王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第35話 絶対的なオルカ
第35話 絶対的なオルカ
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

——時は遡り、ヒナギクの塔。
そこでは、息を吹き返したタイヤン軍隊長・玲王と月族天神・オルカとの壮絶な攻防が繰り広げられていた。
"ガンガン!キン!ガキィィィイン!!!"
「・・・っく!」
「キャハハハハハ!!あんなに虚勢はって!!こんなもんなのお!?」
"カキン!ガンガン!!"
(・・・っ、こいつ。どうなってやがる?あんだけ血を流しておいて、まったく体力が落ちねえし・・・。何より・・・)
「っ、第七血響 絶対演算・千裂の歯車!!!」
"ドシーーーーン!!!"
玲王の繰り出す歯車たちが、風を纏い、計算された軌道でオルカに命中。鋭利な歯車がオルカの左腕と右足を勢いよく切り裂き、そのまま肉体ごと遥か彼方へ吹き飛ばした——はずだった。
"ズゥゥゥゥウン!"
「・・・っ!?」
「キャハハハハハ!いいねえ!いい!楽し~い!!!!」
"ガキン!!"
(・・・っ、切った腕と足が・・・生えてるだと?!!)
吹き飛ばされたはずのオルカが、瞬く間に目の前へ迫りくる。先ほど切り飛ばしたはずの腕と足は、断面から気味の悪い蠢きを見せ、何事もなかったかのように再生していた。
腕を切り落とそうが、心臓を貫こうがびくともしない。どんなに猛攻を浴びせても衰えるどころか、むしろ勢いを増していくオルカの脅威的な存在感に、玲王は驚きを隠せない。
その最中——地上では、琥樹が頭上で繰り広げられる玲王とオルカの異次元な猛攻に、戦々恐々と身を縮めていた。
2人の動きは琥樹たちの目ではとても追えるものではなかったが、一つだけ確実に分かることがあった。 ——それは、玲王が圧倒的におされていること。
”捕食植物” に捕らわれ、オルカの血の槍を太ももに刺されたのだ。立っていることすら奇跡に近い。琥樹は顔を真っ青にしながら、周囲の凄惨な状況に目を配った。
(あの気持ち悪いぬいぐるみたちは、どっか消えたみたいだけど・・・。子供たちは、もう限界・・・意識失ってるし・・・。拝理さんも、あの状態でずっといたら死んじゃう。由空さんなんて、ずっとお腹抱えて苦しんでるし・・・。お腹の中の子も死んじゃったら、俺も殺されちゃう!!)
頼りの軍隊長が危機的状況の今、残された希望は巨大化したワンコと背に広げる ”コウモリの翼” のみ。
「もう!!どうしたらいいの!!!」
琥樹が頭を抱えていると——
”ドン!”
「ガウ!!」
「・・・?なんだよ。」
ワンコが琥樹の身体へ、力任せに頭突きをかましてくる。何か伝えたいのかと困惑する琥樹に対し、ワンコは頑なに頭上で戦う玲王たちを指し示すように、何度も頭突きを繰り返した。その意味に気づいた琥樹は、一瞬で顔が真っ青になった。
「ま、まさか・・・お、おおおお俺に軍隊長を助けろとか言ってないよね?!?!」
「キャンッ!!」
元気よく答えるワンコに、琥樹はワンコの頭を掴んだ。
「やだ!!絶対絶対絶対無理!!セカンドの力、今使えないし!!いや、使えても無理だよ!!俺はポンコツなの!もう分かったでしょ?!!見なよ!!あれ!!怪物たちの・・・」
どれだけ自分がポンコツかを力説すると同時に、頭上のオルカを一瞬、視界にとらえた時——ふと、ある異変に琥樹は口を閉じた。
(あの腰の赤いやつ・・・なんか流れてる?)
激しく交錯する一瞬、オルカの真っ白なマントの隙間から、腰元に装着された ”赤い防具” が見え隠れした。そこには、蛍光色のような真っ青な液体が脈打つように流れ、激しい戦いになるほど勢いよく流れてるように見える。 ワンコの頭を掴んだまま思考を巡らせる琥樹は、ふと、自身の胸元にある太陽のブローチを光らせた。
「・・・うっ。」
闇の奥に浮かび上がったのは、マダムが眠る不気味なカプセルの群れ。激闘の余波で幾つかのガラスは粉砕し、中の怪しい液体が、形の崩れたマダムたちと床へ広がり出している。 琥樹は強烈な吐き気を押し殺しながら、光で部屋の奥を照らし出し——ある一角でピタリと動きを止めた。
「・・・?あれは・・・」
「ワフ?」
琥樹とワンコの視線の先。部屋の端に置かれた巨大な棚に、これでもかと ”大量の薬瓶” が隙間なく敷き詰められていたのだ。 離れた場所からでもハッキリと分かる。あの瓶の中に満たされているのは——。
(あの薬瓶・・・あの天神の腰に流れてるのと、同じ青い液体・・・?)
真っ青な液体が敷き詰められた瓶。
オルカの腰に流れる真っ青な液体。
オルカの血を媒体とした異形の一撃。
脳内でパーツが噛み合いかけた瞬間、琥樹は恐ろしさのあまりブンブンと頭を振った。
「・・・・いやぁ、まっさかあ。あはは。そんなの無理だよ、無理。」
首を傾げるワンコを前に、琥樹は乾いた笑いを漏らしながらも、冷や汗を止めることができない。
「いや、ありえないよ。だって・・・セカンドの力って、体内の血に流れているから使えるんであって・・・血と一緒に外に流れたら、消えちゃうって言われてるんだよ?それを・・・流れた血そのものを凶器にするとか・・・そんなことを可能にする薬があったとしたら・・・なんて、俺、考えすぎだよね・・・だよね?!!」
恐怖に包まれる琥樹は、ワンコの肩を掴み、自身の考えを否定するかのように思いっきり揺らす。
セカンドの力は、体内で力を練り上げ、血響を駆使することで、攻撃の型として放出することができるのが一般常識だ。
しかし、血と共にセカンドの力を体外に流してしまった場合、その力は消えて無くなってしまう。そのため、セカンドが戦場で血を流すことは、力を失うことに直結する。
しかし、目の前のオルカは、その法則を真っ向から凌駕している。
まるで、外に出した血が凶器となるかのように大量に放出し、流れた血を変幻自在に扱い攻撃してくる。
そして、それに関係にするかのように、オルカの腰あたりにつけられた管に流れる真っ青な液体。
(もし俺の考えがあっていたら・・・勝ち目なんて・・・)
琥樹はもう考えたくなかった。
その考えがあっていた場合、血を大量に流し力を無くしていく玲王が、血を流すことで戦えるオルカに勝ち目などないからだ。
圧倒的な相性の悪さと構造的な絶望が、琥樹の全身を縛り付ける。
絶望に飲まれかけたその時——。
「キャウン!!!」
「?」
ワンコが頭上に向かって引き裂くような警戒声を上げた。 琥樹が弾かれたように見上げると、そこには目を疑う光景が広がっていた。
「え・・・・・・。う・・・嘘でしょ?」
そこにいたのは、全身を血で染め上げられ、ぐったりと力なく垂れ下がる玲王の姿だった。 オルカの小さな指が、玲王の首をガッチリと掴み上げている。玲王にはもう、指一本動かす力すら残っていない。対するオルカは、傷一つ残さず不気味な余裕を浮かべていた。
その光景は、さらに琥樹を絶望へと追いやった。
「全くさあ・・・結局こうなんだよねえ?誰も僕には勝てないんだって。そろそろ分かった方がいいよ。・・・ぁあ。そうそう。思い出した。君の父親だっけ?あの天神もそうだったよ。僕に勝てっこないのに、諦め悪く攻撃してきてさあ。・・・なんか面白いから、奴の血、ぜーんぶ抜き取ってあげた!キャハッ!やったことなかったからさあ、どうなるかワクワクだったんだけど・・・やっぱり君たちのようなただのセカンドは、血を抜くと力失っちゃうんだよねぇ。残念。僕みたいに、選ばれれば、そんなこと気にしなくて良くなるのに~。」
オルカが嬉々として、残酷な事実を口にする中——。
「・・・れ、・・・が。」
「ん?」
首を締め上げられたまま、玲王が途切れ途切れに血を吐き捨てた。
「だま・・・れ。化け物が。」
「・・・っ。」
その玲王の言葉が、オルカの記憶を呼び起こした。
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『黙れ!!!人の形を成した化け物が!!!』
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その瞬間——
"ギュュュュユウ!"
「ぐっ・・・!!」
オルカの表情から笑みが消え、冷酷な殺意と共に玲王の首骨を砕かんばかりに握りつぶす。
「まじで言葉慎みなよ。今、君の命は僕の手のひらの中だよ。いつだって殺せるし。・・・そうそう、君の父親。血を抜かれ始めたらさ、塩らしく許してくださいって震えだして。キャハハ!まぁ、それが本能なんだろうけどさ。まーじで萎えたわ~。・・・そうだ、君も一緒か試してみようか!親子だし、きっと一緒かも・・・」
オルカが、赤い防具から管を伸ばしだし、苦悶する玲王の腕へ突き刺そうとした——その瞬間。
"シュュュュュュュュユウ、グサ!!!!"
「!?」
玲王の首を掴むオルカの腕に、目にも留まらぬ速度で ”一筋の緑光” が突き刺さった。
(緑の・・・短剣?)
オルカの腕に刺さったのは、緑色の短剣。玲王はそれが、タイヤン地方の武器職人が作ったものだと直感した。弾かれたように地上を見下ろすと——そこには、激しく肩を上下させながら、なおも数本の ”緑の短剣” を構える由空の姿があった。
「はぁ・・・はぁ・・・私の・・・旦那・・・はぁ、はぁ、に・・・手を出したら・・・っ、許しません!!!」
お腹を押さえ、鬼気迫る形相でオルカを睨みつける由空。
「・・・・なにこれ。妙に痛いんだけど。」
オルカは刺さった短剣に、底知れぬ不気味な視線を向ける。刃の根元からは、再生の兆しもなく不自然に血が垂れ流されていた。
しかし、オルカは痛がる素振りすら見せず、歪んだ歓喜に口元を釣り上げる。
「旦那・・・。キャハ!なるほどお。君たち・・・夫婦なんだあ。」
その瞬間——
"シュン!!!"
「・・・っ!!!」
「カッ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・ゆ、由空!!!」
玲王をゴミのように投げ捨てたかと思うと、オルカは一瞬で地上の由空の眼前に迫った。容赦なく、その華奢な首元へ、小さな指が喰らいつく。 玲王は血反吐を吐きながら、由空の元へ向かおうとするが——。
"ヒュン!ヒュンヒュンヒュン!!!"
「・・・っくそ!第四血響、絶対演算・円環の牙!!!」
どこからともなく飛来した血の刃が、玲王の全方位を閉じ込める檻となる。
"グググググググ・・・!!"
「・・・っ!」
「キャハッ!こっちの方が面白いね!!そのお腹は君らの子供ぉ?!いいね、いいねぇ!!2人とも目の前で無惨に殺されて、悔しがる太陽の天神の顔、見たいなぁ!!きっと、理性なんてなくして、苦しい表情を浮かべて、僕を本能のまま攻撃してくるんだろうなぁ~。そっちの方が、絶っっっっ対面白いじゃん!本能同士の対決!!最高じゃないかぁぁあ!!」
じわじわと力を込められ、由空の瞳から光が失われていく。
(くそ!!!血の刃が邪魔で、由空の元に行けない!!くそ!!くそぉぉお!!)
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『太陽のようなセカンドさん、私を妻にしてくださな。』
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オルカに首を絞められ、死寸前の由空を目の前に、玲王は悲痛な叫びを上げた。
