話し合えば話し合うほど、こじれる会議がある——20年PMが見た、対立を「感情」で扱う人と「構造」で扱う人の違い
どんな方に読んでいただきたいか
部署間・組織間の対立の板挟みになり、相手の感情をなだめる対応を繰り返してもうまくいかない、30〜50代のPM・コンサル・中間管理職。
「もっと歩み寄ってほしい」と頭を下げても、対立は消えない。むしろ、こじれていく会議がある。
その理由を、20年間の現場から話したい。
プロローグ
正直に言う。
若い頃の私は、対立とは感情の問題だと思っていた。
誰かが怒っている。誰かが不満を持っている。誰かが意地になっている。だから、その人の感情を鎮めれば、対立は解消されるのだと思っていた。
現場では、頭を下げた。相手の話を聞いた。誠意を見せた。関係性を温めようとした。
そして全部、次の会議でまた同じ対立が再燃した。
今は違う。
20年以上、無数のステークホルダー対立を見てきて、ようやく気づいたことがある。
対立は、感情の問題ではない。利害構造の問題である。
20年現場にいて、結局そこに戻ってくるのである。
第一章 「話が通じない」んじゃない。「利害がズレている」だけだ
事業部とシステム部門。本社と現場。発注側と受注側。経営層と中間管理職。営業と技術。
一見すると、それぞれの対立は、固有の感情、固有の人間関係、固有の歴史を持っているように見える。
私も若い頃、そう思っていた案件がある。あるプロジェクトで、事業部とシステム部門が真っ向から対立していた。事業部は「なぜこんなに時間がかかるのか」と苛立ち、システム部門は「なぜこんな無茶な要求をするのか」と疲弊していた。
私は、双方の感情を落ち着かせようと、何度も個別に頭を下げた。「お互い大変ですよね」「歩み寄りましょう」と何度も言った。
しかし、会議のたびに、また同じ言い争いが起きた。
後になって分かったことがある。事業部は売上が立つ側で、システム部門は運用負荷だけが残る側だった。得るものと失うものが、最初から釣り合っていなかったのだ。
この非対称性が放置されたまま、表面的な「歩み寄りましょう」を繰り返しても、対立は必ず再発する。
PMとしての教訓: 対立の解決とは、関係者を一つの方向に揃えることではない。利害の非対称性を可視化し、その非対称性を埋めるための構造を設計することである。
第二章 ステークホルダーは「三つの層」で動いている
なぜ、正論を言っても会議が進まないのか。
その理由の一つは、関係者がそれぞれ違う層で発言していることにある。
20年現場にいると分かることがある。人は三つの層で動いている。
一つ目は、公式的な利害。組織の利益、部門の目標、契約上の権利義務。資料に書かれている層だが、実は現場への影響力は一番小さい。
二つ目は、個人的な利害。担当者の評価、昇進、立場、メンツ。資料には書かれないが、現場の意思決定の大半はここで決まっている。「正しいことを言っているのに、なぜか動かない」という現象の正体は、たいていここにある。
三つ目は、心理的な利害。安心したい、責められたくない、過去の失敗を蒸し返されたくない。本人すら言語化していないことが多いが、対立が長期化し感情的になっていく時、人を動かしているのはこの層だ。
事業部が公式的な利害を語っている時、システム部門は個人的な利害で反応している。それを受けて経営層が心理的な利害で介入する。三つの層が噛み合わないまま、会議だけが進んでいく。
だから、いつまでも結論が出ない。
PMとしての教訓: 会議が噛み合わないとき、内容がズレているのではなく、話している「層」がズレていることが多い。
第三章 調停者は中立ではなく「翻訳者」である
若い頃の私は、調停者とは中立な人だと思っていた。どちらの味方にもならず、公平に話を聞き、最後に折衷案を出す人。そんなイメージを持っていた。
しかし違った。中立な調停者は、誰からも信頼されない。当事者から見れば、中立とは「自分の痛みを理解していない」と同義だからだ。
本当に調停できる人は、両方の側に立てる人である。事業部の側に立った時には、事業部の痛みを誰よりも理解する。システム部門の側に立った時には、システム部門の制約を誰よりも代弁する。そして、双方の利害が非対称であることを、双方に対して同じ言葉で説明する。
これは中立ではない。翻訳である。
この「翻訳者」としての動き方、そして利害の非対称性を実際にどう可視化し、どう対話の場を設計するのかについては、四つの座標軸を使った構造化の技術がある。それを、より実務的な手順として整理したのが、こちらの記事になる。
PMとしての教訓: 調停者の仕事は、正しさを主張することではない。双方の正しさを、双方に伝え続けることである。
エピローグ
正直に言う。
対立の調停は、今でも簡単ではない。
怒鳴られることもある。恨まれることもある。誤解されることもある。それでも、感情ではなく構造を見続けることをやめなかったのは、それが一番、遠回りに見えて一番早いと分かったからだ。
もし今、あなたが部署間の板挟みで疲れているなら。
一度だけ、感情をなだめるのをやめて、紙に「誰が、何を得て、誰が、何を失っているか」を書き出してみてほしい。
それだけで、見える景色が変わる日が、きっとある。
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©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
構造学。──人を責めず、構造を見る。
問題は、人ではない。構造が、人をそう動かしている。
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