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王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第9話 タイヤンの軍隊長

第9話 タイヤンの軍隊長

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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】




眼下に広がるのは、太陽族の守りのかなめ——タイヤン地方・・・・・・。 そこは、宿敵である月族の領地と唯一地続きで接する、血と硝煙の歴史が染み付いた最前線だ。


「・・・ここ数年で、武器職人たちの腕が、格段と・・・上がっているようだ。」
ココロと幸十は、ソール軍元副隊長の拝理はいりと、星族の咲夜さくやを引き連れ、タイヤン地方に訪れていた。
現在、コウモリの翼を広げ、飛行での移動の最中である。当初、かなり構えていたものの、今のところ”銀の狼”たちにも遭遇せずにいた。

「元々タイヤンにいる武器職人たちは、精鋭が多いと認識してますが・・・”格段と”、ですか?」
「あぁ。前・タイヤン軍隊長であり、前・元帥である嵐牙らんがさんが、月族にやられた事は知ってるか?」
「はい。少し聞きました。全身の血を抜かれていたとか・・・。」
「以前のタイヤン軍は、嵐牙らんがさんの圧倒的な”個”の力でもっていたようなものだった。あの人は ”天神てんしん” の中でも名実ともにトップ・・・まさに軍神だったよ。だがその彼が、唐突に現れた月族の天神に敗れ、全身の血を抜かれて敗れたあの日から、タイヤンは崩壊しかけていた。」
拝理の瞳に、かつての惨状を思い出すような苦い色が混ざる。

「・・・1人いなくなっただけで、そんなことになるんですね。」
「私も驚いたよ。突破口を開かれ、月族の侵入を許すことが頻発した。・・・だが、それを救ったのは一人の英雄ではなく、”タイヤンの武器・・・・・・・”だったんだ。地方庁が突然、武器職人の強化を始めてからというもの、タイヤンのセカンドたちは、驚異的な強さを手に入れ始めた。」
「武器だけで・・・そんなに戦況が変わるものなんですか?」
「さあな・・・。知っているとは思うが、タイヤンの武器はどれも不気味に”緑色”に発光している。その製造法はセカンドにも伏せられた秘伝だ。さらに不可解なのは、その武器はプライマルでも使えるということだ。セカンドの力を溜め込み、プライマルがそれを放つ・・・その最たるものが、5年前の戦いでも猛威を振るったタイヤンの緑砲・・・・・・・だ」

ココロは眉を寄せた。本来、セカンドの強力なエネルギーを浴びることは、プライマルの肉体にとって毒になると言われている。”コウモリの翼”に備え付けられている麻痺針などが限度。敵を滅するほどの力を、プライマルが操るなど不可能のはずである。
(タイヤンの武器のことは、幼い頃から聞いたことがあったが・・・。やっぱり何度聞いても謎だな。)

考え込むココロの視界の端で、拝理が前方を指差した。
「あ、あれだ。タイヤン軍基地。あの緑と黒の建物。」 
「あれが・・・」

視線の先には、ソールやシャムスの基地とは比較にならないほど巨大で、異彩を放つ要塞が鎮座していた。緑と黒のコントラストが、まるで巨大な毒蜘蛛のように大地に張り付いている。
「ちなみに・・・今の軍隊長・・・・・は、その”緑の武器”や”緑砲”の使用を原則禁止・・・・にしている。」
「えっ、あんなに強力なものを、なぜ?」
「・・・明確な理由は述べないそうだ。私も、今の軍隊長は遠目で見たことがあるくらいで、よく知らないが・・・。多聞たもん軍隊長がよく頭を抱えている。確か若いんだ。就任した時は、まだ10代後半だったんじゃないかな。今は20を超えてるだろうが、それでも前半くらいだと思う。」
「かなり若いですね。確か、前軍隊長の息子さん・・・ですよね。」
「そうらしい。」

拝理の事前情報を聞き、ココロは対策を考えようとするも、謎が多く、今は諦めることにした。
「幸十、もう降り・・・」

"もきゅ、もきゅ、もきゅ"
「おい!こいつ、本当おかしいぞ!飛行中、背中のデカい包みから食料取り出して、ずっと食べてるんだ!!」
同じ翼に乗る咲夜が、幸十を ”こいつは人間か?” と言わんばかりの引きつった表情で見つめている。

「あれ、いつの間にいたの?」
「お前まで、俺を透明人間扱いしたら許さないぞ!」
口いっぱいに ”おむすび” を頬張る幸十が、隣にいる咲夜を不思議そうに見つめる。騒がしい二人を前に、ココロは太陽城出発前の出来事がふと脳裏に蘇った。

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『いいか!豆じぃたちに、大量のにぎりを用意してもらったから、そこら辺のもの食べて迷惑かけんじゃねぇぞ!!馬もだぞ!!いや、待て。これじゃ、一瞬で無くなるな。おい!豆じぃ!もっとだ!!』
『・・・・・・。』
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幸十の無限に広がる胃袋のため、出発前に伊久磨いくまが持たせた大きな大きな包み。その中には、沢山のおむすびが詰め込んである。
伊久磨いくま・・・。鳥界境ちょうかいきょうの一件から、幸十に対して過保護になっている気がするが・・・。まぁ、いいか。)
「あー・・・お気になさらず。」
もはや突っ込む気力もないココロは、投げやりに流した。

「とりあえず降りるぞ、幸十。・・・食べてないで。」
"もきゅ、コクリ。"
口をいっぱいに膨らませたまま頷く幸十。 一行は、多くの謎と、一抹の不安、そして若干の脱力感を抱えたまま、緑の光を放つタイヤン軍基地へと舞い降りた。




♢♢♢🍙♢♢♢☀♢♢♢🍙♢♢♢



タイヤン軍基地の正門。 光を吸い込むかのような漆黒の門は、訪れる者を拒絶する荘厳な空気を放っていた。

「なんか・・・おかしくないか?人っ子1人いない。太陽族はこうなのか?」
「確かに・・・」
星族の咲夜が、不気味そうに周囲を警戒する。 確かに、太陽族最大規模を誇るはずの基地に、セカンドの影すら見当たらない。その静寂に、ココロと拝理も知らず知らずのうちに肩を強張らせていた。
すると——

"よじよじ・・・"
「・・・?え、ちょ、幸十?!?」
ココロが辺りを見ていると、視界に入ったのは、タイヤン軍基地の外壁をよじ登る幸十だった。

「なんか、良い匂いがする。」
「な、何やってるんだ!やめろ坊主!!」
拝理が慌てて叫んだ、その瞬間だった。





"ザッ・・・"



「そこの君。」





冷や水を浴びせられたような、低く、透き通った声が頭上から降ってきた。
「——?」
「何を・・・していやがるんですか?」

いつのまにか、外壁の上に人影が現れた。
緑を基調とし、所々茶色が混ざる特徴的な髪をハーフアップに束ねた髪型。タイヤン軍を示す緑色とオレンジのラインの隊服に、肩には軍隊長のみに許された重厚なマントを羽織っている。
何より目を引くのは、頬に埋め込まれたオレンジ色に輝く宝石のような結晶——そして、獲物を定める猛獣のように、ぎらついた冷徹な瞳だった。

年齢も、あまりココロと大差なさそうな若さに、咄嗟にタイヤンの軍隊長だと察したのと、その影が動いたのは、ほぼ同時だった。

"シュンッ!"
「?」
"ガッ!ドシーーーーン!!!"
目では追えない速さで、幸十の胸ぐらが掴まれる。そのまま、逃げる隙も与えず地面へと叩きつけられた。

「っ、幸十!!!」
凄まじい衝撃音とともに砂埃が舞う。 埃が静まった時、そこには白目を向いて気絶する幸十と、その上に無慈悲に跨がるタイヤン軍隊長・玲王れおの姿があった。

「ま、待ってください!!!」
ココロが必死に叫ぶが、玲王の瞳には何の情も宿っていない。ただ、拝理でさえも後ずさるほどの圧倒的なプレッシャーが、そこにはあった。

「貴方たちも・・・この侵入者の仲間でしょうか?」
「・・・っ、侵入者というか・・・壁をよじ登ったのはすみません。お腹を空かせていたみた・・・」
話し方は一見丁寧そうだが、その裏にある狂的な威圧感。それを察知したココロが弁明を試みた、その矢先。

"バコンッ!!!"
「なっ・・・?!」
玲王は問答無用で、気絶している幸十の顔面を殴りつけた。

「まぁ飽きもせず、よく何人も送ってきますね・・・・・・・・・・・・・。私がここにいる限り、無駄なことだと何故学ばないのか。」
間髪入れず、幸十を殴り始めたタイヤン軍隊長。その姿は、話し方とは裏腹に、何処かコントロールが効かなくなった獣のようだ。タイヤン軍隊長の言葉も含め、ココロは困惑していると・・・

"バシッ!"
「・・・?」
再び振り下ろされようとした拳を、拝理が咄嗟に弓を差し込んで受け止めた。 玲王の視線が、獲物を変えるように拝理へと移る。

「ああ・・・ははっ、あんたでしたか。ソールの副隊長・・・いや、”太陽の核”を侮辱した裏切り者。ふーん、これは捕らえがいがありますね。誰の歯車・・として動いているのか、吐いてもらいますよ!」
「歯車・・・?何のことだ!!」
震える手で拳を押し返す拝理。まるでライオンに睨まれた小動物のような絶望的な力の差が、そこにはあった。

"ガチャ"
「なんか凄い音が・・・って、ぇえぇえ?!?!」
「れ、玲王れお!?何やって・・・って、拝理さん?!どうしてここに?!」
その最中、門の中から顔を布で覆った、二人組が飛び出してきた。その二人も、緑とオレンジのラインが入った隊服を着ている。その姿に、少しホッとした表情を見せる拝理。

「ってか、玲王れお!その下敷きになってるの、誰っすか?!」
「・・・敵。」
「違います!!」
すかさずココロが入った。

「俺たちは、太陽城から来た、太陽王直下調査部た・・・」
"シュンッ"
「え」
言い終わるより早く、玲王がココロの目の前にいた。 その細い指先が、万力のような力でココロの胸ぐらを締め上げる。

「あんたらですか。”太陽王直下・・・・・”とかぬかしている輩は。」
温度の消えた笑顔。それが、何よりも恐ろしかった。

「そ、そうです・・・けど!!・・・タ・・・タイヤンで起こって・・・いる・・・ことで・・・」
「んーーー?」
ココロが苦しそうに話しているも、高圧的な笑顔を向ける軍隊長。

(こ・・・この人!!全然話が通じないじゃないか!!)
ココロが心の中で叫んでいると、門から出てきた二人組が慌てて、タイヤン軍隊長を取り押さえようとした。

玲王れお!!だめっすよ!!ほら、太陽城からわざわざ来てくれたっぽい・・・」
「黙れ。」
"ガアァァァァアアン!!!"
「!!!」
ココロの目の前で、タイヤン軍の隊員と思われる一人が、思いっきり殴り飛ばされた。あまりの光景に驚き呆然としていると、もう一人の隊員も止めに入ろうとして——

"バシーーーーーン!!"
拳一つで飛ばされてしまった。
もうこの状況を、どう収集したら良いのか、ココロが頭を抱えていた時——



"ぱしっ"
乾いた音が響いた。 玲王の頭を、筒状に丸めた紙が容赦なく叩いたのだ。

「?」
「・・・っ!」
そこに現れたのは、軍服も着ていない、ゆったりとした服を纏った一人の女性だった。 彼女のお腹は大きく膨らんでいる。



「何してるんですか。その子、苦しそうじゃないですか。離してあげてくださいな。」
「・・・・。」
あれほど狂暴だった玲王が、その女性に叱咤された瞬間、石像のように硬直した。 反撃するどころか、言葉すら返せない。だが、ココロを掴む手だけは、まだ離そうとしなかった。

「離してあげて、玲王れお。」
静かな、けれど絶対的な拒絶を孕んだ声。


「・・・はぁ。」
”ドサッ!”
「・・・っか、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
溜息をつきながらココロを離すと、そのまま何も言わず、門の中に入っていってしまった。その様子に、女性はお腹を抱えため息をつくと、ココロに手を出した。


「大丈夫?」
心配そうにする女性に、ココロはもう何が何だか、よく分からず混乱していた。



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