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【小説】続・脅し屋

本作は

の続編です。セルフ同人誌みたいな扱いです。


横断歩道を行き交う人々の視線は、それぞれの持つスマートフォンに集約されていた。
脅し屋という悪習への告発が、日本を大いに騒がせたのは数カ月前だ。最初は、陰謀論だと一蹴された挙げ句、告発を行ったアカウントそのものがBANされるなど、誰一人として信じることなく闇に葬られた。
しかし、再び一部の人間が拡散し、だんだんその陰謀論が、的を得ていることが表面化し始めた。
転じて、ジャーナリストや専門家が警察から《箝口令》が敷かれていたこと、そしてそれを破り真実を話すことにした事をメディアで明言し、ついに告発は日本全土を巻き込む大炎となり、インターネット創始以来の大炎上と相成った。
加害者家族として散々な目にあってきた者たちは再評価の芽を得、
過去の事件について、インターネットでは盛んに考察が行われ、脅し屋の実情を暴いていった。
そして今日、多くの国民の注目の的となっているのは、最初の告発文に名指しで記されていた『馬場文彦』の初公判である。
脅し屋として阿久市の冤罪事件に関与していた張本人だ。
依然として告発文を否定しつづける警察庁、そして諸悪の根源として疑われている国家公安委員会の主張を、馬場文彦がひっくりかえす可能性を、国民はかたずを飲んで見守っていたのだった。

格子から西日が差し込む取調べ室に、織田和人はひとり、座っていた。
片原コウから連絡があったのはだいたい2年ほど前だっただろうか。
私が冤罪事件を調べるジャーナリストであったがために彼は知見を求めたのだ。
父の無実を証明するために勤しむ青年だった。その熱意に押され、箝口令を破って脅し屋の存在を彼に伝えた。それ以上に、冤罪の真実を追うジャーナリストという肩書きでありながら、警察からの箝口令に従い、真実を告発してこなかった自分への負い目もあったと思う。
告発を行ったアカウント、《ippa1/28ra5》は片原コウだ。
ある意味、この炎上の引き金を引いたのは自分なのだ。
私は今、メディアで私が明言した事実を訂正するように「脅されて」いる。
従う気はない。どんな未来が待っていようとも、知っていながら無知のフリをするのはもうたくさんだ。片原コウの決意がこのまま消えてしまう前に、自分で受け継いでしまおう━。
それが、私にとってのせめてもの贖罪だった。
和人の背後で空気が揺らいだ。重い扉は開け放たれ、そして━━
《脅迫》が始まった。

阿久市中枢の駅前広場をはじめとした各所で、真実を求めるデモ隊がところ狭しとひしめき合っていた。
阿久警察署には人が押し寄せ、一部では暴動が発生した。
裁判所前には、報道陣がマイクを片手に自分たちの領域を主張していた。
その熱気は裁判所内にも入り込み、傍聴席は異例の満席となった。
期待と好奇心が入り乱れる中、ついに裁判は始まった。
木槌が音を立て、静寂が広がる。ドアが開き、渦中の人間、馬場文彦がその姿を表した。
顔も、歩き方も、なにもかもが不整合で、目はうつろだった。歩き方は、まるで脳が働いていないかのように、足がズルズルとひきづられていた。
裁判は滞りなく進んでいった。だが、傍聴席では苛立ちが募っていた。
馬場文彦が、ひとことも喋らないのだ。メモ帳を持ち込んでいた者たちの手は一切動かない。
「被告、馬場文彦は過去10年の間に、複数の…」
検察はついぞ、脅し屋について触れることはなく、死刑を求刑した。
傍聴席でヤジが飛び、また木槌の音が響く。
馬場文彦は、固く口を閉ざしたまま微動だにしなかった。

「では、取り調べを始めましょうか….」
その初老の刑事は、ゆっくりと椅子に座って、目の前の男、織田和人を見つめた。
「なんでこんなことしたんです。全く…」
その言葉は、和人をハナから犯人と決めつけている言葉だった。
「脅し屋が来ると思ってましたよ。あなた、本職の方だ。」
和人は意外そうに言った。
「私は武田といいます。お互い、長いのは嫌でしょう。」
早く終わらせるとしますか、と武田は落ち着いた口調で続けた。
「証拠は揃ってる。認めましょう和人さん。」
そして武田は指を突きつけた。
「犯人は..あなただ。」
そう言うと、武田は歯茎を見せ、黄ばんだ歯を覗かせた。
「ちょっとまってくださいよ。私が何をしたっていうんですか」
「自分でわかってるはずですよ」
「いやわからない。これは茶番だ。」
和人の目が武田を捉えた。小手先の手続きだった取り調べは、いよいよ本調子に戻っていく。
「記録員もいなければ、ここは四方がコンクリートに囲まれてる。」
これは間違いない。《脅迫》だ。…それなら。
「武田刑事。あなたの話がしたい。あなたが数カ月前に、ちょうどここ━━阿久警察署の取り調べ室で起こした殺人事件について。」
外では相も変わらず、暴動が起きていた。

馬場文彦の目は泳ぎ続けていた。顔は青くなる一方で、とてもなにか喋ることができる状態ではなかった。
傍聴席の不満はピークに達しようとしていた。
弁護士は事務的に擁護するものの、脅し屋という言葉は出てこない。
まるでベルトコンベアーだ。首吊り台へと被告人を運ぶベルトコンベアー。
馬場文彦は川に流れるように、無抵抗だった。そこに、国民が作り上げた偶像はなかった。馬場文彦が薄ら笑って、検察官を貶める。
そんな劇場型犯罪など起こるはずもなく━
いよいよ終盤にさしかかった裁判は、最後の検察の喚問に突入した。
「遺族の気持ちを考えたことがあるんですか!?」
そこではじめて、馬場文彦は声を発した。小さく、だが確実に。
「知らない」と。
かよわく、泣きそうになりながら、教えを乞うように。
「なっ…あなたは反省しているのですか!?」
まくしたてる検察官の次の言葉は、ついぞ発せられることはなかった。
それを上回る馬場文彦の声が、響いたからである。
「知らねえ、知らねえよ!やっぱりおかしいんだ、俺はこっちじゃない、こっちじゃないんだ!」
馬場の唾が検察官に飛ぶ。馬場はふらつきながら前へと進む。部屋の真ん中に佇み、絶叫する。
「俺じゃない!俺じゃない!」
手遅れな弁明を、ただただ繰り返す。
暴れる馬場を、守衛が取り押さえるものの、なおも絶叫は続く。
傍聴席は静まり返っていた。
テレビの、ニュースの、SNSの中の存在だった化け物を目の当たりにした彼らの手は、いっさい動いていなかった。メモ帳が落ちる音がした。

「私の話?殺人事件?織田さん、集中して下さいよ。なんの話ですか」
武田の声は嫌に良く響く。だが負けるわけにはいかなかった。
「片原コウという名前をご存知でしょう。ここで殺された男です。表向きには事故死となってますけど、その実態は他殺だ。口封じだ。」
「ジャーナリストさんは想像力が大変豊かだ。でもね、そんなことホントにあったら大問題ですよ?」
全くもう、と言わんばかりの軽快な返しだった。まるで外の喧騒の理由など分かっていないかのようだ。
「あなたは片原コウを利用して馬場文彦を始末し、さらに片原コウさえもあなたの手によって始末した。…これも告発します。」
武田の目が揺らぎ始めた。だがそこから焦燥感は見て取れない。
「証拠もないのに決めつけるもんじゃありませんよ?」
武田の語気が強まった。
「刑事さん。このままだとまた同じ轍を踏みますよ。今ここで僕を殺しても、僕のPCが全部告発します。3億円事件の真実とか、冤罪だったと謝罪して釈放してるのはイメージ向上のためである事とか、全国の脅し屋名簿リストとか。今の時勢を理解してるならわかるはずだ。今告発すれば、絶対に受け入れられる。」
武田の顔からは感情を読み取れない。
「それは脅迫ですかな?」
ええそうです、とにべもいわず答える。
「目的はただひとつ、脅し屋システムを廃止するよう警察庁に通告してください。どうせ数年すればみんなこの騒ぎの理由を忘れる。だからこそ今しかないんですよ。もう不幸の連鎖を断ち切るときです、武田刑事。」
「脅迫とは」
武田は被せるように言った。
「然るべき道具がなければ成立しないんですよ。」
空気が重たくのしかかる。だが、和人には決定的な《道具》があった。
「刑事さんスマホ持ってます?」
「スマホ?….ええ。」
怪訝そうに武田はスマホを取り出した。
「YouTubeで調べてください。ippaと。」
武田が画面を叩く音だけが取調室に響く。果たして、出てきたのは
包帯で全身が巻かれ、ベッドに横たわる男のサムネイルだった。病院だろうか?
「そこにいるのは片原コウです。」
「その動画の中で、片原コウはこう言ってます。」

犯人は武田修宏だ、と━━。

🔴
片原コウから再び連絡があったのは、まさに告発が行われた時期と重なっていた。メールには住所と、古びたアパートの写真。
すぐさま阿久市に向かい、アパートに到着した。大家に聞いて、片原コウの部屋に入った。質素な仏壇と、穴が開いた布団。脅し屋システムで父を、人並みの生活を失った哀れな男の部屋だった。
机の上にはPCが鎮座していた。自動プログラムが実行されているようで、SNSへの投稿が続いていた。自分に来たメールも、またこの産物だと気づいた。
コウくん、君は━。
負けたのか、脅し屋に。
付近の病院を探し、ついに阿久総合病院で対面した。全身が包帯で巻かれ、目と口だけがかろうじて見えていた。
看護師が出ていったあと、すぐにコウの耳元に口をやった。
「コウ君、誰にやられた!言うんだ!」
コウの目に涙が浮かぶ。かすれるような声で、ひとこと口にした。
「コウ君、記録に残す。頼む、もっと大きな声で!」
カメラに向かって、コウは最後の言葉を残した。
「犯人は…武田修宏だ…」
カメラを止める。青年の手を掴み、じっと見据える。
「すまなかった..!あとは私に任せてほしい…!」
もはや音にならない声を、コウは何度も発し続けた。
やがて、抜け落ちた単語は和人の頭の中で補完され、そしてようやく、コウの遺言は形となった。

「全部壊してください」

日の沈んだ病院の外で、タバコを吹かす。
和人の頭の中で、計画が出来上がり始めていた。
メディアに出演し、真実を話す。もちろんそれは適したタイミングで。
出頭要請がきたら阿久警察署に出頭する。もちろん、牙城を切り崩すための鍵、武田修宏と対面するためだ。日本中の脅し屋のデータは頭に入っている。どんなやつが来ても黙秘を繰り返して、武田を引きずり出すつもりだった。
それと同時に《道具》を用意した。片原コウの証言をYouTubeに事前に投稿しておく。動画が無数にある今、ひとつの動画がネットの海に放たれても拡散性は低い。だがいつ誰が見つけ出すかわからない爆弾は、道具として十分だった。
目的は、すべて壊すこと。その対象は、武田修宏をはじめ、この社会を構成するすべて。
タバコの煙が細くなってきた頃、看護師から、片原コウが死んだと伝えられた。
🔴
法廷は再び熱気を帯び始めた。
司法という絶対の中で、暴れる馬場文彦の姿が、傍聴席の者たちの倫理を腐食し始めていたのだ。
「ふざけるな!なんで全部お前らが決めるんだ!俺はなにも知らないのに!そうやって勝手に決めて!クソっ..おい話せ!」
静粛に!静粛に!と裁判長の声が響く。
木槌の音が耳につんざく度に傍聴席の中で何かが膨らみ始めていた。
なんでぜんぶ決めるんだ?
たしかに、知らないうちにやってくるのは最低だ。
悪いのは警察なのに、なにが「静粛に」だ
なんでそんなに偉そうなんだ?

同じ頃、阿久警察署前もまた、その熱気はピークに達していた。
罵詈雑言が殴り書かれたプラカードが地面に打ち捨てられ、抑え込もうとする警察たちへと人の塊が殺到していた。
右に習え、前に習えで、秩序という門はこじ開けられようとしていた。

スマホを掴んだまま、武田修宏は取り調べ室を飛び出していった。
私は勝ったのだ━。和人は安堵し、席を立ち上がる。もし自分の身になにかあれば、自分のPCが自動的に他のジャーナリストや著名人に例の動画を送る手筈だった。だが、おそらく和人はもう始末されることはない。PCの存在をほのめかしている以上、警察側も手出しはできない。
武田に罪を認めさせる必要はなかった。ただ、脅し屋という悪習が消え去れば、そして━━。
片原コウのメールは、あのあともう一通届いた。
『僕の家族は犯罪者だと社会が言っています。弟は自殺しました。母は精神病棟にいます。高校は退学になりました。バイトも満足にできません。脅し屋というシステムを消し飛ばし、そして━━この社会に復讐するのが僕の遺志です。』
外の喧騒はだんだんと近づいてくる。いいぞ、お前らもっと壊せ、もっとぐちゃぐちゃに━━

警察署前の、裁判所前の者たちの中で、なにかが音を立てて崩れた。
傍聴席の者たちは次々と立ち上がり、柵を飛び越えた。
彼らのほてった頭に、倫理観は存在しなかった。馬場文彦を取り押さえる守衛を抑え込み、馬場文彦を引き剥がす。阿鼻叫喚は外へと伝播し、そして、彼らもまた、裁判所内へなだれ込んだ。
阿久警察署内にも人々がなだれ込み、地響きが署内に振動した。
もみ合いになりながら、善良な国民たちはとにかく前に進む。そこに目的もなにもない。その波は、やがて取調べ室まで達した。

その少し前。
武田修宏はスマホを地面に叩きつけた。ここはロッカールーム。
冗談だと思いたかった。上の指示に乗っかってやっていただけの事を、こんな形で….!
織田和人は完全にノーマークだった。なぜだ片原コウ。馬場文彦を断じそれでもなお足りないのか。見えやすい敵を与えてやったのに。叩きやすい獲物を木にぶら下げていたじゃないか。なぜ織田和人をよこした。
なぜ俺にまでその刃が向く。
終わり?いやまだだ。裏口から出て織田和人の家を割り出す。そしてPCを押収し、やつの道具を奪う。
脅し屋のシステムなどなくなるものか。俺ひとりがやめろと言おうが、なにも変わらない。
荒ぶる頭で裏口へと向かう武田を、ひとつの声が呼び止めた。
署長だ。
「武田。君、どこへいくんだ。」
「ええ、街のあちこちで事件が起きてるようですので」
「いやいや待て。君は失態をどうにかするのが先だろう?」
失態..?
署長の顔は全くの無だった。もうお前には興味がない、と言わんばかりの..
「全部見ていたぞ。あのジャーナリストの脅しに失敗したな?」
嘘だ。あそこは脅し屋専用の部屋だ。カメラも記録員も置いてあるはずが━
「責任の所在は君にある。」
署長は警棒を手渡してきた。そうか。俺もまた、歯車の一つだったのか。カメラの存在など、捨て駒に伝えられるわけがなかったのだ。
「正面の抑えに応援に行きたまえ。」
言われるがままに、武田は歩を進める。
終わった。これで━━。

押し寄せる民衆を尻目に見ながら、和人は警察署をでた。喧騒から離れるように、電車に乗って、我が家へと帰還した。
部屋の明かりを灯し、一服やる。立ち上る煙を見つめながら、ベッドに身をうずめた。
まだ、終わらない。きっとシステムは変わらない。だからこの火を絶やしてはいけない。だからこれからも脅しを繰り返す。
全国の脅し屋を、はたまた刑事を、逆に脅して、システムを脆弱させていってやる━━。
その瞬間、和人の体が勢いよくハネた。オレンジ色の塊が膨らんだと思えば、火薬の匂いとともに和人の家は木っ端微塵に吹き飛び、当然PCも吹き飛んだ。轟音がけたたましく鳴り響き、やがて━。
砂煙が舞い、すべてが音を立てて崩れた。
ある男が、受け継ぎ、背負った十字架の崩れる音だった。
瓦礫の下で、ひとりの脅し屋、織田和人は絶命した。
🔵
並べろ、と為すがままに縛られ、阿久警察署の警官たちはロビーで並べられていた。武田もまた、そこにいた。
署長はいないようだ。あのあと先に逃げていたのだろう。
武田はもう諦めていた。このまま、醜態をさらして終わるのだ。
「おい、これ」
そのとき、彼らの周りを囲む人々のうちひとりが声を上げた。
その男は片手に持つスマホを見せた。
『犯人は…』
包帯でぐるぐる巻きにされた男の証言だった。
そんな…武田に焦りが生まれる。よせ、もうその先は..
『武田修宏だ』
ネットの海に埋もれ、拡散される確率など無いに等しい動画。しかし、日本全土を巻き込んだ大炎上はこの動画を白日のもとに晒すという奇跡を起こしたのだ。
ひとりが見つけ、そして広がり━━。
「武田修宏って、誰だ?」
動揺が広がり始める。
デモ隊にとって片原コウは伝説だ。そのコウを殺した人物。その者に与えられる苦痛を、武田は容易に想像できた。
「私知ってるわよ。」
初老の女性が声を上げた。
「こいつよ」
その指の指す方には果たして、武田修宏がいたのだった。
「やめろ!よせ!」
引きずられ、やがて囲まれる。
「正義を執行するときだ!」
誰かの声がして、やがて民衆の暴行が彼を襲った。
なぜだ。俺は知っている側のはずだったのに。
いつから俺は、知っているつもりになってた?
まぶたの裏に、馬場が浮かんだ。
🔵
裁判所から少し離れた月ノ川の、河川敷に馬場はいた。
暴動の隙をついて、逃げ出してきたのだ。
武田から裁判でなにも喋らぬよう釘を差されていたにも関わらず、あの場に立って数時間もすれば、耐えられなくなった。
きっとこれは、天からの啓示だ。これからは、自分で自分の意思で生きるとするか…
立ち上がったその時、鈍い音がした。横腹に、大きなナイフがめり込んでいる。刺してきたのは、見知らぬ女だった。
「なに逃げてるのよ。」
女はナイフを抜き、倒れた馬場に馬乗りになった。
「私は浦野。といってもあなたは知らないでしょう。」
「あなたに私の娘は殺された…!」
死ね、死ね、と何度も滅多刺しにしたあと、立ち上がった浦野は、そのまま川の中に消えた。
静寂が戻った。
薄れゆく意識の中、馬場は今までの人生を思い返していた。
誰か教えてくれ。俺の何がだめだったんだ?
誰か、誰か…
馬場の手が天に伸びる。星は雲に覆われ、空は漆黒の様相を呈していた。

数週後。
阿久市にはまたかつての平穏が戻ってきていた。警察は脅し屋システムの存在を公に認め、謝罪した。その結果多くの加害者にされた被害者が釈放され、その後は警察は騒動の火消しに勤しみ、やがて皆次の話題に移っていった。
阿久警察署では、多くの加害者家族と、釈放された脅し屋の被害者たちが署長から謝罪を受けていた。
その中に車椅子に佇み、目はうつろな女性がいた。顔はシワが濃く刻まれ、髪は白く覆われていた。彼女の前に来た署長は、深く頭を下げた。
他の者達はまだ溜飲が下がっていないようすだったが、彼女だけは特に感情が動いているようには見えなかった。
介護士に車椅子を押されながら警察署を出、車に乗って病院へと戻った。
病室のベッドには拘束具が備え付けられている。かつての彼女が世話になったものだった。
花瓶の隣に置かれた2つの遺影を手に取る。そこで笑っている男たち──片原高次とその息子を見て、彼女は思わず上を仰ぎ見た。
入口で立っている介護士に、彼女の涙は見えなかった。

日本のどこか。一軒家の、リビングでは住民が思い思いに休んでいた。
そこには自然とテレビが溶け込んでいる。
ワイドショー番組が始まり、誰かが音量をあげた。
『..ども言ってるでしょう何度も!』
『まあまあ、落ち着いてくださいよ』
『まだなにも終わっちゃいませんよ!きっとすぐにまた新たな「脅し屋」システムは生まれます!より巧妙になって..!』
『そんなことより人気俳優、松野健介の不倫報道について今日は取り扱っていきます。』
『そんなことじゃない!よく考えろ!』
『スタッフ!スタッフ!この人連れてって!』
『あなたがある日加害者に仕立て上げられるかもしれないんだぞ!あなたかも、君かもしれない!きっと今に、明日どころか今日にでも….』
誰かが音を注意したのか、テレビの音は再び、日常の雑音に溶け込んでいった。

FIn.

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