!!!!!?」
月族ヌチの死を示すその言葉に、誰もが驚き、空いた口が塞がらなかった。






ー第3章 鳥界境の英雄 完ー





ーー次回ーー

ーーーーーー

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