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二十年PMが見てきた。「頑張り続ける人」より「楽しみ続ける人」が残る——所ジョージに学ぶ、人生後半の巡航速度

プロローグ

正直に言う。

若い頃の私は、成功する人とは人一倍努力する人、誰よりも働く人、休まない人、そういう人のことだと思っていた。会議に最後まで残り、誰よりも早くメールに返信し、休日も資料を読み込む。そういう姿勢こそが、プロフェッショナルの条件だと信じていた。

しかし二十年以上、PMとコンサルタントとして現場に立ち続けていると、別のことが見えてくる。

結論から言う。人生は短距離走ではない。マラソンですらない。もっと長い。だから大切なのは全力疾走ではなく、巡航速度なのだと思うようになった。

そして、その「巡航速度」という概念を、誰よりも自然体で体現している人物がいる。所ジョージ、その人である。

第一章 所ジョージは、いつも頑張っていない

テレビ画面の中の所ジョージは、いつも何かで遊んでいる。世田谷ベースで工具を眺め、車をいじり、ギターを弾き、絵を描き、料理をしている。発言は飄々としていて、肩に力が入っていない。一見すると、適当に生きている人に見える。

しかし、よく観察すると違う風景が見えてくる。

彼はずっと仕事をしている。ずっと何かを作っている。ずっと面白がっている。そして何十年も、テレビの第一線に立ち続けている。一九七〇年代後半にデビューしてから、現在に至るまで、レギュラー番組を複数本抱え続ける芸能人は、業界全体を見渡しても極めて少ない。

ここに、人生後半を設計する上での重要な構造がある。

頑張っているように見えないのに、結果として長く続いている。これは偶然ではない。意図的に設計された「巡航速度の運用」だと、私は読んでいる。

第二章 無理していないから、長く続く

二十年PMをやってきて、しみじみと思うことがある。

優秀な人ほど、燃え尽きることがある。責任感が強い。真面目である。全部を背負う。人の分まで頑張る。深夜まで資料を作り込み、週末も顧客の要望に応える。その姿勢は確かに尊いのだが、ある日突然、糸が切れたように現場から消える。私はそういう同僚や部下を、何人も見送ってきた。

一方で、長く残る人には共通点がある。

意外なほど力が抜けている。全部を背負わない。嫌なことは嫌と言える。人に頼ることができる。休むときは休む。遊ぶときは遊ぶ。一見すると不真面目に見えるのだが、彼らはプロジェクトが終わった後も、次のプロジェクトに当たり前のように戻ってくる。

所ジョージという人物を観察していると、この「長く残る人」の構造が、極めて高純度で抽出されていることに気づく。彼は徹夜で番組を作り込むタイプではない。深刻な顔で議論するタイプでもない。しかし、収録に来ない人ではない。仕事を放棄する人でもない。「やるべきことは淡々とやる、しかし背負いすぎない」という、絶妙な距離感を保ち続けている。

これは、コンサルタントとしてキャリア後半を設計する上で、極めて参考になる姿勢である。

第三章 「好き」は、勝負しないという最強の戦略

所ジョージを見ていて、私が最も感心するのは、彼が誰かと勝負していないように見える点である。

視聴率競争、芸人としての序列、ヒット作の数、そういった業界内の競争軸から、彼は静かに距離を取っている。彼は誰かに勝とうとしていない。誰かと比べてもいない。ただ「面白い」「好き」「やってみたい」という感覚で動いている。

すると、結果として、誰も真似できない場所に立っていることになる。

二十年現場にいて、私が学んだ最大の教訓のひとつは、これだ。いつでも、自分より優秀な人はいる。自分より若い人もいる。自分より体力のある人もいる。だから、勝負軸で生きると、必ずどこかで苦しくなる。

しかし、「楽しむこと」は、誰にも奪われない。誰とも比較されない。所ジョージが半世紀近く第一線にいられる理由の核心は、おそらくここにある。彼は勝負していないから、負けることもない。彼は競争に参加していないから、競争から脱落することもない。

PMの世界で言えば、これは「自分の専門性を、他人との比較ではなく、自分の興味の深掘りで定義する」という戦略に相当する。誰かに勝つために学ぶのではなく、自分が面白いから学ぶ。この姿勢を取れる人だけが、四十代、五十代、六十代と、段階的に深まっていくキャリアを築くことができる。

第四章 人生後半は、減速ではなく、速度の再設計である

五十代になると、若い頃のようには走れない。

体力が変わる。集中力の持続時間が変わる。価値観も変わる。徹夜で資料を仕上げて翌朝のプレゼンに臨む、というような働き方は、もはや現実的ではない。

しかし、それは人生が下り坂に入ったということではない。速度を変えればいいだけのことである。自分にとっての巡航速度を見つければいい。

ここで重要なのは、「巡航速度」という言葉の意味である。これは「ゆっくり走る」ということではない。「最も効率よく、最も長く、最も気持ちよく走り続けられる速度」のことを指す。航空機が長距離飛行で巡航高度・巡航速度を選ぶように、人生後半においても、自分にとって最適な運用速度というものがある。

所ジョージを見ていると、人生後半とは、頑張る量を増やす局面ではなく、好きなものを増やす局面なのではないかと思えてくる。

新しい趣味を始める。新しい道具を買う。新しい場所に行ってみる。彼の世田谷ベースという空間は、まさに「好きなものを増やし続けた結果としての人生後半」を、可視化した装置のように私には見える。

第五章 組織で疲れた人へ——「背負わない技術」という処方箋

ここまで読んで、こう感じる読者もいるかもしれない。

「所ジョージは特別だ。芸能人だから自由にできる。会社員には無理だ」と。

しかし、私が二十年間、コンサルタントとして数百名のPM・マネージャーを観察してきた経験から言えば、そうではない。組織の中にも、所ジョージ的な距離感で仕事をしている人は確実に存在する。

彼らに共通するのは、次のような姿勢である。

第一に、自分の役割を明確に定義している。何を引き受け、何を引き受けないかが、本人の中で言語化されている。第二に、他者の評価を最終目的にしていない。評価は結果としてついてくるものであって、評価を取りに行く動き方をしない。第三に、自分の機嫌を自分で取る術を持っている。趣味、家族、運動、読書、何でもよいのだが、仕事の外側に、自分を回復させる仕組みを持っている。

この三つを揃えると、組織の中にいながら、所ジョージ的な巡航速度で長く働くことが可能になる。「背負わない技術」とは、無責任になることではない。背負うべきものと、背負わなくてよいものを、冷静に分離する技術のことである。

第六章 AI時代に残るのは、「好きでやっている人」の色である

ここからの話は、二十六年現在のAI時代を生きる、すべてのビジネスパーソンに関わる構造である。

AIはどんどん賢くなっている。資料作成、議事録、要約、翻訳、コーディング、提案書のドラフト、ほとんどの実務作業は、急速にAIに代替されつつある。私自身、コンサルタントの現場で、生成AIを毎日使い倒している。その威力は、年々加速している。

しかし、それでもなお、人に残るものがある。

それは、「好きだからやっている人」が持つ、独特の色である。

少しズレている。少し変わっている。効率的ではないかもしれない。最適化されていないかもしれない。しかし、楽しそうである。そして、その空気には、人が集まる。

所ジョージのDIY、車、ギター、これらはおそらくAIで最適化することができる。最短ルートで上達するカリキュラムを、AIは設計できる。しかし、所ジョージがガレージで工具を眺めながら過ごしている時間そのものは、AIには代替できない。なぜなら、それは「最適化されることを目的としていない時間」だからである。

AI時代に残る価値とは、完璧さではなく、自分の色である。そして自分の色は、勝負の中からは生まれない。「好き」の中からしか生まれない。

第七章 二十年PMが見てきた、「長く残る人」の三条件

ここで一度、構造的にまとめておきたい。

私が二十年間、現場で観察してきた限り、五十代以降も第一線で輝き続ける人には、明確な三つの条件がある。

第一に、自分の巡航速度を知っていること。全力で走れる人ではなく、自分にとって最も持続可能な速度を理解している人が、長く残る。第二に、勝負軸ではなく、興味軸で動いていること。誰かに勝つために動くのではなく、自分が面白いから動く。だから、燃料が切れない。第三に、自分の機嫌を自分で取れること。外部評価に依存しない、内面の安定装置を持っている人だけが、組織の波風の中でも壊れずに残る。

所ジョージという人物は、この三条件を、芸能界という極めて過酷な競争環境の中で、半世紀にわたって体現し続けている、稀有な事例である。

エピローグ

二十年PMが見てきた。

結論から言う。人生後半で大切なのは、もっと頑張ることではない。もっと成功することでもない。自分の巡航速度を見つけること。そして、少し笑いながら、好きなことを続けることである。

所ジョージという人物を構造として読み解くと、見えてくるのは、勝負の論理ではなく、持続の論理である。短距離走の論理ではなく、長距離飛行の論理である。

本当の豊かさとは、誰かに勝つことではなく、自分の機嫌を自分で取りながら、長く続けていくことなのかもしれない。そして、その姿勢こそが、AI時代において、最後まで人間に残される、最も模倣困難な資産なのだと、私は考えている。

本記事を含む一連の記事は、書籍化を視野に入れながら執筆を続けている。

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免責事項

本記事はshiraco個人の20年のPMおよびITコンサル現場経験に基づく解釈・分析であり、特定の組織、業界、年齢層、人物を批判する意図はない。記事内で使用する「老害」「毒まんじゅう」「汚い現場」といった表現は、現場感を伝えるための便宜的な言語選択であり、特定の個人や属性を貶めるものではない。読者各位の現場状況に応じて、本記事の知見を適宜翻訳・適用いただきたい。

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