見出し画像

王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第1話 始まりの鐘が鳴り響く

第1話 始まりの鐘が鳴り響く

===================
<<前話   第4章一覧   次回>>
===================
!!!同時公開中!!!
王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】





"タッタッタッタッタ!!!"




太陽族領地、東に位置するタイヤン地方。

ここは、太陽族領地で唯一、月族領地と境界を面する地方である。
境界付近は、鬱蒼と生い茂る森が続き、ここは太陽の光も、月の光も入らない真っ暗闇が続く。



"タッタッタッタッタ!!"
"キィィィィィイン!!!"
「・・・っち。」

そんな場所を、電光石火のごとく走り抜けていく青年が1人。

"タッタッタッタッタ、ッタン!!"
"グィッ、バサっ!!!"

紫紺しこんの隊服胸元に付けられた、太陽型ブローチの金具を強く引き、”コウモリの翼・・・・・・”を広げ飛び立つ。
その背後には、数体のマダムが鋭い鎌のような手で、襲いかかろうと向かって来ていた。

艶やかな黒紫の髪を靡かせ、そこから覗く切れ長な力強い瞳をマダムたちに向ける。そして、整った眉毛を顰め唱えた。


「セカンド、雷の解放。」
"ピカッ!!"



同時に、彼に光が集まり、いつのまにか両手には武器が持たれていた。
そして、背後のマダムに、長いまつ毛の瞳を向けると・・・

「第六血響 雷轟双龍撃らいごうそうりゅうげき!!!!」
"ドォォォォォォン!!"
"キィィィィィイン!!"

両手に握っていた武器を力強く振り回し、閃光を伴ってマダムたちめがけて投げ出された。武器は見事にマダムたちを捕らえ、雷の刃をあびせる。それはまるで、龍が波打つかのように向かっていった。
断末魔のような叫びを、周囲に響かせるマダムたち。ほぼ大半のマダムたちが焼けこげる中、数体がまだ動き出そうとする。
しかし——

"ガシッ、タッタッタッタッタ!シュン!"
「お前らには用はない。」

"ザシュ!シュッ!!!"
"バタッ・・・"
一瞬の隙も与えず近づくと、戻ってきた武器を手に取り、残りのマダムを容赦なく切り裂いた。無駄のない動き。数体のマダムを、的確に捕らえ倒す威力。彼に不可能なことなどあるのかと感じさせる。

「ったく、・・・・・不愉快極まりねえ。」
また、陶器のように滑らかな肌に、マダムの濁った血飛沫がつくも、それさえも彼の容姿を引き立たせる道具のようだ。




"ジジッ・・・ぎ・・・し・・・紫戯しぎくん、大丈夫ですか?"




そんな彼のブローチから、太陽王直下調査部隊 隊長、坂上さかがみの滑らかな声色が発せられた。

「・・・おい、どこにいんだよどもは。マダムザコしかいねぇぞ。」
"こらこら、犬だなんて言わないでくださいよ。"
「ここにいるって言っただろ。境界付近じゃねえのか。」
"集めた情報ですと、そのはずなんですが・・・"

坂上の曖昧な返事に、紫戯はため息をつくと、”コウモリの翼”を閉じ歩き始めた。
周りは、鬱蒼とした森が続く真っ暗闇。頼りになるのは、太陽のブローチから漏れる光のみ。

「ったく・・・お前の・・・だろ。ちゃんと首輪つけとけ。」
"いやぁ・・・あはは。恥ずかしながら、力を剥奪された身・・・・・・・・でして。これでも頑張ったほうです。褒めてください。"
「っち。」

坂上の言葉に、紫戯は舌打ちをしていると、何やら坂上の無線がざわついた。
"・・・え、あ、もう行かないと。がくくん、ミドリさん、すみません先に行っててください。すぐ行きます。・・・紫戯くん。すみません、そろそろ"太陽たいようかく"に行かないと、バンくんに本当に締め殺されちゃいます。お一人で大丈夫ですか?"

坂上が、焦っているのか少々早口で話していると——


"キィィィィィイン・・・"
「・・・マダムザコがまた湧いてきやがって、ろくに調査できねぇ。」

真っ暗闇の中、マダムの鋭い赤い瞳が灯り、紫戯を囲う。

"そうですか。・・・では、ソールにいる琥樹こたつくんに、紫戯くんと合流するよう伝え・・・"
「断る。」
"まぁ、そんなこと言わずに。"
「マダムよりも厄介なやつ、よこすんじゃねえよ。」
"じゃ、よろしくお願いしますね!ブチッ"
「・・・・・・・。」

紫戯は眉間に皺寄せ、無線が切れたブローチを睨む。しかし暫くして、諦めたかのようにため息をつくと、再び武器を構える。
暗闇の中、を尖らせ、マダムの探る。
(5・・・7・・・9・・・)
「・・・ん?」

マダムが何体いるか探っていると、紫戯はふと違和感を覚えた。
——マダムではない。人間でもない。セカンドのような力も感じない。しかし、単なる動物では片付けるのは難しい気配。

"ッサ・・・"

紫戯は勢いよく、その異様な気配のする方へ体を向け光をさした。
すると——




"——ドドドドドドドド・・・!!!"



「っ・・・やっとのお出ましか。」
何かを見つけた紫戯は、コウモリの翼を広げる。そして、咄嗟に近くの高い木に登り、下に視線を向けた。


視線の先にいたのは、金色の鋭い眼光を放ち、剥き出しの牙を湛えた一頭のだった。白銀・・の毛並みに覆われたその体躯は、通常の数倍はあろうかという巨木のような逞しさで、見る者を圧倒する威圧感と、どこか神聖な気高ささえ感じさせる。だが、驚愕はそれだけでは終わらない。背後から現れた十数匹もの群れが、銀色の波濤となって大地を猛然と駆け抜けていく。


"アオーーーーン!!!"
"ダダダダダダダダダダダダダダダ!"

先頭にいた狼が遠吠えを発したと同時に、よりスピードが加速していく。

"ダダダダダダダダダダダダ!!!"
周辺にいるマダムなど目もくれず、そのまま太陽族領地一直線に走り去っていく。むしろ、狼の群に轢かれ倒れていくマダムもいた。

(——あの方角は・・・)

その様子を、高い木から見下ろす紫戯は、狼たちが走り去って行く方角に目を向ける。
(・・・様相も全く変わりやがって。何を急いでやがる。)

思考を巡らせていると、紫戯は再び武器をとり——
「第四血響、稲妻の裂空いなずまのさっくう!!」
"ザシュ!ピリッ!"
"キィィィィィイン!!"

どさくさに紛れ、背後に近づいてきていたマダムたちを、目にも留まらぬ速さで仕留めた。——と同時に翼を広げ、走り去っていく”銀の狼”たちの後を追って飛んでいった。






♢♢🐺♢♢🌙♢♢🐺♢♢



”サァァァァァァァァァァアアア・・・”
”コツ・・・コツ・・・コツ・・・”




——太陽城 地下 ”水龍すいりゅう監獄かんごく
太陽城を囲う宝石湖の底・・・・・に、その監獄はある。 囚人たちが投獄されるのは、水圧に耐え、辛うじて形を保つ薄い膜のおり。 その頼りなく揺らめく空間こそが、彼らに許された唯一の生存領域である。

「膜を破れば、容易に脱出できる」——そう考える者は、瞬時に己の愚かさを知るだろう。膜に裂け目が生じたが最後、容赦なき水流が肺を満たし、なす術もなく窒息の深淵へと引きずり込まれる。彼らを守るその薄膜は、同時に、指一本触れることすら許さない絶対的な禁域なのだ。

この領域への侵入は、城の番人・・たる水龍・・に認められた者のみに許される。招かれざる者が一歩でも踏み込めば、水龍の牙が如き激流が、その存在を跡形もなく飲み込むのだ。

だが——今。 その絶対の法則が、蹂躙されようとしていた。
死の静寂に包まれた地下牢に、不遜極まりない足音が響き渡る。
その人物が歩を進めるたび、絶対的な質量を誇るはずの湖水が、まるで何かを恐れるように左右へ退いていく。 彼が通った後には、深海にあってはならない、枯れた道だけが残された。

やがて、足音はとある檻の前で止まる。

そこに投獄されていたのは、月族のヌチ。 鳥界境ちょうかいきょうにてソール軍軍隊長に捕縛され、先の戦闘の果てに、生きているのが不思議なほど原型を留めていない肉塊と化していた。

辛うじて残った一つ目が、檻の外に立つ影を捉える。 光なき深淵。だが、ヌチの魂は、目の前に現れた存在が放つ、巨大すぎる威圧感を瞬時に理解した。 視覚など不要。その存在が、絶対的でこの世の全てだと本能が叫んだのだ。

(・・・!?た、たたたたたきぎ!!!)

ヌチの驚愕をよそに、その人物——たきぎと呼ばれた男は、ヌチを隔てている薄い水の膜に、無造作に手を触れた。

「・・・・なんとも滑稽な。」
底冷えするほど低い声が、水底に響く。

世界最強と謳われる水龍・・・・・・・・・・・ごときが、この程度の玩具しか作れんとは。嘆かわしい。」
たきぎが、膜に触れた指先に僅かな力を込める。 たったそれだけで、囚人を絶対的に支配していた檻が、砂糖細工のように呆気なく崩れ去っていく。
その光景に、ヌチは恐怖と同時に、浅はかな歓喜に震えた。這いつくばり、救い主へと残った肉塊を伸ばす。

(た、たきぎ様が、俺を、た、助けに!!!)




"グシャ!!!!"



思考が物理的に両断さた。そして、乾いた破砕音が、水底の静寂を切り裂く。
たきぎは、檻から這い出ようとしたヌチの頭部を片手で鷲掴みにし——そのまま、握り潰したのだ。 なんら特別な動作ではない。まるで羽虫を払うかのような、無慈悲な一撃。 たきぎが掌を開くと、かつてヌチだったものが、ボトボトと湿った音を立ててこぼれ落ちた。

「・・・・・。」
たきぎは無感動にその残骸を見下ろす。 すると、砕けた肉塊から、ゆらりと毒々しい赤い煙・・・が湧き上がった。煙は生き物のように蠢くと、たきぎの身体へと吸い寄せられ、その肌へと溶けるように吸収されていく。

「使えぬ駒。選ばれなかった屑。価値のない命が呼吸を続けるのは、世界に対する”無礼”だと思わないか。」

冷徹に吐き捨てる。 だが、赤い煙を吸い込んだ次の瞬間——彼の様子が一変した。
「——ぐ、ぅ・・・・っ!!!!!」

突如として、激しい頭痛に襲われたように頭を抱え、完璧だった姿勢が崩れ始めた。そして、 冷徹だった声色が、一瞬にして憎悪に満ちた獣の咆哮へと変わる。

「全く・・・! どいつもこいつも・・・!!私を何度も、何度も何度もイラつかせ、この怒りを増長させることしかできんのか!!!あぁぁぁぁああ!!嗚呼、忌々しい!忌々しい!!!!! 壊れてしまえ、何もかも!!」

激情が頂点に達した、その時。




"ドォォォォォォン!!!!!"





——深海ではあり得ない現象が起きた。 地下牢全体が、一瞬にして灼熱の爆炎に包まれたのだ。
絶対的な質量を持つはずの湖水が、瞬時に沸騰し、蒸発する。 水龍の加護など消し飛んだ。先ほどまで監獄を形作っていた岩盤も、檻も、全てが融解し、形を失っていく。

その破滅的な爆心地では、 沸き立つ熱湯と蒸気の中で、ただ一人、紅蓮の炎を纏うように佇む影・・・・・・・・・・・・・があった。
たきぎは、恨めしそうに顔を覆い、周囲の惨状を睨みつける。その双眸は、狂気と憎悪で血走っていた。

「はっ!途中で食い止めたか、水龍め!!!小賢しい真似を。憎い憎い憎い。——あっはっはっはっは!だが愉快!!」
高笑いしたかと思えば、再び苦悶の表情で自身の胸を鷲掴む。

「はぁー・・・くそ。あいつを飲み込んでから、どうにも制御が利かん。全く、煩わしい。」
彼は歪んだ笑みを浮かべ、水底から遥か上空にある太陽城を見上げた。



「さぁ、"始まりの鐘"を鳴らしたぞ。存分に藻掻き、叫ぶがいい。 この世界が "健やか" であればあるほど、私はより高く、よりくらく燃え上がる。偽りの平穏を貪る者たちよ、心して待て。 お前たちが何よりも愛するその "喜び・・" の裏側に、どれほどの地獄が積もっているのか・・・それを知り、絶望に喘ぐ姿が楽しみだ。」




呪詛のように呟き、怪物は崩壊した地下牢を後にする。 彼が歩み去る背後で、蒸気が揺らぎ、その姿が露わになった。

冷たい水の底で、そこだけが燃えているかのような——“怒り・・”を象徴する、禍々しい真紅の髪・・・・・が。



次回>>




よろしくお願いします!!!

いいなと思ったら応援しよう!