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【連載小説2/5】 ✈️空賊ルルーと、白い船

ねぇ、あの日見た夢。
君はもう忘れてしまったの?

飛び出した朝。
オンボロな飛行機で、
ふたり、どこまでも飛んだじゃない。

伸ばした手は空を掴む。
いつまでも。どこまでも。

空賊船『ルルー・リベルテ』
——空を渡る、蒼き自由の船。

ところどころに継ぎ接ぎの金属板。
何度も繕われた跡のある、布の幌。

空賊船といっても、
無闇やたらに襲うわけじゃない。

あこぎに儲けている商船や、
奴隷貿易の船。

そんな船から、ほんの少しだけ積荷をもらう。

護衛の請け負いも引き受ける。
長い航海の用心棒をするのだ。
こちらの方が本業かもしれない。

気ままで自由な暮らしだった。
それなのに、胸の奥に乾いた風が吹いている。
いつまでも消えてくれない、乾いた風。

「ルルー、後ろ!」

テオの声。
ルルーははっと振り返り、ゴーグルを額に押し上げた。

雲の切れ間。
遠くに、白い船影が見える。

白い機体に長い翼の船が、滑るように近づいてくる。

「警官隊だ」

ルルーは、双眼鏡を覗いた。

「……高度を上げよう」

静かに言うと、操縦輪を握った。

船が軋む。
雲の中へ、ゆっくりと潜り込んでいく。



船は小さな町の外れに降りた。

崖に張り付くように、家々が並んでいる。
石の階段。洗濯物。

赤い屋根が並んでいる。
どこにでもあるような、空の下の町だった。

「燃料は?」
「半分切ってる」
「食料は?」
「からっぽだよ」

市場の端で、食料を買い込む。
ルルーは露店で異国風のサンドイッチを買い求めた。

ラム肉とチーズを真ん中に、
玉ねぎ、トマトなどの野菜がピタパンの中に包まれている。

さて頬張ろうというとき、小さな男の子と目が合った。
頭はボサボサ、衣服は薄汚れている。

けれど、伸ばした背筋が不思議と凛として見える。
彼は、目が合ったことを恥じたように横を向いた。

ルルーはポケットを探り、銅貨を一枚渡した。

「ねぇ、君。すこしお使いを頼まれてくれない?
お礼はこれで」

男の子は目を丸くした。最初は首を振った。
しかし、ルルーが手紙を言付けると、矢のように走っていった。



補給が終わり、『ルルー・リベルテ』号は再び空へ舞い上がった。

やがて見張りの声が静寂を切り裂く。

「警官隊、来たぞ!」

空の向こうに、白い船が見える。
一直線に、こちらへ向かってくる。

「今日はしつこいな」

エンジンが唸り、プロペラが空気を掴む。
船体が震えた。

ヒューー!

後ろから、乾いた音がした。
警告弾だ。

弾はルルーを掠め、雲の間に消えていった。

「もう!今日は荒っぽいじゃない」

打ち手の姿は見えない。けれど弾道が確かだ。

「ルルー、このままだと追いつかれるぞ!」

操縦輪を握り直し、スピードを最大限まで上げる。
エンジンが茹だるようだ。

霧の向こうに、白い影が追ってくる。
やがて、同じ高さに並んだ。

ほんの数十メートル。
手を伸ばせば届きそうだ。



白い船の甲板に、人影が立っていた。
ゴーグル。
風になびくコート。

……あの姿。見覚えが、ある。

ルルーは、息を止めた。
ゴーグルの奥の瞳と、目が合った気がした。

白い船が、砲口をこちらへ向ける。
撃たれれば、終わる距離。

けれど。

撃たない。どうして?



白い船は、突如ゆっくりと高度を下げた。
霧の下へ消えていく。

船は、追ってこなかった。

「ルルー、大丈夫か?」

「……え?」

気がつくと、涙が頬を伝っていた。
わけもなく胸が痛い。

忘れ去った幼い日と、オンボロな飛行機が
雲をわけて過ぎていく。

「君と俺の、未来を乗せて。
どこまでも、どこまでも行こう」

遠い声が風に乗って響いている。
途切れた未来。
君とわたしの、幼い夢。


つづく

第3話に続きます




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