「君じゃなくても回る」と言われた日——真面目な人ほど「無色化」してしまう構造について
この記事はこんな人へ
真面目に頑張ってきたのに、なぜか「代わりのいる人」として扱われている気がする人
周りに合わせることを続けてきたら、自分らしさが分からなくなってきた人
AI時代になって、自分の価値がどこにあるのか、急に不安になった人
50代になって、これまでの頑張り方を、少し見直したいと感じている人
正直に言う。
あの日、上司から評価面談で言われた言葉が、今でも忘れられない。
「君は、本当にちゃんとしてるよ。ミスもないし、対応も丁寧だし」
嬉しいはずの言葉だった。でも、続きがあった。
「ただ、正直に言うと、君じゃなくても、この仕事は回る気がするんだよね」
理由はまだ、分からなかった。
プロローグ 真っ白になった塩の話
ちゃんとしていたはずなのに、なぜ「代わりがいる」と言われたのか。しばらく考えても、答えが出なかった。
あるとき、知人から、塩の話を聞いた。
スーパーに並んでいる、精製された食卓塩は、真っ白で、雑味がなく、どんな料理にも合う。安心して、誰でも使える。
一方、岩塩や天日塩には、微妙な色がついていることが多い。灰色っぽかったり、少し茶色がかっていたり。あの色は、塩化ナトリウム以外の、その塩ならではのミネラルが残っている証だという。
精製すればするほど、塩は真っ白に、扱いやすくなる。でも、その分、その塩だけが持っていた個性──色も、風味も──が、一緒に削られていく。
「ちゃんとしてる」と言われたあの評価も、同じことだったのかもしれない。まだ、答えは出ていなかった。
第一章 角を削り続けた僕自身の話
新人の頃から、僕はずっと「波風を立てない」ことを、大事にしてきた。
会議では、誰の意見にも配慮した発言をする。資料は、誰が見ても分かるように、癖のない表現にする。提案も、反対されにくい、無難な線を選ぶ。
一つひとつは、正しい判断だったと思う。でも、それを何年も続けているうちに、あることに気づいた。僕の資料を見ても、僕の発言を聞いても、「これは、この人らしいな」と思われる部分が、どこにもなくなっていた。
角を削り続けた結果、誰にとっても扱いやすい、真っ白な塩になっていた。
第二章 ある広告デザイナーから聞いた話
広告のデザインをしている知人から、聞いた話がある。
彼が駆け出しだった頃、クライアントから細かい修正指示が入るたびに、素直に全部反映していた。「もっと安全な色に」「もっと分かりやすく」「もっと誰にでも伝わるように」。指示通りに直すたびに、確かに、クレームは減っていった。
数年後、彼のデザインを見た先輩が、こう言った。「これ、誰が作っても同じものになるよ」
彼が積み重ねてきたのは、失敗しないデザインだった。でも、それは同時に、彼自身の作家性を、少しずつ削り続けた結果でもあった。
第三章 あるレストランに起きていたこと
もう一つ、聞いた話がある。
ある個人経営のレストランが、口コミサイトの評価を気にして、少しずつメニューを調整していった。辛すぎるという声があれば辛さを抑え、独特すぎるという声があれば、もっと一般的な味に近づけた。
クレームは、確かに減っていった。でも数年後、常連客がぽつりと言った。「前は、ここにしかない味だったのに、最近、他の店とあまり変わらなくなったね」
店の評価は、下がっていなかった。むしろ、平均点は上がっていたかもしれない。でも、「ここでなければいけない理由」が、いつのまにか、少しずつ薄れていた。
第四章 三つとも、同じ話に見えないかもしれない
角を削り続けた僕自身の話。安全なデザインを積み重ねたデザイナーの話。メニューを調整し続けたレストランの話。
一見、バラバラの話に見えるかもしれない。仕事の姿勢と、デザインと、経営判断。舞台も、業界も、全く違う。
その通り。僕も長いあいだ、これらを別々の「真面目な人の話」だと思っていた。
でも、まだ全部は言わない。
第五章 そういうことだったのか
三つの話に共通していたのは、努力の量ではなく、努力の向き先だった。
精製された塩が真っ白になるのは、手抜きをしたからではない。むしろ、丁寧に、真面目に、雑味を取り除く工程を積み重ねた結果だ。角を削る作業も、悪意や怠慢の結果ではない。「波風を立てない」「クレームを減らす」という、真面目な努力の積み重ねだった。
でも、その真面目さの向き先が、「無難であること」だけに絞られていたとき、削られていくのは、雑味やリスクだけではなかった。同時に、その人・その店にしかない色も、一緒に削られていった。
これは、あなたの努力が足りなかったという話ではない。むしろ、真面目に頑張ってきたからこそ、この状態に辿り着いた、というだけの話だ。あなたは、ちゃんと頑張っていた。ただ、頑張る向き先が、無難さのほうに、少しだけ偏っていた。
自分を責めなくていい。
第六章 でも、色を残すのは、簡単じゃない
理屈は分かった。でも、現実は、ここからが難しい。
角を立てれば、クレームが来る。癖を出せば、合わない人も出てくる。無難であることには、確かに安心感がある。「もっと自分らしくやればいい」と言われても、それがどこにあるのか、探すだけでも一苦労だ。
PMの現場でも同じだ。正しい理屈を知っていることと、実際にリスクを取って角を残すことは、別の話だった。
じゃあ、どうやって、削られすぎた色を、また見つけて、保っていけばいいのか。
第七章 最後のピース
だから、その「色の見つけ方・保ち方」を、僕自身の20年間の現場の話として、一つの記事にまとめた。
ここまでの話は、実は、AI時代に職業人が壊れていく四つの構造のうちの、一つだけだ。無色化のほかにも、揚げ足取り文化に飲み込まれていく構造、レガシーを刷新するときに現場が壊れる構造、そしてミスの後の連鎖で静かに崩れていく構造がある。それぞれの構造には、それぞれの実装アーキテクチャがある。
第八章 最後のピースはこちら
その先の道筋──色を消さずに現場で長く戦うための、具体的な運用の仕組み──は、こちらにまとめてある。
20年PM・コンサルが構造で読む、職業人が壊れずに長く戦うための統合アーキテクチャ
エピローグ
あの評価面談から、しばらく経った。
今でも、「無難であること」を選びたくなる場面は多い。でも、あのときの一言を思い出すたびに、「これは、自分にしか出せない色だろうか」と、一度だけ、立ち止まって考えるようになった。
精製された塩は、確かに、どんな料理にも合う。でも、その塩だけの色を持った塩は、代わりが見つからない。
問題は、人ではない。
構造が、人をそう動かしている。
だから構造が見えた瞬間、人は少しだけ、自分を許せる。
あなたの中に、まだ削られていない色は、どこに残っているだろうか。
人を責めるより、構造を見る。今日も、少し優しくなれる。
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問題は、人ではない。
構造が、人をそう動かしている。
だから構造が見えた瞬間、人は少しだけ、自分を許せる。
人を責めるより、構造を見る。今日も、少し優しくなれる。
©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090
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