王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第14話 太陽の狂信者
第14話 太陽の狂信者
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

「はい、どうぞ。昨日はどこに泊まられたのかしら。」
タイヤン軍基地の門前で、運良く軍隊長・玲王の妻、由空に遭遇したココロたち。彼女の計らいで基地内へと足を踏み入れていたのだった。
軍隊長室は、その地位に似合わず殺風景だった。必要最低限の机と椅子。玲王がここに長居をしないことを物語っている。
「昨日は色々あって、その辺で野宿しました。」
「まあ! 危ないではありませんか。あの人が何と言おうと、同じ太陽族ですもの。ここは自由に使っていいのですよ。」
「ありがとうございます。」
甲斐甲斐しく世話を焼く由空。咲夜は出された茶を啜りながら、遠慮なしに切り出した。
「あんた、なんであんな奴と結婚したんだ?どう見たって・・・むぐ!」
「こら!」
拝理が慌てて咲夜の口を塞ぐも、由空はクスリと笑った。
「ふふっ。皆さまには、”あんな奴” で当然ですけど。私にとっては、”命の恩人” で、”初恋の方” なのです。」
「え・・・」
その言葉にココロは呆然としていると、由空は続けた。
「戦争の最中だった6年前。タイヤンは日々、月族との戦いで荒れ果てておりました。私も、家族なんてどこにいるか分からず、逃げることに必死だった時、マダムに遭遇してしまいましたの。私もここまで。そう思った時、あの人がね、助けてくれたのです。その姿はね、空に輝く太陽に照らされて、あの人が誰より輝いて見えたんです。それから4年くらい・・・付き纏いましたら、結婚にこじつけましたのよ。ふふっ。」
「つ、付き纏う・・・?」
”バン!”
その意外な執念にココロが引き気味になっていると、副隊長コンビの真鹿と布技が、大量の書類を抱えて転がり込んできた。
「何言ってるんすか、姉さん! 」
「あら、どうしました。玲王は、まだ戻ってませんよ。」
「軍隊長に会いにじゃないっすよ!居たら、怖くて近寄れないっす!」
「まったく・・・」
「それより!姉さんは、本当に凄いっすよ?だって、3年間玲王に徹底的に無視されてたのに、めげずに軍基地に通い詰めて、ここにいる間、ずっと軍隊長に付き纏ってたっすよ!最後には、軍隊長、ノイローゼ気味になって折れたっす!」
「え・・・」
「もう、そんなんじゃありませんよ!」
"バシッ!"
「いて!あ・・・あと姉さん、こんなに綺麗でおしとやかなプライマルなのに、力強いんすよ!本当にセカンドじゃないんすか?」
「おだまりなさい。」
笑顔のまま副隊長を黙らせる由空。彼女もまた、この過酷なタイヤンで生き抜く、強烈な個性の持ち主のようだ。 しかし、膨らんだお腹をさする彼女の瞳に、ふと寂しさが混じる。
「・・・しかし、この子が出来てから、またちょっと、昔のあの人に戻ってしまって。」
「子供が出来て、冷たくなったのか?」
拝理が眉間に皺を寄せ聞くと、由空はニコッと笑った。
「いえ、冷たいというより・・・多分困惑しているのでしょう。玲王が前軍隊長の息子・・・ということはご存知で?」
「あ、はい。聞きました。」
「そう。悪く言うつもりではなくてですね。様々な家庭の事情があるんでしょうけど、前軍隊長はこの ”タイヤンにとっては” 本当に素晴らしい軍人だったんですの。しかし、”自分の息子” にとっては・・・。私からは詳しくは言えませんが、あまり仲は良くなかったようです。そんな自分が父親になれるかと、迷っているのでしょう。あの人は、”父親の歯車” に、まだ囚われているのです。・・・あの人は、あの人なのにね。」
「・・・歯車。」
そう話す由空に、幸十は首を傾げながら聞いた。
「なんで?」
「え?」
「カゾクが増えるのはいいことだ。みんなカゾクを求めてる。嬉しいのに、なんで悲しそうなの?」
「こら!幸十!」
ココロが止めようとすると、由空は変わらず話した。
「嬉しいですよ。私は、家族と戦争で離れ離れになってしまいましたから。もう一度、家族が出来て、本当に嬉しいのです。しかし、全員が、そうは思えないことも・・・この世にはあるのでしょう。」
そう話す由空に、拝理が由空のお腹に手を当て言った。
「母親も父親も・・・人間だ。完璧な親なんて居ないんだ。これから生まれてくる子供と、共に成長していけばいい。」
そう話す拝理の表情は、母親そのものだった。由空も嬉しそうに頷いた。
"バァァァアン!!"
「?!」
すると、突然大きな音で扉が開かれた。
一同驚き視線を向けると、軍隊長の玲王の姿があった。
「・・・また、性懲りもなくいらしたのですか?」
丁寧な言葉の裏側に隠される怒り。再びその迫力を前に、ココロたちがたじろいでいると・・・
「玲王、私が入っていいと言ったのです。文句があるなら、私に言ってくださいな。」
「・・・仕事のことには、口を出さない約束じゃ?」
「しかし、昨日野宿したって言うのですよ?今何が起きるか分からないこの地で、そんなの可哀想じゃありませんか。」
「それを分かってて来てるんだ。貴女は黙っててください。」
「いいえ、黙りませんよ。」
夫婦喧嘩が勃発しそうな雰囲気に、周囲がヒヤヒヤしていると、拝理は咳払いをして口を開いた。
「タイヤン軍隊長、悪いが話をしたい。」
「先日と同様のことでしたら、話すことはありませ・・・」
「き、昨日!”羅皇の地” に行ってきました。」
"ピクッ"
今にも外に出されそうな勢いだったが、ココロの咄嗟の言葉に、軍隊長は身体を反応させた。
「・・・”羅皇の地” ですと?誰も入れない地に、何馬鹿なことを・・・」
「キャン!」
話しの途中、幸十の懐から小さな銀の狼が顔を出すと、部屋の温度が凍りついた。
「なっ!!」
「ぎ、銀の狼?!」
「あらまぁ、小さい。」
一瞬部屋の雰囲気が冷たくなったが、ココロがすかさず言った。
「だ、大丈夫です!子供の狼で、害はないんです!本当です!俺たちは、”羅皇の地”で墓守をしているヒナギクさんに会って・・・でもその方も、今の状況に困惑しているそうなんです!どうして”銀の狼”たちが暴れているのか、調べて欲しいと。それが分かれば、解決の糸口も・・・」
「だから、タイヤン軍からセカンドを貸せ・・・ってことですか?」
瞳をぎらつかせる軍隊長にココロはたじろぐと、玲王はため息をつき言った。
「はぁ・・・出ていきなさい。」
「え」
「由空と真鹿・布技。席外せって言ってます。」
自分たちじゃないとほっとするも、由空たちが居なくなるのも恐怖にかんじるココロたち。
由空たちは、玲王の言う通り部屋を出ると、軍隊長の椅子に座った。
「・・・貴方たちも、何となく ”察し” がついて来てるんじゃありませんか?」
「何をですか?」
少しずつ話し始める玲王。
「この件は、かなり厄介な話です。なにせ、”銀の狼”たちを怒らせたのは太陽族・・・私たちなのですから。」
その言葉に、驚くココロたち。
「軍隊長は・・・何か知ってるんですか?」
「・・・正確には、知りません。実際話を聞いたり、見たわけでもない。しかし、どこの軍のセカンドか知りませんが、”羅皇の地”から、傷だらけの”銀の狼”たちを、連れ去っているのを何度か見ました。軍隊長になるまで、気づきもしませんでしたが。最初は襲われたため、返り討ちにしたのかと思ってましたが、どうも様子がおかしい。その狼たちは、決まってタイヤン地方庁に連れていかれる。そこからの狼たちの所在は分かりませんでした。」
「それって・・・」
「太陽族の誰かが、”銀の狼”たちを狩っているってことですか?」
「・・・さあ。しかし、地方庁が関わっているってことは、参謀本部自体が何か企んでいる可能性が高いと考えてます。その頃から、やけに中央庁が本部から来るようになりましたからね。」
「・・・何を。」
ココロが訝しげに考えていると、玲王はそんなココロを見て言った。
「・・・緑砲。」
「緑砲?タイヤンの武器ですか?」
「はい。突如として出現した、あの不気味な武器です。近づくだけで、嫌悪感しか湧きませんが。」
不快感を露わにする玲王。
「その武器と、”銀の狼”に何の関係があるのですか?」
拝理が考えながら聞くと、玲王は頭を横に振った。
「分かりませんが、今のところ勘、ということにしておきましょう。緑砲と ”銀の狼” に繋がりがある気がしてます。まぁ、妄想を話しててもしょうがないですが、一つ言えるのは、太陽族が ”銀の狼” に喧嘩吹っかけたってことです。しかも、参謀本部が深く関わっている。タイヤン軍から、何人もセカンドを送り、狼のせいじゃない傷跡を残した死んだ仲間を何人も返されました。内輪の問題で、もう私の軍から、犠牲者を出すのはまっぴらごめんですね。」
「この話・・・知っているのは、軍隊長だけですか?」
「・・・・・。」
「なんで、俺たちに話してくれたんですか?」
「貴方たちが死のうが、どうでもいいから、ですかね。」
「・・・・そうですよね。」
もしかしたら、手伝ってくれるのかと期待したココロの希望はすぐに破られた。
「とにかく、族内のゴタゴタに巻き込まれるのはごめんです。私たち軍は、月族からこのタイヤンを守るために存在してます。早く本部に戻り、どうにかして来なさい。」
「し、しかし!このままでは、タイヤン地方が衰弱してしまいますよ!」
拝理が叫ぶも、玲王は鼻で笑った。
「なら、本部の頭おかしい奴らに訴えてください。私たちに押し付けず。」
「ちょ!」
そう言って、部屋を出て行こうとした時——
"ペラッ・・・"
「あ」
「——?」
ココロの懐から、何やら紙ペラのようなものが衝撃で落ちた。ココロも、最後の切り札として残していたこの存在を忘れていたのか、そこにいた全員が目を合わせた。
その紙ペラは、玲王の足元に落ち、眉間に皺を寄せ拾うと・・・
「・・・っな!!?!!!?!」
玲王はその紙ペラを見るや否や、瞳を大きくさせ輝かせ始めた。その反応に、一同固まっていると——
"ダダダダダダダダダダダダ"
「ぉぉぉぉぉおおおい!お前!!!な、なななななんでこれを??!!」
先程の態度と口調は一変し、動揺しながら、ココロに詰め寄る玲王。その紙ペラを、これでもかと丁重に持って。
「おい聞いてるのか!何故、おおおおおおおお ”王の写絵” を持っているんだぁぁぁぁあああ!!!!!」
(あ、効果ありそう・・・)
何処か遠い目で、ココロは玲王の反応を見ながら思った。先ほどまでの威厳・緊迫感はどこへやら。今では、見るからに誇張され描かれた ”太陽王の写絵” を天に掲げ涙を流している。その姿に、ココロは坂上との会話を思い出していた。
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『たしか、玲王くんは太陽王をかなり尊敬していた気がします。いや、尊敬というか、崇め讃えてるというか・・・。神より王、なんて豪語してた気も。どうしたら、そんなに讃えられるのか分からな・・・うぅん。ですから、まぁ太陽王関連の何かを渡せば動くやも。こちらで動いてみますが・・・なんせ太陽王、一々厄介でしてね。ちょっと、いやかなり腰は重いですが・・・。』
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太陽城の坂上たちは、この作戦のために文字通り ”命を削る” 羽目になった。 まず、太陽王への謁見を取り付けるだけで一苦労。ようやく対面したかと思えば、王は「僕の美しさを後世に残す絶好の機会ではないか!」と興奮し、真夜中にもかかわらず御用絵師を叩き起こして ”写絵” 制作を命じたのだ。
そこからが本当の地獄だった。 ”善は急げ” と始まった制作だったが、王はポーズ一つに三時間をかけ、絵師が筆を動かしている間、坂上たちを逃がさなかった。延々と一晩中、王の「いかに余が慈愛に満ち、かつ最強であるか」という輝かしい自慢話を、子守唄代わりに聴かされ続けたのだ。
翌朝、そこには魂が口から抜けかけ、白目を剥いて倒れ伏す坂上たちの姿があった。その中でも、最も ”聞き役” として拘束された伊久磨にいたっては、もはや瀕死。足をもつれさせ、亡霊のような顔で幸十のもとへ写絵を届けたのが奇跡と言えるほどだった。
ココロたちは、あの玲王の性格でそれは絶対ないと、むしろあの王の感じだと、煙たがれていてもおかしくないと考えていた。そのため、坂上が言った提案の1割も信じてなかったのだが——
「ぁあ!!王よ!!なんと神々しい!!神なんてくすんで・・・いや、あなたが神だ!!!!」
(ぁあ・・・)
涙を流し、写絵に話しかけている。なんとも滑稽な様子に、一同、早く出せばよかったと思った。
「・・・王の写絵、一緒に着いてきてくださったらあげますので、助けてください。」
「くれるのか?!?!いいだろう!!私がどこでもなんでもしてやる!!!」
(はぁ・・・本当に、本当に最初から渡せば良かった。)
「この筆致! 光の加減、影の落とし方、そしてこの慈愛に満ちた眼差し・・・! 実物の王には及ばないが、これはもはや写絵ではない、福音だ! 王の神々しさが紙という次元を超越して、溢れ出している!!これは傑作だ!!!」
「・・・・・。」
全員が後悔の念に駆られる中、一人幸十は、興奮しブツブツ話している玲王をじっと見つめていると・・・
「なんかあの人、変だよ。」
「おい馬鹿!黙れ!!!」
「幸十、ここは黙っててくれ・・・・」
玲王が再び、心変わりすることを恐れ、ココロ・咲夜・拝理の三人は、幸十の口を必死で押さえていた。
