王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第47話
第47話 狂騒の果てに、ただいま
ーー前回ーー
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「誰も答えられないなら・・・我が族の出来事を、古代より全て管理している司法庁 ロウ・グレイス最高司令官!!!旧獅司に関する、”太陽の記録”の開示を求めます!!!」
「!!」
「なっ!?」
その瞬間、会場は再び、 制御不能なほどの騒めき に包まれた。
伊久磨の言葉一つ一つが、太陽族民の根深い常識と信仰を打ち破り、いつの間にか、全族民の視線が、先ほどの非難轟々の感情を忘れ、壇上の彼に釘付けとなっていた。
伊久磨の大胆すぎる要求に、ロウ・グレイスは氷のように口を閉ざす。その間、伊久磨の脳裏には、ココロと”太陽の記録”を読み漁ったことが思い出されていた。
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"ピラ・・・ピラ・・・"
『本当だ・・・どこにも獅司の記録がない・・・』
『でしょ?記録忘れ・・・というより、最初から何かを無かったことにしたいかのように、まるっとないんだ。』
『これは・・・あまりにも不自然っすね。』
”太陽の記録”を隅々まで読み漁ったが、獅司の王族殺しに関する記録を見つけられなかったココロと伊久磨。
その不自然さに伊久磨が考えていると、ココロが言った。
『・・・きっと今回、参謀本部は何かしら手を使って、ソール軍を味方につけ、俺たちを非難してくる。多分、まだ発言していないソールの副隊長も、きっと参謀本部の手の中だと思う。会場の雰囲気は完全に、参謀本部の意見に賛同するだろう。』
『そうっすよね。それを真っ向から否定して、俺と岳の意見を言っても・・・・。どうすりゃいいんだ・・・。』
『だからさ、ぶっ込むんだよ。』
『え?』
『数日前から、伊久磨が疑問に思ってることがあるだろう?』
『え・・・・まさか、獅司は本当に罪人なのかって?!?』
『うん。』
『いやいやいや!それこそ、参謀本部の思う壺じゃないっすか!!即刻処刑台っすよ!!』
必死に言い聞かせる伊久磨をよそに、ココロは太陽の記録に目を向けながら続けた。
『でもさ、”太陽の記録”を見て分かったでしょ。司法庁も中立じゃない。多分、獅司を罪人にしとかないといけない何かがある気がするんだ。そんな人に何言っても、狗鷲さんたちの名誉は守れないよ。』
『いや、でも・・・』
『いいか、伊久磨。今回、司法庁の結論は決まってる。"獅司は罪人"。これは絶対に覆らないと思っていたほうがいい。それがあるから参謀本部は、今回自分たちの考えが通ると強気になってるんだ。だから・・・』
するとココロは、”太陽の記録”に載っている、とある絵を指した。
そこには、過去の司法庁最高司令官と太陽王が記載され、その先に大量の人々が描かれていた。
ココロはその人々に指を差した。
”スッ・・・”
『今回、俺たちが訴えかけるのは、参謀本部でも司法庁でもない。その先・・・民意だ。』
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(ココロさんの思惑通り・・・強烈な問いを投げかけることで、さっきまで俺たちを非難してた会場の人々が、聞く耳を持つようになった。)
すると伊久磨は、黙り続けるロウ・グレイスに言った。
「無いものをありますなんて・・・、”黄金の盃”を掲げる”太陽の核”で、嘘はつけないですよね。何より規則を重んじる司法庁・・・いや、グレイス家では。」
「・・・・・・。」
伊久磨の言葉に、ロウ・グレイスは冷たい視線を向けた。ただ睨むような、そんな威圧ではない。誰もが恐怖におののくような力があったが、この時の伊久磨には関係なかった。
黙り込むロウ・グレイスに、会場はざわめき始めた。
「も、もしかして、本当に記録がないのか?」
「”太陽の記録”にないって・・・一大事じゃ・・・」
「た、たしかに・・・獅司たちの詳細な企ては、知らないかも・・・」
「本当に獅司はやったのか?」
「おい!やめろ、王の御前だぞ!?」
人々の中に憶測が飛び交うと同時に、伊久磨は、壇上中央に座る太陽王にチラッと瞳を向けた。
(・・・太陽王に、反逆だと言われたら終わりだったが・・・今の所大丈夫そうか・・・。)
壇上に佇む太陽王は、混迷を極める会場を、面白そうに肘をついて、ただただ眺めていた。その様子にホッと胸を撫で下ろしていると、再びソール地方庁長が叫んだ。
「貴様!!いい加減にしろ!!昔のことを掘り返して、我々族民を混乱させ・・・お前こそ、なんの根拠があって言ってるんだ!!!獅司が罪人なのは疑惑ではなく、確定事項だ!!!我々が出した証拠を覆せないからと、馬鹿な発言をして、我々を混乱させるな!!!」
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『少しでも疑いの風穴を開けるんだ。そうすれば、人々の中で獅司の件について疑念が広まり、会場の雰囲気は変わる。参謀本部たちが焦り始めたら、その合図だ。そこからが、本番だ。伊久磨。』
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(よし、こっからだ。)
ココロと交わした会話を思い出しながら、伊久磨は引き下がらず即座に反論を再開した。
「そうでした。では、改めてソール軍の証言について問います!その証言、”黄金の盃”に誓って正しいと言えますか。拝理副隊長!!!」
伊久磨は、ソール地方庁長の隣に立つ拝理を、射抜くような力強い視線で見つめる。
「貴女が一番分かっていることではないですか!!長い年月、戦場を過ごし、命の尊さを知っている貴女が!!セカンドとして、ソール地方を月族の脅威から守ってきた貴女が!!今、どんな証言をしているか、分かっているのですか!特殊な力を持つ月族の策に溺れた隊員たちを・・・ 片腕 を失いながらも戦った 貴女を!! 命を賭けて、 懸命に守り抜いたのは誰 だったのか!!! その 英雄の献身 を、 忘れたとは決して言わせません!!軍に所属し、我々太陽族民を守ってきた、セカンドである貴女の真意を問いたい!!!」
真っ直ぐに、そして力強い言葉の刃を送る伊久磨に、拝理は瞳を見開き、全身が硬直する。
「おい!!強い口調で脅すんじゃ・・・」
「今私が聞いているのは、ソール軍の副隊長です!!貴方ではない!!!」
追い込まれる拝理にソール地方庁長が口を挟むも、伊久磨は一蹴した。沈黙が続き、会場の全ての視線が拝理の口元に集中する。
そして、その重圧の中で、拝理がボソリと呟いた。
「・・・です。」
「?」
「ソール軍副隊長、はっきり話すように。」
ロウ・グレイスが厳しく促すと、拝理は、全てを振り切るように瞳を閉じたまま、絶叫した。
「我々ソール軍は、嘘をついてません!!!」
その言葉に、会場は一気に騒然となった。伊久磨も一瞬目を見開き、拝理を見るも、眉を顰め視線を下げた。
(太陽族精鋭と言われるセカンドの部隊が、こんなんかよ・・・)
伊久磨は、悔しそうに唇を噛み締めるも、直ぐに表情を戻し口を開いた。
「副隊長。」
伊久磨に呼ばれ、バンはゆっくり頷いた。
「伊久磨、よく言った。あれの出番だな?」
「お願いします。」
その言葉に、伊久磨は拝理に視線を向けたまま頷くと、バンは隊服のポケットから何やら細長いものを取り出した。
「調査部隊、副隊長のバンです。今の件で、証言の不確実性を裏付ける物的証拠を提示します。」
「!?」
「・・・物的証拠だと?」
ざわめく城内の中、バンは続けた。
「はい。これは数日前、ソール軍基地を訪問した時のことです。我々の隊員たちと意見が食い違うため、詳細を聞きたく伺った時に、偶然聞いた話を録音したものです。」
「録音?」
そして、バンはそのままその録音機のスイッチを押した。
"拝理副隊長、お願いしますよ。残ったのは貴女だけです。"
"ふざけないでください!私に嘘の証言をしろと?!"
会場が再び激しく揺れる。 声を聞き分けられる者には、それが拝理とソール地方庁長の会話だと判別できた。
"ただでやって下さいというわけではありません。他の隊員たちと同じように、貴女の望むものを与えますよ。"
"ふざけるな!!私は腐っても軍人だ!!そんな馬鹿げたことを・・・"
"貴女の息子さん。ロストチャイルドに遭われたそうですね。私たちなら、すぐに見つけ出せます。"
"なんだと・・・?何を根拠に・・・"
"実は、参謀本部も極秘でロストチャイルドの件、動いてまして。既にどこに居るか、検討がついているのです。"
"な、なんだと?!何故早く・・・"
"我々は、あくまで頭を動かす精鋭部隊です。取り返すには、やはりあなた方のようなセカンドにお願いしないと・・・ぁあ。今回、話を合わせていただければ、貴女に真っ先にその場所をお伝えしますよ?極秘で・・・"
"ッピ"
バンの指がスイッチを止め、場に冷たい静寂が戻る。
「以上です。」
その録音内容に、会場は沸騰したかのような怒声が飛び交った。
「ふざけるな!!嘘だったのか?!」
「参謀本部がロストチャイルドを解決してるだと?!何故早く動かないんだ!!」
「私の子供・・・私の子供を、早く取り返して!!お願いよ!!!」
「おい!!答えろ!!参謀本部!!」
その音声に、軍隊長席に座っていた、ソール軍軍隊長の多聞も頭を抱えた。
飛び交う怒声に、ソール地方庁長は先程までの余裕を無くし、体を震わせながら叫んだ。
「こ、この音声は、でまかせだ!!コウモリたちが勝手に作ったものだ!!みんな!騙されるんじゃ無い!!」
「この音声が偽物かどうかは、調査すればいい。ただし、正式に研究部に依頼し、太陽族民全員の前で公開調査にしていただきたい!!!」
声を荒げるソール地方庁長に、バンは録音機を揺らしながら言い放つ。そんなバンに、ソール地方庁長は怒りを露わにした。
「ふざけるな!!!朱鳥は罪人であり、今回ソール軍隊員たちを殺したんだ!!!再び我々を騙そうなんて・・・いい加減に・・・」
「いい加減にするのは、貴方たちの方でしょう!!!」
往生際の悪いソール地方庁長の言葉に、伊久磨は怒りで震える身体を押さえながら続けた。
「戦場にいなかった貴方たちが好き勝手妄想して、事実を踏みいじることは断じて許されない!!!」
伊久磨の迫力に、全員が彼に耳を傾けた。
「知っていますか?・・・共存共栄。この精神を朱鳥家の先人たちから引き継ぎ、たった1人残された鳥界境で、罪人と言われようとも、”英雄クズれ”と罵られようとも!!!その誇りを胸に、我々太陽族を必死に守ってきた男を!!!!!!家族を失い、周りから罪人と揶揄されながらも、それでも我ら調査部隊で、太陽族のためにセカンドの力を使う2人を!!!そして・・・セカンドの力をまだ上手く使いこなせずとも、誰よりも前に立ち、鳥界境全てを吹き飛ばそうとする月族の脅威的な攻撃から、 身体を張って守り抜いた、ひ弱なセカンド を!!!何故この事実が、全て誤った方に捻じ曲げられるのですか!!彼らが居なければ、今頃鳥界境は吹き飛ばされ、要塞は消え去り、ソール地方の安全神話は消えていたでしょう!!決死の覚悟で戦ったセカンドたちに与えられるのは、非難ではなく賛辞ではありませんか!!!」
伊久磨の魂を削るような言葉が、その場にいた全員に重く重くのしかかる。暫く静寂が会場を包み込んでいると——
"パチ・・・パチ・・・"
"パチパチパチパチ!!"
会場の最前列から、静かに拍手が鳴り響いた。そして、それは一瞬にして万雷の拍手と歓声へと変わる。鳴り止まない拍手と歓声は、当初とは打って変わって、伊久磨たち調査部隊の背中を応援するかのように、風向きを変えていく。会場の空気が一変したのを、バンも感じていると——
"コツコツコツコツ・・・"
「?」
「はっはっはっは、熱のこもった弁論だったな。」
参謀本部総長ノブレ・ボッサムが、壇上に出てきた。
その姿に、伊久磨の前にバンが立った。
「これは・・・ノブレ総長。貴方が壇上に上がるなんて。どうされました?」
バンが聞くと、ノブレ総長は不気味な笑みを浮かべた。
「いやいや、その子の熱弁がすごくてな。いやあ、若いとはいいことだ。その音声データは、後ほど解析してもらうとしても・・・はて、君たちの主張の証拠もないようだな。」
「証拠?」
「そうだ。当たり前だろう。君たちが発言した通り、証言だけで信じてくださいは通らないだろう?朱鳥の残党どもが攻撃してない証拠。月族が子供たちを攫っていた証拠。それに・・・新しく入った君たちのセカンド・・・幸十といったかな。・・・出所も不明でどうも怪しい。セカンドの力も上手く使いこなせない者が、朱鳥の残党と姿を消したと聞いとるが・・・。その者も危ない出自なのでは・・・?」
「参謀本部を取り仕切るお方が、あらぬ噂で話さないでいただきたい!」
バンは反論しながら、手元の時計に目をやった。
(・・・っく、まだか?!坂上!!!)
焦るバンの隣で、伊久磨は数日前、坂上・バンと話したことを思い出していた。
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『今回、壇上に上がるのは、伊久磨くんとバンくんにお願いします。』
『坂上は?あんたは壇上に上がらないのか?』
『はい。私は、岳くんとみどりさんが頑張っている、”我々の主張の証拠集め”を確実なものにしたくてですね、そっちに尽力します。』
『まぁ、重要だが・・・。』
『お二人とココロくんには、”相手の証言を覆す証拠集め”をしてほしいです。おおよそ、色々調査はついてるでしょう?』
『そうっすね。おおかた。副隊長の録音は固いです。』
『ココロくんが言うように、当日は、参謀本部たちの意見に賛同する流れが強くなるでしょう。そこを、まず”我々の言い分を聞く体制”まで持っていってほしいです。ココロくんの策略とバンくんの証拠。それを伊久磨くんの言葉で叩きつけ、会場の雰囲気を変えてください。そこまで行ったら、参謀本部あたりが、こちらの証拠を求めてきます。その時、岳くんとみどりさんが必死に集めている証拠を出し、ココロくんの策略通り、民意をこっちに持っていきます。そこまで行ければ、あとはこっちに有利な戦いになります。太陽王あたりを引き込めれば一番ですが・・・借りを作ると、あの人厄介ですからね。』
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まだ坂上たちの姿は会場にない。会場の雰囲気は、調査部隊の意見に賛同し始めている。ここで畳みかけたい。そう焦る伊久磨が一番心配すること。
それは・・・人の心は移ろいゆくもの。
誰かの少しの発言や状況で、すぐに意見は変わっていく。
伊久磨は幼い頃、有望なセカンドになるだろうと大きな期待をされていた。その時は誰もが優しかったし、味方だった。しかし・・・、成長していくにつれて発現せず、誰かが ”伊久磨はセカンドにはなれない” と言葉をこぼした途端、一瞬にして味方が敵になった。血の繋がった家族でさえそうだ。
”ギュッ”
(坂上さんたちが来るまで・・・この状況をもっと・・・もっと俺たちに有利な状況に!!!)
伊久磨に、幼い頃の恐怖心が包み込もうとするも、彼は震える拳を握り締め、この状況を守ろうと口を開こうとした。
その時——、太陽王の側近、太郎が王に近づき耳打ちした。
暫くすると、太陽王が高らかに笑い始める。
「はっはっはっはっは!!なんとも、珍しい客だねっ!!これは愉快だ!!フロルの許しもあって、ここまで来たんだろう?通して良いぞ。」
「・・・?」
太陽王の言葉に誰もが理解できず呆然としていると、突然会場の扉が開いた。
"ギギギギ・・・"
そこに現れたのは——
「おい!いいから、早く行け!」
「・・・一緒に来ないの?」
「いいから!!!領地中の食料バクバク食いやがって、なんでこんな時だけ遠慮すんだよ!!」
”グイッ・・・!”
扉の先から、何やら騒がしく言い合う声が聞こえると同時に、オレンジに輝く髪が見え隠れする。
「ま、まさか・・・」
伊久磨がボソッと呟くと同時に、誰かに背中を押され飛び出したのは、大きな棺を背中に抱えた幸十だった。
行方不明だった幸十の登場に、会場の注目が集まっていると、幸十はどこか困惑しながらも、頬を掻き口を開いた。
「えっと・・・ただいま。」
