#40/放課後,窓から虫の声が入ってきた/記憶の名残り

放課後の教室は、昼間より広く見えた。
机の数は同じなのに、
人が減るだけで、隙間が増えたように感じる。
黒板には、授業の文字がまだ残っている。
椅子の背には、誰かの鞄。
窓際の机には、開いたままのノート。
いつもと同じ放課後だった。
たぶん、
そのときはそう思っていた。
窓の方を見る。
カーテンが、少しだけ動いていた。
ほんの少し膨らんで、
また窓辺へ戻る。
外から、虫の声が聞こえた。
昼間なら気づかなかったかもしれない。
誰かの声や、
チャイムや、
廊下を走る足音に隠れていた音だった。
窓の近くまで行く。
風が腕を通る。
机の上に手を置くと、
まだ少し温かかった。
机の横の傷。
黒板の消し残し。
少し固い窓の鍵。
毎日見ていたはずなのに、
その日だけ妙にはっきり見えた。
外を見る。
校庭の端が、
夕方の光で薄く染まっている。
誰かを待った日。
急いで帰った日。
くだらないことで笑った日。
そんな放課後が、
少しだけ重なった。
後ろで椅子を引く音がした。
振り返る。
まだ何人か残っている。
誰かが笑っている。
「じゃあね」
一人、
また一人と教室を出ていく。
あのころは、
明日も同じように会えると思っていた。
だから、
これが最後だなんて、
誰も言わなかった。
窓を見る。
カーテンが、
もう一度だけ持ち上がる。
たぶん、
最後の放課後は、
最後らしい顔をしていない。
あの日もきっと、
いつも通りだった。








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