見出し画像

王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第27話 君が教えてくれた世界へ

第27話 君が教えてくれた世界へ

===================
関連話(第22話)
===================
<<前話   第4章一覧   次回>>
===================
!!!同時公開中!!!
王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】



——場所は、西塔——




"バァァァァァァァアアン!!!!"





月族・らんの、常軌を逸した怪力によって投げ飛ばされた幸十さちと。 ガシャン、と崩れる瓦礫の音と共に、どこかに着地する。
"カラ・・・カラカラ・・・"


かなり飛ばされた感覚と同時に、衝撃によりまともに息が吸えない状態で、咳をしながらなんとか酸素を体に送ろうとする。
「は・・・はぁ・・・は、はぁ・・・は・・・」

(どこまで・・・飛ばされた・・・)
何とか立ちあがろうとするも、腕が上手く動かない。見ると手があり得ない方向へ向いている。完全に骨を折ったようだ。いや、骨だけじゃない。筋肉の損傷も同じくである。
しかし幸十は、慌てるわけでもなく、そんな手をどこか他人事のように見つめた。



「・・・ひっく。」




「・・・?」
その最中、どこからか、しゃっくりの音が聞こえてきた。
幸十はその聞こえる方へ、瞳を向けようとするも、頭から血が流れているのか、目が沁みて上手く開かない。

(早く・・・立たないと・・・)
すぐにらんが来る。幸十は動かない体を、何とか起き上がらせようとした時——



"ジャラ・・・"
「まさか・・・・・さ、幸十!!!」


聞き慣れた、震える声。
幸十が顔を上げると、飛ばされてきた衝撃で周りは破壊されているものの、どこか見覚えのある淡いピンク色のカーテンがかかった窓と、その隣にあるクローゼットが視界に入る。——そして、 その前には、黄金に輝く髪を靡かせ、深い海のように青い瞳を涙で揺らめかせた志都しづが立っていた。

「し・・・志都しづ?」
自分の名を呼んで駆け寄ってくる志都しづに、声を振り絞る幸十。そのボロボロな姿を見た志都しづは、たまらず彼に飛びつき、壊れ物を扱うように、けれど必死に抱きしめた。

"ギュッ!"
「ど、どうしてこんなことに・・・。でも、良かった・・・生きてて・・・生きててくれて・・・本当に・・・っ。」
言葉を噛み締めるように漏らす志都しづの温もりが、幸十の冷え切った胸の奥へ、じんわりと広がっていく。しばらく強く抱き合っていた志都しづがそっと腕を緩めると、幸十の血だらけの頬を包み込むように、震える両手を優しく添えた。

「ごめんなさい。貴方を・・・守れなくて。らんの鞭は痛かったでしょう。オルカにも、酷いことをされたのでしょう。私が・・・私がここに来てなんて言うから・・・。本当にごめんなさい。生きててくれて・・・ありがとう。」
志都しづの痛切な謝罪に、幸十はまだ動く方の片手で、彼女の手をそっと握り返した。

「なんで謝るの?志都しづに会いに行ったのは、俺が行きたかったからだ。痛い思いはしたけど、志都しづのせいじゃない。それに・・・ナマエのない俺に、君はナマエをくれた。みんなに褒められる。素敵な名前。」

"ドォォォォォォン!!!"
「・・・っ!!」
「幸十!!!」
二人が言葉を交わす刹那、地響きと共にらんの棘だらけの鞭が、西塔の床を無造作に突き破って飛び出してきた。もはや、西塔にある志都しづの部屋は跡形も無く、悲惨な戦場へと化していく。幸十は動く片腕で、咄嗟に志都の身体を抱き寄せ、身体に巻き付いていた鎖型の武器を解き放つ。

「第二血響 黄金おうごん
"ジャララララ・・・"
幸十の声に応呼し、黄金に輝く鎖が瞬時に幾重にも分裂。蜘蛛の巣のように強固な網を張り巡らせ、迫り来る鞭の猛攻を真っ向から押さえ込んだ。

その圧倒的な光景に、志都しづは息を呑んだ。 かつてここにいた頃の幸十は、誰かを守りこそすれ、それは常に自分を犠牲にして攻撃を耐えるだけの戦いだった。
しかし、目の前にいる彼は違う。確実に強くなり、圧倒的な理不尽に対峙し、跳ね返そうとしている。 変わった。いや、爆発的な彼の成長に志都しづが目を見開いていると、幸十はねじ曲がった右腕に強引に “黄金の鎖” をきつく巻きつけ、骨の痛みに奥歯を噛み締めながら、再び口を開いた。

「はぁ・・・はぁ・・・し、志都しづが名前をくれたその日から、俺は ”” になったんだ。」
「・・・?」
「・・・みんなに、名前を呼んで貰えると、俺がこの世界にいることを許されているみたいだ。名前がなかった時は、そんなの・・・考えたこともなかったけど。とても——そう、嬉しいんだ。
「っ、幸十・・・」

らんの牙城から自分を守り抜こうと、傷だらけの身体で戦う幸十の姿。彼の口から紡がれる言葉に、志都しづの瞳から再び涙が決壊した。 そして、かつて幸十が連れ去られた後、乖理かいりから告げられた言葉が、鮮烈に脳裏をよぎる。

===========
『兄貴は、みんなが痛い思いしてると助けてくれるんだ。でも、兄貴が変わりに耐えるだけ。兄貴を助けてくれる人は・・・誰もいないんだ。』
===========

(貴方は・・・いつも、いつも自分を犠牲に、皆んなを助けてたのね。一人でいつも。自分が何者かも分からなくなるくらい、大きくて重いものを一人で背負って・・・苦痛だけを感じるためだけに、生まれてきたみたいに・・・)



——東塔に閉じ込められ、一人でみんなを守ろうと孤独に耐えてきた少年。
——存在を消されるように、西塔で孤独に震えていた少女。




檻の中にいた二人にしか分からない、魂の底からの共鳴が、胸の奥で激しく溢れ出していく。

"ガンガンガン!グィッ!"
「!?」
「・・・っあ!」
無数に襲い来る鞭から志都しづを守り、抱えて移動しようとした瞬間、不自然な衝撃が走った。志都の足首に固く嵌められた “赤い鎖につながれた足枷・・・・・・・・・・・” が限界まで伸び切り、突っ張ったのだ。

「さ、幸十!わ、私はいいから!!逃げて!!」
志都しづの悲痛な叫びを遮るように、幸十は逃げる足をピタリと止め、迫り来る無数の植物たちを真っ直ぐに見据えた。

「第二血響 黄金おうごん
"ガガガガガガガガガガガガ!!!"
網目状に舞う黄金の鎖が、火花を散らしながら鞭の猛攻をことごとく防いでいく。 幸十は盾となった鎖の隙間で、咄嗟に志都しづの足枷に手をかけ言った。

「・・・志都しづ。まだ、外の世界に憧れてる?」
「え?」
「言ってたでしょ、外の世界に行きたいって。太陽を見たいって。」
「っ!」

===========
『私ね、今一番行ってみたいのは太陽のある場所なの!この本によると、太陽は温かくて、眩しくて、人の心を豊かにしてくれるものだって!月とはどう違うのかしら・・・。』
===========
いつの日か、この西塔の片隅で、幸十と二人で語り合った記憶が鮮やかによみがえる。あの時の他愛のない憧れを、幸十が今も覚えていることに、志都しづは驚きで目を見張った。

「お、覚えていて・・・くれたの?」
「うん。」

"ジャラ・・・"
幸十は力強く頷くと、志都の足枷の鎖をその手に固く握りしめた。
一緒に行こう。
「え、で、でも・・・」
「太陽はね、本当に空にあって、温かかったよ。志都しづが言った通り。それだけじゃない・・・」
言葉を紡ぎながらも、襲い掛かる死の鞭を、黄金の鎖の弾幕で容赦なく跳ね返していく。

「外の世界は広かった。きっと、本だけでは想像できないほど。真っ白な雪が、空からたくさん降り注ぐ大地があって。色とりどりに光り輝く湖があって。迷路みたいに入り組んだ岩山や、自分の意思があるみたいに動きまくる山だってあるんだ。・・・たぶん、こんなもんじゃない。」
幸十の語る眩い世界の景色が、志都しづのずっと閉ざされていた暗い心へ、濁流のように流れ込んでいく。幸十は志都しづの青い瞳を、真っ直ぐに射抜いて言った。

「だから・・・一緒に行こう。一人じゃない。俺と一緒に、世界を見に行こう。」
"ガッシャーーーン!!"
「幸十!!」
跳ね返った鞭の破片を紙一重で避けた幸十は、志都しづの足枷を引きちぎらんと、鎖で強引に固定した右腕さえも激痛ごと掴み動かし、魂を絞り出すように叫んだ。




「君が教えてくれた世界じゃないか!」





その瞬間——
”パァァァアアアアン!!!”



「・・・・っ!!?」
赤く禍々しい足枷の鎖が、弾けるように幸十の黄金に輝く手から散っていく。その衝撃的な光景と共に、志都しづの脳裏には、幸十と話した会話が流れていく。

===========
『・・・幸十。』
『なに?』
『・・・いつか、一緒に太陽を見に行かない?』
===========

生まれてこの方、外に出ることを許されたことのない志都しづ。理由すら教えてもらえず、半分諦め、この西塔か、あるいはまた別の監獄で、ただ静かに息を殺して死んでいくしかないのだと思っていた。

しかし、目の前の——まばゆい黄金の光を纏った少年の言葉に、志都しづの心にかけられた絶望の鍵が、今、大きな音を立てて壊された。彼女の心はもう、頷くこと以外、何も考えられなくなっていた。

じっと見つめ、自分の返事を待っている幸十の隊服を、震える手でギュッと掴む。 志都しづが、涙ながらにその想いに頷こうとした——その時。




"ドォォォォォォン!!!"
「おい、おいおいおい、クソが!!何してやがる!!!」
「!」
「ら、らん!!」
追いついたらんが、瓦礫の煙を割って姿を現した。志都の赤い足枷を木端微塵に砕いた幸十の姿を捉え、その表情を凶悪に歪ませる。

らん、こ、これは・・・!!」
咄嗟に弁明しようとする志都しづだったが、らんはそれを遮るように、一瞬であたりに肌を刺すような鋭い殺気を爆発させた。その尋常じゃない様子に、幸十は自身のボロボロの身体を顧みず、志都しづをその背後へと押し下げて庇った。

「てめぇら・・・こそこそこそこそ、弱い奴らが何してやがんだ!!!弱いんだったら、弱いなりに、表にでず、隠れて過ごしやがれ!!ムカつくんだよ、いつもいつもいつも、てめえらの存在自体がよぉ!!!!!」
"パァァァアン!"
激昂と共にらんが棘の鞭を床に叩きつけると——



「非愁位:”植罪しょくざい”!!」




その禍々しい言葉に応呼するように、西塔の床がまるで巨大な生き物のように激しくのたうち回る。


断罪の緑牙だんざいのりょくが!!!」





次の瞬間、幸十の足元の床が大きな ”口” のように割れる。軍隊長たちを飲み込んだものとは比べ物にならない不気味さ。無数の鋭い牙を備えたおぞましい植物の化け物が、牙を剥いて幸十を丸呑みにせんと襲いかかった。

「・・・っ!第一血響 黄金おうごんくさり
「幸十!!!」
咄嗟に血響を唱えるも、満身創痍の身体では僅かに遅かった。床ごと大口を開けた植物に、幸十の下半身が無残に飲み込まれていく。

"ガリッ!!"
「ぐぁっ!!! あ、ぁぁあああ!!!」
植物の鋭い牙が、幸十の腰の肉へと容赦なく深く突き刺さる。 西塔に、幸十の肉裂ける音と悲痛な絶叫が響き渡った。志都しづはなりふり構わず這い寄り、幸十の引きずり込まれそうな手を必死に引っ張ろうとする。しかし、植物の引き込む力はあまりに強大で、びくともしない。 幸十は傷だらけの身体に必死に力を込め、抗おうとするが、血を失いすぎた肉体は思うように動かなかった。

「はっ、馬鹿が!逃げるのは無理だぜ。この一帯に入った瞬間、てめえらの負けは決まってんだ!!何せこの城は、俺の神経が蔓延はびこった植物たちで作られてんだからなぁ?!天井から床、そして外の地面まで、ここにある植物は全て俺の ”肉体” であり、全ての情報を俺に与える!! お前らみたいなクソどもの足掻きなんてなぁ、全部お見通しなんだよ!!!」
怒り任せに狂笑するらんは、未だに泥臭く抜け出そうとする幸十の様子を見下ろし、いっそ愉悦を孕んだ笑みを浮かべて拳を固く握りしめた。すると——

"グサッ!!"
「ぁぁぁあ!!!」
「幸十!!!」
新たに床から突き出た鋭い鞭が、幸十の数字が刻まれた肩を完全に貫通する。 打たれるだけでも激痛を伴うあのらんの鞭。それが肉体を直接貫き、骨を削る感覚に、幸十は全身の細胞が内側から爆発して張り裂けるような激痛に襲われた。

(っ、気を・・・失うな・・・意識を、手放すな・・・っ)
脳が痛みの限界を迎える。何とか意識を繋ぎ止めようとするが、幸十の瞳は徐々に光を失い、白目を剥きかけていく。

(いや・・・いやよ!!また、また目の前で幸十を失うなんて・・・絶対、嫌よ!!!)
志都しづは涙をボロボロと流し、強く唇を噛み切って血をにじませながら、植物の口に半分飲み込まれている幸十の上半身を、絶対に離さないとばかりに激しく抱きしめた。その必死な姿を見て、自分が完全に支配しているという優越感に浸ったらんは、トドメを刺すべく再び鞭を大きく振り上げた。

「馬鹿どもが! 弱くてクソみたいな貴様らが、ここから出られると思うなよ!!? 俺が許さねえ、絶対、絶対にゆるさねぇ!!! クソがぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
"パァァァアン!!"
「!!」
最後のトドメを刺すべく、らんが一気に距離を詰める。目にも留らぬ速度で、振り上げられた必殺の鞭が、無防備な幸十の脳天へと真っ直ぐに振り下ろされた。
しかし——



"ギュッ!!"
「やめて!!!!」


"ビリッ!!!!"
「!?!!」

激しい衝撃と共に、らんは驚愕して咄嗟に数歩後ろへと飛び退いた。
(——今・・・何が起きたんだ?トドメ刺そうとして・・・何か・・に跳ね返された・・・?)

らんの放った渾身の鞭は、目に見えない強固な ”膜” のようなものに弾かれ、それどころか、らんの右腕にはジリジリとした強烈な痺れ・・が残っていた。 わけが分からず、らんは幸十たちを鋭く睨みつける。だが、そこには植物の口に飲み込まれ、完全に力尽きかけている幸十と、彼を必死に抱きしめている志都しづの姿しかない。

(なんなんだ? 幸十あれには、もう防御する力なんて残っちゃいねぇ。なら姫さんか・・・? いや、”あの印無し・・・・・” に、何かできるわけがねぇだろ・・・!)

"シュルシュルシュルシュル・・・・"
訝しげに顔を歪めながらも、らんは己の直感を否定するように、唇を噛み締めて再び鞭を容赦なく叩きつけた。しかし——


”ビリッ!!”
「・・・っな?!?」
再び、完璧に攻撃が弾き返される。
そして、弾かれた先から、眩い光・・・が漏れ始める。


"パァァァァァァァァア!!"
その光は、絶望の闇に包まれていた西塔の空間を、眩いほどの純粋で澄んだエメラルドの輝きで満たしていく。——その中心には、幸十を抱きしめて決して離さない、身体中から圧倒的な神々しさを放ちだす志都しづの姿があった。



次回>>


いいなと思ったら応援しよう!