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ギロヴェッツの知られざる協奏交響曲、ピアノ協奏曲、交響曲

今晩は、7月17日にリリースされたアダルベルト・ギロヴェッツ(1763–1850)の協奏交響曲、ピアノ協奏曲、交響曲のアルバムを聴きます。演奏はハワード・グリフィス指揮ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ。ハワード・グリフィスは先日聞いた若いソリストによるモーツァルトの協奏曲の指揮者。たまたまグリフィスのレコーディングを調べていたら、リリースされたばかりのCPOレーベルのアルバムがあることに気がついて聴いている次第。CPOは時代の中に忘れられてしまったクラシック作品を発掘しているレーベル。グリフィスは常連さんです。
さて、アダルベルト・ギロヴェッツ。聴いたことのない作曲家。このアルバムのブックレットには詳しく彼の生涯が綴られていますが、驚くべき音楽人生。
1763年、モーツァルトより7年遅く現在のチェコに生まれ、プラハでヴァイオリニストとして活動を始め、伯爵の秘書になり、作曲が認められて伯爵の推薦状とともにウィーンに行き、ハイドン、モーツァルト、ディッタースドルフ、ホフマイスター、アルブレヒツベルガーなど現代でも知られる作曲家たちと親交し、自作の交響曲を裕福なパトロンたちに売り込みます。モーツァルトは作者の名前を明かさずにギロヴェッツのシンフォニーを演奏して、演奏終了後の拍手喝采が上がるや本当の作曲家の名前を明かしてギロヴェッツを紹介するなど、結構いい評価を得たけどウィーンでは職にありつけず、また侯爵の秘書兼ヴァイオリン奏者となってフローレンスの旅行に同行、そこで名ヴァイオリニストのナルディーニと知り合い、さらにローマにいって侯爵の邸宅に居住。ローマで芸術家の集まるコロニーに出入りし、文豪ゲーテと知り合って観光旅行したり。その間に弦楽四重奏集を作曲、それが本人が知らない間にパリで出版されて人気が出るという、今の著作権からすると考えられない出来事があり、今度はナポリにいってパイジェッロに作曲の指導を受けます。ナポリでもゲーテにしばしば会っていたとのこと。ヴァイオリンのレッスンを行いつつ国王にノットゥルノをささげたり。その後恋愛関係のもつれでパリに移動すると、なんと勝手に出版されていた作品で有名になっていてびっくり。しかしフランス革命に不安を感じ、今度はロンドンに向かいます。イギリスでは彼の交響曲がハイドンの名前で勝手に出版されていてまたまたびっくり。どうなってんだ、当時の著作権。しかしウィーンからたびたび来ていたハイドンと仲良くなって同じ演奏会で自作を披露したり。せっかくオペラを作曲したのに上演予定の劇場が火事で燃えてしまい、そのショックか健康を害してフランスに戻ります。ここでも弦楽四重奏やシンフォニーが評価されていて好意的に迎えられ、その後ドイツの様々な都市を旅して、ウィーンに戻ります。ここでも音楽家として高く評価されていて、ハイドンやモーツァルトと並ぶほどの人気だったとのこと。弦楽四重奏や交響曲はウィーンだけでなく、ライプツィヒやアムステルダム、ロンドンでも出版されて人気を博していました。そして1798年、ついに皇帝フランツ2世の宮廷劇場付き作曲家に任命され、大量の演劇上演のための音楽やバレエ音楽を作曲。オペラも人気を博して、ウィーン市民からも愛されたとのこと。またこの頃ベートーヴェンの後期の作品を積極的に賞賛していて、彼の葬儀にも参列しています。さらに1818年には7歳に満たない少年ショパンがギロヴェッツのピアノ協奏曲ト短調を弾いてウィーンで初の公開演奏!
ただ彼ら新世代の作曲家の登場でだんだんと時代遅れになっていきます。1820年代に職務を解かれ、作曲活動は続けつつ若い音楽家の支援をして、ウィンナ・ワルツのヨーゼフ・ランナーやヨハン・シュトラウスの父とも交流がありましたが、1840年代には次第に忘れられ、1850年に87歳で逝去。この年にはワーグナーの「ローエングリーン」が初演されています。
つまり彼はヨーロッパ中を旅し、後半生はウィーンに落ち着いてモーツァルトからワーグナーの時代にわたる生涯を生きたわけです。こうやって考えると、私たちが今聴いている主なクラシック音楽って、たった一人の人間の一生くらいの案外狭い期間に作曲された音楽を聴いているわけですね。
さて、このアルバムで取り上げているのは以下の作品。
2つのヴァイオリン、ヴィオラとオーケストラのためのシンフォニア・コンチェルタンテ ニ長調
ピアノとオーケストラのための協奏曲 ヘ長調 作品26
交響曲 イ長調
まずは協奏交響曲 ニ長調。2本のヴァイオリンとヴィオラがソロです。1797年出版され、ロンドン滞在中に作曲されたかも。なんと当時アメリカやロシアにまで知られていたとのこと。人気があったのですね。第1楽章はちょっとモーツァルトのパリ交響曲っぽい長い序奏。ディヴェルティメント的な雰囲気。3本のソリは明るい主題の後掛け合いながら技巧的な音階を弾いていきます。ヴィオラが次の主題をいい音で弾きます。結構この曲楽しい! 当時人気があったのがわかるような気がします。展開部があり、協奏曲と交響曲のソナタ形式が混ざっています。珍しい編成ですが、実演でやったら演奏する方も聞く方も楽しめると思います。
第2楽章はアンダンテ。民謡風の主題でソロたちによる変奏曲。転調を繰り返しながら3本の楽器でカデンツァが弾かれます。第3楽章はかわいい主題がロンドとソナタを組みあわせた形式で進みます。
珍しい編成もあって、面白く聴けました。こういう隠れた作品がまだまだあるのですねぇ。
ピアノ協奏曲ヘ長調は1796年に出版。ショパン少年が弾いたのは別の曲。この曲は協奏交響曲の独創的な形式と比べると、基本はモーツァルト的な構成。少しのんびりした雰囲気の主題ですが、時々面白い転調があったり。モーツァルトのピアノ協奏曲のような澄んだ世界ではないけど、それなりに楽しめます。第2楽章はゆったりした主題の変奏曲。長調と短調を行ったり来たりしながら3つの変奏とカデンツァと主題の再現。第3楽章はまた明るいロンド。こういう未知の古典派の作品を聞くのはすごく楽しいですね。
ピアノはジュリアン・トレヴェリアンという方。演奏はトレヴィアンですが、英国のピアニスト。1998年生まれだからまだ25歳の若手。このかたも、アルファ・レーベルの「若い世代のモーツァルトの独奏者たち」シリーズの第4巻でクリスティアン・ツァハリアス(懐かしい!)の指揮でモーツァルトの23番と24番のピアノコンチェルトのアルバムがリリースされていて、聴いたことのある人でした。

交響曲イ長調は、1797年か98年にパリで出版。第1楽章は極めて伸びやかな優しい第1主題から始まります。完全なソナタ形式。経過はシンフォニーらしいですが、第2主題はホ長調でこれも穏やか。とても優しい性格のシンフォニーですね。展開部は第1主題の動機を中心とした嬰ヘ短調。ベートーヴェンみたいに葛藤深く展開はせず、あっさりした感じ。ギロヴェッツの優しい性格が滲み出ているような作品。第2楽章はちょっぴりハイドンっぽい4つの変奏曲。第2変奏は短調で緊迫した雰囲気。第3楽章は速めのメヌエット。スケルツォと言ってもいいかな。トリオはオーボエを主体とした長閑な雰囲気。フィナーレは細かい音とテュッティが入れ替わりつつ活発な序曲風。ソナタ形式。展開部もほどほどに主題を変形しながら発展します。軽やかで、深刻なところがなくて、こういうのが当時受けたのでしょう。

ハワード・グリフィスの指揮とロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの演奏は、この時代の形式感を見事に捉えていて秀逸。録音も教会のほど良い残響とそれに溶け合いながらも細かい音が美しく分離してとても楽しめました。
勉強不足もあって、全く知らなかった古典派の作曲家。でもこういう未知の作品を聴いていくのがとても好きなんです。波乱の生涯と軽やかで楽しい作品。当時の人気作曲家ということでなんとなく現代との嗜好の違いもわかってきます。あまり深刻じゃない方がウケたのだな・・。でも現代で聴いても、ストレスが多い生活の中で、この爽やかな作品たちが私たちを慰めてくれるのではないでしょうか。

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