【連載小説2/5】 ✈️空賊ルルーと、白い船
ねぇ、あの日見た夢。
君はもう忘れてしまったの?
飛び出した朝。
オンボロな飛行機で、
ふたり、どこまでも飛んだじゃない。
伸ばした手は空を掴む。
いつまでも。どこまでも。
◆
空賊船『ルルー・リベルテ』
——空を渡る、蒼き自由の船。
ところどころに継ぎ接ぎの金属板。
何度も繕われた跡のある、布の幌。
空賊船といっても、
無闇やたらに襲うわけじゃない。
あこぎに儲けている商船や、
奴隷貿易の船。
そんな船から、ほんの少しだけ積荷をもらう。
護衛の請け負いも引き受ける。
長い航海の用心棒をするのだ。
こちらの方が本業かもしれない。
気ままで自由な暮らしだった。
それなのに、胸の奥に乾いた風が吹いている。
いつまでも消えてくれない、乾いた風。
◆
「ルルー、後ろ!」
テオの声。
ルルーははっと振り返り、ゴーグルを額に押し上げた。
雲の切れ間。
遠くに、白い船影が見える。
白い機体に長い翼の船が、滑るように近づいてくる。
「警官隊だ」
ルルーは、双眼鏡を覗いた。
「……高度を上げよう」
静かに言うと、操縦輪を握った。
船が軋む。
雲の中へ、ゆっくりと潜り込んでいく。
◆
船は小さな町の外れに降りた。
崖に張り付くように、家々が並んでいる。
石の階段。洗濯物。
赤い屋根が並んでいる。
どこにでもあるような、空の下の町だった。
「燃料は?」
「半分切ってる」
「食料は?」
「からっぽだよ」
市場の端で、食料を買い込む。
ルルーは露店で異国風のサンドイッチを買い求めた。
ラム肉とチーズを真ん中に、
玉ねぎ、トマトなどの野菜がピタパンの中に包まれている。
さて頬張ろうというとき、小さな男の子と目が合った。
頭はボサボサ、衣服は薄汚れている。
けれど、伸ばした背筋が不思議と凛として見える。
彼は、目が合ったことを恥じたように横を向いた。
ルルーはポケットを探り、銅貨を一枚渡した。
「ねぇ、君。すこしお使いを頼まれてくれない?
お礼はこれで」
男の子は目を丸くした。最初は首を振った。
しかし、ルルーが手紙を言付けると、矢のように走っていった。
◆
補給が終わり、『ルルー・リベルテ』号は再び空へ舞い上がった。
やがて見張りの声が静寂を切り裂く。
「警官隊、来たぞ!」
空の向こうに、白い船が見える。
一直線に、こちらへ向かってくる。
「今日はしつこいな」
エンジンが唸り、プロペラが空気を掴む。
船体が震えた。
ヒューー!
後ろから、乾いた音がした。
警告弾だ。
弾はルルーを掠め、雲の間に消えていった。
「もう!今日は荒っぽいじゃない」
打ち手の姿は見えない。けれど弾道が確かだ。
「ルルー、このままだと追いつかれるぞ!」
操縦輪を握り直し、スピードを最大限まで上げる。
エンジンが茹だるようだ。
霧の向こうに、白い影が追ってくる。
やがて、同じ高さに並んだ。
ほんの数十メートル。
手を伸ばせば届きそうだ。
◆
白い船の甲板に、人影が立っていた。
ゴーグル。
風になびくコート。
……あの姿。見覚えが、ある。
ルルーは、息を止めた。
ゴーグルの奥の瞳と、目が合った気がした。
白い船が、砲口をこちらへ向ける。
撃たれれば、終わる距離。
けれど。
撃たない。どうして?
◆
白い船は、突如ゆっくりと高度を下げた。
霧の下へ消えていく。
船は、追ってこなかった。
「ルルー、大丈夫か?」
「……え?」
気がつくと、涙が頬を伝っていた。
わけもなく胸が痛い。
忘れ去った幼い日と、オンボロな飛行機が
雲をわけて過ぎていく。
「君と俺の、未来を乗せて。
どこまでも、どこまでも行こう」
遠い声が風に乗って響いている。
途切れた未来。
君とわたしの、幼い夢。
つづく


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