PLANET LAND ー 彗星から惑星へ ー 第23話 ハローライフ
第23話 ハローライフ
※今回もキャラクターが演じる劇中劇100%でお楽しみください。
最初は暗闇だった。
舞台の中央に光が差し込み、ミナの姿が現れる。
「……真っ暗ね」
「ここに永遠にひとり、なのかしら?」
キョロキョロと辺りを見回して、小さくため息をこぼした。
「悠真さんに、また会えると思ったのに」
「あの人も、一人で暗闇の中にいるのかしら?」
そのとき、暗闇の奥でひとつ、小さな星の光が瞬いた。
それは、一つ。
また一つ。
やがて、夜空の星のように広がっていった。
「待ちくたびれたよ、ミナ」
「……悠真さん?」
光の中から現れた男の顔を、じっと見つめる。
「なんで?」
「あなた、皺くちゃのおじいちゃんだったのに」
「どうして、出会った頃の姿なの?」
「僕にだって、出会った頃の優しくて美しい君が見えてるよ」
ミナが少し驚いたように目を瞬かせると、悠真は穏やかな声で手を取る。
「さあ」
「これからは、二人の時間だ」
「一緒にいられるよ」
「永遠に……」
ミナは、小さく息を吐いた。
「……永遠に、ね」
悠真が指を弾いた瞬間、星で満ちていた空間の風景が一瞬で切り替わり、そこには街が広がっていた。
細い路地。
古い木造のアパート。
遠くから、ラジオの歌謡曲が流れてくる。
ミナは周囲を見回した。
「……あら?」
「これ……」
悠真が隣で笑っている。
「さあ、帰ろう」
「あの家に」
「あの家?」
「あすか荘の二の一号室」
「僕らが初めて暮らした、あの部屋に」
「何も持ってなかったけど」
「幸せだった、あの時間に」
悠真がミナに向かって、そっと手を差しだすと、その手を見て、くすっと笑った
「でも」
「お風呂もトイレもない部屋よ?」
「お風呂は、またあの銭湯に行こうよ」
「ここでは、そんな心配しなくてもいいんだよ」
ミナが差し出された手をそっと握ると、悠真はその手を引いて、夕暮れの路地を、ゆっくりと歩き出す。
舗装されていない細い道。
どこかの家から漂ってくる煮物の匂い。
ミナは辺りを見回しながら、不思議そうにつぶやいた。
「でも……」
「お腹も空かないの?」
「空かないよ」
「トイレも必要ない」
「食べたいと思えば、食べたいものが出てくる」
ミナは目を丸くした。
「そんな世界なの?」
「そんな世界なんだ」
昭和の夕暮れの空に、ぼんやりと月が現れる。
「まるで……」
「夢の中ね」
「まさにそうさ」
「永遠に……幸せな夢さ」
二人は、古いアパートの前に立ち、悠真が懐かしそうに二階の窓を見上げる。
「あすか荘、二の一号室」
「僕らの最初の家だ」
「……帰ってきたのね」
二人は並んで共用玄関に靴を揃え、軋む廊下から階段を登る。
部屋の引き戸を開くと、ささくれた畳の四畳半の部屋。
小さな棚と、ちゃぶ台がひとつ。
他には何もない。
「……本当に」
「あの頃のままね」
ミナは小さな窓を開くと、そっと指を伸ばした。
「ほら、あの川の向こう」
「キューポラが見える」
茜雲の下に鋳物工場の煙突が並んでいる。
「鋳物の溶ける匂いも、そのまま」
ミナが懐かしそうに目を細めると、悠真は微笑む。
「僕たちの」
「一番幸せだった頃の思い出だよ」
しかし、ミナの目があるものを捉えた。
「あれ?」
「あれ……スカイツリーじゃない?」
「どうしてあれが?」
1970年の街並みには、異質な高い塔を指差して、悠真が微笑む。
「あれはね」
「この世界と、他の世界を繋ぐ場所」
「ハローライフだよ」
「……ハローライフ?」
肩をすくめて、すこしおどけたように続けた。
「現世の職安みたいなものさ」
「幽霊になったり」
「現世を覗いたり」
「新しい生命として、現世に戻ることを希望する場所」
「この世界で永遠を過ごす者には……」
「関係のない場所さ」
夕空に突き刺さるようなその姿は、この街の風景から完全に浮いている。
ミナは窓の外に立つ塔をじっと見つめて、ふっと笑って振り返った。
「面白そうね」
「行ってみようよ」
「お安いご用です」
共用玄関を出た場所に停まっている、古い軽自動車を見たミナが、思わず足を止める。
「これ……」
「この時は、まだなかったわよ?」
悠真は笑いながら、運転席のドアに手をかけた。
「次の家に引っ越した頃だよ」
「あの子が生まれた時に買った」
「僕たちの、初めての車」
ミナは懐かしそうに車を見つめる。
「そんなのまであるの?」
悠真は、助手席のドアを開いて促した。
「細かいことはいいから」
「乗って」
ミナはくすっと笑い、助手席に座る。
車は静かに走り出し、街の景色が、ゆっくりと流れていった。
川沿いの堤防を走ると、塔が近づいてくる。
やがて車は、その足元に着いた。
見上げるほどの高い塔。
入口の自動扉のガラスに、白い文字で記されている。
ハローライフ
ミナは車を降り、向き直ると悠真はゆっくりと頷いた。
「……ここが?」
「ハローライフ」
二人が並んで、その入口へ歩き出すと自動扉が静かに開いた。
白い蛍光灯。
整然と並ぶカウンター。
番号札の機械。
壁には電子掲示板があり、順番に番号が表示される、近代的な役所のような空間だった。
ミナは思わず辺りを見回して、つい噴き出してしまう。
「……ずいぶん」
「現実的ね」
「現世の職安みたいなものって言っただろ」
壁の矢印の先には
幽霊課
転生課
現世観測窓口
幽霊課のカウンターでは、一人の青年が身を乗り出すようにして職員に詰め寄っていた。
「幽霊権をご希望ですね?」
カウンターの向こうで、女性職員に扮する杏奈が資料を差しながら、説明を始めた。
「半透明、思念、ポルターガイスト、気象現象、憑依、携帯通話」
「最近はメッセージチャットもありますよ」
青年役の聡志は、少し困ったように頭をかいた。
「いや……」
「怖がらせたくはないんですよ」
「その……不慮の事故だったから……」
両手で顔を覆い、少し声を詰まらせる。
「妻に……どうしても、伝えたいことがあって」
「なんとか……なりませんかね」
杏奈は少し考えるように目を上げた。
「うーん」
「……じゃあ、枕元かなあ?」
聡志が顔を上げると、微笑む杏奈。
「夢枕プラン」
「申し込まれますか?」
少し離れた場所からその様子を見ていたミナが、ぽつりとこぼした。
「……切実ね」
「みんながみんな」
「僕たちみたいに、天寿を全うしたわけじゃないからね」
二人がそのまま奥へ歩くと、今度は転生課の前。
そこでは、若い夫婦役の峯岸とユズが激しく言い争っていた。
ユズが捲し立てる。
「何が不満なん?」
「ずっとここにおったらええやん?」
「うちとおるのは、いやなん?」
峯岸は、両手を合わせて懸命に頭を下げていた。
「すまん!」
「けど……やっぱり生き直して」
「もう一度、パイロットの夢を叶えたいんや」
「人間になれるとは限らへんねんで!」
峯岸は頭を上げず、懸命に言葉を搾り出した。
「頼むから」
「ホンマ……」
「わかってくれ」
ユズは腕を組むと、ぷいっと顔を背けて吐き捨てた。
「もう知らんわ!」
「勝手にしい!」
その光景をじっと見ているミナに、悠真は苦笑する。
「いろんな人がいるだろ」
いくつもの自動扉の並ぶ場所に着くと、ミナは天井からぶら下がる表示板の文字を読み上げた。
「……現世観測室」
「覗いてみるかい?」
「不思議な気分になるよ」
少しだけ考えて、ミナは頷いた。
「見てみようかしら」
自動扉の中は暗い部屋だった。
正面にある大きな窓が、まるでスクリーンのように現世の光景を映し出し始める。
ミナはゆっくり近づいて目を凝らした。
「……ここは」
画面の向こうに、冷たい大理石の床が映し出され、その上を棺が運ばれている。
火葬場だった。
炉の前で、納棺を終えた職員が最後に扉を閉じる。
視線を移すと遺族が並び、ミナは思わず息を飲んだ。
「……海斗、ユズさん……杏奈ちゃん」
息子夫婦役の、峯岸とユズの隣に、孫役の杏奈。
炉の前で、火葬場の職員役である聡志が淡々と告げた。
「それでは……着火ボタンを」
峯岸は一歩前に進み、声を震わせる。
「母さん……」
「……母さん……」
ボタンに震える手を伸ばすが、指先が止まり、ユズが隣で小さく呟く。
「お義母さん……」
すると突然峯岸の顔が歪み、裏返った声で叫んだ。
「うわぁー!」
「嫌だ……嫌だー!」
ユズと杏奈が慌てて肩を掴む。
「あなた!しっかりして!」
「お父さん!」
聡志は静かに頭を下げる。
「お気持ちは、分かります」
「ですが……」
「しっかりご自分の手で、お母様を天国に送ってあげてください」
ユズは峯岸の掌を握り、背中をさすってやった。
「あなた」
「ちゃんと、送ってあげましょう」
杏奈も小さく頷く。
「そうだよ」
「おばあちゃんを、天国へ……ね」
峯岸は涙を拭いた。
「……は、はい」
観測室の中で、ミナはその光景を黙って見つめていた。
悠真は隣で腕を組み、苦笑いする。
「やれやれ」
「あいつ」
「僕の時は、躊躇なく押してたのにね」
ミナは観測窓の前で、静かに立っていた。
峯岸はまだ肩を震わせ、ユズが背中をさすり、杏奈がその腕を握っている。
その光景を見ながら、ミナはぽつりと呟いた。
「……あの世でも、涙って出るのね」
悠真は隣で静かに微笑む。
「君がそれだけ、人生を頑張った証だよ」
「あいつに、しっかり向き合ってね」
ミナはもう一度、息子達の姿を見つめて小さく頷いた。
「ええ」
「ありがとう、悠真さん」
観測室を出て、二人はまた車に乗りこみ、あすか荘へと戻る。
部屋の中は変わらず慎ましいはずだった。
ミナの目はふと、部屋の隅に置かれた、そこにあるはずのなかったものに吸い寄せられる。
「あら……」
「これは、あなたと久羽乃に帰って、お店を持った時にあったものよね」
木目の美しい、大きなステレオだった。
あの頃は贅沢品で、店を切り盛りしながら二人で、何度も支払いの計算をしたことを、ミナはすぐに思い出した。
「これの月賦で、かなり大変だったのよ」
悠真は苦笑した。
「まあ、そうだね」
悠真はステレオの前にしゃがみ、レコードを一枚取り出して、丁寧に針を落とす。
小さなノイズのあと、音楽が流れ始めた瞬間だった。
部屋の景色が、音に合わせてふわりと揺れる。
玉ねぎを炒める香りが漂い、こ気味良いフライパンの焦げる音が響く。
壁が伸び、天井が高くなり、クロスが敷かれたテーブルが並ぶと、ミナは目を見張った。
「……まあ」
そこは、二人が久羽乃へ戻り、持った店だった。
悠真がミナに歩み寄る。
「いずみ亭」
「僕たちで生み出し」
「僕と君が、一生を生きた店だ」
ミナは店内の額に飾られている、茶トラの猫の写真に目をやり、ため息をついた。
「ミー太……ミー太には、会えないの?」
「あいつを見送ったのは、40年も前の事だよ」
「きっと次の生を幸せに生きてるさ」
そう言うと、自然な仕草で手を差し出した。
「踊ろうか」
「踊るの?」
悠真は少し芝居がかったように肩をすくめた。
「ワルツ、ジャズ」
「なんでもござれ」
その差し出された手に、自分の手を重ねる。
「なんでも良いわよ」
「疲れるまで」
悠真はミナの腰にそっと手を回し、くすっと笑った。
「ここには、疲れなんてないんだよ」
音楽に合わせて、二人はゆっくりと床を滑るように動き始めた。
呼吸の合った足取りで、ステップを踏む。
曲が終わるたびに、悠真はレコードを交換して、別のジャンルの曲を踊る。
ミナは悠真の胸に額を預けて静かに言った。
「不思議ね」
「何が?」
「だって……」
「私達、死んでるのよね?」
悠真は何も答えず、背中に回した手に少しだけ力をこめる。
壁にかけられた、愛猫ミー太の写真が、微笑むように二人を見下ろしていた。
レストランの窓の外には、久羽乃の町の灯りが広がる。
田舎の街並み。
情緒の溢れる錦鯉の泳ぐ水路や、鎧張り(よろいばり)の塀の伸びる旧家。
そんな、見慣れた景色の中にも、異質な一本の塔が光っている。
ハローライフだった。
「ハローライフ、久羽乃からも見えるのね」
「……不思議なものだろう?」
「いつの時代の、どの場所で暮らした者にも、同じ姿で見える」
ミナは、その光を見つめたまま、小さく息をついた。
曲が終わっても、二人はすぐには離れず、店の真ん中で肩を抱き寄せ合ったまま、しばらく余韻に浸っている。
ミナが小さく呟いた。
「本当に、夢のようね」
「五感すべてがある、夢だよ」
「いつまでも、一緒に?」
「もちろん」
ミナはその言葉には、すぐには頷けなかった。
「……何か、違う気がするの」
「穏やかすぎて」
「不満……というのとも違うのよね」
「不安なの」
「贅沢かもしれないけど」
ミナは店内を見渡した。
二人で声をかけあった厨房。
磨き上げたグラス。
客を見送ったあとの静かなテーブル。
そのすべてに、二人が積み重ねてきた時間が染み込んでいる。
「今あなたと流れている時間は、私たちが一緒に歩いてきた時間でできたものなのよね」
「喧嘩もして、励まし合って、作ってきたもの」
「素晴らしい時間だわ」
「本当に」
それから、ゆっくりと悠真を見上げた。
「……でも」
「私は、もう一度、私の知らないあなたを見つけたい」
沈黙が落ちた。
やがて悠真は、苦くもやさしい笑みを浮かべた。
「君なら……そう言うと思っていたよ」
ミナは少し目を見開く。
悠真は、ミナの肩を抱く手を緩めないまま続けた。
「ただし、転生権は競争が激しい」
「人間に生まれ変わるのは、かなりの倍率だ」
ミナの表情に、かすかな緊張が差す。
「そうなの?」
「しかも、同じ時代に生まれるかどうかもわからない」
悠真は窓の外へ目を向けた。
「たとえ人間に生まれ変われても、別の土地かもしれない」
「出会えないまま終わるかもしれない」
そして、最後に念を押す。
「それでも、やるかい?」
ミナは答えられない。
悠真は目を伏せ、小さく息をついた。
「僕は、君を待って、待って、待ち続けてやっと再会したんだ」
「君との時間を失いたくないのが、正直なところだよ」
ミナは、その顔を見つめて、そっと悠真の頬に手を添えた。
「この永遠は美しいわ」
「けれど、美しいだけでは足りない」
「そう思ってしまった自分を、もうごまかせないの」
悠真の迷いが浮かぶ顔を、真っ直ぐ見つめた。
「あなたは……」
「この永遠の世界で、私と過ごすことを望むの?」
悠真は窓の外の夜景を一度見て、それからまたミナに視線を戻し、静かに笑った。
「それを夢見て、君を待っていた」
「……しかし」
「君の言うことも、一理あるね」
悠真は続ける。
「君は、昔からそうだった」
「僕が満足して立ち止まりそうになると、いつも前に引っ張る」
ミナも思わず笑った。
「そうだったかしら?」
「そうだったよ」
「だから僕は、君との人生を最期まで過ごせたんだ」
「もし君が……もう一度生きたいと言うなら」
「僕も付き合うよ」
ミナの目が大きくなる。
「ただし」
「また君を見つけるのは、かなり大変そうだけどね」
ミナは、ふっと笑った。
「見つけなさいよ」
「あなた、私のこと大事なんでしょ?」
悠真は一瞬、言葉に詰まり、それから苦笑した。
「参ったな」
「それは、間違いない」
永遠の夜の中で、二人はしばらく窓の外にそびえる塔の光を見つめていた。
翌日、二人はハローライフの受付に立つ。
転生課のカウンターの向こうには、職員に扮したユズが微笑み、端末を操作しながら、優しい声で説明する。
「転生権の申請ですね。お二人とも同時申請……確認しました」
画面を見ながら指を滑らせる。
「倍率についてはすでにご説明を受けていると思いますが、人間転生はかなり競争が激しいです」
ミナと悠真は顔を見合わせ、小さく頷いた。
ユズは続ける。
「同じ時代に生まれる保証もありません」
「出会える保証もありません」
「それでも、よろしいですか?」
ミナが先に答えた。
「ええ」
悠真も静かに続く。
「大丈夫です」
ユズは小さく微笑み、入力を終える。
「では、申請を受理いたします」
「準備が出来次第、ご連絡申し上げます」
最後に、二人の顔を交互に見た。
「また、一つだけ」
「記憶を一つだけ、次の生に持っていくことができます」
悠真の眉がわずかに動いた。
ユズは淡々と言葉を重ねる。
「人、言葉、景色、音……なんでも構いません」
「お決めになっていてくださいね」
手続きを終えたユズは、軽く頭を下げた。
店に戻ると、ミナがしばらく黙っていると、悠真が棚のファイルから、数枚の紙を抜き出した。
「……何?これは」
ミナが尋ねると、悠真は紙に書かれたものを見せる。
それは楽曲の譜面だった。
「この曲を……」
その瞬間、店のテーブルが全て消え失せ、代わりに一台のグランドピアノが現れる。
悠真はゆっくりと椅子に座り、鍵盤に手を置いた。
最初は静かな旋律だった。
店内に鳴り響く曲に、ミナは目を閉じて耳を傾けていた。
「二人の記憶に残そう」
ミナは胸の前で手を握った。
「……悠真さん」
呼びかける声は、少し震えていた。
転生室は、静かな光に満ちていた。
白い床の奥に、ガラスのカプセルが二つ並び、その前にミナと悠真が並んで立っている。
職員役の聡志が端末を確認していた。
「準備は、よろしいですか?」
二人は顔を見合わせ、小さく頷く。
聡志は優しく微笑み、ミナの前に一歩進む。
「では……奥様から」
「まずは記憶を拝借します」
聡志が右手をそっとミナの額にかざすと、光が溢れて聡志の右手に吸い込まれた。
「……受け取らせていただきました」
カプセルの扉が音もなく開く。
「では、どうぞ」
ミナは悠真を見てから、ゆっくりとカプセルの中へ入る。
「悠真さん」
「次は、犬か、猫かもしれない」
「鳥や魚かもしれません」
黙って聞いている悠真を、まっすぐ見つめて微笑んだ。
「それでも……必ず私を見つけてね」
悠真は少しだけ目を細める。
「君こそ」
「頼むよ」
カプセルの扉が閉じて光が満ちると、ミナの姿はもう、そこにはなかった。
聡志は端末を確認する。
「転生……完了」
「次は、あなたです」
悠真は一度、空になったカプセルを見て、眉を下げてため息をついた。
聡志が左手を悠真の額にかざすと、また光が掌に吸い込まれる。
その時、聡志の名札を見た悠真は目を見開き、聡志の目を見ると、今度は穏やかに微笑み、声を詰まらせた。
「……よろしく……頼むよ」
聡志は軽く頷き、カプセルを開く。
悠真は中へ入り、ゆっくりと目を閉じた。
扉が閉まり光が満ちると、その姿も静かに消えていった。
静けさに包まれた転生室。
聡志は、しばらくカプセルを見つめていた。
やがて、そっと両手を合わせる。
合わせた掌の内側から、二人の記憶が重なり、溢れ出す白い光になって、旅立ったカプセルにそれぞれ吸い込まれていった。
「……職権濫用で、クビかもニャ」
「……けど」
「やっと、恩返しができたよ」
静かに呟く。
「お父さん、お母さん」
「幸せに、にゃってニャ」
胸元の名札が、白い光に反射する。
そこには、小さくこう記されていた。
「ミー太」と。
令和の都会。
歩道の脇で、若い男がケースを足元に置き、アンプにつないだギターを軽く鳴らすと、忙しく行き交う人々を横目に歌い始めた。
曲が終わり顔を上げると、目の前にひとりの女性が座り、こちらを見ている。
やがて女性は小さく微笑んだ。
「いい歌だね」
「なんだか……懐かしい感じがする」
「ありがとうございます」
女性は笑顔のまま口を開く。
「ねえ」
「その曲、もう一度聞かせてよ」
男は、にこりと微笑み頷いた。
「お安いご用です」
やがて男が弦を弾くと、同じ曲が流れ始め、女性は目を閉じて、その旋律に身を委ねる。
いつの間にか、かたわらにちょこんと座っている。
茶トラの仔猫の額を撫でながら……
そして、ゆっくりと幕が下ろされていった。
※この劇中劇、ハローライフはかつて著者が、日本テレビ「週刊ストーリーランド」に応募したものを、リメイクしました。
第24話はこちらから↓
↓マガジンに全話収録されてます
