「話が通じない」の正体は能力差ではない——20年PMが解く「景色の違い」と認知バグの構造
プロローグ
この記事は、正しいことを言っているはずなのに会議で誰にも伝わらず、夜になってから一人でその悔しさを反芻している実務担当者・PMのための記事です。
正直に言う。
その日の会議のあと、私は帰りのエレベーターの中で、しばらく壁を見つめていた。
自分の説明のどこが間違っていたのか、何度反芻しても分からなかった。データも揃えた。論理も通っていた。なのに、部長は最後まで首を縦に振らなかった。
「なんで、あんなに簡単なことが伝わらないんだ」
家に帰っても、その苛立ちは消えなかった。相手の理解力の問題だと片付けようとした。でも、どこかで違和感があった。あの部長は、決して無能な人ではなかったからだ。
理由はまだ分からなかった。
「話が通じない人」なんて、本当はいないのかもしれない——20年PMが気づいた「景色」という構造のバグ
第一章:同じ数字を見て、真逆の結論を出した二人
一つ目のエピソードだ。
あるプロジェクトで、遅延の数字を経営会議に出したことがある。
同じ一枚のグラフを見て、財務担当役員は「これは撤退のサインだ」と言った。事業担当役員は「これは投資を増やすべきサインだ」と言った。
同じ数字。同じグラフ。なのに、出てくる結論は正反対だった。
その場では「どちらかが間違っている」としか思えなかった。
第二章:妻と自分が、同じ休日に見ていた違う景色
二つ目。
家庭での話だ。休日、私はソファでゆっくり休むことを「家族サービスの一環」だと思っていた。一週間働いた分、まずは自分の電池を回復させることが、結果的に家族のためになると信じていた。
妻は違う景色を見ていた。「休日くらい、子どもと出かけてほしい」。
どちらも、家族を大事に思っていた。なのに、同じ「休日」というものから、まったく別の正解を見ていた。
第三章:昔読んだ、群盲象を評すという話
三つ目は、昔読んだ寓話の記憶だ。
目の見えない数人が、象という生き物を触って報告し合う話がある。鼻を触った人は「象は蛇のようだ」と言う。足を触った人は「象は柱のようだ」と言う。耳を触った人は「象はうちわのようだ」と言う。
誰も嘘をついていない。誰も間違っていない。ただ、触った場所が違うだけだった。
――ここで、3つの点が並んだ。
同じ数字を見て、真逆の結論を出した二人の役員。
同じ休日を過ごして、違う景色を見ていた妻と自分。
同じ象を触って、違う生き物を報告した盲人たち。
一見バラバラに見えるこのエピソードは、すべて同じ「一つの構造」を指し示している。
第四章:パズルは揃った。実は、すべて同じ構造だったのだ
パズルは揃った。実は、すべて同じ構造だったのだ。
会議や家庭で話が噛み合わないとき、私たちはつい「あの人の理解力が足りない」「あの人は頑固だ」と、人を責めたくなる。しかし問題は、そこではない。
判断は、能力ではなく立ち位置で決まるという構造的な事実を、見落としているだけなのだ。
財務担当役員は、会社の財務健全性という場所に立っていた。だから、その景色からは「撤退」が正しく見えた。事業担当役員は、市場機会という場所に立っていた。だから、その景色からは「投資」が正しく見えた。
妻は「家族で過ごす時間」という場所に立っていた。私は「自分の回復」という場所に立っていた。どちらも、家族のためという同じ目的を、違う場所から見ていただけだった。
山の東側にいる人は朝日を見る。山の西側にいる人は夕日を見る。どちらも太陽を見ている。どちらも嘘をついていない。だが、話は永遠に噛み合わない。
あなたの説明が伝わらなかったのは、あなたの説明が下手だったからではない。相手が、あなたとは違う場所から、同じものを見ていたからだ。
人を責めるな、構造を見よ。自分を責めるな、構造を見よ。
第五章:では、見えていない景色を、どう見ればいいのか
構造は分かった。……では、明日からどうすればいいのか。
「相手の立場に立って考えましょう」というのは、誰もが知っている言葉だ。だが、実際にやろうとすると、驚くほど難しい。
なぜなら、自分の景色を自分で疑うことは、人間の構造上、非常に苦手なことだからだ。自分がどの場所に立っているのかは、その場所に立っている本人には、案外見えない。
相手の景色を「想像」するだけでは、結局、自分の想像力の範囲でしか相手を理解できない。想像ではなく、実際に別の場所から見た景色を、目の前に描き出す方法が必要になる。
第六章(有料記事への導線)
無料の領域でお伝えできるのは、「話が噛み合わないのは、能力ではなく立ち位置の違いである」という構造の転換までだ。
この構造を実際に使える形にするために、私はある道具を使うようになった。AIに、対立している相手の立場になりきって読ませる、という方法だ。
同じ会議の議事録を、部長として、現場として、営業として、社長として、それぞれの立場でAIに読ませたところ、AIは毎回、まったく違う結論を出した。間違えたのではない。景色が違っただけだった。
この実験と、そこから見えてきた「自分もまた別の場所では見えていなかった」という気づきまでを、有料記事でまとめている。
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一人で「なぜ伝わらないんだ」と抱え込む時間を考えれば、わずかな投資で繰り返し使える実践パッケージです。
エピローグ
今なら分かる。
あの日、部長が首を縦に振らなかったのは、私の話が下手だったからでも、部長が頑固だったからでもなかった。
私たちは、ただ違う場所から、同じ会社を見ていただけだった。
そして一番見えていなかったのは、自分だけは全体を見ていると思い込んでいた、私自身の景色だったのかもしれない。
今日、あなたが「分かってくれない」と感じている相手について、その人がどんな場所に立っているのかを、一行だけ書き出してみてほしい。
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構造学。──人を責めず、構造を見る。
問題は、人ではない。構造が、人をそう動かしている。
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