王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第28話 白き右腕
第28話 白き右腕
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

"ガンガン!!!!パァァァアン!!!"
「・・・っ。」
(あ、あれから・・・どれくらい・・・経ったのかしら・・・)
突然身体が光り始め、爛の攻撃をことごとく跳ね返していく志都。どうして跳ね返せているのか、志都自身が一番困惑する中、植物の床に飲み込まれそうな幸十を守ることだけに意識を向ける。
爛も負けじと攻撃を続けるも、何か見えない膜でも張られているかのように届かない。
(・・・っくそ!!なんなんだ?!何をしやがった!!志都は無闇に傷つけるなと言われてるし・・・しかも、志都が泣いていると、妙に息苦しくなる・・・っ!あぁ、全てが面倒だ!!!)
爛は頭を抱えながら、一瞬攻撃を止めた。
「・・・っ、だがな、こっちにも引けねぇもんがあるんだ。ヒナギクを守るためなら・・・俺はなんだってやる!!!!」
幸十を抱きしめ、冷や汗を流しぐったりする志都に、爛は叫ぶと構えた。
「非愁位:植罪・・・」
「・・・っ!!!」
(大きな攻撃が来る!!・・・どうしよう。よく分からないけど、体に力も入らなくなってきて・・・)
爛の大きな攻撃に、志都は遠のく意識の中で、幸十を守ろうとより強く抱きしめる。
「緑永の拳!!!」
"グワァァァァアン!!"
「っ!」
西塔の地面が、うねるように力強く動いた——その刹那。
"バサッ!!"
「洋一!!!」
「おけ!!いくで!」
"シュン!ブチ!!"
「・・・っあ、幸十・・・っ!」
突然、幸十を飲み込もうとする植物の床に何かが刺さると同時に、飲み込む力が弱まる。それに気づいた志都は、薄れゆく意識をなんとか耐えて、幸十を引っ張ろうと力を込める。
「ぁあ?!何してんだぁぁぁああ??!!」
「!」
気づいた爛が阻止しようと、揺れる地面から、木々で出来た巨大な腕が現れたかと思うと、幸十と志都に向けた。
しかし——
「おい!降ろしてくれ!!」
「わかった!頼む!」
「?」
"シュン!!"
今度は上空から、人影が降ってきた。
「 ”黒星・装填” 」
その人影は唱えた瞬間、囲うように黒い星々が突然現れる。そして——。
「第四血響 暗礁の流れ星!!!」
”ドォォォォォオオン!!!”
囲っていた星々が熱を上げ黒い煙を上げたと同時に、志都たちに降りかかる木々で出来た巨大な腕に無数に降りかかる。すると、燃えつくさんと星々から火の粉が上がり、腕の動きが鈍くなる。
「・・・っち。何だよ、まだセカンドがいるのか?」
予想外の攻撃に、爛が次に備え、鞭を一旦引っ込める。
「幸十!!!」
幸十を引っ張ろうとする志都の元に、コウモリの翼を広げた洋一とココロが駆け寄ってきた。
「うわ!!サチ、大丈夫か?!今引っ張るからな。えっと・・・嬢ちゃん、サチを助けてくれてたんか?おおきに。顔真っ青やけど、大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫・・・幸十を・・・」
息切れ切れに言う志都に、ココロと洋一は戸惑いながらも、とりあえず幸十を引っ張り上げようと加担した。
"パァァァァァァァァアン!!"
「そうはさせるか、くそがぁぁぁぁあ!!!」
爛は瞳を血走らせ叫ぶと、再び西塔の床が大きく揺れ、無数の鞭が飛び出した。
しかし——
「第三血響 幽縛の影」
”シュン!!!シュン!!シュン!!”
「なっ!!?」
無数の音が辺りに響き渡ると同時に、何か見えない力で無数の鞭たちが捕縛されていく。驚く爛をよそに、志都の前に降り立ったのは、星族・咲夜だった。
(・・・このガキ、全く気配がなかったぞ。)
爛は、洋一とココロの気配は薄々感じてはいた。しかし、咲夜に関しては、一切気づかなかった・・・いや気づけなかったことに暫く驚きを隠せずにいた。
同時に、咲夜の右腕に刻まれた星の印に、爛は眉を顰めた。
「・・・あ?星族だと?なんでてめえらが、太陽族といる?てめぇらもそっちについたんなら、容赦しねえぞ?」
爛の鋭い眼差しが注がれるも、咲夜は表情一つかえず、手にもつ無数の星型武器を構えて言った。
「俺は、星族・十徒星の一人。十番黒星、咲夜。太陽族と月族の争いごとなど毛ほどに興味はない——が、このお方に手を出すなら、話は変わる。」
咲夜は、背後に居る志都に顔を傾けた。
「あ?」
咲夜の言葉に、爛が眉をひそめると、咲夜はそのまま続けた。
「このお方は、太陽王と月王のお子、そして次期星族の王女となられる方だ!!!」
その言葉に、そこにいた全員が驚きを隠せず止まる。しかし、そんな状況も関係なしに咲夜は星型武器を構えて言い放った。
「このお方を守ることが、我が主・星王子から課せられた俺の使命!死んでも果たす!!」
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——時は少し遡る。
爛の猛攻によって散り散りに吹き飛ばされた後、ココロ、洋一、咲夜は、鳥の巣城の外へと飛ばされていた。そこは、銀の狼たちがうじゃうじゃと蠢く、薄暗い暗黒の森。
『うひょえ~、ぎょうさん狼たちおるで。』
『しっ!少し声のトーン落とせ。気付かれる。』
コウモリの翼を駆使して高い大木の上に身を潜めながら、ココロは冷や汗を流していた。
無線は通じない。
太陽族が誇るタイヤンの軍隊長であり、天神・玲王は一瞬で敵に飲み込まれ、紫戯と琥樹は能力が使えない。
実質、まともに戦えるセカンドは幸十しかいない。
(計算すればするほど・・・俺たちが全滅する確率の方が圧倒的に高い。どうすれば・・・っ)
最悪のシミュレーションに脳が支配され、暗闇に呑まれそうになってゆくココロ。
"にゅっ"
『うわ!っ・・・な、いきなり顔出すな!』
その最中、突然、どこか不満げな表情の洋一が顔を近づけた。
『なんやココロ、またぐるぐるぐるぐる、答えのない問いを考えてんとちゃうか?』
その指摘に、図星のココロは言葉に詰まった。反論しない様子に洋一は、小さくため息をつくと——
"ガシッ!"
『っ!ちょ、ちょっと、いきなりなんだよ!』
ココロの肩を、ガシッ、と洋一の強い手が掴んだ。
『大丈夫や!何とかなる、ココロ!』
悪びれもせず笑う洋一が、そのまま続けた。
『いつもそうやないか。今までやって、大変な時ぎょうさんあったけど、何とか乗り越えてきた。今回もや!みんなで協力して、敵さん倒して、全員一緒に太陽城に凱旋や!!おっきなパレード、坂上はんたちにしてもらってな!!参部のやつらの、びっくり仰天の表情が、ほんっっっま楽しみや!”ほら見ろ” ってな!!』
誰よりも頭の回転が速いからこそ、冷酷な生存確率が分かってしまう。そんな暗闇に呑まれそうになっていたココロを、洋一の突き抜けた言葉が強引に連れ出す。
『あんさんは一人じゃない。俺たち二人一緒なら、無敵や!!!いつもそうやろ?』
そんな洋一に、ココロはため息つきながら言った。
『・・・そうだな。次の本部会議を・・・楽しみにしよう。』
『そうや!!へへっ!』
今回ばかりは、短絡的な洋一に助けられたココロだった。
すると——
『きゃあ!!』『た、助け・・・』『ま、ママぁ!!!』
『っ!この声!!』
ココロたちが声のする方へ視線を向けると、子供たちが狼たちに襲われそうになっていた。今は一定の距離を保っているが、今にも襲いかかりそうだ。
『ロストチャイルドの子供たちか!はよ、助けに行かんと!!』
飛び出そうとする洋一を、ココロが手で制す。そして、じっと様子を伺っていた咲夜へと視線を向けた。
『咲夜くん、単刀直入に言う。俺たち太陽族に協力してくれ。交換条件だ。』
『何で俺に言うんだ?俺たち星族は、全員プライマルだぞ。戦力になるか・・・』
『その腰に備え付けられた星型の武器。俺はそこまで武器に詳しくないけど、構造はセカンドの武器に似ているように思える。君は戦えるよう訓練を受けているんじゃないか?——太陽城にいた、もう一人の維澄って人。星王子様は、そこらへんのセカンドより全然強いって言っていた。君もプライマルだろうけど、何らかの方法で戦える力を持ってるんじゃないか?』
『・・・戦えたとして、俺たち星族が太陽族の味方をして、何のメリットがある?下手に戦えば、星族は太陽族についたと思われる。星族が危険に晒されるのはごめんだ。』
その言葉に、ココロは怯まず続けた。
『君が俺たちに付いて来た目的。星族は、何かを探してるんじゃないか?』
その言葉に、咲夜は言葉を詰まらせ黙る。それを見逃さず、ココロは続けた。
『咲夜くん、君はずっと何か探すようにあたりに意識を集中することが多かった。それは、ここについてからもっとだ。星族は・・・何を探してる?月族の天神もいる中、一人じゃ満足に探し出すことは難しいだろう。それを俺たちも手伝う。』
ココロはそう言い、咲夜に手を出した。
『俺たち太陽族は、太陽の子供たちを取り返すため。星族は、星族の探しもののため。今だけの共闘だ。』
差し出された手をじっと見る咲夜。
『・・・・・。』
暫く黙りこむ咲夜に、ココロは焦る気持ちを抑えながら手を出し続ける。その様子に、咲夜はため息をつくと、ココロの手を握り返した。
『いいだろう。——俺たちが探しているのは、次期星族の王女となられる方だ。』
『次期星族の王・・・ってことは、まさか。太陽王と月王に、子供がいるってことか?!』
『さすが。説明する手間が省けて助かる。』
『え!うそやろ?戦争中やで?バッチバチや!ラブラブちゃうねん!』
洋一の言葉に、咲夜はうるさいと睨みつけながら続けた。
『和平時代の婚姻だ。』
『いや、でも結局、婚姻前に月王が戦争を再開させたじゃないか。』
『あくまでも星王子の推測だが・・・月王は戦争を再開させた直後、子供が出来ていることが発覚し、極秘出産。その子供を、どこかに隠していると言われている。子供がいることは、俺たち星族の信頼できるやつが調べたから、ほぼほぼ間違いない。俺は、そのお方を探し出し、不当な扱いを受けているなら助け出すことが使命だ。』
『まじかいな・・・俺らの王も、隅に置けへん——』
『きゃぁぁああああ!!』
『っ!』
遮るように、再び狼に追い詰められた子供たちの悲鳴が響いた。
『細かいことはさておき、とりあえず分かった!その、”次期星族の王女” を俺たちも探そう。まずは、あの子供たちを助けて、鳥の巣城に戻りたい。たしか幸十が、西側にある塔に、”謎の少女” がいるって言っていた。』
『謎の少女か。可能性はあるな。』
『ぁあ。この混乱で、どうなってるか分からないけど。行く価値はあると思う。』
『分かった。協力しよう!』
『よしゃっ!!なんかよう分からんけど、行くで!!』
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(あれから子供たちを助けて、ここまでなんとか来たけど——まさか本当にいたとは・・・)
目の前にいる金髪の少女を見て、ココロは驚きを隠せずにいた。
しかし、しばらくすると爛は鼻で笑いはじめた。
「ククッ・・・・はっ!なに腑抜けたこと言ってんだよ。」
「・・・何だと?」
眉を顰め睨む咲夜に、爛はニヤッと醜悪な笑みを浮かべると——
"シュルッ・・・ザッ!!"
「・・・っい!!」
「嬢ちゃん!!」
志都のいる地面から突然、一本の蔓が電撃のように伸び、志都の右腕の袖を無残に切り裂いた。露わになった、白く細い二の腕。 志都が突然の痛みに身をすくませた瞬間、そこにいた全員が、彼女の右腕を見て息を呑み、言葉を失った。
驚愕と困惑の視線に晒され、志都はハッと我に返ると、露わになった右腕を必死に手で隠した。
——何も刻印のない右腕を。
「刻印が・・・ない?」
この世では、人々は必ずどこかの族に所属する。生まれる際、神々に祝福され、右腕に生の証明たる族の印を授かるのだ。
——太陽族なら、太陽の刻印。
——月族なら、月の刻印。
——星族なら、星の刻印。
この世界において、右腕に刻印が無い人間など、存在してはならない。
しかし、志都の右腕にはどの印も刻まれていなかった。ただ、痛々しいほどに真っ白な肌があるのみ。 星族の未来を背負うはずの少女に突きつけられた、残酷すぎる現実。完璧な論理を持つココロも、揺るぎない使命を持っていた咲夜すらも、想定外の事態に思考を凍りつかせ、動揺を隠せない。
世界から拒絶されたような静寂の中、志都は絶望に耐えるように、ただ小さく震えて俯くしかなかった。
「ほら見ろ!! そいつはどこの族にも所属できず、神々から見放された ”印なし” の生きる価値のねえ野郎なんだ!! 母親の月王からもゴミみたいに見放された、ただの出来損ないだ!!! それがなんだって?? 次期星族の王女だぁ? 期待外れだったなぁ!! 星族の回し者さんよぉ!!!」
爛の邪悪な嘲笑が西塔に響き渡る。 咲夜が一瞬の動揺で隙を晒したその刹那、爛はうつむく志都を見下し、容赦なくその太い鞭を振り下ろした。
"シュルッ!"
「っ!」
逃げる力も残っていない志都が、死を覚悟してぎゅっと瞳をつむった。
「第二血響 黄金の巣」
"ジャラ・・・"
志都の目前が突然、黄金に輝く鎖が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、爛の攻撃を粘着質に絡めとる。
そして——。
「第三血響 黄金の光織破!」
"ピィィィイイ——バァァァアン!!!"
その力強い唱え声と共に、黄金に輝く蜘蛛の巣から突然、目も眩むような黄金の熱線が全方位に爆発する。凄まじい衝撃波と金属音が辺りを包み、あまりの風圧にココロたちも、辺りに蔓延る巨木の枝へと必死に掴まる。
「な、なんや?!」
「・・・っ!」
——やがて、白煙の向こうから現れたその姿に、全員が目を見開いた。
泥と植物にまみれ、下半身を喰われかけていたはずの幸十が、そこにいた。 溢れ出る血を拭いもせず、全身から黄金のオーラを爆発させながら、幸十が志都の前に立ちはだかっていたのだ。その両手には、爛の追撃を跳ね返した鎖型の武器が握られている。
「さ、幸十!」
志都が信じられない面持ちで目を見上げる。 しかし、幸十はピクリとも動じず、その鋭い眼差しで爛を睨み据えた。
「志都は・・・志都だ。」
鎖から摩擦音のようなものを響かせながら、幸十の声が、西塔の空間を地鳴りのように震わせる。
「姫でも、王女でも・・・どっかの族に所属していなくたって。志都が生きている価値に、何の影響もない。」
「!」
その言葉は、神からも、母親からも見放され、ずっと暗闇に一人でいた志都の心を、魂の底から救い出す一撃だった。 志都の瞳から、絶望の色が消え去り、熱い光が灯る。その最中、幸十は爛を真っ直ぐに見据え、続けた。
「それは、君も同じだ。」
「・・・は?」
「君が・・・どんな姿形をしていようと、君の生きている価値は変わらない。誰が何と言おうと・・・君は変わらず、ヒナギクのパートナーだ。」
「っ、?!」
図星を突かれたかのように、目を見開きたじろぐ爛。同時に、脳裏にとある言葉が蘇る。
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『新しく生まれた子かい?すまない。ここは大事な場所なんだ。母親のところにお帰り。』
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『君は本当に・・・何者なんだろう?パートナーを作らない銀の狼なんて・・・』
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”ギリッ”
(・・・っ、だめだ!こいつ、俺の何を知ってる?!こいつの放つ異様な感覚に、俺の本能が、こいつを早く殺せと叫んでる!!!)
「うるせえんだよ!! 傷だらけのクソ同志、仲良く一緒にくたばりやがれ!!!!」
爛が、怒り狂ったように瞳を血走らせ、大量の鞭を地面から噴出させる。 だが、もう幸十の心に一ミリの迷いもなかった。少年は再び黄金の鎖を激しく解き放った。
