映画感想文『嵐が丘』 恋人も濡れる街角……ではなく荒野

「あなたは私のすべて。君は僕のすべて。」――物語の舞台はイギリス・ヨークシャーにある広大な高台<嵐が丘 (Wuthering Heights)>。
この“嵐が丘”に佇む、アーンショウ家の屋敷に住む美しい令嬢キャサリン(マーゴット・ロビー)と、屋敷に引き取られた孤児ヒースクリフ(ジェイコブ・エロルディ)の身分の違うふたりは、幼少のころより心を通い合わせる。やがて大人になった二人は、互いを求め激しく惹かれ愛し合う。だが永遠を誓った愛は、身分の違い、周囲の境遇、そして時代の渦に飲み込まれ、予期せぬ道をたどる。“嵐が丘”を舞台に、心赴くままに愛し合う二人を待ち受ける衝撃の運命とは・・・?
※ごく個人的な感想です。ネタバレあったらごめんなさい。
マーゴット・ロビーの「嵐が丘」だったから
「マーゴット・ロビーの『嵐が丘』だってよ!面白そう!」と夫婦でウヒャウヒャ笑いながら映画館に足を運びました。
何がツボだったんだ?
まず、マーゴット・ロビーが面白い。
ほら、私、『バービー』(2023年)大好きだし。
『アイ,トーニャ』(2017年)も好きだった。
ああ、そうか。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)のシャロン・テートもそうか。
意識していませんでしたが、マーゴット・ロビー好きかもしれないな。
ただ『嵐が丘』はね、きちんとしたものを観たことがないんです。
メキシコ時代のブニュエルが撮った『嵐が丘』(1953年)とかね。
メキシコの砂漠が舞台だったかな。換骨奪胎の極みだけど、本質は捉えていた記憶があります。
あと観てるのは、吉田喜重の『嵐が丘』(1988年)とかね。
舞台は日本の鎌倉時代なの。ヒースクリフ(鬼丸って役名)は松田優作。
思い返すと、一番まともな『嵐が丘』を見たのはマンガ『ガラスの仮面』かもしれない。
突然ですけど、「ヒースクリフ」って、やたら印象に残る名前だと思うのは私だけでしょうか?
私の中では、
カイザー・ソゼ(『ユージュアル・サスペクツ』(1995年))、
青沼静馬(『犬神家の一族』(1976年))
と並ぶ、三大印象に残る人名。個人の感想です。
エロっぽいことのオンパレード
このエメラルド・フェネル版『嵐が丘』の評は、ちなこさんのレビューが面白くて、私にはこれ以上のものは書けません。
やっぱり『ガラスの仮面』なんだ(笑)。おそろしい子。
本当にこの映画ね、直接的な行為ばかりでなく、全体にエロが溢れてるの。
例えば、キャサリンが嫁入りした先の義妹(?)イザベラが、手作り絵本をくれるんですよ。飛び出す絵本。
その絵本で飛び出してくるのが、薔薇とキノコだったかな?忘れちゃったけど、まぎれもなく女性器と男性器の暗喩なのです。
雨宿りのシーンもそうですよね。
雨宿りしている場所が男性器的な形状なんですよ。そもそも彼女たちは「濡れて」るしね。恋人も濡れる街角。
私が、色眼鏡でなくエロ眼鏡をかけて観ていたのかもしれませんけどね。
「3D眼鏡をかけると性的暗喩がピンク色に光る」という趣向だったら面白いのに。

てゆーか、3D映画ってどこ行ったの?
『山田孝之3D』(2016年)とか観たよ(<『アバター』とかじゃねーのかよ)
賛否あるのもわからんではない
しかし、つまらなかったわけではありません。
私は『嵐が丘』に特に思い入れもないので、「あの原作をこんなにしやがって!」という感情もありませんし。
なにしろ、メキシコとか日本舞台のバージョンしか観てないんだから(笑)
丁寧な作りだったとも思いますしね。
主要人物が、後にあんな「感情」になっていくための伏線は、子供時代のエピソードにきちんと用意されている。
使用人のネリーなんか、ヒースクリフが来る以前は一番の仲良しだったわけですし。
「ワンワンプレイ」のイザベラだって、元は「ロミジュリ」に憧れる恋に恋する少女で、上述した性器モチーフの飛び出す絵本を手作りしたりと、「堕ち体質」の素地を描いている。

ただねえ。ヒリヒリもしないし、エロくもないんだ。
エロい「行為」と「暗喩」は満載なのにね。
おそらく、このイギリス人女性監督のエロ回路と、この道数十年の卓越した私のエロ脳の波長が、合わなかったのでしょう。
「ヒリヒリしない」に通じるんですが、背徳感がないんですよ。
トリュフォーの『隣の女』(1981年)が観たいなぁ、とか、
いっそ『エマニエル夫人』(74年)みたいな解釈にすればいいのに、とか
アレクサンドル・ソクーロフの『ボヴァリー夫人』(89年)はなんであんなに面白かったんだろう?とか、
そんなことを考えていました。
あ、『武蔵野夫人』(51年)っていう溝口の映画もあるな。
夫人の破壊力すごいな。
(ちなみに『嵐が丘』原作はイギリスで1847年刊、『ボヴァリー夫人』はフランスで1856年に初出。小説が娯楽の中心だった時代、人妻不倫ものはただのエロではなく、「女性の地位と自由」というテーマも含んでいた気もします。気がするだけかもしれません)
マーゴット・ロビーの「嵐が丘」だったから
なんとなくですけど、バービーやトーニャ・ハーディングだったマーゴット・ロビーが、あんなふうに「堕ちる」ようには見えないんですよね。
彼女が場を制圧して君臨しちゃうんじゃないかな?
例え相手がフランケンシュタインの怪物だったとしても。
(2026.03.01 新宿バルト9にて鑑賞 ★★★☆☆)

