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空から落ちてきた少女が俺に世界の敵と言った第13話 「帰ってくるはずの人」

第13話

駅前の風は少し冷たかった。

改札から人が溢れてくる。

待ち合わせの声が重なり、

誰かが足早に横を通り過ぎた。

世界はいつも通り動いていた。

カイはその流れの中を歩く。

隣にはルナがいた。

特に会話はない。

けれど。

ルナは何度も足を止めた。

何かを探しているようだった。

「どうした」

声を掛ける。

ルナはすぐには答えなかった。

駅前の広場を見渡している。

そして小さく言った。

「……変」

「何が」

ルナは少し考える。

それから首を傾げた。

「うまく言えない」

カイは苦笑する。

ルナ自身も説明できていない。

それは見ていて分かった。

ルナはまた歩き出した。

ロータリーの方へ視線を向ける。

バスが発車する。

人が乗り込む。

ただそれだけの光景だった。

なのに。

ルナはじっと見ていた。

「ここ」

小さく呟く。

「変な感じがする」

カイは眉を上げる。

「来たことあるのか?」

ルナは首を振った。

「違う」

一拍。

「忘れちゃいけない気がした」

カイは何も言えなかった。

初めて見るはずなのに。

どこかで知っている気がする。

そんな感覚を、自分も覚え始めていた。

二人は駅前を離れた。

バス通りへ入る。

そこで。

ルナが急に足を止めた。

「ルナ?」

返事がない。

前を見ている。

その先には小さな横断歩道があるだけだった。

信号は青。

人影も少ない。

ただそれだけの景色だった。

なのに。

ルナの目だけが揺れていた。

「……いた気がする」

小さな声だった。

カイは眉をひそめる。

「誰が」

ルナはすぐには答えなかった。

ただその場所を見つめている。

やがて小さく言った。

「分からない」

一拍。

「さっきまで、そこにいた気がする」

その声は寂しかった。

カイは少しだけ心配になる。

ルナはまだ横断歩道を見ていた。

誰もいない場所を。

見失ったものを探すみたいに。

遠くで電車の音が鳴る。

ルナは空を見上げた。

夕方の色が広がっている。

「なあ」

カイが呼ぶ。

ルナは振り向く。

「何?」

「お前、何を見た」

ルナはしばらく黙った。

考えている。

けれど言葉にはならないらしい。

やがて困ったように笑う。

「思い出しそうなだけ」

「何を?」

ルナは視線を落とした。

少しだけ考える。

そして小さく笑う。

「まだ、うまく言えない」

風が吹く。

誰かの笑い声が遠くで聞こえる。

日常は続いている。

何も壊れていない。

何も変わっていない。

なのに。

何かだけが少しずつ近づいていた。

しばらく歩いた。

ルナは足を止めた。

道はまっすぐ続いていた。

誰もいない。

それでも。

しばらくその先を見ていた。

「どうした」

カイが聞く。

ルナは答えない。

「誰か待ってるのか?」

その言葉に。

ルナは少しだけ目を見開いた。

そして。

夕暮れの向こうへ視線を向ける。

まるで。

そこに誰かがいるみたいに。

泣きそうな顔で笑った。

しばらく黙ったあと。

小さな声。

「ちゃんと帰ってきて」

カイは眉をひそめる。

「……誰が?」

ルナは答えない。

ただ夕暮れを見ていた。

その目だけが。

どこか遠くを探していた。

夕暮れの色だけが、

静かに滲んでいく。


「ちゃんと帰ってきて」

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