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弁護士が考える”頭脳戦”と『ジャンケットバンク』の功罪

弁護士だからか、僕は頭脳戦漫画が好きです。先日は『嘘喰い』についての記事を書きました。

最近面白い頭脳戦漫画といえば、『ジャンケットバンク』でしょうか。

『ジャンケットバンク』は、勝負を描く漫画としてとても面白いと思って読んでいます。

ただ、”頭脳戦”好きとしては少しひっかかる部分もあったので”頭脳戦”の醍醐味から考えてみたところ、『ジャンケットバンク』はまさにそこが勝負の面白さの原動力になっていることに気が付きました。

そこで、今日はこの”頭脳戦”について考えつつ、ジャンケットバンクという作品について考察していきたいと思います。

※この記事はネタバレを含みますのでご注意ください。


『ジャンケットバンク』とはどんな漫画か

ある銀行が、命を賭けたゲームを主催しています。

用意されたゲームに参加する人は、勝てば報酬を得て、負ければ命を失うこともあります。

主人公は異彩を放つギャンブラー・真経津晨。新人銀行員・御手洗暉は真経津という人間に魅せられていきます。

真経津は自身のランクを上げ、より強い対戦相手と戦っていく、という物語です。

頭脳戦の面白さとは何か

頭脳戦の面白さは、むき出しの”知略”を体験できるところだと思います。

なんていうか、僕は頭脳戦は「きちんと見たい」んです。どういうゲームで、自分だったらどうやって勝つのか。それに対して、出てきたキャラクターは何を考えて、どんな勝負をするのか。なんでその手を選んだのかという、登場人物の思考をきちんと見たい。だから、何度も読み返しますし、読み返すたびに発見があるのが面白い。

だから、僕が頭脳戦漫画で見たいのは、ただ単に賢い人が正解する姿ではありません。ミステリーやサスペンスなど別のジャンルであれば、話の筋だけでも見ていて面白いということは確かにあります。たとえば『名探偵コナン』なんかは、トリックを細かいところまで読み込んだり自分だったらこの謎を解けるかと考えなくても面白いですよね。謎があって、探偵が解くという話の筋を追うだけで楽しめます。でも、頭脳戦ではそれがしたいわけではないんです。

確かに現実の勝負では特に理由もなく選択することがあります。カードを一枚選ぶとき、そこに理屈がないことは現実にはある。でも頭脳戦漫画では、そこに全て論理が組み立てられているからこそ、後から繰り返し読んでも「そこまで考えていたのか!」と驚かされる。『嘘喰い』はこの論理を絶対に飛ばさなかったから面白かったんだと思います。『ハンターハンター』もこの意味で頭脳戦の面白さがあります。

相手の癖を見抜いたとか、表情を読んだとか、そういうものでもいいんです。とにかく、なぜその手だったのかという論理を書いてほしい。それが頭脳戦の醍醐味なんです。

僕が『ジャンケットバンク』で引っかかっていたのは、この論理性がない場面が多いということです。このキャラクターは人を見る目がある、だから相手に勝ったんだ、という描き方で処理されてしまう。なんでその手を選んだのか、なんで相手を読むことができたのかを、ちゃんと書いてほしいという勿体なさを感じてしまいます。

なぜ頭脳戦は描きにくいのか

これにはいくつか原因があるように感じています。

まず、『ジャンケットバンク』は、そもそもゲーム自体が複雑で難しいということがあります。

ルールが複雑だと、読者は「自分だったらどうするか」を考えにくくなります。頭脳戦漫画の楽しみの一つは、登場人物と同じ盤面を前にして、自分ならこう打つ、と考えながら読むことです。ルールを把握するだけで手一杯になると、その楽しみ方が難しくなる。

登場人物の側には、その手を選んだ理由や理屈があるはずなんです。ただ、ゲームが複雑であればあるほど、その理由を説明するのがとても難しくなる。一手の意味を説明するには、その前提になっているルールの細部まで説明しなければならないからです。

次に、登場人物の思考をその都度全て説明してしまうと、どんでん返しができなくなります。

逆転の驚きは、読者に見せていない思考があってはじめて作れるわけです。だから、思考を見せれば見せるほど、驚きは削れていく。

複雑なゲームを、驚きを残したまま、それでも一手の理由が分かるように書く。これは相当に難しいことだと思います。

ジャンケットバンクが持つ他にはない強み

一方で、この漫画には、他にはない強さがあります。

この漫画のゲームは、先に「こんな勝ち方をさせたい」という勝ち方があって、それが成立するようにゲームが組まれているそうです(田中一行先生特別インタビュー)。

ルールが先にあって、その中でどう勝つかを考えるのではない。勝ち方が先にあって、ルールが後から組まれている

だからこそ、この漫画は勝ち方がめちゃくちゃ面白い

試合自体には負けているのに勝負には勝った、ということも起きます。

一番好きなのは「ジャックポット・ジニー」です。ネタバレ込みで書きますが、獲得した金貨の枚数を競うゲームです。ゲームのあとには得た金貨を換金する手続きがあり、換金の間、プレイヤーはその場から出られず、飲まず食わずで過ごします。金貨が多いほど、換金にかかる時間は長くなります。

主人公はこのゲームで、最初から負けるつもりで勝負し、相手に金貨を取らせて大負けします。大量の金貨を手にした相手は、換金の場から抜けられなくなり、餓死します。生き残ったのは主人公のほうでした。

なぜこういう勝ち方があり得るのか。それは、そもそもこのゲームが、プレイヤーをはめるために作られたものだからです。

ゲーム自体に罠が仕掛けられている。主催者が、プレイヤーの命をどう扱ってもいいという立場で、ゲームに色々な罠を用意している。その罠に打つ者が引っかかったら、それはその人のせい。だから、勝負はルールの中の勝ち負けではなく、主催者側をも睨んだうえでの知力の張り巡らし合いになります。ルールの裏に何が仕込まれているのかまで読み合う。そういう知略が、この漫画を他の頭脳戦漫画と違うものにしています。

そして、「ジャックポット・ジニー」のようなゲームでは、僕がもともと書いていた「頭脳戦」の面白さを出そうとしても出せません。主人公の思考がはじめから「負けるつもり」なので、それを書いた瞬間にどんでん返しができなくなるからです。ゲームの構造が複雑なのも、このような展開を用意するためなのだと思います。

この勝負の面白さを最優先しているからこそ、漏れていってしまっている部分もあるのかもしれません。僕が物足りないと思った部分は、実は物語を面白くするための最大の装置だったのです。

物語って難しく、そして面白いものだなと改めて感じました。

総評

『ジャンケットバンク』の評価は以下のとおり。

★★★☆☆ 3つ星!まずまずです。

これからもユニークな勝ち方を見ていきたい、そんな漫画です。勝敗に向けたロジックがきちんと立っているからこそ、なぜその手なのかをもっと見せることもゲームによってはできるはずで、そのような読ませ方になれば僕はもっと好きになると思います。今後の『ジャンケットバンク』に期待しています。

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