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「綺麗なのに勝てない」と言われた日——病院の問診票に学ぶ提案書の構造学

この記事はこんな人へ

  • 提案書のデザインには時間をかけているのに、コンペでなかなか勝てないPM・コンサル

  • 「営業力がないのかな」と、自分の話し方や交渉力に原因を求めがちな人

  • 提案書を作るとき、まず自社の実績や強みのページから作り始めてしまう人

  • 頑張っているのに、なぜか競合に負け続けている人


正直に言う。

あるコンペで、僕は自分でも「今回はいい提案書ができた」と思っていた。

デザインは丁寧に整えた。会社の実績も、しっかり盛り込んだ。誤字脱字も、何度も見直した。

結果は、負けだった。しかも、僕らより明らかにシステム的な強みが少ない競合に、負けた。

「価格が合わなかったんだろう」「関係性の差だろう」。そう思いたかった。でも、心のどこかで、それだけでは説明がつかない違和感があった。

理由はまだ、分からなかった。


プロローグ 問診票を、記入しながら感じた違和感

ある病院で、初診の問診票を渡されたときのことだ。

一番上の欄には、保険証の番号と、細かい既往歴の選択肢が、ずらりと並んでいた。今、一番伝えたいはずの「今日、どこがどう痛いのか」という項目は、二枚目の、下のほうにやっと出てきた。

書きながら、少しもどかしい気持ちになった。今、一番話したいことを、なかなか書かせてもらえない。

あとで、看護師をしている知人に、この話をしたことがある。「病院によって、問診票の作り方が全然違うんですよ」と彼女は言った。

「事務処理をしやすくするために、病院側が管理したい情報の順番で作られている問診票もあれば、患者さんが話したい順番、つまり今一番つらいことから聞いていく問診票もあります」

同じ情報を集める紙なのに、順番の作り方が違うだけで、受け取る側の印象は、まったく違うのだという。

第一章 自社の実績ページから作り始めていた

あのコンペの提案書を、僕はどこから作り始めていたか、あとで思い出してみた。

最初に手をつけたのは、会社概要と、過去の実績一覧だった。「まずは信頼してもらうために、実績をしっかり見せよう」と思っていた。それから、製品の機能一覧、組織図、体制図と続けて、ようやく最後のほうで、顧客の課題への言及が出てくる構成になっていた。

自分の中では、順番に理由があった。まず会社を知ってもらい、それから課題に触れる。丁寧な流れのつもりだった。

でも、これは、僕らが「伝えたい順番」であって、相手が「知りたい順番」ではなかったのかもしれない。

第二章 ある看護師から聞いた話

先ほどの看護師の知人が、もう一つ、興味深い話をしてくれた。

以前勤めていた病院で、問診票のフォーマットを見直すプロジェクトがあったという。それまでの問診票は、事務処理の都合を優先した順番で作られていた。見直しのきっかけは、ある患者からのクレームだった。「一番聞いてほしいことが、なかなか書けなかった」という声だった。

見直し後の問診票は、まず「今日、一番困っていること」を最初に書く欄を作り、既往歴などの事務的な項目は、あとに回した。

「情報量は、ほとんど変わっていないんです。でも、順番を変えただけで、患者さんの満足度が、はっきり上がりました」

第三章 ある広告代理店に起きていたこと

もう一つ、聞いた話がある。

ある広告代理店が、クライアント向けの提案資料を、ずっと同じフォーマットで作っていた。会社紹介、実績紹介、体制図、そして最後に企画内容、という構成だった。

あるとき、若手の一人が、思い切って構成を変えてみた。冒頭にクライアントの課題の再定義を置き、それに対する打ち手として企画を提示し、最後に、その打ち手を実行できる根拠として、実績や体制を添える形にした。

情報の量は、以前とほとんど同じだった。でも、そのプレゼンは、以前よりずっと通りやすくなった。「話の順番が変わっただけで、こんなに刺さり方が違うのか」と、その若手は振り返っていたという。

第四章 三つとも、似ているようで違う話に見える

問診票の順番の話。問診票を見直した病院の話。提案資料の構成を変えた代理店の話。

一見、バラバラの話に見えるかもしれない。医療と、営業と、コンサルティング。舞台も、業界も、全く違う。

その通り。僕も長いあいだ、これらを別々の「フォーマットの工夫」の話だと思っていた。

でも、まだ全部は言わない。

第五章 そういうことだったのか

三つの話に共通していたのは、情報の量ではなく、「誰の頭の中の順番で並べているか」という視点の向きだった。

事務処理を優先した問診票は、病院側が管理しやすい順番で作られている。患者側の視点で作られた問診票は、患者が「今、一番話したいこと」から順に並んでいる。情報量はほとんど変わらないのに、順番の主語がどちらを向いているかで、受け取る側の印象がまったく違ってくる。

僕のあのコンペの提案書も、同じ構造の中にあった。会社実績から始まる順番は、僕らが「伝えたい」順番だった。顧客が本当に知りたかったのは、「自分たちの課題が、正確に理解されているかどうか」を、真っ先に確かめることだったはずだ。それを、資料の後半まで待たせてしまっていた。

コンペで負けたのは、営業力の問題ではなかった。デザインの美しさの問題でも、実績の少なさの問題でもなかった。提案書という一枚の問診票の、順番の主語が、僕ら自身を向いていた、というだけの話だ。

これは、あなたの提案力が足りなかったという話ではない。自分を責めなくていい。

第六章 でも、順番を変えるのは、簡単じゃない

理屈は分かった。でも、現実は、ここからが難しい。

会社紹介や実績を、後回しにするのは、正直、勇気がいる。「実績を見せずに、いきなり課題の話から始めて、信頼してもらえるのだろうか」という不安も、当然出てくる。

PMの現場でも、よくあることだ。正しい理屈を知っていることと、実際に構成を組み替えて、勝負に出ることは、別の話だった。

じゃあ、その「顧客の頭の中の順番」を、具体的にどうやって見極めて、どう提案書に落とし込んでいけばいいのか。

第七章 最後のピース

だから、その具体的な組み立て方を、僕自身が20年間のコンペで実際に使ってきた設計思想として、一つの記事にまとめた。

顧客の認知プロセスを五段階に分解する方法。RFP(提案依頼書)の行間にある、顧客自身も気づいていない真の課題を解体する手順。評価委員が数秒で判断してしまう、という前提に立った、スライド一枚ごとの設計の仕方。そして、競合よりも先に、評価基準そのものを提示し直すという考え方まで。

第八章 最後のピースはこちら

その先の具体的な手順は、こちらにまとめてある。

「綺麗なのに勝てない」は営業力不足ではない。20年PMが見た"コピペ量産型提案書"のバグ

エピローグ

あの負けたコンペのことは、今でもよく覚えている。

負けた直後は、正直、悔しさのほうが大きかった。でも、あの問診票の話を聞いてから、あの提案書の何が足りなかったのか、ようやく言葉にできるようになった。

情報が足りなかったわけではない。順番の主語が、少しずれていただけだった。

問題は、人ではない。

構造が、人をそう動かしている。

だから構造が見えた瞬間、人は少しだけ、自分を許せる。

あなたが今作っているその資料は、誰の頭の中の順番で、並べられているだろうか。

人を責めるより、構造を見る。今日も、少し優しくなれる。


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問題は、人ではない。
構造が、人をそう動かしている。
だから構造が見えた瞬間、人は少しだけ、自分を許せる。
人を責めるより、構造を見る。今日も、少し優しくなれる。


©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090

人を責めない。構造を見る。だから今日も少し優しくなれる。



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