#18|「銀行をつくってほしい」。でも私は、銀行をつくる話から始めなかった。
【この記事で学べること】
依頼された「手段」をそのままゴールにせず、本当に実現したい目的から選択肢を考え直す方法。
【1分でわかる、この記事のポイント】
・約1年間止まっていた「銀行をつくる」という新規事業構想の支援に入り、「どうつくるか」と「本当に銀行が最適なのか」を並行して検討した。
・制度や事例を調べるだけでなく、論点ごとに必要な専門家を探し、「何が分かれば次の判断ができるのか」を整理しながら、数カ月で銀行とのPoCまで進めた。
・頼まれたものをそのままつくるのではなく、「本当に実現したいことは何か」まで戻り、複数の選択肢から組織自身が次の一手を選べる状態をつくることもBuilderの仕事ではないか、というお話。
Builder | Issue #18
第1章 | Builderとは何者か
「銀行をつくるの、手伝ってほしいんです」
仕事をしていると、「これをつくってほしい」「このサービスを立ち上げたい」と、かなり具体的な形で相談を受けることがあります。
そう言われると、私たちはつい「では、どうやってつくるか」から考え始めます。必要な情報を集め、スケジュールを引き、関係者を集めて実行方法を検討する。依頼されたものを実現することが仕事なのだから、それ自体は自然な進め方です。
ただ、新規事業のように正解がまだない仕事では、ここに少し危うさがあります。
依頼された「手段」が、本当に解くべき「問題」とは限らないからです。
以前、あるサービス企業の社長から、こんな相談を受けたことがありました。
「銀行をつくるの、手伝ってほしいんです」
その会社では、親会社から「銀行をつくる」というテーマが与えられていました。自社が持つ顧客基盤やサービスとの組み合わせを考えれば、金融機能を持つことには一定の合理性があります。一方で、銀行を新たにつくるとなれば、許認可、資本、システム、組織、人材、リスク管理など、考えなければならないことは一気に増えます。
実際、その構想は約1年間、ほとんど前に進んでいませんでした。
私が相談を受けたときも、「銀行をどうやってつくればいいのか」という話から始まりました。ただ、話を聞いているうちに、私は別のことが気になりました。
この会社は、本当に銀行をつくりたいのだろうか。
もう少し正確に言えば、「銀行を持つことそのもの」が目的なのか、それとも銀行を持つことで実現したい別の目的があるのか、ということです。
この二つは似ているようで、プロジェクトの進め方を大きく変えます。
「どうつくるか」と同時に、「本当につくるべきか」を考える
もちろん、私は銀行をつくる案を否定したわけではありません。
本当に銀行をつくるのであれば、いつでも動き始められるところまで具体化しておいた方がいい。必要な許認可や資本、システム、組織体制を整理し、どのような順番で進めればよいのかを明らかにする必要があります。
一方で、「銀行」という形を取らなくても、その会社がやりたいことを実現できる可能性もあります。
そこで、このプロジェクトでは二つの検討を並行して進めることにしました。一つは、銀行を本当につくるとしたら何が必要なのか。もう一つは、そもそも銀行をつくることが、その会社の目的に対して最も適した方法なのかという検討です。
言い換えれば、
銀行をつくれる状態にはする。でも、銀行をつくらないという判断もできる状態にする。
この両方を用意することにしました。
新規事業では、最初に示された案をそのままゴールに置いてしまうことがよくあります。「○○というサービスをつくりたい」「アプリを開発したい」「新しい店舗をつくりたい」といった話も同じです。
もちろん、その案にはそこに至った背景があります。ただ、検討を始める段階では、「なぜ、それをやるのか」を一度分解してみた方がいい。手段を具体化する前に目的を確認することで、実はもっと簡単な方法や、投資の少ない方法が見つかることがあるからです。
調べれば分かることと、調べても分からないこと
銀行設立については、まず必要な論点を洗い出しました。制度、許認可、事業計画、組織、人材、システム、資本、リスク管理など、調べるべきテーマはかなりあります。
今であれば、こうした情報収集には生成AIもかなり使えると思います。制度や事例を調べたり、論点の抜け漏れを確認したり、考えられる選択肢を広げたりする作業は、以前よりはるかに速くできます。
ただ、当時も今も、公開情報を調べるだけでは分からないことがあります。
「銀行を設立するには何が必要か」という一般論は調べられても、実際にプロジェクトを進めるときに、どの順番で誰と話し、どの論点をどこまで詰めれば次の意思決定に進めるのかは、なかなか資料には書かれていません。
そこで重要になったのが、
次に何を決めるために、誰に、何を聞くのか
を設計することでした。
銀行設立の実務に詳しい人もいれば、システムに詳しい人もいます。金融規制に詳しい人、金融機関との提携に詳しい人もいる。一人の専門家が、すべての答えを持っているわけではありません。
私は、これまで銀行設立企画や金融事業、M&Aなどに関わる中で知り合った方々をたどりながら、「この論点については、この人に聞こう」という形で必要な知見を集めていきました。
ただし、専門家に話を聞くこと自体が目的ではありません。
ある専門家から聞いた話を、そのまま経営者へ伝えても意思決定はできません。「では、自社の場合はどうするのか」「他の選択肢と比べるとどうなのか」「次に何を決める必要があるのか」という形に整理し直す必要があります。
私自身は、こうした仕事では、専門知識を持つことと同じくらい、専門家から得た知識を経営判断ができる形に変換することが重要だと考えています。
調べるほど、「銀行をつくらない」という選択肢も見えてきた
検討を進めていくと、「銀行そのものをつくらなくても、やりたいことの多くは実現できるのではないか」という可能性も見えてきました。
銀行代理業という方法もありますし、金融サービス仲介業という仕組みもあります。既存の金融機関と組むという選択もあります。それぞれにできることとできないことがあり、必要な投資や時間、組織への負荷も違います。
ここで大切なのは、どの制度が優れているかを決めることではありません。
その会社が本当に実現したいことに対して、
何を自社で持つ必要があるのか。
何は外部と組めばいいのか。
最も重い方法を選ぶ必要が本当にあるのか。
を比較することです。
大きなプロジェクトほど、一度決めた手段がいつの間にか目的になりやすいと感じます。
「銀行をつくる」と決まれば、銀行をどうつくるかという議論が始まります。システムはどうするか、誰を採用するか、どれくらい資本が必要かと具体化していくうちに、そもそも何を実現したかったのかが議論から抜け落ちてしまうことがあります。
私はむしろ、具体化すればするほど、一度目的へ戻るようにしています。
これは銀行に限った話ではありません。新しいシステムを導入するときでも、新商品をつくるときでも、「どうつくるか」の議論が進み始めたときほど、「なぜ、それが必要なのか」を確認する意味があります。
「何となく気になる」を、次の行動に変える
この案件では、社長と毎週のように打ち合わせをしていました。
会議の中では、「これは良さそうだけれど、こっちはどうなんだろう」「このやり方だと、ここが気になる」といった話が次々に出てきます。
私は、こうした“引っかかり”をできるだけ曖昧なまま残さないようにしていました。
例えば、「なんとなくリスクがありそうだ」という話が出たら、何が分からないからリスクだと感じるのかを分解します。制度なのか、費用なのか、システムなのか、社内体制なのか。そこが分かれば、次に誰に聞くべきか、何を調べるべきかが見えてきます。
「AとBのどちらがいいか分からない」のであれば、何を比較すれば決められるのかを整理します。
そして、次の1週間で確認することを決め、翌週にまた判断する。すると新しい疑問が出てくるので、もう一度分解して次のアクションへ変える。実際には、この繰り返しをかなりの回数行いました。
派手な作業ではありませんが、新規事業を前へ進めるうえでは、この部分がかなり重要だと思っています。
プロジェクトが止まるのは、分からないことがあるからではありません。
私はむしろ、
「何が分からないのか分からない」状態になったときに、仕事は止まりやすい
と感じています。
「何となく不安」「何となく決められない」という状態を、「この三つを確認すれば判断できる」という状態に変える。そうすると、次に誰が何をすればいいのかが見えてきます。
これは、この案件だけでなく、私が新規事業を進めるときにかなり頻繁にやっていることです。
1年間止まっていた構想が、数カ月でPoCまで進んだ
こうした検討を続けた結果、約1年間ほとんど動いていなかった構想は、数カ月後には実際の銀行とPoCを行うところまで進みました。
支援を始めた当初は、論点を整理するだけでも1年近くかかるかもしれないと考えていました。しかし実際には約5カ月で、銀行をつくる場合の道筋と、それ以外の選択肢の両方が見えるようになりました。
さらに、必要な外部パートナーとの関係もでき、社内メンバー自身が次の検討を進められる状態になりました。
そこで、私たちはプロジェクトから離れることにしました。
コンサルティングや外部支援というと、契約が長く続くことが成果のように見える場合もあります。しかし私自身は、自分がいないと進まない状態を長く維持することが、必ずしも良い支援だとは考えていません。
社内の担当者が自分たちで論点を整理できる。必要なときに専門家へ相談できる。選択肢を比較し、次の判断ができる。
そこまで来たのであれば、一度役割を終えてもいい。
もちろん案件によっては長く伴走する必要もありますが、「外部の人間がいなくても仕事が進む状態をつくる」というところまでを仕事の範囲として考えることは、もっとあってもいいのではないでしょうか。
頼まれたものを、そのままつくることが正解とは限らない
この案件を振り返ると、私が最初に「銀行をどうつくるか」だけを考えていたら、プロジェクトはかなり違う形になっていたと思います。
銀行設立に必要なものを調べ、専門家を集め、銀行設立の計画をつくる。それでも仕事としては成立したでしょう。
ただ、それだけでは「本当に銀行をつくる必要があるのか」という選択肢を、会社側に渡せません。
正解のない仕事では、依頼されたものを実現することだけでなく、そもそも何をつくるべきなのかを問い直すことも必要になります。
現時点で私は、こうした空白を埋めることもBuilderが担う仕事の一つだと捉えています。
Builderとは、依頼に対して何でも反対する人でも、ひたすら「本質は何か」と問い続ける人でもありません。
AIや公開情報を使って材料を集め、必要であれば専門家や顧客、現場にも話を聞く。そのうえで複数の選択肢を比較し、何をやるかだけでなく何をやらないかも決め、関係者が実際に判断できる状態まで具体化していく。
この案件では、それが「銀行をつくれる状態と、つくらない選択ができる状態の両方を用意する」という形になりました。
読者のみなさんも、次に「これをつくってほしい」「この施策をやりたい」という相談を受けたとき、すぐに「どうやるか」へ入る前に、一度だけ問い直してみてもいいかもしれません。
「これをつくることで、本当は何を実現したいのだろうか?」
その問いを置くだけで、これまで見えていなかった別の選択肢が見つかることがあります。
そしておそらく、正解のない仕事が増えるほど、「どうつくるか」と同じくらい、「何をつくるべきか」を考える力が重要になっていくのではないかと思っています。
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