掌編「ほうきの心」#615

 なんのために生まれて、なんて考えるのは人間だけではない。掃除用具にだってアイデンティティはある。
 大抵の自我は満たされるのだが、雑巾だけは不遇だ。一番求められる教育機関で、しかしそのじつ生徒からは嫌厭されている。水が冷たい、姿勢がきつい、絞ると掌が痛い。そんな理由で、人気者はいつも箒に奪われる。
 どうして、と雑巾は思う。箒だぞ? 放棄されるべきは彼らだろうに。

おわり


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