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#36.いみじきことぞあなシンハラ語

正直に言うと、最初から「シンハラ語を勉強しよう」と強い目的意識があったわけではありません。きっかけは、とても現場的で、地味なものでした。

日本語を教えていると、スリランカの学生が増えてきた

日本語を教えていると、ここ数年でスリランカ出身の学生が明らかに増えたと実感します。これは感覚だけではなく、数字にも表れています。

出入国在留管理庁の統計によると、日本に在留するスリランカ人はこの10年ほどで着実に増加しており、2023年時点で約7万人規模になっています。

つまり、「たまたまいる」存在ではなく、これから日本社会の中で一緒に生きていく人たちになりつつある、ということです。

ところが、教室の中でふと感じる違和感がありました。

日本語はそこそこできる。でも、どこか噛み合わない。

冗談が通じにくかったり、距離の縮まり方が独特だったり。

その理由を「文化の違い」で片づけることもできます。でも、私は途中で思いました。

もしかして、文化をはじめ、言語の仕組みそのものを知らなさすぎるのでは?

シンハラ語を知ると、人間関係の“角”が取れる

そこで少しずつ、シンハラ語をかじり始めました。

すると、不思議なことが起きます。

学生が日本語で言い淀んだとき、
「あ、今シンハラ語の感覚が出てるな」
と感じる瞬間が増えました。

シンハラ語は、系統としてはインド・ヨーロッパ語族。
大雑把に言えば、英語の遠い親戚です。

ところが、文法の“使われ方”は驚くほど日本語に似ています。

  • 文末で情報が確定する。

  • 語順が比較的自由

  • 格助詞に相当する要素で関係性を示す

「英語の仲間なのに、日本語っぽい」。

この違和感こそが、シンハラ語の面白さでした。

日本語教師にとって、シンハラ語は“武器”になる

本来なら、直接法ベースの日本語教師がシンハラ語を話す必要はありません。

でも、構造を少し知っているだけで、説明の質が変わる

学生「スリランカには日本語のような敬語はありません。」
私「本当ですか?お坊さんと会うとき、丁寧な言葉を使いますか。」
学生「えっ…いいえ、先生。スリランカでお坊さんに丁寧な言葉、使います。」
私「それは敬語だと思いますか。」
学生「(考え込む)…」

こうした説明を、日本語だけで完結させるのは難しい。

でも、シンハラ語の感覚を踏まえて説明すると、学生の反応が明らかに違います。

また、スリランカの学生たちは母国でおしゃべりする傾向があるので、頭ごなしに怒らず、シンハラ語で「さあ、日本語を話してください」「日本語で話すことができますか?」などと言っておしゃべりに割り込むと、そのうちシンハラ語で話しかけられたとき、「うるさいんだなと言われている」と学生が思うようになるだけでなく、「先生にシンハラ語で何か言われないようにしよう」と考え方を変える学生も出てきます。

それは、教師としての信頼にも直結します。

シンハラ語をやると、ちょっと“特別な存在”になれる


これはわかりきった話ですが――

日本でシンハラ語を学んでいる人は、かなり少ないです💦

スリランカ人は増えている。『みんなの日本語』もシンハラ語バージョンが出るくらいです。

でも、シンハラ語を理解し、使える日本人は圧倒的にいない。

このギャップは、今後もっと広がると思います。

  • 日本語教育

  • 生活支援

  • 行政・医療・労働現場

どこでも「英語+日本語」だけでは足りなくなりつつあります。

そこでシンハラ語が少しでもできると、それだけで代替不可能な人材になり得ます。日本語教師だけではありません。今後の日本のことを広く見据えられる人材になっていけるでしょう。

日本の古語が、シンハラ語の中で“生きている”

個人的に一番ワクワクしたのは、ここです。

シンハラ語には、日本語の古語で見られた感覚が今も生きています。

たとえば、係り結び。

日本の標準語では衰退しましたが、
「話者の気持ち」「強調」「疑問」「詠嘆」に反応して、
用言の形が変わるという“生理的な文法機能”。

この感覚は日本語の標準語で消えてしまいました。

琉球諸語では今も使われていますが、日本語の標準語を学ぶ人にとってこの文法は古典の世界の遺物です。

私たちは言語活動を通して、無意識に自分の気持ちと言語の発話をリンクさせていますが、シンハラ語を介して、古き日本の言語構造に巡り合うことができます(ただ、沖縄とあえていうと九州を除き、日本ではシンハラ語と同じくらい琉球諸語も広く学ばれていないので、これはとても残念なことだと思います)。

日本語では近世に向かうにつれて「係り結び」が衰退。

係り結びではなく「よ」「ぞ」など、後ろにつく文末表現に感情を言語に反映させる言葉に依存するようになっていき、標準語ではついに係り結びが消えてしまいました。

しかし、シンハラ語にも、古語とよく似た世界がある。

シンハラ語を勉強していると、

「これは文法というより、人間の感情の動きだな」

と思う瞬間が何度もあります。

結果的に、日本の古典が少し身近になりました。

これは、完全に想定外の収穫です。

じゃあ、なぜ日本で人気がないのか?


理由ははっきりしています。

知名度です!💦

シンハラ語自体がどマイナー。スリランカの名前は知っているが、他の情報はほぼ皆無の知名度。

まずスリランカの名前はともかく、国の場所やシンハラ語という言葉自体が知られていない

下手をするとまだお隣の島国のモルジブのほうがネームバリューがあるくらいかも…

ましてや、くるくるした文字ってなんなの?

「アジアっぽい!」「インドの言葉でしょ?」というレベル。

そして、文字は難しい。

シンハラ文字は曲線と丸みの塊です。

これは、ヤシの葉に書くことを想定して発達したと聞きましたが、出典は覚えていません。

筆で書くことを前提に、

「はね」「とめ」「はらい」がある日本の文字とは設計思想が違う

しかも、

  • 似た形の文字が多い

  • 最初は区別がつかない

  • ローマ字表記に逃げると一生読めない

多くの人が、文字の段階で脱落します。

初心者への現実的なアドバイス

教材も多くありません。

正直に言います。

  • 初心者向けで現実的なのは
    『ニューエクスプレス シンハラ語』一択

Kindleで手に入るので、これは本当に助かります。

一方、大学書林の『シンハラ語読本』は――

…日本語力で言えば最低でもN3レベル以上が必要です。

読み方も書いていないので、初心者がいきなり挑むと、ほぼ確実に心が折れます(私も折れました)。

ここが問題。

じゃあ、シンハラ語をエクスプレスシリーズで勉強したら、何で勉強したらいいの?

これは私も探しているところです。いいのがあれば教えてください

まずシンハラ語を勉強するときのコツは、文字の読み方を確認しながらマイペースでゆっくり進むこと

文字・音・意味を同時に結びつけることが重要です。


おわりに:シンハラ語は「今は地味、でも確実に効く言語」

シンハラ語は、派手ではありません。

たとえ話せたからといって、日本ですぐ仕事が増えるわけでもありません。

でも、

  • 日本社会の変化

  • 日本語教育の現場

  • 言語そのものの深さ

この3点を考えると、「確実に“効いてくる言語”」だと感じています。

もしあなたが

  • 日本語を教えている ←絶対役に立つ

  • 多文化共生に関わっている

  • 言語そのものが好き

どれか一つでも当てはまるなら、

シンハラ語は、思っている以上に面白い世界を見せてくれるはずです。


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多言語学習・人工言語話者まさやさん 資料や書籍の購入費に使います。海外から取り寄せたりします。そしてそこから読者の皆さんが活用できる情報をアウトプットします!