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王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第10話 その牙は、愛らしく鳴く

第10話 その牙は、愛らしく鳴く

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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】




"ちょんちょん"
「・・・いてっ。」
「あ、ごめんなさい。痛かった?」

消毒液の染みる痛みに、幸十さちとが顔を歪める。 タイヤン軍基地に到着した途端、問答無用でタイヤン軍隊長・玲王れおに叩きのめされた彼だったが、間一髪、救世主のように現れた女性によって、ココロたちとこの医務室へと運び込まれたのだった。

"ぺたっ"
「はい、おしまい。・・・本当にごめんなさいね。玲王れおに代わって謝ります。あの人は一度頭に血が上ると、もうどうしようもなくって。」
テキパキと手当てを終えた女性が、申し訳なさそうに眉を下げた。

「い、いえ・・・その、助かりました。」
ココロが代表して礼を言うと、幸十の隣のベッドで同じくボロボロになって転がっていた ”顔に布を被せている二人組” が、もぞもぞと口を開いた。

「姉さんが謝ることないっすよ!!」
「そうっす!!玲王れおが全面的に、横暴に、圧倒的に悪いんすから!」
布越しでも分かるほど顔をパンパンに腫らした二人の惨状に、拝理はいりが呆れたように問いかける。

「いつもこうなのか?」
「んー・・・まぁ、最近は特にピリついてるっすね・・・・。」
すると、ココロがすかさず口を開いた。

「あ、あの。俺たちは、太陽王直下調査部隊の隊員なんです。俺はココロといいます。こっちは幸十。訳あって、拝理はいりさんと・・・星族の咲夜さくやくんにも、同行してもらってます。」
「えっ、星族・・・!? うわっ!」
「ひっ!い、いつからそこにいたんすか!?」
「び、びっくりした・・・気づかなかったわ。」
幸十の隣に潜んでいた咲夜に、女性と二人組が目を丸くする。その様子に、咲夜は慣れたように、ため息をつく。一同の驚きをよそに、ココロは表情を曇らせ、本題を切り出した。

「その・・・ここに来たのは、”銀の狼”の件なんです。地方庁が襲われていると聞いて。」
「ぁあ~・・・」
その言葉が出た瞬間、室内の温度が数度下がった気がした。女性と二人組が、隠しきれない動揺を孕んだ視線を交わす。
すると——

"カツ・・・"
「帰ることを、強く勧めます。」
「!!」
背後から響いた冷徹な声。 いつの間にか入り口に立っていたのは、タイヤン軍隊長・玲王れお。一見穏やかそうな表情をしているものの、その瞳は一切笑っておらず、冷たい風を纏っているようだ。

玲王れお、そんなこと言わずに・・・外は危ないではありませんか。」
女性が止めようとするも、玲王れおは颯爽と歩み寄ると、ココロを射抜くような視線で睨みつけた。

「貴方たち・・・タイヤン地方庁に行きたいから、手伝って欲しいやらなんやら頼みに来たのでしょう?勘弁してください。」
「タイヤン地方庁が、銀の狼たちに襲撃されているのは知っているんですか?応援を呼んでも、来ないと聞きましたが・・・」
ココロが冷や汗を流しながら食い下がると、玲王れおは鼻で笑い、吐き捨てるように言った。

「っは!あの者たちは、自業自得・・・・なんですよ。」
「なっ・・・!!」
そのまま玲王れおは、振り向きもせず扉へと向かっていく。

「本部から来たか知りませんが、命欲しけりゃすぐ帰りなさい。我々は、手を貸す気はありませんから。」
"バタン!!!"
「・・・っ!」
鼓膜を震わせるほどの轟音を残し、玲王は部屋を去った。

(——どうしたものか・・・)
ココロが頭を抱えていると、拝理が布を顔にかけた二人組に聞いた。
「何があったんだ?」

二人組は顔を見合わせ、重い口を開いた。
「その・・・ちょっと前。”銀の狼”たちが暴走し始めた頃は、うちらも応援を送ってたんす。もちろん地方庁にも。でも・・・行った隊員たち全員、”遺体”で帰ってきたんです。」
「え、全員ですか?」
「うす。それに・・・これは他言無用っすが・・・妙なことに、その遺体、調べてみると狼たちの仕業じゃなさそう・・・・・・・・・・・・なんす。」
「狼たちじゃない?どういうことだ?」
拝理が眉間に皺を寄せると、二人は続けた。

「それが・・・。どう考えても、セカンドによる攻撃・・・・・・・・・なんす。」
「なんだと?それは間違いないのか?」
「うす。皮膚が焼けこげていたり、水による窒息死だったり・・・どう考えてもセカンドによる攻撃を受けていて。」
「・・・月族ですか?」

ココロが聞くも、布を被った二人組は首を傾げながら続けた。
「んー、その可能性も考えたっすが、どうも不可解で。最近じゃ、軍基地の周りにも不審な連中がうろついてて・・・。俺たちに攻撃まで仕掛けてきやがったんす。無線も届かないようにされてて。」
「攻撃!? つまり、”銀の狼”の騒動に乗じて、何者かが軍を狙っていると?」
「うす。たぶん・・・それで急いで、周辺の住民を軍基地に避難させて。何人か、怪我を負ったりしてるんで、余計玲王れおがピリピリしてるっす。ああ見えて、玲王れお、人情派の人っすから。」
不可解な話に、ココロは思考を巡らせていると——

「そう言えば、調査部隊って、コウモリ部隊のことっすよね?噂はシャムスのたける副隊長から聞いてますよ!シャムスでは大活躍だったって!あの夕貴軍隊長にも、ブイブイ言わせていたとか!!」
(シャムスの副隊長・・・あぁ。一度暴れ出したら止まらないあの人か・・・。)
ココロは、シャムスでの出来事を思い出しながら遠い目をした。

「あ、いえ、そんなことは・・・」
「紹介遅れました!俺たちは、タイヤン軍で副隊長・・・してる、真鹿まかと・・・」
布伎ふぎっす!!」
「え、タイヤン軍は副隊長が2人なんですか?」
「「うす!」」
元気よく答える二人に圧倒されていると、彼らは隣で微笑む女性に視線を移した。

「んで、この姉さんが・・・」
「あ、由空ゆあです。玲王れおです。」
「・・・・・・え」
一同が固まった。あの半狂乱な男に、こんなに優しそうな妻がいるのか。
しかし、追い打ちはそれだけではなかった。

「あ、それともう1人!お腹の中には、軍隊長のベイビー・・・・・・・・がいらっしゃるっす!!」
「え、ぇえ?!!?」

真鹿まかが嬉しそうに指した先——由空のふっくらとしたお腹を見て、医務室には今日一番の絶叫が響き渡った。




♢♢♢👶♢♢♢☀♢♢♢👶♢♢♢



"ザッ・・・"
「はあ・・・。実情は分かりましたが、応援を得るのは難しそうですね。」
あの後、タイヤン軍副隊長の二人に事情を話したココロだったが、反応は芳しくなかった。


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『え!死亡連絡が来たんすか?!それは・・・』
『ただ、隊員たちの遺体は帰ってきてないんです。それに・・・どうも状況がおかしく思えて。』
『なるほどっすね・・・。お手伝いしたいのは山々っすが・・・こればかりはどうにも。”銀の狼”のこととなると、玲王れお、本当に機嫌が悪くなるんす。由空さんにも、たまにキツくあたるんすよ!本当、酷いっす!』
『あんなの、ただ子犬がきゃんきゃん騒いでるみたいなものですから、大丈夫よ。それより、心配ね。最近、銀の狼たちも暴れていて、住民たちのほとんどは、軍基地に避難してるのよ。』
『それで全然人がいなかったんですね。銀の狼だけではなく、正体不明の刺客まで・・・とりあえず、ありがとうございました。少し・・・、別の方法を考えてみます。』
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タイヤン軍に応援を求める当初の計画は頓挫し、ココロたちは頭を抱えていた。打開策を模索する彼らの傍らで、咲夜がふと宙を睨むように呟く。

「あのイかれた軍隊長。”自業自得”って言ってたが、太陽族は、”銀の狼”に何かしたのか?」
その言葉に、ココロは考えを巡らせていると——


"・・・ッス"
地面に座って退屈そうに雑草を食べていた幸十が、突然立ち上がった。その視線は、一点に釘付けになっている。

「幸十?」
ココロが幸十の視線を辿ると、そこには——





「キャン!」






「え・・・」
「あれ・・・は・・・」
子犬・・・・・?いや、銀の・・・?」
幸十たちの目の前に、銀色の毛並みを持つ小さな狼が、まるでそこで彼らを待っていた・・・・・かのように座っていた。愛嬌を振りまくように、元気よく尻尾を振っている。その瞳は、純粋な好奇心に満ちていた。


「キャン!」
子犬ほどの大きさしかないその小さな狼は、警戒心もなくココロたちを見上げ、”会えて嬉しい” と言わんばかりに、再び可愛らしい鳴き声を上げた。




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