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王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第36話 あなたの太陽に

第36話 あなたの太陽に

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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】





由空ゆあ。”欲しがり” になってはいけないよ。』



わたくしの父は、いつもそう言っておりました。

父は、タイヤン地方の商家の人間でした。元々はセカンドの家門だったそうです。しかし、いつからかプライマルと結婚を繰り返し、血が薄くなったのか、セカンドを覚醒しなくなったそうです。セカンドの家門に生まれた方々は通常、覚醒しないと気を落とすものですが、私の父は全くそんな素振りがなく、愛する母と商売に勤しんでおりました。
 
『どうして欲しがってはいけないの?』
私が決まってそう聞くと、こう言うのです。

『人間、欲しがりになると心に ”穴” が出来てしまうんだ。』
『穴?』
『そう。心にぽっかり穴が出来てね。何をしたって、満足できなくなってしまうんだ。自分にはこれがないから欲しい、次はそれがないから・・・そう思う気持ちが無限に続いてしまうんだ。欲しかったものを得たって、満たされない——心の穴から、漏れていくようにね。』
『そうなると、どうなっちゃうの?』
『自分を不幸な人間だと、勘違いしてしまうんだ。これもない、あれもない。それは、何もしてもらえないからだと、周りを責め立てることしかできなくなる。』
『ちょっと怖いわ。』
『そうだね。由空ゆあ、人生で重要なのは、”何をもらえるか” じゃない。今、自分が持っているものに気づき、それをどう活用するか。それが重要なんだ。セカンドやプライマルなんて関係ない。人は生まれてきただけでも、沢山のものをもっているのだから。あの空で、ただただ輝いている太陽のようにね。』

父はいつも口酸っぱくそう言っておりましたが、そんな父の周りは沢山の人がいて笑いが絶えませんでした。賑やかになると、その中心には必ず父がいる。その様子を、いつも母は嬉しそうにこう言っておりました。
『あら、うちの ”太陽” が帰ってきましたね。』

明るい父と、父を支える母。そんな二人を愛しておりましたし、尊敬しておりました。私も将来、父と母のような家庭を作りたいと思っておりました。




しかし、休戦直前の頃、タイヤン地方は戦場の海と化していました。
父は支援物資をタイヤン軍基地に運んでいる最中、戦争に巻き込まれ亡くなりました。そして母は、私をマダムから逃すために盾となり、目の前で滅多刺しにされました。
愛する両親を失った底知れない悲しみに支配され、プライマルの女一人、どうやって生きて行けば良いのか分からず・・・まるで暗闇の中を彷徨っているような感覚でした。

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由空ゆあ、人生で重要なのは、”何をもらえるか” じゃない。今、自分が持っているものに気づき、それをどう活用するか。それが重要なんだ。』
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それでも、父の言葉を信じて、当時の自分に何ができるのかを必死に考え、”生” にしがみ付きました。
父が残した商家には、沢山の食料がありました。そのため、タイヤンの人々を飢え死にさせまいと、自分が空腹でも、地を這い食料を調達し、周りの方々に配って歩きました。途中で動けなくなったら、泥水を飲んで過ごし、何としてでもこの世を生き抜いていこうと藻掻いておりました。

しかし・・・人はそこまで強くありませんの。
商家にあった食料も底をつき、周りの人々が飢えて死んでいく。それに耐えきれず、タイヤン軍部と掛け合っても怒鳴られ跳ね返される日々。
マダムや月族セカンドにも遭遇することも増え、タイヤン軍の中には、私たち飢えたプライマルを盾に、逃げる方々も多くいらっしゃいました。


——それだけ、極限だったのです。戦争は、人々の心から光を奪っていくものなのです。


私の心も光が消えかけ、道端で飢え死にかけていた時・・・とうとうマダムに遭遇してしまいました。周りには誰もおらず、私は無意識に涙を流し、こう思いました。
『どうして・・・こんな世界に生まれてしまったの・・・。』

その時、父の言葉が走馬灯のように頭に浮かびました。

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『自分を不幸な人間だと、勘違いしてしまうんだ。これもない、あれもない。それは、何もしてもらえないからだと、周りを責め立てることしかできなくなる。』
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でもね、父様。
愛する父様と母様を奪われ、共に生きて来た商家の人間たちも飢えて死んでいくのです。
月族セカンドやマダムが襲撃してきた時、タイヤン軍は戦わず、私たち飢えたプライマルを盾に逃げるのです。
生まれたこの世界を憎むことは、罪なのですか?いけないことなのですか?
悔しい。本当に悔しい。そう思いながら地面に顔を押さえつけておりましたら・・・・あの人に出会いました。



”シュゥゥゥゥウウウ、グサッ!!!”




タイヤン軍の象徴——緑色の隊服を着て、風と共に颯爽と現れたのは玲王れおでした。
あの人は、私を盾に逃げることなどなく、目の前のマダムを木端微塵にしていったのです。私を守るように戦う姿勢に驚き、玲王れおから目を離せませんでした。
そして、マダムを切り刻むだけ切り刻んだ後、玲王れおは痩せこけ泥だらけの私を見て、ため息をつくとこう言ったのです。

『タイヤン軍基地に向かえ。』
『・・・え、しかし、プ・・・プライマルは入れません。』
『そこにいる真鹿まかか、布伎ふぎって奴を訪ねろ。出てきたら、俺の名前を出せば、少しはマシな生活を送れる。』

そう言われた時、何かが心の底からこみ上げると同時に、溢れた涙が止まりませんでした。
こんな混沌とした時代に、通りすがりの人間をマダムから助けただけではなく、その後のことも考えてくれるお方がいらっしゃるなんて。
そのままその場を去っていくあの人の背中は、本当に・・・・本当に、太陽のように眩しいものでした。




それから軍基地に行きましたら、真鹿まか布伎ふぎが私を保護してくれました。そして驚くことに、そこには私と同じように、玲王れおに助けられ保護された人々が生活しておりました。

その中の一人が、私を見るや否や、こちらに向かってきました。直ぐには気づけませんでしたが、どうもその方は以前、私が食料を分けた方でした。
そして、玲王れおに保護された際に、私を助けてほしいと頼み、玲王れおは私を探していたそうなのです。
その話を聞き、驚くと共に、再び父の言葉を思い出しました。

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由空ゆあ、人生で重要なのは、”何をもらえるか” じゃない。今、自分が持っているものに気づき、それをどう活用するか。それが重要なんだ。』
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どうして、父がそう言っていたのか、この瞬間に分かった気がしました。持っているものに気づき、活用することで、人々の心が糸のように繋がっていくのだと。そうして、人々の心に光が灯され満たされていくのだと、その時理解しました。

それに・・・どんな人でも、何かをすると、どうしても相手に見返りを求めるものでしょう?しかし、玲王れおは違いました。助けようとも、そこにいるプライマルに何か求めることもなく、安全に過ごしているかだけを確認する。

そんな眩しい玲王あなたの側にいると、私の心にある暗闇が、驚くほどあっけなく無くなっていくのです。何故でしょう・・・?




ずっと疑問に思っておりましたが、玲王れおの軍隊長任命式に同行し、私たちの王——太陽王にお会いした時。
太陽を人にしたかのように眩しく輝く王の姿に、シャムス軍の軍隊長・夕貴ゆうきさんがタイヤン地方にいらした時の会話が頭に浮かびました。

『シャムスは空に太陽が見えないから、暮らすのは大変でしょう?』
そう夕貴ゆうきさんにお聞きした時、夕貴ゆうきさんは当たり前のようにおっしゃいました。

『大変じゃないよ。”シャムスの太陽・・・・・・・” は、あたしだからね!』
『・・・え?』
その回答に驚きましたが、夕貴ゆうきさんは優しく微笑んでおっしゃりました。

『みんなさ、お空に太陽がいることが重要みたいに言うけどさ・・・違うんだよ。』
『どういうことですの?』
『もちろん、太陽があることも重要かもだけどさ。人の心を照らして、元気にするのは ”人々に灯る命の光・・・・・・・・” なんだよ。シャムスはね、一人一人の命の光が集まって輝き、シャムスの地を照らしているの。つまり、みんなで元気でいるってことが重要!太陽がただただ輝いているのと一緒だよ。その光が陰らないようにするのが、あたしの役目。シャムスの太陽としての・・・ね。』

同時に、父の言葉も頭に反芻しました。

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由空ゆあ、人生で重要なのは、”何をもらえるか” じゃない。今、自分が持っているものに気づき、それをどう活用するか。それが重要なんだ。セカンドやプライマルなんて関係ない。人は生まれてきただけでも、沢山のものをもっているのだから。あの空で、ただただ輝いている太陽のようにね。』
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その時、人は誰しもが ”太陽” なのだと気づきました。お互いの心に灯された光が、互いに輝き合ってこそ、生きられるのだと。
私にとっての太陽は、父であり、母であり・・・そして、あなたなのです、玲王れお
きっとあなたにとって私は、通りすがりにただ助けた女なのだろうけれど・・・私にとっては、私の消えかかった命の光に、再び強烈な光を灯してくれた太陽なのです。


しかし玲王れおは、今にも沈んでしまいそうな太陽でもありました。

『俺・・・は、完璧な親父のようになれない・・・出来損ないだ。親父には、怒鳴られ呆れられ、母親には生まなきゃよかったと何度言われたことか。基地に居れば分かってると思うが、周囲には欠陥品として扱われる。もう・・・俺の存在価値が何なのか、分からなくなってくる。』

玲王れおが私に少しずつ心を開いてくれた時、彼の生い立ちや葛藤を知りました。彼の告白に、私は思わず涙を流してしまいました。あんなに眩しい光を私に分け与えてくれたあなたの光が、消えかかっていることに気づけなかった自分を引っぱたいてやりたくもなりました。

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由空ゆあ、人生で重要なのは、”何をもらえるか” じゃない。今、自分が持っているものに気づき、それをどう活用するか。それが重要なんだ。』
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はい、父様。
私は、玲王れおにこれ以上ないほどに、沢山の光を与えて貰いました。今度は私があなたに、私の中にある輝く光を、少しでも分けていきたいです。

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"グググググググ・・・!!"

「・・・っ!」
「キャハッ!こっちの方が面白いね!!そのお腹は君らの子供ぉ?!いいね、いいねぇ!!2人とも目の前で無惨に殺されて、悔しがる太陽の天神の顔、見たいなぁ!!きっと、理性なんてなくして、苦しい表情を浮かべて、僕を本能のまま攻撃してくるんだろうなぁ。そっちの方が、絶っっっっ対面白いじゃん!本能同士の対決!!最高じゃないかぁぁあ!!」

じわじわと力を込められ、由空ゆあの瞳から光が失われていく。
血の檻に阻まれた玲王れおの悲痛な叫びが、薄れゆく由空ゆあの耳奥に微かに響いた。
首骨を砕かんとする猛烈な圧力に全身が悲鳴を上げる中、由空ゆあは残された力を振り絞り、愛おしい命が宿るお腹へと手を重ね呟く。

「私の・・・太陽たちを・・・殺させは・・・しません・・・・」

”グググググ・・・”
「・・・っぐ・・・」
視界が赤く染まり、思考が途切れかける極限状態。由空ゆあは意識の全てを、右手に握り締めた ”緑色の短剣・・・・・” へと注ぎ込んだ。



(あなたが私の太陽であるように・・・私も、あなたとこの子の ”太陽・・” でありたいのです!!!!)



”グサ!!!!”
「・・・・は?」
覚悟を宿した瞳でオルカを睨みつけ、由空ゆあは最後の力を一点に込め、その腕へ一直線に短剣を突き立てた。

「はっ!まだ抵抗する気?てか、なーんかこの短剣、妙に痛いし、気に障るんだよねぇ・・・うわ、なんかイラついてきた。もうさ、お腹のガキと一緒に早くあの世に逝きなよ!!!」
不快感を露わにしたオルカが歪んだ殺意を撒き散らし、由空ゆあに容赦なく血の刃を振り下ろした。




”ザシュッ!!!!!”



つづく

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