中国が誇る美食の宝庫・揚州には、最高の炒飯と深夜食堂がある
中国の美食を巡る連載も細く長く続き、七回目の記事になった。今回も前回と同様に揚州の美食を紹介する。前回は広東省とは趣を異にする揚州式早茶を紹介したが、今回は淮揚料理の要石である揚州炒飯と、何を食べても見事に美味い深夜食堂・洪達麺館について綴る。
炒飯を食べずして揚州は語れず

淮揚料理は早茶だけが全てではない。広東料理に比べると品数は限られているものの、どこか日本料理に通じる、控えめな美学を感じられるものがある。代表格は炒軟兜で、これはタウナギの炒めだ。タウナギ自体は上海や蘇州でもよく食べるのだが、揚州一帯では食べ方が大きく異なる。
前者は短めに切ったものに甜麺醤を効かせて炒め煮にし、仕上げに生姜を乗せて油をじゅわりと注ぐ。後者は背開きにした長いタウナギにニンニクやタマネギなどの香味野菜を合わせ、醤油と胡椒を基調に味付けして土鍋で炒める。どちらも美味しいのだが、揚州風の方は一本一本のタウナギが大きいだけあって見た目に迫力があり、それでいて味付けは絶対に一線を超えない濃さに留めているのがいい。

加えて、塩水鵝などは、少し硬めのガチョウを濃い目の塩味で煮た冷菜だが、しっかりとした肉の繊維から旨みが染み出してくる。単体で食べると塩辛いし飽きやすいのだが、ビールとの相性が非常にいい。

また、獅子頭というのは肉団子入りのスープで、白い肉団子が清湯に浮かんでいる様子は満月の夜を想起させる。上海あたりでもよく見かけるものだが、肉団子のフワフワとした食感といい、くどさを残さずに溶ける豚肉の脂身といい、やはり揚州で食べると一味違う。

しかし、揚州料理で最も読者に体験してほしいもの、それは揚州炒飯だ。具材にはエビ、ナマコ、干し貝柱といった海鮮、鶏肉や金華ハムといった肉類、グリーンピースやネギなどの野菜が揃っている。揚州の厨師による調理動画を見たところ、あらかじめ鶏がらスープで具材を煮込んでおき、熱した別の鍋で卵を細かく炒めたところに米を加え、最後に具材と合わせて仕上げている。
揚州炒飯の美味しさは一口食べて飛び上がるようなものではない。それはむしろ、小津安二郎の映画を観終わった時の余韻に似た、静かな感動を与えてくれる。さまざまな具材を使っているのだが、塩気に抑制が効いているので、口に含んで少し経ってからようやく重層的な旨みに気付く。しかも、その旨みは通りいっぺんのものではなく、鶏がらスープによってまとめられて米粒の奥にまで行き渡っている。さらに、米粒の一つ一つがきちんと立っているにも関わらず、口当たりはあくまで柔らかい。中国でよく見かける簡単な卵炒飯とは大違いの出来栄えで、炒飯も丁寧に作ればここまで美味しくなるのかと感心させられる。
どこで揚州炒飯を食べても大きく外すことはないが、私が一番気に入っているのは揚州迎賓館内の山・餐庁だ。またしても揚州のレストラン界を牛耳っている揚城一味の経営だが、味も環境も良い。ここの揚州炒飯は他店に比べてとりわけ繊細で、ふんわりとした食感といい、薄めの味付けといい、錦糸卵の細かさといい、文句の付けようがない。誤魔化しを許さない、控えめながら確かな自信が伝わってくる。これにタウナギ炒めを組み合わせて食べるのが私にとっては格別の快楽だ。高級路線の割にそこまで高くないのがありがたく、こないだ三人で飲み食いした際には、一人五千円程度で収まった記憶がある。


また、冷やかし程度に大衆向けの炒飯専門店に行くのも悪くない。観光エリアの国慶街に二春炒飯というお店があって、お手頃な価格で様々な炒飯を提供している。ここが面白いのは男三人が厨房で横に並んで炒飯を作っている様がよく見える点に尽きる。一番クラシックな炒飯を頼んだらレストランの味には到底及ばなかったが、色々な具材が入ったものを食べたらもっと美味しいのだろう。
中華料理の興奮は洪達麺館にあり

老舗の早茶や淮安料理に匹敵するくらい、私が深く愛しているのが深夜食堂の洪達麺館だ。交差点に面したところに独立した店舗を抱えていて、夕方の五時半から翌朝の四時半まで営業している。友人二人とはじめて来店したのは土曜日の日付が変わったころだったが、我々は店の賑わいに圧倒された。

店舗は道路に向かって開かれた造りで、入口では店員たちがひたすら素材を切り、炒め、煮込んでいる。客が店内に入りきらないので、外に長机を出して座らせている。次々と来ては去る客に食べさせるため、店員たちがとにかく尋常でない量の食材を大鍋に放り込み、猛火で調理し続けている。この様子を目の当たりにして、普段は英語で論文を読み書きしている友人も「うわっコレはエグい」と、思わず男子大学生のような口ぶりで興奮していた。


このお店が素晴らしいのは、日常のおかずをお手頃に、そして平均的なレベルを大きく上回るクオリティで出してくれるところだ。我々が特に揃って感心したのはニラレバだった。まず調理工程が素晴らしい。巨大な鍋にレバーを大量にぶち込んでから、業務用の大きな醤油の瓶を取り出してきて、そのまま丸ごとドボドボと注ぎ込む。そしてひたすらボコボコと音を立てながら煮込む。この時点で、食欲を誘う香りが辺りにむわりと広がってくる。それから別の鉄鍋でこれまた無尽蔵のニラを炒めて小皿に分け、最後にレバーをどばっと乗せたら完成だ。
味が見事なことは言うまでもないだろう。これを食べて初めて体得したのだが、レバーのような食べ物にも、一度に大量に調理しないと出てこない独特の香気がある。タレの中では、加熱した醤油特有の香ばしさとレバー特有の深いコクが渾然一体になっており、実にたまらない味わいだ。それが強火でからりと炒められたニラに絡み、口の中を強烈な芳香で満たす。店の回転が早い分、きちんとした店で食べるレバーと変わらないほど新鮮なものが使われているのも、美味しさの秘訣なのだろう。




ニラレバに限らず、この店では次から次へと様々なおかずが作られ、ありとあらゆる隙間に所狭しと並べられる。丼は乱雑に積んであるので、自分で持ち上げると手が汚れるが、そんなことに構っている暇はない。だって、目の前に美味そうなものが無限に並べてあるのだから。
青椒肉絲は火力の余韻が残る力強い味わいで、それをこれまたジャンキーな干拌麺(簡単な油そばのようなもの)と合わせて一気に食べるのが実に気持ちいい。薄切りにした淡水魚を酸菜と煮込んだ酸菜魚もかなりのお気に入りだ。大衆店にも関わらず、この手の魚に付きものの小骨も処理がきっちりしているし、とろりとした魚の出汁に浮かんだ優しい辣油が食欲をそそる。また、炒め物はパンチが強いのに対して、スープはかなり優しい味わいで、ほうれん草と肉団子入りのものを箸休めにするのがおすすめだ。
私が知っている店でここしか当てはまらないのだが、洪達麺館は絶対に混んでいる時に行かなければならない。具体的に言えば、金曜あるいは土曜日の十二時過ぎだ。この店の美味しさは、料理がすぐに作られてすぐに無くなることと不可分だ。客入りが少ない時間帯は、作られた料理がそのまま捌ききれず置きっぱなしになってしまうことがあり、こうなると美味しさも減じてしまう。レバーのように、熱いうちに食べなければならない食材はなおさらだ。物凄い火力ですぐに出来る分だけ、冷めると急にダメになるのは、ひと時の恋と何ら変わるところがない。
それに、とにかく客でごった返している時に、汚いベンチ席に腰掛けて、他の客が食べているものをちらちらと見ながら、自分が何を食べるか考える楽しみも必要だ。ひたすら好き放題におかずを選んで、麺やら炒飯と合わせて、最後に店員に会計してもらうと、驚くことに一人千円を切っている。
揚州の深夜食堂には、食とは何かについて思いを馳せさせる、原始的な火の力強さがある。中華料理の正体はここにある。そう思った。
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