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王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第11話 羅皇の地、繭の底に響く産声

第11話 羅皇の地、繭の底に響く産声

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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】




羅皇らおうの地ー
そこは太陽と月の境界にありながら、地図上から消し去られた ”空白” の地。 かつて、旧・獅司ししの一角・羅皇らおう家が統治したその場所は、一族の滅亡と共に、世界から完全に隔絶された。

広大な領地を埋め尽くすのは、意思を持つかのようにうねる ”植物の壁” と、牙を剥く ”銀の狼” たち。 彼らが固く門を閉ざして以来、そこは何者も立ち入ることのできない、”不可侵の領域” と化している。

息を呑むほど荘厳な緑に包まれた、幻想的な静寂。 だがその中心部には、異様な光景が横たわっていた。
——かつての邸宅跡が、巨大な ”植物の繭・・・・” へと姿を変えているのだ。 光の一筋さえ通さぬほど幾重にも絡み合う枝や蔦。その強固な拒絶は、太陽族も月族も、いかなる軍勢をもってしても打ち破ることは叶わなかった。

まるで、今も静かに ”存在しえないあるじ” の帰還を待っているかのように。






"・・・ッザ"
(これは・・・大丈夫なのだろうか・・・。)

そんな ”羅皇の地” に足を踏み込んでいるココロたち。
タイヤン軍から支援を受けられず、路頭に迷っていた四人の前に、忽然と現れた”銀の狼”。・・・といっても、小さい。子犬の様なサイズ感である。

しきりに、何処か ”うるうる” とした瞳を向け、愛嬌を撒くその姿は、幸十さちとたちの警戒心をすぐに取っ払ったのだった。
そして、子犬のように甲高い声で鳴くと、"着いてきて・・・・・" と言わんばかりに歩きだしたのだった。
ココロは、親の狼たちによる罠かと考えたものの、平然と着いて行く幸十を止められず、今に至る。

国境近くのタイヤン軍基地から、そう遠くないこの場所であるが、ココロは段々と不安が押し寄せていた。

「・・・拝理はいりさん、ここって・・・」
ココロの問いかけに、拝理もまた額に冷や汗をにじませ、重く頷いた。

「ぁあ。書物でしか見たことなかったが・・・一際緑に囲まれたここは・・・”羅皇の地”だろう。」
「凄いや。歩くと、歓迎してんのか、植物たちが道を作ってくぞ。」
先頭を行く小さな銀の狼。その足跡を邪魔しないように、生い茂る原生林が意思を持って避け、道を作っていく。咲夜さくやはその光景に目を見開きながらも、一歩一歩慎重に地面を踏みしめた。

だが、その ”歓迎” こそがココロの不安を煽る。
(羅皇の地は、羅皇家が健在だった時でさえ、足を踏み入れる者は極わずかだったはず。誤って足を踏み入れれば、生きたこの地に食われる・・・つまりは、今ここにある植物たちが攻撃してくるということだろう。・・・ここはまるで、生きる土地・・・・・だな。)
嫌な予感を振り払うように、ココロは前を行く幸十に視線を向けた。 幸十は、目の前で尻尾を振り歩く小さな狼を食い入るように見つめ、無言でついていく。そのあまりに熱烈な視線に、ココロは思わず釘を刺した。

「おい、幸十。分かってると思うけど、その狼は食べ物じゃないからな。」
「・・・・・・・・・うん。」
「絶対食べようとしてただろ。」
返事のワンテンポ遅い幸十に、ココロと咲夜の ”じとっ” とした監視の目が突き刺さる。 そんな一行のやり取りを余所に、銀の狼がピタリと足を止めた。

「キャン!」
高らかな鳴き声が、森の静寂を切り裂く。

「?」
一同不思議に思い、視線を上げると——

「っ!」
「これは・・・」
全員、言葉を失った。 目の前に現れたのは、木の枝、葉、そして太い蔦が幾重にも絡み合って形成された、山のような巨大な繭。 太陽城をも飲み込みかねないその圧倒的な質量は、自然への畏怖を抱かせるに十分だった。


——ドクン。



静まり返った森の中で、重厚な鼓動が響く。 巨大な繭は、まるで深い眠りについた怪物の心臓のように、ゆっくりと、だが確実に脈動していた。

ココロが呆然としていると・・・
"ガシッ"
「え、ちょ、幸十!何してるんだ!」

幸十が突然、小さな銀の狼の脇を掴み、持ち上げた。
ついに食べようとしたのかと焦るココロに、幸十は表情を変えず言った。

ワンコ・・・が持ち上げろって。」
「え?」
「ワンコ?」
「うん。ワンコ。」
「いや、まぁ、名前は一旦いいけど・・・どうして、そう言ってるって思ったんだ?」
ココロが再び問いかけるも・・・

「——?だって、そう言ってるよ。」
「キャン!」
「ほら。」
言い張る幸十に、ココロたちは理解に苦しむも、もう突っ込むことをやめた。

「・・・で、その・・・ワンコはどうしろって?」
「どうしたらいいの?」
「キャン!」
「あの花がついた枝の近くまで行けって。」
そう言って、幸十は小さな銀の狼を、巨大な繭の一角、花のある枝に近づかせた。

雛菊ひなぎくの花だな。」
枝や蔦で覆われたこの場所で、ひっそりと咲く雛菊ひなぎくの花に拝理が目を向けた。
ココロたちは半信半疑で、幸十の行動を見守っていると——

"ガブッ!!!"
「え」
「あ・・・?」
「噛んだ。」
小さな銀の狼は、まだ発達していない牙で、その枝を必死に噛み始めた。
何処か、その枝に戯れているように見え、何をしているのか不思議そうにココロたちが見つめる。







"サァァァァァァァァアアア"








「・・・・っ!!?!???」
再び一同を驚かせた。
何処か異様な風が吹いたかと思うと、この固く閉ざされた巨大な繭が、少しずつ動きだしたのだ。
枝や葉、蔦が、まるでパズルのピースのように、動いていくと——

「これは・・・」
「開かずの地が・・・」
「開いた。」
そう。固く閉ざされた巨大な繭が、幸十たちの目の前で開かれたのだ。
その瞬間、どこからか明るい暖かい光がさしてきた。
先程から理解出来ないことが度重なり、混乱するココロたち。

「キャン!」
すると、小さな銀の狼は幸十に瞳を向け鳴くと、幸十はコクリと頷き、その狼を降ろした。その途端、その開いた巨大な繭の中へ、トコトコと走って行く。
その様子に、幸十も何の躊躇いもなく入ろうとした時——

"ガシッ!"
「?」
幸十の腕を掴み止めたのは、拝理だった。

「待て。入るつもりか?」
聞かれた幸十は、当然のように頷いた。

「うん。行こう。」
「ちょっと待て。これは銀の狼たちの罠かもしれない。入ったら親の狼たちが構えている可能性だってある。のこのこと着いて行くのは・・・」
拝理が説得するも、幸十は巨大な繭の中に視線を向け、確信じみた表情を向けた。

「大丈夫だと思う。」
「っ、なんでそう言えるんだ?」
・・・たぶん俺、一度ここに来たことある。
「?!!?」

幸十のその言葉に驚くココロ。
「さ、幸十。何か思い出したのか?」
「んー・・・よく思い出せないけど、なんか見覚えあるし、たぶん、大丈夫な気がする。」

幸十の曖昧な言葉に、拝理と咲夜は依然と疑り深く見つめていると、ココロは頭で考えをまとめ始める。
そして、ため息をつくと、幸十の腕を掴む拝理に言った。

「——行きましょう。」
「何を考えている!これはどう見ても罠だ!!おかしいだろう?!突然見知らぬ狼が、閉ざされていた”羅皇の地”に招き入れるだなんて!」
「そうなんですが・・・。ただ・・・本当に俺たちを害するつもりなら、一番重要そうなこの ”巨大な繭” ではなく、その前で狼たちが待ち合わせていたはずです。でも・・・ここまで連れてきました。まるで歓迎するかのように。」
「それがおかしいだろう!?」
「だからと言って、俺たちに残された道は、不可解なこの羅皇の地の深淵に足を踏み込むか、必ず向かったら死ぬタイヤン地方庁に向かうか、帰るかです。タイヤンの今の不可思議な状況を打破するには・・・何か行動をとるしかありませんし、危機と隣り合わせになるのはしょうがない任務です。なんのリスクもとらず、何かを得ようするのは難しい。」
ココロの言葉に、拝理が詰まっていると、ココロは歯切れ悪く続けた。

「それに・・・幸十は・・・何というか、少し動物的な直感がある・・・というか。説明は難しいんですが、彼は彼なりに、何の考えもなく危険に踏み込むことはないんです。彼が感じたことは、妙に当たるというか・・・」
説明しずらそうにココロが話していると、咲夜はため息をつき、歩きだした。

「・・・ほら。どれをとっても、あんたらにしたら地獄なんだろ?だったら、目の前のことから当たればいい。怖いなら、星族一の諜報員である俺が行ってきてやろうか?狼でもなんでも、気づかれずに入る自信あるぜ。」
咲夜の不敵な挑発に、拝理は小さくため息をつくと、幸十の肩からそっと手を離した。

「・・・はぁ。わかった。これは太陽族の問題だ。私たちだけ行かない選択肢はない。」
拝理は愛用の弓を握り直し、鋭い視線で巨大な繭を見据える。
「念の為、いつでも戦闘出来るように、武器を持っとくんだよ。」

意を決し、一行はついに巨大な繭の ”口” へと足を踏み入れた。 薄暗い蔦の通路を抜けると、不意に視界が弾けるような光に包まれる。咄嗟に目を閉じ、再び開いた先には——深緑の爽やかな芳香と共に、息を呑むほど瑞々しい ”別世界” が広がっていた。

そこは、外の原生林とは一線を画す、極彩色の花々が咲き乱れる楽園。見上げれば、天井にまで縦横無尽に木々が枝を伸ばし、花が滴るように咲き誇る、自然が作り上げた芸術品のような空間だった。

狼たちの気配さえ感じさせない、静寂が支配するその最奥。

「キャン!」
待っていたかのように、一匹の小さな銀の狼が声を上げた。その隣には、この美しい庭園に似つかわしくない ”異物” が佇んでいる。
「・・・?」

それは、木々や蔦を編み込んで作られた、精巧な"人の形"を模した像だった。 幸十たちと同じくらい、いや、それより少し高いくらいの大きさからか、どこか生きているような感覚を与える。しかし、その姿は異様だった。身体の至る所に重々しい錆びた鎖・・・・が絡みつき、まるで地縛霊のように地面へと繋ぎ止められているのだ。鎖は朽ち果てているように見えて、なお逃れがたい呪縛のような威圧感を放っていた。
「・・・植物で作られた・・・像か?」
「キャン!」

何処か異様な雰囲気を纏うその像を、ジロジロとみるココロたちに、小さな銀の狼は嬉しそうに元気に鳴いた。
そして、幸十がその像に近づいた。
「・・・像じゃない。」
「え?」


すると——
"ゴゴゴゴゴゴゴ・・・"
「な、なんだ?!」
「地響き?!」
「っく、構えろ!!」

大地が激しく脈動し、一同が姿勢を低くする。揺れが収まった直後、咲夜が何かに気づき、喉を詰まらせて指をさした。

「っ!お、おい!!!あれ!!」
その先にあったのは、先ほどまで ”植物の塊” だと思っていたものの瞳。 深い緑を湛えたその眼球が、ギギ、と軋むような音を立てて——ゆっくりと動き出したのだ。

「うご・・・いた?」
「・・・生きているのか?」
戦慄が走る。ココロたちが息を呑む中、その人型の存在は、慈しむような視線を幸十たちへと向けた。 やがて、硬い樹皮が割れるようにして、その唇がゆったりと弧を描く。





"——おはよう。この地の子供たち。"

その声は風のざわめきのように優しく、しかし大地を揺らすような力強さを持って、静寂の庭園に響き渡った。




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