王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第46話
第46話 ”太陽の記録”への宣戦
ーー前回ーー
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"それでは、一つ目。旧獅司であり罪家、朱鳥家についてです!"
城内にアナウンスが流れると、ソール地方庁長のライラ・ガバルトが立ち上がり机を叩いた。
"バン!!"
「全くもって!!休戦に入ってから、過去に例を見ない悲惨な事件が、我がソール地方で起こりました!!」
ライラ・ガバルトは、胸に手を当て表情を歪めた。
「鳥界境には、前太陽王を殺害しようとし、自分たちが王になろうとした旧獅司の一つ、朱鳥家の残党が残ってました。その残党がソールの族民に被害をもたらさないように、我がソール地方庁と軍は日々、危険の中、朱鳥家撲滅を目指して取り組んでおりました!!」
「よく言うなぁ・・・」
その言葉に、会場にいたソール軍軍隊長の多聞は、呆れた表情でボソッと呟いた。
「その最中、先日!!ソール軍が遂に、朱鳥家殲滅のため鳥界境に入ったところ、かつて”ソールの英雄”と崇められた朱鳥家右羽の狗鷲に遭遇したのです!そこで激戦となり、同時に、偶然迷い込み現れた月族とも遭遇しました。両者に挟まれたソール軍は、複数人の死者と多数の重傷者を出しました。そして・・・」
「?」
ライラ・ガバルトは、ふと伊久磨たちを見て笑みを浮かべると、壇上の裏方に合図を送った。
バンや伊久磨が眉を顰めた時——
"バタン!!"
「離せっちゃ!!!」
「痛いっ!!!」
「・・・っ!!雀!千鶴!!」
光の宮殿大広間の開かれた扉から現れたのは、赤い手錠をはめられた雀と千鶴だった。
鳥界境の激戦から捕まったままなのか、傷だらけの身体と、汚れた紫紺の隊服は罪人のようだ。
伊久磨は、そんな2人の状態を見て目を見開き、咄嗟に叫んだ。
その声に、雀と千鶴は表情を明るくし、伊久磨の方へ視線を向ける。
「いくまっち!!こいつら、おかしいっちゃ!!話も聞かないし、出す飯もまずいっちゃ。」
「そっちゃ!!!早く、豆じいのご飯食べたいっちゃ!!」
「今言うことは、そこじゃねぇ・・・」
「いくまっち、狗は?!さっちーはどこっちゃ?!大丈夫っちゃ?!」
「・・・・っ。」
言い返そうとして問われた雀の言葉に、伊久磨は言葉に詰まり、思わず表情を強張らせる。同時に、周りが騒がしくなっていることに気づいた。
「ねぇ、あれ朱鳥家の残党?」
「やだ!嘘?!」
「ほら、スカイブルーの髪に真っ赤な瞳!!絶対朱鳥家じゃない!!」
「こ、攻撃されるのか?!?」
「だ、大丈夫だろ・・・軍隊長たちもいるんだ!」
「こっちにこないでよ、罪人!!」
「裏切者!!!!」
現れた雀たちに向かって、心のない罵声が飛び交い始める。時代を超えても尚続く非難の声。この髪色と瞳を見るだけで、恐れられ、嫌悪され、責め立てられる。慣れたくとも慣れるものではない。雀は悔しそうに顔を歪ませ、唇を噛み締め下を向いた。
しかし——
"ギュッ"
隣に立つ千鶴が、下を向く雀の震える手を、力強く、断固とした様子で握りしめた。
「・・・千鶴?」
「雀、大丈夫っちゃ。さっちーが言ってくれた通り、わっちら朱鳥は、誰も悪いことしてないっちゃ。前を向いて、堂々としてるっちゃ。」
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『雀、千鶴。下向くことも、隠れることもない。顔を上げて、太陽の空の元、堂々と生きればいい。君たちの先祖が残した”意志”と共に。』
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二人の脳裏に、鳥界境での激闘の中、幸十から投げかけられた力強い言葉が、鮮明に蘇る。千鶴の言葉と、蘇った幸十の残響に、雀は決意を込めて強く頷き返した。そして、もう一度、迷いを断ち切るように正面を見据える。
一方、この状況に何か気づいた伊久磨は、思わず視線をソール地方庁長へと向けた。と、同時に、ソール地方庁長が再び口を開いた。
「皆様!見ましたか!!今回の騒動で現れた朱鳥家残党は3人でした。その内の2人は、なんとここにいる調査部隊所属の隊員だったのです!!」
「な、なんだと?!!」
「嘘でしょ?!!」
「あいつら、罪家とグルだったのか!!」
2人の登場に、会場から伊久磨たちに対して、厳しい視線が注がれ始めた。その様子に、伊久磨は咄嗟に反論した。
「お待ちください!!2人は、我が調査部隊、坂上隊長が、太陽王から免罪符を取り付け正式に入隊した者たちです!!”残党”や”罪人”と称すること、それは太陽王を冒涜する、極めて危険な発言に他なりません!!!」
伊久磨の言葉に、司法部最高司令官ロウ・グレイスが太陽王に体を向けた。
「この者の発言は、本当でしょうか?」
聞かれた太陽王は頬杖をついたまま、嬉しそうに頷いた。
それを見て、ロウ・グレイスは口を開いた。
「調査部隊の発言を認めます。過度に反応しないように。」
しかし、ソール地方庁長は止まらなかった。
「そこが問題なのです!!王から免罪符までもらった2人が、それを裏切るように、勝手に鳥界境に入り、ソール軍に攻撃をしたのです!!これは我が太陽族を再び裏切る、背任行為であります!!!」
その言葉に、伊久磨も引き下がることなく口を開く。
「そもそも!今回の戦闘で、朱鳥家の3人がソール軍に攻撃した事実はありません!!実際、私はその戦闘時にいましたが、攻撃することはおろか、負傷したソール軍たちを、懸命に守っていたのが事実です!!ソール軍たちに攻撃していたのは紛れもなく、計画的に我が領地に入り、ロストチャイルドを起こしていた月族の者です!!!!」
伊久磨の主張に、会場がどよめいた。
「月族は偶然入ってきたんじゃないのか?」
「全然主張が違うじゃない。」
「どっちが嘘をついてるんだ?」
「調査部隊だろ。月族とは、休戦協定を結んでいるんだ!ありえない!」
「そうよ!私たちを守るソール軍が、嘘をつくはずがない!」
"ドンドン!!"
会場が騒がしくなると、ロウ・グレイスが机を叩いた。その音は城内に響き渡り、シンと静まる。その様子を見て、ロウ・グレイスは口を開いた。
「——まずは、ソール地方庁長。その発言の証拠はなんだね。」
ロウ・グレイスの問いかけに、ソール地方庁長は笑みを浮かべると、目の前に大量の書類を出した。
"ドサッ!!!"
「これは・・・今回の激闘を生き残った、ソール軍隊員たちの発言を記した書類です。何より被害を受けた当人たちが、何故嘘をつかないといけないのでしょう?」
ロウ・グレイスは、ソール地方庁職員から書類を受け取り、目を通し始めた。伊久磨たちにも渡され目を通すも、そこに書かれていたのは、狗鷲や雀たちにどう攻撃されたのかだけであり、月族のヌチやモルの記述が一切無いものだった。
(ここまで事実を、捻じ曲げるとは・・・。)
伊久磨がソール地方庁長を睨みつけると同時に、再びソール地方庁長が口を開いた。
「これだけでも充分かと思いますが・・・もう一つ。我々の証言を確かなものにするため、証人を連れてきました。」
"コツコツコツ・・・"
その言葉と同時に現れた人物に、誰もが息を呑んだ。
「!!」
「・・・っ。やっぱり、あんたもか。」
壇上に現れたのは、ソール軍副隊長・拝理だった。
彼女こそ、あの激戦の場にいながら、唯一沈黙を貫き、伊久磨たちが必死に接触を試みても、影すら踏めなかった人物である。
伊久磨は唇を噛みしめる中、拝理は神妙な面持ちでソール地方庁長の近くまで行くと、壇上中央の太陽王とロウ・グレイスに深く頭を下げた。
「では、ソール軍の拝理副隊長。ソール軍のNo2の役職につかれ、実際に今回の現場にいた貴女に問います。今、ソール軍隊員たちの話と、調査部隊の話に致命的な相違点が発生してます。貴女は、どちらが真実であるとお考えですか?」
「・・・・・・・。」
ソール地方庁長の問いかけが投げられた瞬間、ざわめいていた会場全体がシンと凍り付いたような静寂に包まれた。その重すぎる沈黙の中、拝理は僅かに目を閉じ、長いため息と共に再び瞳を開く。そして、その口元が、ついに語り始めた。
「私は・・・っ。——私も、我が隊員たちと同じ意見です。」
"ザワッ・・・"
拝理の発言に、会場は一気にざわめいた。
「やっぱりそうじゃない。」
「ソールの副隊長が言ってんだ。これ以上の証言があるかってんだ。」
「なんなのあの調査部隊。本当に罪人とグルじゃない!」
「ふざけんな!あそこにいる朱鳥家残党を殺せ!!今すぐ!!!」
その場にいるほとんどの人々が、もう伊久磨たち調査部隊の言葉など聞きそうにもない。
その様子に、ソール地方庁長は満足げに笑みを浮かべ、伊久磨たちに笑いかけた時だった。
「参謀本部とソール軍の意見は、以上でしょうか。」
伊久磨が口を開いた。この圧倒的不利な状況にも関わらず、焦る様子もなく、淡々と。決意に満ちた表情を崩すことなく。
「そうだが・・・最後に、この人にも聞いておきましょう。ソール軍 多聞軍隊長はいかがでしょうか。」
ソール地方庁長が、軍隊長たちが座る席に勝ち誇った視線を向ける。多聞は大きく足を開き、腕を組んで厳しい表情で座っていた。それだけで圧倒的な存在感を示している。
多聞は、意気揚々と話す地方庁長をギロっと睨みつけ、隣に立つ拝理を見た。
「・・・この場は、”黄金の盃”を掲げ、嘘偽りは許されねぇ。そのこと、分かってるな、拝理。」
「・・・・はい。」
多聞の鋭い問いかけに、拝理は少しの沈黙の後、瞳を真っ直ぐに向け頷いた。
その言葉に満足したのか、ソール地方庁長はロウ・グレイスに言った。
「こちらからは以上です。」
その様子に、ロウ・グレイスはコクリと頷くと、伊久磨たちの方を見た。
「それでは、調査部隊の言い分を聞こう。」
ロウ・グレイスの言葉に、伊久磨は唾を飲み込むと口を開いた。
「ソール地方庁の証言は・・・分かりました。ソール軍としての意向も。」
その伊久磨の言葉に、拝理がピクっと反応する。
「しかし、証言だけで物証はどこにあるのでしょうか。」
”ザワッ・・・・”
「なに、屁理屈いってんだよ!!!」
「調査部隊は即刻解体しろ!!裏切り集団!!!」
「精鋭のソール軍を罵倒するなんて、ふざけないでよ!!」
伊久磨の言葉に再び会場がざわつく。命をかけて戦ったソール軍たちの証言。側から見れば、事実以外の何者でもないと感じるだろう。伊久磨たち調査部隊へ批判的な言動が、会場から相次ぐ。
「朱鳥の”英雄クズれ”なんて、死んでしまえ!!!」
”ググッ・・・”
(言い返したい。狗鷲さんの命がけの攻防で、あんたらが崇めたたえるソール軍が、どんだけ助けられたか。あの英雄の背中を見ても、バカみたいな発言しかできない、セカンドの風下にも置けないソール軍たちを責め立てたい!!!だが、まず俺がすることは・・・)
罵声が飛び交う会場で、伊久磨は血がにじみ出るほど拳を強く握りしめると、今にも暴れだしそうな気持を抑え、目線をまっすぐに口を開いた。
「そもそも、朱鳥家・・・旧獅司たちは、本当に王族を殺そうとしたのでしょうか?」
伊久磨のその言葉は、神聖な壇上で放たれた、許されざる爆弾だった。
「!?」
「っな・・・」
「何言ってんだ・・・あいつ・・・」
誰もが一瞬、理解を拒否し、会場全体が耳鳴りのような沈黙に包まれる。セカンド全盛期に、絶対的な存在として活躍した獅司たち。だが今、彼らに貼られているのは ”王族殺しを企てた極悪人" という、決して剥がれることのない強烈な負のレッテルだ。
誰もが彼らを許してはならないと信じる中、伊久磨は自らの命を賭けた禁断の扉を開けたのだ。
会場が呆然とする中、静寂を破ったのは、激昂したソール地方庁長の声だった。
「お、お前は・・・今自分が何を言ってるのか分かっているのか?!!前太陽王を殺そうとした者たちの擁護だ! それは即ち王族への反逆、我々太陽族民への裏切りだぞ!! 今、その発言をもって、お前を即刻処刑することだって可能なんだぞ!!」
同時に、事態を見過ごせないと判断したロウ・グレイスが重い口を開いた。
「調査部隊よ。こればかりはソール地方庁長の言う通りだ。お前たちは今、我々太陽族全体を敵に回すのか?」
その圧力に、隣にいたバンは大量の冷や汗を流しながら、坂上から告げられた言葉を思い出し、必死に口を閉じていた。
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『バンくん。今回壇上には伊久磨くんに上がってもらおうと思います。彼は、口が悪いと思われてしまう面があります。しかしそれは、真っ当な事を真っ直ぐに相手に伝えることができる、彼の強みだと私は思います。どうしても人は・・・人の顔色や圧力に屈指、事実を捻じ曲げてしまうところがあります。しかし彼は、覚悟を決め、言葉を武器に戦うことが出来る人です。バンくんには今回、隣で伊久磨くんを援護してほしいのですが・・・彼がどんな言葉を発しようとも、彼が真っ直ぐ向き合おうとする姿勢がある限り、見守ってあげてください。きっと、今のこの状況から、朱鳥家や幸十くんの名誉を守れる代弁者は・・・彼しかいないでしょう。』
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”——代弁者は、彼しかいない。”
坂上の言葉を反芻しながら、怯まず真っ直ぐに立つ伊久磨を、バンは止めることなく次の言葉を待つ。
すると伊久磨は、壇上のロウ・グレイスたちから視線を外し、城内にいる全ての族民へと移動させた。会場に、その勇ましく、問い詰めるような声を響かせる。
「太陽族民全員に問います!!旧獅司たちが、王族殺しを企てたと言われる約50年前!!どこで!!彼らがどんな企てを立て!!どうやって王族に危害を加えようとしたのか、詳細を話せる者はおられますか!!」
伊久磨の問いかけに、誰もが口をつぐみ、会場には再び異様な沈黙が落ちる。その静寂を睥睨するように、彼はロウ・グレイスに視線を向けた。
「誰も答えられないなら・・・我が族の出来事を、古代より全て管理している司法部ロウ・グレイス最高司令官!!!旧獅司に関する、”太陽の記録”の開示を求めます!!!」
「!!」
「なっ!?」
予期せぬ要求に、会場は再び、そして今度は騒然という言葉では済まされない、動揺の渦 へと呑み込まれた。
ーー次回ーー
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