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PLANET LAND ー 彗星から惑星へ ー 第17話 ハッピーアイランド〜瀬戸の花嫁大作戦〜 中編

第17話 ハッピーアイランド〜瀬戸の花嫁大作戦〜 中編

※今回も100%劇中劇をお楽しみください

 語り)バーベキューを楽しんだ一行は、その後も御美島での時間を満喫していきます。

 雄吾の船で海を巡るクルージング。
 秀然の寺での座禅体験。
 そして健作の駐在所では、牢屋体験まで。

 都会ではなかなか味わえない島の一日を、それぞれに楽しんでいくのでした。

 やがて空は夕焼けに染まり、浜辺には昼間とは違う静かな空気が流れ始めます。

 いよいよ、告白タイム。

 三人の運命と、島の未来のための、最大の挑戦の時です。

 夕焼けの浜辺では、波の音だけが聞こえていた。

 その中で、再びカメラの前に立つ聡志。
 わざとらしいほど大きく息を吸い込み、両手を広げた。

「さあ! やってまいりました――」
「こ・く・は・くターイム!」

 浜辺の空気が、わずかに張りつめる。
 健作が背筋を伸ばし、秀然は静かに目を伏せ、雄吾は落ち着かない様子で腕を組んでいた。
 ミナとユズも、それぞれ少し離れた場所に立っている。
 聡志が場を煽るように、ぱんと手を叩いた。

「トップバッターはぁ! 健作さんです。健作さん、どうぞー!」

 その声を合図に、健作が勢いよくミナのもとへ駆け出す。
 だが、その瞬間。

「異議あり!」

 静かな声が、浜辺にすっと通った。
 秀然だった。
 夕陽を背に、ミナと健作のもとへ駆け寄る。
 聡志が目を丸くし、すぐに大げさな笑顔に切り替えた。

「おっとー、いきなり異議あり!きました! 御住職、いったー!」

「それでは――健作さんからどうぞ」

 健作は一歩前に出ると、胸を張ってミナの前に立ち、びしっと姿勢を正す。 

「ミナさん!」
「あなたを――私の心を盗んだ罪で」
「逮捕します!」

 手を差し出すと、浜辺に小さな笑いが起きる。
 その横から、秀然が静かに一歩進み出た。
 穏やかな表情のまま、ミナを見つめる。

「ミナさん」
「あなたの笑顔は、私の頭より光り輝いています」

 そして、そっと片手を差し出した。

「お願いします」

 ミナは二人を見比べてひとこと。

「ごめんなさい」

 その瞬間。
 健作と秀然は、その場でへなへなと崩れ落ちた。
 砂浜に膝をついた二人を見て、聡志がマイクを向ける。

「ミナさん!どこがいけなかったですか?」

「二人とも、チョー楽しかったんですけど……」
「なんか、お友達までかなって」

 聡志がカメラの方を振り向き、大きく腕を広げた。

「お二人とも! ざーんねんでした!」
「さあ! いよいよラストバッター、雄吾さん!」
「もちろん、ユズさんですよね?」

 雄吾は、ぎこちなくうなずいた。

「ええ、まあ」

「自信は?」

 雄吾は、少しだけ視線を落とし、それでも前を向いた。

「当たって、砕けるだけです」

「砕けないでくださいよ」 

 そして、手を大きく振る。

「じゃあ! 行っちゃいましょう!」

 夕焼けの浜辺に、再び静かな緊張が走った。
 少し離れた場所で立っていたユズは、複雑な表情のまま、こちらを見ている。

 雄吾が、ゆっくりと歩き出し、その様子を、健作と秀然が少し離れたところから見守っている。
 二人とも、なぜか合掌していた。

 やがて雄吾は、ユズの前で足を止め、まっすぐに、ユズの目を見る。
 そして、口を開いた。

「いかん! なんもうかばん」
「とにかく!お願いします!」

 そう言って、ユズへ向かって手を差し出した。
 ユズは日に焼けたその手を、じっと見つめる。

(だから、守りたいんじゃ)

 昼間聞いた言葉が、ユズの胸の奥によみがえってきた。
 ユズの唇が、わずかに震える。

「私……私は」

 その片手が、ゆっくりと動いた。

 少し離れた場所で、聡志がほくそ笑む。
 峯岸は二人の表情を交互に追い、宮坂はそっとマイクを引いた。
 杏奈は体育座りで、二人から視線を外さない。
 浜辺の空気が、張りつめる。

「……ご」
「ごめんなさい」

 その言葉が落ちた瞬間、雄吾は目を閉じ、差し出した手を、そっと自分で握り込んだ。
 聡志がカメラの前に立つ。

「なーんと!今回はカップル不成立!残念な結果になりました!」

 聡志は両手を広げ、締めへと入った。

「次は、あなたの田舎にお邪魔するかもしれません!」
「ご応募、お待ちしておりまーす!」

 そして振り向き、スタッフに声をかける。

「よっしゃ、撤収!」

 機材を抱えたクルーたちが、浜辺を離れていく。
 ユズとミナも、その流れに続いた。

 砂浜には、三人の男だけが残される。
 健作、秀然、そして雄吾。
 三人とも、肩を落とし、夕焼けの海を見つめていた。
 歩き出したユズが、ふと足を止める。
 そして、そっと振り返った。
 浜辺には、うなだれたまま立っている雄吾の姿が見える。
 ユズは、ほんの一瞬だけその姿を見つめた。

(本当に、ごめんなさい)

 その頃――
 宿舎の中から、小さなラジオの音が流れていた。

「気象情報です」
「大型で猛烈な風の強さの台風が、当初の高知県沖を通る進路が北寄りになり」
「今夜、瀬戸内海を横断する見込みです」

 質量を持ったような、重たい風が島を吹き抜け始めた。

 その夜。

 島の空き家を借りた宿舎では、聡志、宮坂、峯岸の三人が、缶ビールを並べて晩酌を楽しんでいた。
 テーブルの上には、つまみとカップ麺の空き容器。
 聡志が缶を傾け、うんざりしたようにこぼす。

「ったく、コンビニどころかスーパーもねえし、店ったって弁当もねえし」
「だから田舎はやなんだよな」

 峯岸が苦笑しながら、乾き物をつまんだ。

「まあ、そう言わんと」
「店があるだけでも楽ですわ、カップ麺はあるし」

 聡志が鼻で笑う。

「秘境ロケばっかのあんたと一緒にすんなよ」

 その横でラジオを聞いていた宮坂が、淡々と口を開いた。

「台風、どうやら直撃らしいです」

 聡志は大して気にも留めない様子で、ビールをもうひと口飲む。

「ちょうどいいじゃん」
「帰るの明後日だし、夜の間に抜けるんだろ?」

 峯岸が少しだけ目を輝かせる。

「チーフ、台風リポート、チャンスじゃないですか?」

「は?いや無理だろ」
「雨具なんてねーし」

 宮坂がラジオから耳を離さず、ぽつりと返す。

「あんた、ほんとにテレビマン?」

「ゆうま、なんか言ったか?」

「なんでもないですよ」

 外の風がひときわ強くなり、戸を揺らし始めていた。
 ユズは何も言わず、窓際に腰を下ろして、外の景色を眺めている。
 荒れ始めた海。
 強くなっていく風。
 港の街灯が、雨粒を照らしていた。
 ミナがふと口を開く。

「あんた、今日の引き、なかなか良かったじゃん」

「そう?」

 ミナが少し笑う。

「でも、なんだか本当に楽しかったね」

「そうだね」

 ミナが天井を見上げる。

「久しぶりに、裏表がない人と話せた気がするよ」

「一緒に住んでる私への当てつけ?」

 ミナは何も言わず、ふうっと息を吐く。
 その時だった。

 港の街灯に照らされた中に、ひとつの人影が浮かび上がる。
 ユズの目が、はっと見開かれた。

(あれは……)

 強い雨の向こうで、誰かが立っている。

(雄吾さん!)

 クルーの宿舎では、すっかり酔いが回った様子の聡志が、椅子にだらしなく座りながら言う。

「やっぱり、少人数だとプロ入れたら締まるな」
「不成立でも文句出ねえし」

 宮坂が、ちらりと窓の外を見てから小さく言った。

「あんまり、大きな声で言わない方がいいですよ」

 聡志が顔をしかめる。

「うるせえよ」
「あれ? 海斗、何してんの?」

 峯岸は、床に広げた機材の前にしゃがみ込んでいた。
 カメラを丁寧にビニールで包み、簡易的な耐水仕様にしている。

「一応、台風の絵を撮って来ます」
「雨具は携帯してるんで」

 宮坂がすぐに立ち上がる。

「峯岸さん、僕も行きます」
「照明、必要ですよね」

 聡志が呆れたように手を振った。

「俺はぜってー行かねーぞ」

 峯岸は振り向きもせず答える。

「ご自由にどうぞ」

 その時、窓の外で風が一段と強く吹き荒れた。
 まるで、島全体を揺らすような重たい唸りだった。

「ユズ!待ちなって!危ないって」

 ユズが立ち上がり、玄関へ向かおうとしたその瞬間、ミナが慌ててその手を掴んだ。

「ちょっと、どこ行くの」

「外」

「外って……この雨風の中?」

 ユズの声が揺れる。

「雄吾さんが、雄吾さんが――」

 その時、台所から杏奈が現れた。
 湯気の立つ鍋を両手で抱えたまま、静かに二人を見る。

「どうしました?」

「ユズが、外に出ようとしてるの」

 ユズは窓の外を見たまま、もう一度言う。

「雄吾さんが……」

 杏奈は少しだけ外の気配に耳を澄ませ、静かに言った。

「行かせてあげてください」

 ミナが目を見開く。

「でも、」

 杏奈は鍋を抱えたまま、平然と続けた。

「なんなら、みんなで行きます?」

 吹き荒れる風、横殴りの雨の中、雄吾に駆け寄るユズ、唸る風の音にかき消されないように、声を張り上げた。

「雄吾さん!」

 ユズの声に、雄吾がすぐ振り向く。

「ユズさん、外に出たらいかん!」
「何が飛んでくるかわからんぞ!」

「けど、この嵐の中だと、雄吾さんも危ないです!」
「行かないでください!」

 雄吾は一瞬、目を細めた。

「ありがとう」
「ほじゃけど、これがわしの役目じゃ」   
「高波が逆流せんように、水門を閉めて、港の堤防の門扉も閉めないかん!」
「年寄りしかおらんこの島を守るのが、わしと、健作さん、秀然さん、この島の青年団の役目じゃ」

「でも、でも……」

 言葉を失うユズに、雄吾はそっと手を伸ばした。
 やさしく頬をなでて、静かに微笑む。

「この島におる以上、あんたも、わしが守っちゃる」
「心配すんな」

「……雄吾さん」

 次の瞬間、ユズはたまらず雄吾に抱きついていた。
 雄吾は驚いたように目を瞬かせ、それから何も言わず、そっとユズの背中に手を回す。

「ありがとな、ユズさん」
「……ほんまに」

 ミナが風に煽られながら駆け寄る。

「健作さん! 秀然さん!」

 健作が振り向く。

「ミナさん、来てくれたんか?」
「けど、ここは危険や」

 その横で、秀然は穏やかな顔で言った。

「大丈夫ですよ、うちのご本尊様が守ってくれますんで」
「心配ご無用」

 ミナは思わず声を落とした。

「無理……しないで下さいね」

 少し離れたところで、その様子を杏奈が無言で見守っている。
 風に髪を揺らしながら、ただ静かに立っていた。
 ユズが一歩前に出る。

「私たちも手伝います」

 雄吾はすぐに首を横に振った。

「無理や、この嵐の中やし、門扉も重たい危険や」

 ユズは少し得意げに言う。

「大丈夫です」
「うちらのマネージャー、怪力なんで」

「マネージャー?」

 ユズがはっとして口を押さえる。

「あ!」

 その様子を、少し離れた場所から峯岸がカメラで捉えていた。
 照明を構える宮坂に向き直る。

 「いい画、撮れたな?」

 「はい、バッチリです」

 「……あとは、わかるな」

 「もちろんですよ」

 峯岸は港の端にある、少し扉の開いた納屋へ歩き、雨が直接当たらない位置にカメラを固定した。
 レンズはそのまま港の方へ向けられている。
 一方、宮坂は照明を持ち、二人は雄吾たちのいる場所へ近づいていった。

「俺たちも手伝います」

 突然の声に、雄吾が振り向く。

「あんたら……」

 宮坂は淡々とした口調のまま続ける。

「お二人は、これ持って」

 そう言って、ユズとミナに照明を手渡した。

「手元を照らしてください」

 港の門扉が全て閉じられると、次は水門だ。
 雨と風が吹き荒れる中、一行は足を踏ん張りながら水門へ向かう。
 その時だった。
 風に煽られた塩化ビニール製の波板が、ミナめがけて飛んできた。

「危ない!」

 次の瞬間、健作と秀然が同時に飛び出し、ミナの前に立ちはだかる。
 波板が二人の肩と背中にぶつかり、ばたんと地面に落ちた。

「健作さん!秀然さん!」

 ミナが思わず叫ぶ。
 健作は肩を軽く払うと、にやりと笑った。

「こんなもんで、わしの体に傷ひとつ、つけることなんぞできんわい」

 その横で秀然が、静かに手を合わせる。

「ご本尊様の、ご加護ですよ」

 ミナは唇を噛みしめ、小さく言った。

「……ごめんなさい」

 だが立ち止まっている暇はない。
 全員がすぐに水門の開閉ハンドルへ向かった。
 重たい鉄のハンドルに手をかけるが、びくともしない。

「固い……!」

 雄吾が声を張り上げる。

 「全員でいくぞ!」

 男たちがハンドルに取りつき、ユズとミナは照明で手元を照らす。

「せーの!」

 ギリ……。

 鉄が軋む音がする。 

「んなくそーーーー!!」

 ハンドルが少しずつ回り、水門がゆっくりと下り始めた。

 ギリ……ギリ……。

「もうちょっとや!」

 雄吾が叫ぶ。
 そして――
 ガーン――と、重たい音を響かせて、水門が完全に下りた。
 全員がその場にへたり込みそうになりながら、大きく息をつく。
 水門は確かに閉まった。
 雄吾は荒い息のまま、ふと杏奈の方を見た。

「あんた……本当に怪力なんやな」

 杏奈は濡れた前髪を額に貼りつけたまま、少しだけはにかんだ。

「……えへへ」

 その声に、ミナが呆れたように眉を上げる。

「それ言われて、喜ぶ女の子、いるんだ」

 杏奈は何も答えず、また少しだけ笑う。
 その眼鏡だけがきらりと光った。

 全員は、港の納屋へと身を寄せ、台風の通過を、ただ待つしかなかった。
 しばらくして、秀然がぽつりと口を開いた。

「アイドル?」

 ユズが小さくうなずく。

「はい、でも、テレビに出たりとかじゃなくて」

 ミナも続けた。

「ちっちゃいライブハウスで活動してます」

 杏奈が静かに言い添える。

「俗に言う、地下アイドルです」

 健作が眉を上げる。

「じゃあ、結果は最初から?」

 峯岸が頭を下げた。

「申し訳ありません」

 宮坂も続ける。

「本当に、皆さんを騙すようなことになって」

 雄吾が低く言う。

「騙すようなことって、騙しとるやないか」

 ユズが顔を上げることもできないまま言った。

「本当に、ごめんなさい」

 ミナも唇を噛みしめる。

「自分たちは、仕事のつもりでした」

 納屋の中に、重たい沈黙が落ちる。
 すると、秀然が静かな声で言った。

「……因果応報」
「この台風がその報い」
「それで良いじゃありませんか?」

 健作が息を吐いて笑う。

「そうじゃな、楽しい思いもしたし」

 峯岸が、言葉を探すように口を開く。

「皆さん……」

 その横で、杏奈が眼鏡の奥に涙を溜めていた。
 雄吾が納屋の外へ目を向けたまま言う。

「それに、この時化やと、あんたらはもうしばらく島に居らんといかんなりそうや」

 宮坂が振り向く。

「どういう事ですか?」

 雄吾は短く答えた。

「朝になったら分かる」

 ――翌朝。

 台風は通り過ぎていた。
 だが港に出た一同は、そこで言葉を失う。

 巡航船の船着場になっていた浮桟橋が、きれいさっぱり、流されて無くなっていたのであった。

第18話はこちらから

↓マガジンに全話収録されてます

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