【風まかせ文芸部】虫の音|エッセイ
タイトル:虫の音が聞こえる夜
夜になると、どこからともなく虫の音が聞こえてくる。
昼間はまだ暑いのに、耳を澄ますと、もう秋が来ている。
不思議なものだ。
季節の変化は、目で見るより先に耳で感じることがある。
蝉の声が少し遠くなって、代わりに鈴虫やコオロギの声が聞こえてくる。
「もう秋なんだな」
そう思いながら、しばらく窓を開けている。
虫たちは、誰かに聞かせるために鳴いているわけではない。
ただ、自分たちの時間を過ごしている。
そう考えると、なんだか羨ましくなる。
人間は、つい周りを気にしてしまう。
ちゃんとできているか。
誰かにどう思われているか。
もっと頑張らなければいけないのではないか。
そんなことを考えているうちに、一日が終わってしまうこともある。
でも、虫たちはそんなことを気にしていない。
今日も今日の分だけ鳴いている。
それでいいのかもしれない。
何か大きなことを成し遂げなくても、
誰かに認めてもらえなくても、
自分なりの一日を過ごせたなら、それで十分なのだと思う。
夜が深くなるにつれて、虫の音が少しずつ大きくなる。
私はその音を聞きながら、ゆっくり息を吐いた。
今日も一日、よくやった。
それだけでいい。
秋の夜は静かだ。
けれど、その静けさの中には、
「大丈夫」と言ってくれるような、
小さな命の声がたくさん響いている。
了

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