#20|Builderって、結局何ができる人なのか?
【この記事で学べること】
主体性と「見立てる・つなぐ・形にする」をAIで増幅する仕組み
【1分でわかる、この記事のポイント】
・Builderは、何でも自分でできるスーパーマンでも、単に仕事が速い人でもない。まだ形になっていない仕事の「仮の持ち主」になり、前へ進める人である。これまで紹介してきた事例に共通していたのは、業界や成果物ではなく、「見立てる→つなぐ→形にする」という一連の動きだった。
・現時点で考えるBuilderの提供価値は、次の式で表せる。
Builderの提供価値
= 主体性 ×「見立てる→つなぐ→形にする」の循環 × AIレバレッジ
・すべての専門能力を一人で持つ必要はない。足りない能力を見極め、それを持つ人や企業をつなぎ、小さく形にして検証することがBuilderの役割である。Builderは特別な肩書ではない。目の前で止まっている仕事を一つ選び、最小の形をつくるところから、誰でもBuilder的な動きを始められるというお話。
Builder | Issue #20
第1章 | Builderとは何者か
「Builderって、結局何ができる人なのですか?」
この連載を続ける中で、少しずつ聞かれるようになった質問があります。
「Builderって、結局何ができる人なのですか?」
もっともな疑問だと思います。
これまで紹介してきた仕事は、新規事業、PoC、DX、金融、組織づくり、AI活用など、扱うテーマも成果物もばらばらです。
記事だけを順番に読むと、Builderは「何でもできる人」や「いろいろな案件に関わっている人」に見えるかもしれません。
私自身も長い間、自分の仕事をうまく説明できませんでした。
戦略を考えることもある。事業構想や提案書もつくる。必要な企業や人を探し、商談を設定する。PoCの設計や実行にも入り、進まなくなったプロジェクトを立て直すこともあります。
それぞれを切り取れば、コンサルティング、事業開発、営業、PM、資料作成など、既存の職種名で説明できます。
しかし、どれか一つを名乗ると、実際に担っている仕事の一部しか表せません。そこで、ここまでの事例をあらためて並べてみました。
すると、業界や専門分野ではなく、仕事を前へ進める「共通の動き」が見えてきたのです。
#15から#19まで、成果物は違っても動きは同じだった
#15では、「もやもやしている」という一言から、まだ名前も形もなかった新しい事業の可能性を見立てました。
#16では、2店舗で行ったPoCを、約3,700店舗まで広げられる事業の設計へ変えました。
#17では、完成形を先に描き、そこから逆算して、必要な企業や人を集めました。
#18では、約1年間止まっていた銀行構想を、「つくれる」と「選べる」状態まで進めました。
#19では、人力なら1カ月近くを見込んだ過去案件の棚卸しを、AIと一緒に数時間で進め、散らばっていた経験を会社の資産へ変えました。
一見すると、まったく違う仕事です。
成果物も、事業構想、PoC、推進体制、比較材料、活動履歴と異なります。
しかし、振り返ってみると、共通していたことがあります。
誰かから整理された問いを受け取り、決められた成果物を納品した仕事ではなかったことです。
最初に渡されたのは、「もやもやしている」「進まない」「広げ方が分からない」「何から決めればよいか分からない」といった、まだ仕事として十分に定義されていない状態でした。
そこから、
・何が本当の課題なのかを見立てる。
・自分たちだけで足りない能力を持つ人や企業をつなぐ。
・議論を、提案書、体制、PoC、判断材料など、次に進める形へ変える。
・そして、形にしたものへの反応を見て、もう一度見立て直す。
この動きこそが、Builderの仕事なのではないか。
私は今、そう考えています。
Builderの提供価値を、一つの式にしてみる
ここまでの経験から、現時点で考えるBuilderの提供価値を式にすると、次のようになります。
Builderの提供価値
= 主体性 ×「見立てる→つなぐ→形にする」の循環 × AIレバレッジ
もちろん、これは学術的に確立された公式ではありません。
私自身がこれまでの仕事を振り返り、Builderに共通する動きを言語化した、現時点での仮説です。
ポイントは、「見立てる力」「つなぐ力」「形にする力」を、足し算にしていないことです。
三つの能力を個別に持っているだけでは、仕事は前へ進みません。
見立てたうえで、必要な人や技術をつなぐ。つないだら、小さく形にする。形にしたものを相手に見せ、反応を受けて、もう一度見立て直す。
この循環を回し続けることで、曖昧だったものが、少しずつ実現可能な仕事へ変わっていきます。
そして、その循環全体を圧倒的に速くするものが、AIです。
ただし、式の最初にある「主体性」がゼロなら、ほかの能力が高くても仕事は動きません。
なぜなら、誰かが最初にその仕事を引き受けなければ、見立てることも、つなぐことも、形にすることも始まらないからです。
主体性とは、「仕事の仮の持ち主」になること
Builderにとっての主体性は、何でも自分一人で抱え込むことではありません。
まだ担当者が決まっていない。複数の部門にまたがり、誰も全体を持っていない。重要だと分かっているのに、日々の業務に追われて止まっている。
企業の中には、そのような仕事がたくさんあります。
Builderは、誰かが正式に担当するまで待つのではなく、まず自分がその仕事の「仮の持ち主」になります。
何が分かっていて、何が分かっていないのか。誰の判断が必要なのか。次に何を決めれば、仕事が一歩進むのか。
いったん自分が全体を引き受け、前へ進めるための道筋をつくる。ただし、いつまでも自分で抱えるわけではありません。
必要な能力を持つ人を見つけ、役割を定め、仕事が動く状態をつくったら、適切な人やチームへ返していく。
仕事を奪うのではなく、持ち主のいなかった仕事を動く状態にし、適切な人やチームへ渡していく。
それが、Builderの主体性です。
「見立てる」とは、答える前に問いを定めること
仕事が止まっているとき、目の前に見えている問題が、本当の課題とは限りません。
「売上が伸びない」という相談でも、原因が商品なのか、顧客なのか、販路なのか、社内の意思決定なのかによって、取るべき行動は変わります。
「PoCを実施したい」という依頼でも、本当に必要なのは小さな実験ではなく、その先の全社展開を見据えた事業設計かもしれません。
与えられた問いへ、すぐに答えを出すことが仕事ではない。
その問いのまま答えて、本当に仕事が前へ進むのかを考える。
誰の、どのような変化をつくるべきなのか。最大の制約は何か。今決めるべきことと、後から決めればよいことは何か。
複雑な状況の中から、次に進むための問いを定める。
それが、Builderの「見立てる力」です。
「つなぐ」とは、紹介することではなく、座組をつくること
一人の人間が、すべての専門知識、技術、顧客接点、資金、実行能力を持つことはできません。
だからBuilderは、自分に足りない能力を早い段階で見極めます。
・この技術なら、どの企業が持っているのか。
・顧客との接点は、誰が持っているのか。
・社内で意思決定できるのは誰か。
・実際の運用を担えるのは、どのチームか。
ただし、知り合いを紹介するだけでは仕事は動きません。
なぜ組むのか。それぞれにどのようなメリットがあるのか。誰が何を担い、どの順番で進めるのか。意見が分かれたとき、誰が決めるのか。
関係者が動ける目的、役割、順番を設計して、初めて「つないだ」と言えます。
点と点を結ぶのではなく、一緒に仕事ができる座組へ変える。
それが、Builderの「つなぐ力」です。
「形にする」とは、完成品をつくることではない
どれほど良い構想でも、頭の中や会議の中にあるだけでは、他者は判断できません。
一枚の企画書にする。完成時の顧客体験を文章にする。数字を置く。画面イメージをつくる。役割分担を表にする。小さなPoCを実施する。
形になって初めて、周囲は具体的な意見を返せるようになります。
ここで大切なのは、最初から完成品をつくろうとしないことです。
次の判断に必要な最小限の形は何か。それを考え、できるだけ早く相手へ見せる。
反応が悪ければ、見立てを変える。足りない能力があれば、新しい人をつなぐ。手応えがあれば、次の形へ進める。
つまり、「見立てる→つなぐ→形にする」は、一方向の工程ではありません。形にするたびに新しい情報が得られ、もう一度見立て直す循環です。
Builderがつくるのは、最初から完璧な答えではない。次の判断と行動を生む、最小限の具体物です。
AIは、四つ目の能力ではない
では、AIはこの式の中で、どのような役割を担うのでしょうか。
私は、AIを「見立てる」「つなぐ」「形にする」に続く四つ目の能力だとは考えていません。
AIは、三つの動きすべてを増幅するレバレッジです。
大量の資料を読み、論点を整理し、仮説を出すことで、「見立てる」までの準備を速くする。
必要な技術や企業の候補を調べ、各社の強みや利害を比較することで、「つなぐ」ための探索を広げる。
提案書、比較表、画面イメージ、PoC計画などの初稿をつくり、「形にする」までの時間を縮める。
#19で、AIが短くしたのは「考える時間」ではなく、「考え始められる状態になるまでの時間」だったと書きました。
Builderの仕事全体でも同じです。
AIは、人間の代わりに仕事の意味を決めるものではありません。
間違った問いを立てれば、間違った方向へ進む速度まで上がります。つなぐ相手を誤れば、関係者を増やすほど調整は複雑になります。何の判断にも使えない資料を、短時間で大量につくることもできます。
だからこそ、AI時代には「何を前へ進めるべきか」を見立てる人間の役割が、これまで以上に重要になります。
AIが強くなるほどBuilderが不要になるのではない。
AIが強くなるほど、Builderはより大きな仕事を、より速く動かせるようになる。
私は、そう考えています。
Builderは、スーパーマンではない
ここまで読むと、Builderには、非常に多くの能力が必要に見えるかもしれません。
しかし、Builderは何でも一人でできるスーパーマンではありません。
すべての業界に詳しい必要も、すべての技術を理解している必要も、自分でシステムを開発できる必要もありません。むしろ重要なのは、自分に何が足りないかを分かっていることです。
自分でできないことを早く認め、その能力を持つ人を探し、目的と役割を伝え、一緒に動ける状態をつくる。
Builderの強さは、個人が保有する能力の総量だけでは決まりません。
必要な能力を見極め、社内外から集め、仕事を前へ進めるチームへ変えられるか。そこに、Builderとしての本当の差が表れます。
また、Builderは単に「仕事が速い人」でもありません。速さは重要です。しかし、速さそのものが目的ではない。
見立てて、つなぎ、形にする循環を速く回した結果として、仕事が速く進むのです。
明日から始める、五つのBuilder的な動き
Builderは、特別な肩書ではありません。
経営者や新規事業担当者に限らず、営業、企画、管理部門、現場の担当者でも、Builder的に仕事を進めることはできます。
もし始めるなら、次の五つを試してみてください。
1.止まっている仕事を、一つ選ぶ
重要なのに担当が曖昧な仕事、複数部門にまたがって進まない仕事、何度も会議をしているのに形にならない仕事を一つ選びます。
2.その仕事の「仮の持ち主」になる
正式な責任者にならなくても構いません。まず、自分が全体を整理し、次の一歩をつくると決めます。
3.本当の問いを、一文で書く
「何をつくるか」ではなく、「誰の、どのような変化をつくるのか」「何が決まれば次へ進めるのか」を一文にします。
4.足りない能力と、必要な相手を書き出す
自分たちだけでできないことは何か。それを持っている人、企業、技術、データは何かを整理します。
5.次の判断に必要な最小の形をつくる
一枚の企画書、簡単な試算、顧客体験の文章、画面イメージ、PoC計画など、相手から具体的な反応をもらえる形をつくります。
この五つすべてを、最初から完璧に行う必要はありません。
AIに資料を整理してもらい、一緒に問いを考え、最初の一枚をつくるところから始めてもよいと思います。
大切なのは、答えが出るまで待つことではありません。小さくても、次の判断を生む形をつくることです。
Builderとは、未完成の仕事を前へ進める人
あらためて、最初の問いに戻ります。
「Builderって、結局何ができる人なのですか?」
現時点での私の答えは、こうです。
Builderとは、まだ形になっていない仕事の仮の持ち主になり、見立て、つなぎ、形にする循環を回しながら、実現へ近づけていく人である。
その動きをAIによって圧倒的に速くする。
だから、Builderの提供価値は、次の式になります。
Builderの提供価値
= 主体性 ×「見立てる→つなぐ→形にする」の循環 × AIレバレッジ
これは、Builderについての最終的な答えではありません。
これから仕事を続け、新しい事例が増えれば、この定義も変わっていくかもしれません。
ただ、少なくとも#15から#19までの仕事を振り返ると、私が価値を出してきたのは、特定の業界知識や一つの成果物だけではありませんでした。
まだ仕事として成立していない状態から、自ら引き受け、見立て、必要な人をつなぎ、判断できる形にする。
その繰り返しでした。
あなたの目の前にも、重要なのに、まだ誰も持ち主になっていない仕事が一つはないでしょうか。
もしあるなら、まずはその仕事の「仮の持ち主」になり、次の判断に必要な最小の形をつくってみる。
そこから、Builderの仕事は始まります。第二章からは事例を読みながら、Builderに必要な力を一つずつ掘り下げていきたいと思います。
