博士課程1年2月|科学コミュニケーション
大学生(学部生・院生)が科学コミュニケーション的活動をする意義は何か、現行の活動にその意義は反映されているかを確かめたいと思っています。今ここにいる自分が発信する意味を考えたいです。
副専攻を履修しはじめました。秋学期に学んで気になっていることの一部をまとめます。
2024年のAセメスターから、大学院副専攻「科学技術インタープリター養成プログラム」を専攻しています。メインで取り組んでいる研究と並行して、新しいことを学び、考え、最終的に1つの研究テーマをまとめることになっています。
駒場に設置された、「科学コミュニケーション」について学ぶ東大全学の大学院生向け副専攻プログラム(修士も博士も受講可、文系も受講可)。「研究をどのように発信するか」(how)だけでなく、「科学と社会の関係をどう考え、何を伝えるか」(what)についても学ぶのが特徴。
自分が今まで課外活動として、さまざまな「科学コミュニケーション」的活動に関わってきたことを受けて、それを振り返るべく、現状調べたことや考えたことをまとめてみます。
科学コミュニケーション
科学コミュニケーション(SC)活動と言われたとき、自分は科学をわかりやすく伝える、難しい内容を一般の方に噛み砕いて説明するイメージがありました。そのため、スライドのデザインや話し方の構成など、発信の方法について情報が集まるような分野なのかな、と思っていた節があります。副専攻の授業を受けるうちに、そうではないようだとわかってきました。
私たちは科学技術に囲まれて生活しています。安心して一般生活を送れるのは、知識面や道徳面で科学(科学者)を信頼できているからです。一方で、災害時などには不確実な科学に対する疑念が生じ、その信頼が壊れてしまいます。科学と市民の信頼を構築するために、科学を扱うコミュニケーション(科学コミュニケーション)が通常時から重要になってきます。
自分の理解では、科学コミュニケーションは科学と社会を扱った活動全般を含んでおり、科学に関するすべてのコミュニケーションから、同じ分野の科学者同士に閉じたコミュニケーションを除いたものだと解釈しています。
また、そもそもコミュニケーションと称している通り、他者と関わる行為です。何を伝えるか、どう伝えるかといったことを考えるためには、相手の意見を否定しないといった基本的な態度や考え方が前提になっています。そして、これがなかなか難しいという話が「科学コミュニケーション」の話題として展開されています。

歴史的背景

「科学コミュニケーションが重要である」と言われる背景には、次のような歴史があります。
まずは、イギリスでの科学啓蒙活動(Public Understanding of Science)。王立研究所のクリスマスレクチャーが1861年から始まり、市民に科学を理解してもらい普及するための取り組みが行われてきました。これは、当時のイギリスの大学では古典文学が重視されており、科学のステイタスが低かったことに起因しています。
これらの活動は「公衆には科学的知識が欠如しており、科学に対して肯定的になってもらうにはこれを埋めなくてはいけない」という考え方が前提にありました。科学的知識は絶対的なものであると信じて、相手のことを考えずに科学的知識や情報を押し付ける活動です。この考え方を「欠如モデル」と呼びます。

科学的知識は絶対ではなく本質的に政治性が含まれ、非科学者が持つローカルナレッジも有用であること、科学的知識が増えたからといって市民が科学を信頼するわけではないことなどが明らかになりました。このように「欠如モデル」が否定され、欠如モデル批判とともに科学コミュニケーション論が発展してきました。
1990年代にBSEや遺伝子組み換え作物に関する問題が発生し、市民が政府や科学者に対して不信感を持つようになりました。リスクに対する懸念がある際、政府や科学者の発した当初のメッセージと、結果としてわかった科学的事実とに食い違いが生じ、政府の不透明な意思決定に対する不満や不信、不確実な科学に対する疑念を抱いたのです。これは「信頼の危機」と呼ばれました。
「欠如モデル批判」と「信頼の危機」を受けて、科学啓蒙活動は「科学に対する公衆の信頼感を回復させる活動」(Public awareness of scienceやPublic engagement in science)へと転換しました。また、市民参加型の科学コミュニケーションも行われるようになりました。これは、社会的議題解決や政策決定に向けて科学者と市民が知識やローカルナレッジを提供する(素人の専門性モデル)、科学者と市民が一体となって民主主義的意思決定に関わる(市民参加モデル)といった「市民や市民の知識が科学の意思決定に関与する」ものです。これによって、科学を推進するだけでなく、市民の要求によっては科学技術の利用を制限したり停止したりする可能性も含んでいます。
そして「科学コミュニケーション(Science Communication)」という言葉が生まれました。
市民参加モデルが発展していくにつれて、決定に参加するべき専門家とはいったい誰なのかが議論されるようになりました。専門家の「専門知」と市民の「ローカル知」をいかにして切りわけバランスをとっていくか、そもそも専門家とは誰なのかを議論しているのが現在の科学論です。
自分が思っていたよりも、科学コミュニケーションとはかなり政治的な議論だなと思いました。天動説や研究費獲得のように、あらゆる分野において科学と社会とは相互に影響を及ぼし合っており、科学は政治から独立しているわけではありません。科学があまりに生活に影響を及ぼすようになったために、科学技術だけが他の分野とは異なって「科学コミュニケーション」と特別に扱われるようになったのだと解釈しています。
日本の科学コミュニケーション
戦後、日本でも科学技術に関する広報や啓蒙活動が実施されてきました。科学を国民に理解してもらうこと、成果を還元することなどが目的とされ、科学技術の進歩を重視しました。その後1970年代に公害や原発の問題が発生し、科学技術に関する国民の理解と協力を重視するように転換していきました。
1990年代に「理科離れ」が社会問題となり、その対策として科学技術への理解増進が国策として実施されました。理科離れ対策として、科学教育の強化に加え、科学コミュニケーションが注目されるようになったのです。
その影響で、日本の科学コミュニケーションではリテラシー向上や科学者育成を目指した政策・活動が多いのが現状です(教育・啓蒙型)。一方で、社会的議題解決や政策決定に向けて科学者と市民が知識やローカルナレッジを提供する(素人の専門性モデル)、科学者と市民が一体となって民主主義的意思決定に関わる(市民参加モデル)ような場を作るといった科学コミュニケーション活動(市民参加型)は少なくなっています。全体として、科学技術に疑問を持ったり抑制し得る活動ではなく、推進することを前提とした活動が多いということです。
政治的観点以外に、研究者倫理の観点から科学者に求められる科学コミュニケーションもあります。科学者の「説明責任」「アカウンタビリティ」と呼ばれる概念であり、公的研究資金の出資者(納税者)である国民に対して説明報告して納得してもらう必要があるのです。また、ある分野の専門家として社会のニーズに合わせて解説や説明、討論などに参加する責任も持ちます。
大学生の関与
科学コミュニケーションが行われる主な場として、大学、企業、研究所などが挙げられます。それぞれの構成員にはさまざまな立場の人がいますが、特殊なのは大学に所属する「学生」です。大学では学生が関与した科学コミュニケーション活動が展開されています。
ここでの学生は、大学入学から数年間の学部生、大学院に所属する修士学生、博士学生の3種類に分けられます。ここでは、3者をまとめて大学生と呼び、修士学生と博士学生を合わせて大学院生と呼ぶことにします。
学部および大学院(修士)には、研究者養成を目的とした研究重視型と、卒業・修了後に社会に出ることを想定した職業重視型があり、それぞれで求められる・提供される教育目的が異なることに注意が必要です。ここでは東京大学の事例を扱います。研究重視型の大学・大学院に当てはまると考えられます。

教員主体の科学コミュニケーション的活動
ここでは参考にとどめますが、「高校生と大学生のための金曜特別講座(2002-)」といった公開講座、サイエンスカフェ「UTalk(2008-)」、教育プログラム「東京大学 UTokyoGSC(2019-)」などがそれぞれのキャンパスで提供されており、これらの主体は大学教員です。
非専門家から専門家への移行

科学に関して専門家と非専門家を分類すると、大学生はその中間に属しており、特に大学院生は非専門家から専門家に移行する時期にあると言えます。ここでの専門家は、専門知(専門家の集団になじんだり、長年の実践を通じて培われたりすることでのみ獲得される、深い理解のこと)を持つ人物を指します。
学部生は、暗黙知を持たない非専門家です。一方で、大学に所属していることで専門家(教員)との距離も近く、有料ジャーナルへのアクセスや専門家の講義を受講できる点で専門知識に触れる機会に恵まれていることから、非専門家の中でも「一次資料知識」の段階にあると考えます。
大学院生は研究室に所属し、暗黙知を学びつつ特定の分野の専門用語を理解しはじめ、専門家(教員)と研究に関する会話ができる状態に移行します。実践的な能力を欠いたまま特定の専門領域の言語を使いこなす能力を持つ、「対話型専門知」付近に相当すると考えます。そこから修士課程、博士課程を経て、科学者間のコミュニケーションである学会や論文での研究発表を経験し、自立した研究者として「貢献型専門知」の段階に移行していきます。
政策関与の観点から見ると、教員は科学者として助言する立場にあるのに対して、大学生は一般市民と同じ立場に属しています。政策へ関与する場合は、科学に関わる政策的課題を検討する際に、審議会、ワークショップなどの場を設定する役割を担うと考えられます。
大学院生に対しては、科学コミュニケーションへの参画が期待されています。科学者の卵として科学コミュニケーションの考え方やスキルを習得してく段階であり、教育的観点から科学コミュニケーションを行うべきという捉え方をされているようです。それだけではなく、専門知習得段階という立場を科学コミュニケーターとして活かしてくべきという捉え方があると考えています。
つまり、学部生と院生に対しては教育的観点から求められる科学コミュニケーションにおける役割が異なっていると言えます。
大学生の周りにある科学コミュニケーション活動
以上の前提を押さえた上で、学内で展開されている科学コミュニケーション活動の中でも、学生が参加しているものを見ていきたいと思っています。学生が主体となっている活動だけでなく、主体ではないものの関与する活動も見られ、自分自身もいくつかのものに参加してきました。
科学コミュニケーション教育
大学院生にむけた科学コミュニケーション教育が実施されています。
東京大学・科学技術インタープリター養成プログラム(2005-)は、全学に向けた科学技術コミュニケーション教育のプログラムです。大学院生の副専攻として設定されています。平成16年版科学技術白書(2004)を受けて北海道大学(一般市民向け)、早稲田大学(科学ジャーナリスト養成)と同時に設立されました。科学者に対して社会の中の立ち位置をリマインドしてくれるような、科学者と一般市民との橋渡し的人材(サイエンスインタープリター)の育成を目的としています。コミュニケーションのスキル・実践教育とともに、科学史や科学哲学、科学技術と社会に関わる科目を開講しており、科学コミュニケーションの歴史をはじめ、欠如モデルを中心とした「わかりやすく伝える」ではなく「何を伝えるか」を扱います。
理学系研究科では、理学系研究科大学院教育高度化プログラム(2007-)を設置し、科学コミュニケーターと連携する科学者としての教育を実施しています。カリキュラムは講義と実習に分かれ、講義では研究者としての科学コミュニケーションの重要性を、実習ではコミュニケーションスキルを実践する能力をつけることを目標としています。特に異分野研究者との交流の実践として、課外活動的科学コミュニケーションへの支援も検討されていました。

他にも、例えば東大FFPでは講義中に実施した模擬授業を「東大院生・教職員によるミニレクチャプログラム」として公開実施しています。東大FFPの模擬授業で優秀なレクチャをした6名が、学んだ成果を生かして、専門外の人にもわかりやすく伝える活動です。
学生団体
ここからは、課外活動として学生が主体となって実施されている科学コミュニケーション活動を整理します。

点線上部が学内団体、下部が学外団体です
現在も活動が継続しているものとして、CAST(2009-)、UTaTane(2018-)、10分で伝えます!東大研究最前線(2015-)が挙げられます。
CASTは、サイエンスコミュニケーター滝川洋二先生らの学内授業が発端となって設立された学生団体で、学部生が主体となって幅広い場所で実験実演と工作を中心としたコミュニケーター的活動を行っています。子供や一般向けに実験教室・サイエンスカフェ等を開催する学生団体の連携企画「サイエンスリンク(2012-)」などの立ち上げに関わっています。
UTaTaneはCASTの卒業生を中心として設立された学生団体で、学部生を中心に社会人卒業生を含めたメンバーで「イベントを通した、生活知と専門知の対話・交流を目指して」を理念とし、参加者と科学の対話法を考案するような活動を行います。
10分で伝えます!は学園祭を発端とする大学院生主体の団体で、東大の五月祭および駒場祭で研究に特化した講演を行っています。活動資金とリクルートに関して東大FFPとの連携を実施しています。この団体のみサイエンスリンクやサイエンスアゴラといったSC団体の交流に参加していません。
過去の活動としては、0to1(zero to one)(2007-2011)、大学院生出張授業プロジェクト(BAP)(2008-2017)があり、BAPの派生としてBAP cafe(2010-2018)が大学近所のカフェ(LabCafe)開催されていました。理学系研究科に所属する院生が中心となっていた活動です。
0to1は、学内の広報イベントに集まった理学系研究科の学生メンバーを中心に教員(横山先生)をスーパーバイザーとした科学コミュニケーション活動グループで、院生向けのランチセミナーやポットキャストを定期的に開催・制作していました。0to1の活動内で実施さていた出張授業を独立させたものがBAPです。全学から大学院生を募集し、出身高校での出張授業の実施を支援する活動で、学生企画コンテストにおいて優秀賞を獲得し活動資金が得られたことを機に、団体名をBAPとして活動を開始しました。
BAP cafeは、出張授業を終えた講師によるスピンオフ企画として、サイエンスカフェの形式をとった一般向けイベントです。出張授業において難易度や時間の都合で省略した部分も踏まえて個々の研究について話をしたい、聴きたいというモチベーションを元にしています。「大学生・大学院生の異分野交流サイエンスカフェ」と称して様々な専攻に所属する大学院生の交流を目的とし、後には「現役若手研究者が自身の研究を“狭く深く”語るイベント」と称するようになり、他の参加者も受け入れていました。学外ではあるが、弊学の学生も参加している学問バー(2022-2024)や学術バー(2024-)といった活動と近いものだったのかもしれません。
ほとんど全ての団体で、「科学コミュニケーション」を実施している自覚を持っていました。類似団体との交流イベント(サイエンスアゴラなど)への参加、学会誌への報告、活動場所や資金面などで大学からの支援が見られました(十分であるかは議論の余地があります)。
また、参加者と対面でコミュニケーションをとる活動が多く、一方向型と双方向型(参加者と直接話す機会を作る)を組み合わせる工夫が見られます。一方で、全て主催者側の発案企画であり、水平モデル的態度(主催と参加のどちらの意見も検討・反映された状態)になっているかは未検証です。避けるべきとされる「欠如モデル」を運営が意識しているかも定かではありません。
大学に設置されているSC教育との連携が大学側からも学生側からも試みられているのか、そもそもニーズがあるのかどうかは調べられていません。
(Ttime!の学生がインプリの授業で発表、インプリ修論でKSELについて調査、などの実績がある)
他には、東京大学アウトリーチイニシアティブ(UtoI)(2009)。
大学外部では、柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)(2010-)とその派生である手作り科学館 Exedra(2018-)、NPOサイエンスステーション(2004-)、科学コミュニケーション団体をつなぐ“四季報”(2010-2012?)が挙げられます。
特にKSELは、科学コミュニケーション活動を通じた地域交流の活性化をテーマに掲げ、東京大学の大学院生が中心となって立ち上げた団体です。柏の葉は、東京大学をはじめとして、科学の研究・教育拠点であると同時に公・民・学の連携により、スマートシティとしての開発が進められているエリアであり、現在では中学生から地元の大人まで、様々な人材が協力し合ってボランティアで活動しています。

参加大学院生の意識
現状の学生団体は、正規教育プログラムの一環ではなく、自主的な課外活動に位置付けられています。研究室外のコミュニティや異分野交流を求める個人的な動機から参加する学生が多く、研究内容を一般の人に知ってほしいといった「研究者としての責任感」を、活動していくにつれて得ていく傾向にあるようです。そのため、知り合いが関わっていたから、誘われたから、といった身の回りの人の影響で参加する人が多いと考えられます。「研究者の卵」としての意識が動機になりづらいのは、そもそも団体の目的を広い分野に定めている場合が多く、自身の研究分野に直接関連したテーマが掲げられている場合が少ないといった理由もあるでしょう。この流れは、自分の感覚と照らし合わせてもあまりズレを感じません。
研究者が科学コミュニケーションをはじめるきっかけとしては「依頼があったので始めた(業務以外での依頼)」や「研究に付随する業務・義務で始めた」が挙げられることが多く、大学院生にとってはオープンキャンパスや施設公開等の広報への協力が当てはまります。
【内発的動機】← 学生団体(初回)
・コミュニティの居心地の改善(そもそも友達が欲しい)
・分野間交流:視野の広がり、ネットワーク形成
・"科学の楽しさ"を専門家以外の人に伝える(科学者的楽しさ/素人的楽しさ、院生自身が楽しいと感じること)
・対象者の進路選択への一助(年齢が近い、身近)
・自分達に親しみを持ってもらいたい
【外発的動機】← 広報(初回)
・知り合いが参加していた、知り合いから誘われた
・依頼があった(受賞歴などの実績)
・研究に付随する業務・義務(広報担当教員の研究室に所属)
【"科学者の卵"としての観点を獲得】→ 継続理由・課題感
・科学者主体の科学コミュニケーションの土台
・研究に向かうモチベーション向上(分野の客観的理解、社会からのニーズ把握、自分自身の理解度の振り返り、初心にかえる)
・汎用的スキルの獲得(幅広い視野や人脈・コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、練習会・反省会の実施)
・責任の所在が不明(→自分なりのエピソードを入れる)
・研究実績の不足につながる恐れ(ファカルティから参加許可を得られない、研究に専念していないとみなされうる、評価方法が未確立)
・活動にかける労力と得られる効果のバランス(自主的なだけに支援を得づらい、継続性)
・効果を短期的に求めるのか長期的に求めるのか
・ニーズと供給とのギャップ(SC一般に)
【ニーズ実感】
・一般の人にとってのわかりやすさ、親しみやすさ(専門家の話は難しくて分かりづらい、質問しやすい、自分よりも年齢が下)
・実際に研究をしている人の話を聞きたい(より専門的な話を聞きたい、大学院生への興味)
・子供への教育・啓蒙(子どもの将来像としてイメージしやすい、先生ではなく先輩)
・対象者の進路選択への一助(年齢が近い、身近)
また、講演やサイエンスカフェなど対面活動が主であり、文章や音声、映像などのいわゆる一方向メディアを使った活動は少なくなっています。なんとなく双方向であるべきといった先入観、スキルやコストの問題、双方向による満足度の高まりからモチベーションを得ていること、などが原因と考えられます。
スキルに関して、研究重視型の大学院では、専門家向けのプレゼンテーション教育が実施されており、非専門家向けのプレゼンテーションで気をつけるべき「専門用語をあまり使わないようにする」「興味を惹きつける要素の導入」の2項目が学べないとも言えます。その点で、科学コミュニケーション的活動に参加した大学院生は、普段の研究発表とのギャップを強く感じ、次回以降へのスキルアップをモチベーションとの1つとするのではないでしょうか。
科学コミュニケーションを実績として評価してもらえない、という課題は多くの先行研究でみられました。学生団体においても、院生主体の多くの団体で学会誌等への報告書、サイエンスアゴラなどのイベントへの参加実績をアピールしているものが多くみられました。一方で、学部生主体のCASTや大学外の活動については、学術的な報告はあまり見られませんでした。院生の実績として活動報告が必要であった影響があると考えられます。
ここに関しては、科学コミュニケーション研究を実施している学生や教員が関与する可能性も考えられるのではないでしょうか。科学コミュニケーションを研究する人たちが実践の場に参加レバ、トレーニングと方法論の研究を兼ねるだけでなく、現行の活動を分析、評価する試みは、実践の場における科学コミュニケーション活動を促進する役割を担うことになると考えられます。
専門家への移行段階であることが、科学コミュニケーターとして有効である可能性も示唆されます。今回調べた先行研究では、参加者の声や主催側の大学院生の感想といった形で、大学院生が行う科学コミュニケーションのニーズが挙げられていました。
大学院生以外でも、参加者と同程度の専門知識を持つファシリテーターが参加者の専門知識に合わせたストーリーを作っていくことで、サイエンスカフェ参加者の満足感を上げるとの報告があります。また、元々科学に関心のある研究者は、科学の非専門家層の気持ちがわかりにくいとの報告もあります。知識のある人は、その知識をもたない人がこれから学過程で抱く気持ちが予測できない「知識の呪縛」(Birch, 2005)が科学コミュニケーションにおいても影響していると考察されています。
"科学者と市民の橋渡し"といった言葉はよく聞かれますが、橋渡しの効果を分析した文献にはまだ出会えていません。
自分が気になっていること
他に学生が関わる科学コミュニケーション的活動として、学生団体の他に大学広報もあります。広報室は、短期的には年単位で広報担当の教員が任命され、長期的には事務職員の方が実務を担っている印象です。イベント等には学生が動員されていますが、どのような意図で動員されたのか、どのような動機で学生が参加したのかなどの調査は見つけられていません。学生の自主的な活動ではないからこそ、学生の関心と主催者側の意図とのミスマッチがあるのではないか、ガイドラインのようなものが制定された方がいいのではないか、教育的観点と結びついた方がいいのではないか、といった懸念があります。
また、科学コミュニケーション教育が、このような学生団体や学生の広報活動にどのように関与してきたか、どのような試みが進行しているかの点についても、詳しい言及が見つかっていません。
このあたりが気になっています。
参考文献
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