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映画『ふつうの子ども』 おとなの感想文:親愛なる上田唯士くんへ

監督:呉美保/2025年 日(2025年9月5日公開)

上田唯士(ゆいし)、10才、小学4年生。両親と三人家族、おなかが空いたらごはんを食べる、いたってふつうの男の子。最近、同じクラスの三宅心愛(ここあ)が気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる彼女に近づこうと頑張るが、心愛はクラスのちょっぴり問題児、橋本陽斗(はると)に惹かれている様子。そんな三人が始めた“環境活動“は、思わぬ方向に転がり出して――。

公式サイトから

※ネタバレを含む気ままな感想文です。ご了承ください。

男と女

親愛なる 唯士くん。
君はただ一人「ごめんなさい」と言えた人です。
それはとても立派なことです。
もちろん「ふつうの大人」は、君たちがしでかしたことに対して「ごめんなさい」と言わせたがりますが、瀧内公美ママも言った通り、君の「ごめんなさい」はカッコ良かった。

「地球が大変なことになってるのに、女子の気を引くのが動機でごめんなさい」(<うろ覚えでだいぶ意訳しました)。

素晴らしい理由です。
原始女性は太陽であり、男の動機は常に女性なのです。
あの名作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)でも、野原しんのすけはボロボロになりながら東京タワーを駆け上り、懐古趣味の野望を打ち砕くべく「オラだって大人になりたいぞ!」と叫ぶのです。
「大人になって、綺麗なお姉さんと付き合いたいぞ!」と。
映画史に残る名台詞です。

君が、彼女から離れた最後の一押しは、駄菓子屋に誘ってくれた女子の影響ですね。たぶん、あれが男に誘われていたら行かなかったでしょう。
でも、少年よ、気を付けなさい。
嫌なことや辛いことから逃げる際に「女に走る」のは「男あるある」です。
「女に逃げる」ことばかり続けていると、成瀬巳喜男『浮雲』(1955年)の森雅之のようなダメ男になってしまいますよ。

それにあの女は、君に気があるわけではありません。
男は勘違いしがちですが、誰にでも同じ(近い)距離感で接してくる女です。そういう女がたまにいるのです。
実際、彼女は他の男に「キャベ太郎」をあげるでしょ?君の目の前で。
オジサンは君の何倍も長く生きて、歌舞伎町や六本木の「夜の学習塾」に高い授業料を払ってきたから、よく知っているんです。

恋に落ちて

そう言えば、君が恋に落ちる瞬間の表情は良かったね。
あんなに綺麗にストーンと人が恋に落ちる瞬間を観たのは、『ハチミツとクローバー』(2006年)以来だよ。
あ、君のお母さんだね。

オジサンは君のお母さんを尊敬していて、「蒼井優先生」と呼んでいるんだよ。オジサンよりずいぶん後に生まれてるけどね。

先生と言えば、風間俊介先生なんだね。
あの問題児だった彼が先生とは、感慨深いよ。
ああ、ごめんごめん。第何シーズンだか忘れたけど『金八先生』の話だ。
少年の君には地球温暖化より難しい話だったね。

実録・子ども版あさま山荘への道程

親愛なる 唯士くん。
君たちの行動は、意外にも「あるある」だったんだよ。
オジサンが君よりも小さい子どもの頃に「あさま山荘事件」っていうのがあってね、よく似てるんだ。
偏った思想集団が先鋭化していき、いわゆる「過激派」と呼ばれる形になっていく。かつては学生運動、近年は環境保護団体にありがちだね。
その過程がとっても分かりやすく描かれていたな。
きっと、佐々のオヤジの自慢話『突入せよ! あさま山荘事件』(2002年)に激怒した若松孝二も満足してくれるでしょう。

事件になって、君みたいにビビるのがふつうだよね。オジサンだってそうさ。そして、そこで「もうやめよう」と思うよね。
でも中には「自分たちの行動が世間に認められた」とプラスに感じる人もいるんだね。これは改めて勉強になったよ。

もしかすると心愛ちゃんは、承認欲求が満たされていないのかもしれないね。瀧内公美ママに叱られてばかりで、自己肯定感が低いのかも。
陽斗くんは逆に、家で「いい子」を演じるストレスから問題行動に走るのかな。
そう考えると、親と子のキャラクター設定が非常に巧く作り込まれているな。

ふつうのおとな(親)

親愛なる 唯士くん。
君のお母さんはね、子育ての本を読んで勉強しているんだ。
お母さんもいっぱい悩んだり迷ったりしてるんだ。
君が「肉を食べない」とか言って困らせるから。
代わりにオジサンが、映画を観た後にローストビーフをたらふく食ってワインをガブガブ飲んでやったよ。大人の責任としてね。

そうなんだよ。子どもは「行動」はできても「責任」はとれないんだ。
でも、責任を取るべき大人も、本当は万能じゃないんだ。
学校に呼び出されたお母さんたちはどうしていいかわからなかったよね?
「保証はどうなんでしょう?」とか「何か持って行った方が?」とか。
先生も「わからない」って答えてたのを覚えてるかな?
君たち子どもは知らないことがいっぱいあるだろうけど、大人も知らないことだらけなんだ。

たしか、美保みぽ監督もお子さんがいるんだよね。
君と同じくらいの年齢だと思うな。
きっと監督は「子育ては大変だけど、子どもは面白い」と思ってるんじゃないかな?
そんなことを感じる素晴らしい作品だったよ。ありがとう。

(2025.09.23 テアトル新宿にて鑑賞 ★★★★★)

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