第十八話 やっぱり|新しい春
第三章 ユウ先輩編
第十八話 「やっぱり」
「リオ。」
聞き慣れた声に、
心臓が跳ねた。
振り返ると、ユウ先輩がいた。
「お疲れ。」
「……お疲れさまです。」
いつもと同じ声。
いつもと同じ笑顔。
それだけなのに、
やっぱり嬉しい。
シンヤとは、
あんなに普通に話せたのに。
ユウ先輩の前では、
何を話そうとか、
どう思われているかなとか。
そんなことばかり、気になってしまう。
彼女がいると知ってから、
少し距離を取ろうとしていた。
必要以上に近づかない。
目で追わない。
名前を呼ばれたくらいで、
喜ばない。
そう決めたのに。
できていた気がしない。
「リオ、最近来てなくない?」
「え?」
「猫んとこ。」
一瞬、
言葉に詰まった。
彼女がいると知ってから、
校舎裏へ行くのを避けていた。
二人になると、
また嬉しくなってしまいそうだったから。
「最近ちょっと忙しくて。」
「ふーん。」
「なんですか?」
「いや」
ユウ先輩が、
少しだけ私の顔を見る。
「なんか、俺のこと避けてない?」
心臓が、どきっとした。
「そんなことないですよ。」
慌てて笑う。
「ほんと?」
「ほんとです。」
「ならいいけど。」
そう言って、
ユウ先輩は笑った。
「じゃあ今日は行く?」
「……今日はやめときます。」
「どうした?」
「なんとなく。」
「そっか。」
ユウ先輩が笑う。
私も、
つられて笑った。

「リオ。」
「はい?」
ユウ先輩が、私の顔を見る。
「……無理してない?」
「え?」
「なんとなく。」
一瞬、
言葉が出なかった。
ユリにも、ナナにも、
もう大丈夫だって言った。
他の男の子とも遊んだ。
シンヤといる時間も、
楽しかった。
ちゃんと笑えていたはず。
自分でも、
少しずつ大丈夫になっていると
思っていた。
なのに。
何も知らないはずのユウ先輩が、
気づいた。
「別に、何もないですよ…」
やっと、それだけ言った。
「そっか」
ユウ先輩は、それ以上聞かなかった。
そして、少し笑って、
先輩たちの輪に入っていった。
私は、その後ろ姿を見ていた。
どうして、
この人なんだろう。
彼女がいる。
好きになっても、きっと苦しいだけ。
シンヤみたいな人を
好きになれたら、
もっと楽なのに。
それでも、
何も言っていないのに、
私の小さな変化に気づいたのは、
ユウ先輩だった。
ああ。
だから、
好きなんだ。
忘れようとしても。
他の人を見ようとしても。
私が会いたいのは、
やっぱり、
この人だった。
第十九話へ続く
