信号機ぶどう味|毎週ショートショートnote
1868年、ロンドン。
エドは、色に執着していた。
煉瓦の赤も、布の青も、光ひとつで変わる。そのわずかな違いを見つけるたび、エドは目を離せなくなった。
幼い頃、父が旅先から持ち帰った葡萄を見た。
深い紫に赤がきらめき、白い果粉が宝石のような艶を添えていた。忘れられない色だった。
世界中を旅し、あの色を探した。
だが、どこにもない。
とうとう老いて足腰も弱ってきた。
最後の旅を終えた夕方、家の近くのベンチに腰を下ろした。
項垂れ、頭を抱えた。足元に涙が落ちる。
もう、会えない。
目を閉じ、あの赤紫にきらめく色を思い出す。
濡れた目を擦り、顔を上げた。
道のガス灯信号が赤に変わった。
その赤が、夜へ沈みかけた紫の空と重なる。
「あ……」
胸が大きく震えた。
息をするのも、瞬きするのも忘れた。
そこには、何十年も探し求めてきた、
あの味わいのある色が煌めいていた。
「キレイだ……」
📖今回も、田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加させていただきました。
いつも、お題をありがとうございます。
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